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「夜中にいびきが急に止まって、しばらくして大きな呼吸音で再開する」――そんな光景をパートナーや家族から指摘されたことはありませんか?この現象は単なる“いびき”ではなく、睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome, SAS)のサインである可能性があります。睡眠中に呼吸が止まることは、体に深刻な負担を与え、高血圧や心疾患、脳卒中など命に関わる合併症を引き起こすリスクもあります。本記事では、いびきと無呼吸の関係、見逃してはいけない症状、診断・治療方法までを医学的視点から徹底的に解説します。
いびきは、睡眠中に上気道(鼻から喉にかけての空気の通り道)が狭くなることで起こる現象です。空気が通過する際に粘膜や周囲の組織が振動し、その振動音が「いびき」として聞こえます。単なるいびきであれば一晩中規則的に続くことが多く、周囲にとって騒音ではあるものの、必ずしも重大な健康問題を意味するわけではありません。
しかし、「いびきが突然止まる」という現象は注意が必要です。これは、上気道が完全に塞がれて空気の流れが途絶え、一時的に呼吸が停止している可能性を示しています。呼吸が止まると体内に酸素が取り込めなくなり、血液中の酸素濃度が低下します。その結果、脳や心臓など重要な臓器に酸素が行き届かず、身体は大きな負担を受けることになります。
医学的には、このような状態が 「睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome, SAS)」 と呼ばれます。その診断基準は次の通りです。
ここでいう「低呼吸」とは、呼吸そのものが完全に止まらなくても、空気の流れが著しく減少し、酸素の取り込みが不十分になる状態を指します。つまり、呼吸音が一時的に小さくなったり、浅い呼吸が続いたりする場合もリスク要因に含まれるのです。
このような呼吸停止や低呼吸が繰り返されると、血液中の酸素飽和度が低下し、体は酸欠状態に陥ります。その結果:
一見「いびきが止まっただけ」に見えても、実際には身体が何度も酸素不足に陥り、そのたびに命を守るための緊急反応が起きているのです。これは睡眠の質を著しく低下させるだけでなく、長期的には心血管疾患や脳卒中のリスクを高める重大なサインといえます。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)は「いびきが止まる」ことが代表的なサインですが、それ以外にも多くの症状が存在します。これらのサインは夜間の睡眠中だけでなく、日中の生活にも影響を及ぼし、本人だけでなく家族や周囲の人が気づくことも少なくありません。
これらの夜間・日中のサインが組み合わさると、本人は「たくさん寝ているのに疲れが取れない」「毎朝スッキリ目覚められない」と感じるようになります。これは単なる加齢や生活習慣のせいではなく、睡眠時無呼吸が原因で深い睡眠が確保できていないサインであることが多いのです。

睡眠時無呼吸症候群は単なる「いびきの問題」ではなく、全身に深刻な悪影響を及ぼす病気です。睡眠中に繰り返される低酸素状態と交感神経の過剰な興奮は、全身の臓器や血管にストレスを与え続けます。その結果、さまざまな生活習慣病や循環器疾患のリスクが飛躍的に高まることが分かっています。
無呼吸によって血中の酸素が不足すると、体は「酸素を取り込まなければ」という防御反応を示し、交感神経が刺激されます。交感神経が優位になると血管が収縮し、心拍数と血圧が上昇します。この状態が一晩に何十回も繰り返されることで、血圧は常に高めに維持されるようになり、慢性的な高血圧へとつながります。実際に、睡眠時無呼吸を持つ人の多くは高血圧を併発していることが報告されています。
心臓は酸素を大量に必要とする臓器ですが、無呼吸によって酸素供給が不足すると、心筋は強いストレスを受けます。その結果、不整脈が生じたり、血流が途絶えることで心筋梗塞を引き起こす危険性が高まります。特に夜間や早朝の心臓発作は睡眠時無呼吸と深い関係があると考えられており、放置することで「突然死」のリスクすら否定できません。
低酸素状態と血圧上昇の繰り返しは、脳の血管にも強い負担を与えます。血管内皮が傷つき、動脈硬化が進行しやすくなるため、脳梗塞や脳出血など脳卒中のリスクが高まります。実際に、睡眠時無呼吸の患者はそうでない人に比べて脳卒中の発症率が数倍に増加することが研究で明らかになっています。
睡眠の質が低下すると、ホルモンバランスも崩れやすくなります。特にインスリンの働きが悪化し、血糖値が上昇しやすくなるため、糖尿病の発症リスクが高まります。また、睡眠不足は食欲を増進させるホルモン(グレリン)を増やし、食欲抑制ホルモン(レプチン)を減らすため、肥満を招きやすくなります。肥満は気道をさらに狭める原因となり、睡眠時無呼吸を悪化させるという悪循環に陥ります。
つまり、睡眠時無呼吸は「いびき」や「眠気」の問題にとどまらず、心臓病・脳卒中・糖尿病といった命に関わる病気の引き金になる重大な疾患なのです。放置せず、早期に発見・治療することが健康寿命を守る鍵となります。
睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome, SAS)は、睡眠中に呼吸が断続的に止まる病気で、大きく 「閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)」 と 「中枢性睡眠時無呼吸(CSA)」 の2つに分類されます。両者は原因や発症メカニズムが異なり、治療法も変わってくるため、正しい理解が欠かせません。
最も一般的なタイプで、日本人の睡眠時無呼吸の大部分を占めるのがこの閉塞性タイプです。OSAは 「空気の通り道(上気道)」が物理的に狭くなる・塞がること で発生します。睡眠中は筋肉が緩むため、もともと狭い気道がさらに閉じやすくなるのです。
