
この記事の概要
日本では、血液型で性格がわかるという考え方が根強く信じられています。「A型は几帳面」「B型はマイペース」……あなたも一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか? 本記事では、この“血液型性格分類”というユニークな文化的信念の起源や歴史、科学的検証の結果をわかりやすく解説します。果たして、この理論に科学的根拠はあるのでしょうか?心理学・遺伝学の視点から最新の研究成果を紹介しながら、その真偽に迫ります。
血液型と性格:文化的神話か、科学的現実か?
日本をはじめとする東アジア諸国では、「ABO血液型が人間の性格や行動傾向、さらには人間関係の相性を決定する」という考え方が広く信じられています。この理論は、「血液型性格分類」として知られ、西洋の占星術(例:牡羊座、牡牛座、双子座…)とよく比較されます。占星術では星座が性格に影響を与えると考えられているのと同様に、血液型にも人間の本質が現れるという信念です。

この概念は20世紀初頭に学術的な文脈の中で提唱されたものですが、日本では1970年代に大衆的ブームとなり、現在でもメディアや日常会話の中に深く根付いています。実際、日本における調査では、多くの人が「血液型は性格に関係がある」と信じていることが一貫して示されています。
しかし、心理学・遺伝学・行動科学といった分野で何十年も積み上げられてきた科学的知見は、この説を単なる疑似科学(pseudoscience)の一種とみなしているのでしょうか?

本稿では、血液型性格分類の歴史的背景や、それぞれの血液型に関連づけられてきたステレオタイプ、さらにはこうした関連性を支持する生物学的・遺伝的根拠の有無について検証します。この信念体系が、統計的および実証的裏付けを欠いた文化的神話なのか、それとも人々が自分自身や他者を理解し、人間関係を円滑にする一助となりうるのかを明らかにしていきます。
血液型性格論の文化的起源と普及

人間の性格が「血」によって決まるという考え方は、古代ギリシャの医師ヒポクラテスやガレノスらが唱えた四体液説(Four Humors theory)にそのルーツを持ちます。この理論では、血液・粘液・黒胆汁・黄胆汁のバランスが人間の気質を左右するとされました。20世紀には既に科学的根拠を失っていましたが、生物学と性格を結びつける思考様式の土台となりました。
現代における血液型性格論の基盤は、1901年にカール・ラントシュタイナー(Karl Landsteiner)が発見したABO血液型システム(ABO blood group system)にあります。この分類では、赤血球表面に存在するA抗原およびB抗原(antigens)の有無によって、血液型がA型・B型・AB型・O型の4種類に分けられます。これらの抗原は、第9染色体(9q34領域)上に存在するABO遺伝子(ABO gene)のアレル(遺伝的変異)によって決まります。

なお、抗原とは免疫系が認識しうる分子構造であり、自己抗原(self-antigen)は攻撃されず、非自己抗原は免疫反応を引き起こします。血液型抗原は、赤血球膜上に存在する糖鎖の構造により規定されます。

1920年代、当時広まっていた優生学(eugenics)の思想の中で、欧州や日本の一部の研究者は「血液型と性格や行動には関連があるのではないか」と考え始めました。特にナチス・ドイツでは、B型の人間を劣等あるいは精神的に不安定とする人種差別的・疑似科学的主張がなされました。
日本においてこの理論を最初に提唱したのは、1927年に『血液型による気質の研究』を発表した心理学者・古川竹二(Takeji Furukawa)です。彼は、A型は「几帳面で神経質」、B型は「陽気で活動的」といった性格プロファイルを提示しました。しかしながら、この研究は非常に小規模で、対照群を用いず、統計解析も欠いており、科学的妥当性に乏しいものでした。にもかかわらず、古川の説は軍隊の人事選抜などで一部採用されたという記録もあります。

1970年代に入ると、能見正比古(Masahiko Nomi)というジャーナリストがこの理論を再び社会現象に押し上げます。彼は科学的訓練を受けていないにもかかわらず、1971年に出版した『血液型でわかる相性』で、血液型が恋愛相性にも関与するという主張を展開し、大衆の共感を呼びました。1980年代には、血液型と性格を結びつけたステレオタイプが社会的に一般化し、「ブラハラ(血液型ハラスメント」という差別的言動が問題視されるようにもなります。
とはいえ、能見の研究は、科学的調査とは言い難く、主に逸話的観察(anecdotal observation)、恣意的なサンプリング、確認バイアス(confirmation bias)に基づいており、厳密な意味での科学的実証性は持ちません。社会心理学の観点からは、こうした信念が自己成就予言(self-fulfilling prophecy)を引き起こし、人々が血液型に合った性格を無意識に演じてしまう可能性が指摘されています。

血液型に割り当てられた典型的性格ステレオタイプ
能見正比古氏らによって広められた血液型性格分類によれば、それぞれのABO血液型は特有の性格プロファイルと関連づけられています。以下では、これらのステレオタイプと、現代心理学におけるビッグファイブ理論(Big Five personality traits)との関係性を併せて説明します。
ビッグファイブとは、人間の性格を以下の5つの主要因(ドメイン)で測定する国際的に確立された理論モデルです:
- 外向性(Extraversion)
- 協調性(Agreeableness)
- 誠実性(Conscientiousness)
- 神経症傾向(Neuroticism)
- 経験への開放性(Openness to Experience)

A型 ―「農耕者(The Farmers)」タイプ

堅実で献身的なパートナー(The Steady and Devoted Partner)
日本や東アジアの文化圏において、A型(Type A)の人は「親切で協調性があり、信頼できる、責任感の強い人」として知られています。社会的な調和や感情の機微に敏感で、集団のまとまり『和』を重んじる傾向は、日本人の根底にある文化的価値観と深く結びついています。
心理学的には、A型の人は誠実性(conscientiousness)と協調性(agreeableness)が高く、同時に神経症傾向(neuroticism)も高い傾向があります。つまり、真面目で努力家、人を思いやる性格である一方で、過剰な思考やストレス、感情抑制に悩まされやすい傾向があります。秩序や予測可能性を好み、生活や仕事においても安定を重視します。

職場での姿
A型の人は職場において、時間厳守、細部へのこだわり、几帳面な仕事ぶりが評価され、「理想的な社員」として見られることが多いです。事務職、技術職、管理部門など、正確性とルーチンが求められる環境に適しています。
一方で、完璧主義や対立の回避傾向が、急激な変化や予期せぬ事態への対応で内面的なストレスを生みやすい一面もあります。

恋愛傾向
恋愛面では、A型の人は誠実で思慮深く、長期的な関係を大切にします。関係性を急がず、信頼構築に時間をかけてから、徐々に心を開いていく慎重派です。静かな気配りや奉仕的な行動で愛情を示すことが多く、安定感のある関係を築く傾向があります。
ただ、感情の変化に過敏なあまり、不安や感情抑圧、対立回避に走りやすい一面も。感情的に落ち着いた、忍耐力のあるパートナーとの関係で、最もその良さが発揮されます。
相性の良い血液型
- O型:温かく感情豊かで、A型の慎重さを補ってくれる
- AB型:感情のバランスが良く、知的にも相性が良い
- A型同士:調和的だが、互いに内向きすぎる恐れも
ポップカルチャー的イメージ
「理想的な恋人(the ‘good boyfriend/girlfriend’ archetype)」。真面目で信頼でき、長続きする愛を築けるタイプ。

B型 ―「狩人(The Hunters)」タイプ

情熱的な自由人(The Passionate Free Spirit)
B型(Type B)の人は、創造的、情熱的、自由奔放で常識にとらわれない存在です。直感と感情に従い、自分らしい生き方を追求する姿勢が強く、開放性(openness)と外向性(extraversion)が高い傾向にありますが、協調性(agreeableness)はやや低めの傾向があります。
集団協調を重視する日本社会では、B型は「気まぐれ」や「自己中心的」と誤解され、血液型による差別(ブラハラ)を受けることも。それでも、本音で生きる姿勢やカリスマ性に憧れを抱く人も多く、芸術や起業の世界で輝く傾向があります。

職場での姿
B型の人は、革新性や柔軟性が重視される職場で活躍します。アイデアの発想力に優れ、スタートアップやクリエイティブ業界など、階層構造がゆるく自由度の高い環境に適しています。
一方で、厳格な構造や締め切り重視の職場では、力を発揮しづらく、ルーチンワークやトップダウン型の命令系統には向いていません。彼らの強みはビジョンと創造性にあります。

恋愛傾向
恋愛においては、冒険心と感情表現の豊かさが際立ちます。遊び心とサプライズに満ちた恋愛を楽しみ、自由な発想で愛を表現するタイプです。
ただし、個人の自由や感情的自立を強く求めるため、時に「気まぐれ」「不誠実」と誤解されがち。自由を尊重してくれる相手との相性が良好です。
相性の良い血液型
- AB型:感情に柔軟で、B型のダイナミズムを受け止められる
- B型同士:相互理解が強く、情熱的。ただし安定性に欠ける可能性あり
- A型:Aが求める秩序とBの自由さが衝突しやすい
ポップカルチャー的イメージ
「ミステリアスなアーティスト(mysterious artist)」「魅惑的な反逆者(charming rebel)」。自由で予測不能ながら、人を惹きつけてやまない存在。