このように、OSAは 「解剖学的に気道が狭くなりやすい体質」 と 「生活習慣によるリスク要因(肥満など)」 が重なって発症します。
一方で、中枢性睡眠時無呼吸は、気道そのものが塞がるのではなく、脳の呼吸中枢から「呼吸しなさい」という指令が出なくなること によって起こります。
CSAはOSAに比べると頻度は少ないものの、心疾患や脳疾患に関連して発症するため、より全身の病態と密接に結びついています。
欧米では肥満が主因となるケースが多いのに対し、日本では 「肥満」だけでなく「顎の骨格的特徴」 も関与してOSAが発症しやすいのが特徴です。特に「痩せているのにいびきをかく」「小顔で下顎が小さい」といった人は、気道が狭くなりやすいため注意が必要です。
まとめると、
このようにタイプごとの原因を理解することは、治療方針を見極める第一歩となります。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、自覚症状や家族の指摘だけでは正確に判断することが難しいため、医療機関での検査 が不可欠です。特に「いびきが止まる」「日中の強い眠気がある」といったサインがある場合は、早めに受診し、客観的なデータに基づいて診断を受けることが推奨されます。診断の流れは以下のステップで進みます。
まずは医師による問診が行われます。ここでは、
といった情報を丁寧に確認します。これらは、睡眠時無呼吸のリスクを把握し、次に行う検査方法の選定に役立ちます。
最初のステップとして選ばれることが多いのが「簡易検査」です。患者は自宅で専用の小型センサーを装着して眠り、そのデータを記録します。測定されるのは、
この簡易検査は負担が少なく、自宅で普段通りの睡眠をとりながら検査できる点がメリットです。結果は医師が解析し、無呼吸の兆候があるかどうかをスクリーニングします。
簡易検査で異常が疑われた場合、あるいは重症度を正確に判定する必要がある場合には、精密検査(PSG) を行います。これは睡眠外来や専門医療機関で一晩入院して実施される検査です。
ポリソムノグラフィーでは、以下のような多角的なデータを同時に測定します。
これにより、無呼吸の回数(AHI: Apnea Hypopnea Index)や重症度 が客観的に算出されます。AHIが高いほど無呼吸が頻発していることを意味し、治療介入の必要性が判断されます。
検査結果は医師により総合的に評価され、以下のように重症度が分類されます。
この重症度によって、生活習慣の改善指導のみでよいのか、CPAP(持続陽圧呼吸療法)やマウスピース治療が必要なのかが決まります。
まとめると、
睡眠時無呼吸症候群(SAS)の治療は、症状の重症度 や 原因となる要因 に応じて段階的に選択されます。大きく分けると「生活習慣の改善」「補助的な器具による治療」「外科的治療」の3つの方向性があります。適切な治療法を選ぶことで、日中の眠気や倦怠感が改善されるだけでなく、将来的な高血圧や心血管疾患のリスクを大幅に下げることができます。
生活習慣の見直しは、睡眠時無呼吸のすべての患者に推奨される基本的なアプローチです。とくに軽症の場合には、生活改善だけで症状が大きく改善するケースも少なくありません。

CPAP(Continuous Positive Airway Pressure) 療法は、睡眠時無呼吸治療の「ゴールドスタンダード」とされる方法です。
軽症〜中等症の閉塞性睡眠時無呼吸に効果が期待できる治療法です。
気道を狭める明らかな解剖学的要因がある場合には、外科的手術が選択されることもあります。
外科治療は効果が持続する可能性がある一方で、侵襲性が高くリスクも伴うため、適応は慎重に判断されます。
まとめ
このように、治療は症状の程度や原因に合わせて段階的に選ばれます。
睡眠時無呼吸症候群は、本人が自覚しにくい病気です。なぜなら、無呼吸は睡眠中に起こるため、自分自身で「呼吸が止まっている」と気づくことがほとんどないからです。そのため、周囲からの指摘や日中の体調不良が、重要なサインとなります。
とくに以下のような兆候がある場合には、早めに医療機関での検査・診断を受けることが推奨されます。
また、夜中に何度も目が覚める、朝起きたときに強い頭痛や喉の渇きを感じる、集中力や記憶力の低下が続くといった症状も、見逃してはいけない警告サインです。
早期に医療機関を受診し、適切な治療を始めることで、心筋梗塞・脳卒中・高血圧・糖尿病などの合併症リスクを大幅に低下させることが可能 です。特に睡眠時無呼吸は「放置すればするほど進行しやすい病気」であるため、迷わず早めに専門医に相談することが、健康を守るための大切な一歩といえます。
いびきが突然止まるのは、単なる「静かになった」わけではなく、呼吸が止まっている可能性が高い危険なサインです。睡眠時無呼吸症候群を放置すれば、心臓や脳に深刻なダメージを与えるリスクがあります。
「ただのいびき」と軽視せず、生活習慣の改善や医療機関での検査を積極的に検討することが大切です。質の高い睡眠は健康の基盤であり、いびきや無呼吸の兆候を見逃さないことが、健やかな人生を守る第一歩となります。
一般内科・糖尿病内科を担当しています。
この記事は、ヒロクリニックの医師紹介・監修体制にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。
岡 浩子 (おか ひろこ)
医療法人社団福美会 理事長
この記事は、ヒロクリニックの医師紹介・監修体制にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。
一般内科を担当しています。
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