AB型 ―「人道主義者(The Humanists)」タイプ

神秘的なロマンチスト(The Enigmatic Romantic)
AB型(Type AB)は最も珍しい血液型であり、知的でバランスの取れた、複雑な感情世界を持つ存在として知られています。A型の誠実さとB型の自由さを兼ね備えた「二重人格的」な特性があるとされ、繊細で奥行きのある感受性を持ちます。
文化的には、冷静・神秘的・哲学的な印象を与えることが多く、心理特性(Big Five)ではすべての領域で中程度または変動的とされ、そのつかみどころのなさが魅力でもあります。

職場での姿
AB型の人は、論理的思考と感情の安定を活かし、カウンセリング、心理学、企画、調整などの分野で能力を発揮します。両者の立場を理解できる柔軟性が大きな強みです。
冷静な対応ができる一方で、他者からは感情を読み取りにくく、距離を感じられがちという側面もあり、深い人間関係を築くには時間がかかることもあります。

恋愛傾向
恋愛では、知的な会話と感情の繊細さを重視。最初は控えめで警戒心もありますが、信頼を得ると深い共感と寛容さを見せることができます。
一方で、感情を見せることに慎重で、誤解を招く可能性もあります。内省的な傾向を理解し、落ち着いた関係を求める相手と良好な関係が築けます。
相性の良い血液型
- O型:情熱と包容力でAB型の感情を引き出してくれる
- A型:思慮深く穏やかな関係を築きやすい
- AB型同士:知的なつながりは強いが、感情面で距離ができることも
ポップカルチャー的イメージ
「静かな天才(mysterious genius)」「無口なロマンチスト(stoic romantic)」。奥深く、忘れられない存在。

O型 ―「戦士(The Warriors)」タイプ

自信に満ちた情熱的ヒーロー(The Confident Romantic Hero)
O型(Type O)の人は、堂々としていて、社交的かつ行動力に富んだリーダーシップタイプとして知られています。自信とカリスマ性にあふれ、目標志向的かつ情緒的安定性にも優れています。
日本のポップカルチャーにおいては、逆境の中で仲間を導く「主人公キャラ」の象徴であり、勇気と希望の体現者として描かれることも多いです。

職場での姿
O型の人は、リーダーシップが求められる場面や、競争的な環境、高ストレスの仕事で実力を発揮します。営業や起業、プレゼン、マネジメントなどが天職といえるでしょう。
ただし、主張が強すぎると支配的になりがちで、周囲とのバランスを保つ意識も大切です。

恋愛傾向
O型の恋愛は、情熱的かつ献身的。大切な人には積極的にアプローチし、大きな愛情表現や忠誠心で想いを伝えます。
一方で、脆さを見せるのが苦手だったり、独占欲が強くなりすぎることも。情熱を理解し、受け入れてくれる相手との相性が良好です。
相性の良い血液型
- A型:忠実で思いやりがあり、O型に安定感を与える
- AB型:知的刺激と神秘性でO型の関心を引き続けられる
- O型同士:情熱的でパワフルな関係。ただし主導権争いに注意
ポップカルチャー的イメージ
「ヒーロータイプ(hero-type)」。勇敢で理想に燃え、周囲を明るく照らす行動派。

科学的検証:生物学的関連性の可能性はあるか?
血液型と性格に関する説が根強く支持される背景には、「何らかの生物学的メカニズムが関与しているのではないか」という仮説があります。その中でも注目されたのが、第9染色体9q34領域に存在するDBH遺伝子(dopamine beta-hydroxylase gene)とABO遺伝子との近接性に関する説です。

DBH遺伝子とは?
DBH遺伝子は、神経伝達物質ドーパミン(dopamine)をノルアドレナリン(norepinephrine)に変換する酵素(ドーパミンβ-水酸化酵素)をコードしており、動機づけ、報酬、ストレス反応に関連する脳内メカニズムに関与します。
- DBH活性が高い:ドーパミンが少なく、ノルアドレナリンが多い → 慎重・持続性の高い行動傾向
- DBH活性が低い:ドーパミンが多く、ノルアドレナリンが少ない → 衝動的・刺激追求的な傾向

「連鎖不平衡(linkage disequilibrium)」による仮説
連鎖不平衡とは、ある染色体領域内の複数の遺伝子座(loci)が、世代を超えて一緒に遺伝しやすい状態を指します。ABO遺伝子とDBH遺伝子がともに9q34領域に位置することから、「特定の血液型(特にB型)は特定のDBH遺伝子変異と一緒に遺伝しやすい可能性がある」とする仮説が一部研究者によって提起されました。

2015年の土峯らの研究(Tsuchimine et al., 2015)
日本人1,400人以上を対象に、TCI(Temperament and Character Inventory:気質と性格の心理尺度)を用いて血液型と性格の関係を検証しました。
- 結果:A型の被験者は、「持続性(Persistence)」スコアがわずかに高かった。
- 持続性とは、疲労や挫折を感じてもタスクを継続する傾向を表します。
- 持続性とは、疲労や挫折を感じてもタスクを継続する傾向を表します。
- 問題点:この差は非常に小さく、全体の性格変動のわずか1%しか説明できませんでした。また、仮説では高スコアを示すとされたO型にはこの傾向は見られませんでした。
研究者らは、「遺伝子間の物理的近接性による関連(ABO–DBH連鎖)は存在する可能性がある」としつつも、「性格特性に与える影響はほとんど無視できるほど小さい」と結論づけました。また、日本における血液型ステレオタイプの文化的影響を考慮し、結果の解釈には慎重を要すると述べています。

血液型ごとの性格差は本当に存在するのか?
日本国内および海外において、血液型と性格の間に統計的に有意な相関が存在するかを検証するため、多くの心理学的研究が行われてきました。これらの研究は主に、以下の2つの方法に分類されます。
- 自己申告型アンケート(self-report surveys)
- 標準化された性格検査(objective personality inventories)
初期の日本の研究では、血液型による性格差(例えば外向性や不安傾向など)にわずかな違いが見られるという報告もありましたが、後の分析で文化的信念の影響を統制すると、その差は消失することが明らかになっています。以下に代表的な研究を紹介します。

主な国内研究の例:
- 坂本好子(Yoshiko Sakamoto)と山崎賢治(Kenji Yamazaki)は、10年間にわたる政府の大規模調査データを分析し、血液型性格分類を信じている人だけが、ステレオタイプに沿った自己評価をしていることを発見しました。信じていない人には、そうした傾向は見られませんでした。
- 山岡成行(Shigeyuki Yamaoka)は、「血液型と性格の一致度は、その理論への信念の有無によって左右される」とし、観察される効果は生物学的ではなく心理的要因によるものと示しました。
- 名和田健吾(Kengo Nawata)の2014年の研究は、日本とアメリカの1万人以上を対象に、68項目の性格特性と血液型の関係を検証しました。その結果、統計的に有意とされる性格特性はわずか3項目で、しかもその差は極めて小さく、一貫性に欠けていました。

これらの結果は、心理学的には期待バイアス(expectation bias)の影響を示唆しています。すなわち、人々は「自分の血液型に合うべきだ」という無意識の前提に基づいて自己イメージを形成しており、これが回答に反映されるということです。
また、観察される効果の大きさ(効果量:effect size)は性格全体の変動の0.3%未満であり、これは統計的な「ノイズ(noise)」の範囲内とされます。
欧米におけるエビデンス(Western Populations)
欧米諸国では、日本や韓国と異なり、血液型と性格の関係についての文化的知識がほとんど存在しません。そのため、期待バイアスの影響が排除された中立的検証環境として、非常に貴重な研究対象となります。
仮に、血液型が本当に生物学的に性格と関連しているのであれば、こうした文化的影響の少ない地域でも何らかの相関が観察されるはずです。しかし実際には、関連を示す証拠はほとんど存在しません。

欧米での代表的研究:
- 1960年代から2000年代にかけての研究(Roger Brown、Donald Siegel、Swanら)では、血液型と性格特性の間に有意な相関は確認されなかったと報告されています。
- 2022年に英国で実施された調査では、1,500人以上の科学者・医療従事者を対象に、自己評価による性格(自信、陽気さ、社交性など)と血液型の関連を分析しましたが、いずれの特性とも統計的な関係は見られませんでした。

これらの結果は、「血液型が性格を決定する」という主張が、生物学的根拠を持たないことを強く示しています。
科学的コンセンサス:血液型と性格の間に関連性はない
100年近くにわたる仮説の歴史と数十年に及ぶ厳密な科学研究の蓄積の結果、現在では科学界のコンセンサス(科学的総意)として、
「ABO血液型と性格特性との間に、意味のある関連性は存在しない」
という結論が確立しています。以下はその根拠です:
- 人種や国籍を超えた一貫した否定的結果
- 観察される効果量はゼロに近く、通常0.3%未満
- 想定された生物学的メカニズム(例:ABO–DBH連鎖)は再現されず
- 現代の行動遺伝学モデルにおいて、ABO型は性格決定因子として含まれていない

さらに、現代心理学における性格特性(例:外向性、誠実性など)は、多数の遺伝子の累積的効果によって形成される「多因子遺伝形質(polygenic trait)」であることが判明しています。現在までに、これらの性格形成に関与しているとされる遺伝子群の中に、ABO遺伝子は含まれていません。
双子研究や家族研究など、遺伝的類似性を検討する手法を用いても、血液型と性格の間に特異な相関は見出されていません。
したがって、日本において血液型と性格の間に関連が見られるように思えるのは、メディア、社会的通念、文化的ストーリーテリングなどによる「社会的人工物(cultural artifact)」であると結論づけられています。

結論
血液型と性格の関連性をめぐる理論は、日本および一部の東アジア諸国において、文化的に根深い信念体系として存在しています。しかし、これまでに行われてきた厳密な心理学的・遺伝学的研究の蓄積により、科学的な観点からはその有効性は一貫して否定されています。

文化的に血液型性格分類が浸透している国(例:日本、韓国)だけでなく、そうしたバイアスの少ない欧米諸国においても、ABO血液型と性格特性の間に一貫した相関性は認められていません。わずかに観察される微弱な相関は、次のような要因によるものであると考えられます:
- 自己成就予言(self-fulfilling prophecy):自分の血液型に合った性格を無意識に演じてしまう心理的作用
- 確認バイアス(confirmation bias):既存の信念に合致する情報だけを選択的に記憶・強調する傾向
- 調査方法の不備:無作為化されていないサンプル、適切な対照群の欠如、統制されていない変数など

また、生物学的・遺伝的メカニズムの観点からも、ABO血液型が性格に影響を与えるという仮説を裏付ける有力な証拠は存在しません。たとえば、血液型遺伝子(ABO)が位置する第9染色体領域に存在する他の遺伝子(例:DBH遺伝子)との遺伝的連鎖(linkage disequilibrium)を利用した仮説も検証されていますが、その効果は極めて小さく、実用的な意義に乏しいとされています。
現代の行動遺伝学(behavioral genetics)の視点では、性格特性は多因子的(polygenic)であり、複数の遺伝子と環境要因の複雑な相互作用によって形成されることが明らかになっています。ABO遺伝子は、こうした性格形成に関与する遺伝子セットには含まれていません。
「血液型と性格には関係がないという結果は、あらゆる統計的検定においても明確である」と、名和田健吾氏らの研究は結論づけています。

すなわち、「すべての血液型の中に、人間の性格の全スペクトルが存在する」というのが、現代科学の立場です。個人の性格や行動傾向を理解する上で、血液型という1つの遺伝子マーカーに意味を見出すことは、科学的には正当化できません。むしろ、性格を形づくるのは、家庭環境、教育、文化的背景、そして複数の遺伝的要因によるダイナミックなプロセスなのです。
総括
血液型性格分類は、文化的には魅力的で、話題性も高い理論であり、人間関係における一種の潤滑油として機能する場面もあるかもしれません。しかし、科学的な真理としては支持されていません。それはあくまで、社会的・心理的に形成された「信念体系(belief system)」であり、客観的なデータや遺伝的メカニズムに裏打ちされたものではないのです。
したがって、血液型をもとに他者や自分自身を評価するのではなく、多面的・個別的な理解に基づいて人間を捉えることが、より科学的で建設的なアプローチと言えるでしょう。

引用文献
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- K Hobgood, D. (2023). Abo blood groups associated with aggression personality trait. Journal of Psychiatry and Psychiatric Disorders, 07(01). https://doi.org/10.26502/jppd.2572-519X0176
- Tsuchimine, S., Saruwatari, J., Kaneda, A., & Yasui-Furukori, N. (2015). ABO Blood Type and Personality Traits in Healthy Japanese Subjects. PloS one, 10(5), e0126983. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0126983
- Nawata, K. (2014). No relationship between blood type and personality: Evidence from large-scale surveys in Japan and the US. The Japanese Journal of Psychology, 85(2), 148–156. https://doi.org/10.4992/jjpsy.85.13016
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