グルタル酸血症1型

概要

グルタル酸血症1型はリジン、ヒドロキシリジン、トリプトファンの中間代謝過程で働くグルタリルCoA脱水素酵素の障害によって生じる、常染色体劣性遺伝の疾患です。中間代謝産物であるグルタル酸、3-ヒドロキシグルタル酸などの蓄積が中枢神経、特に線条体の尾状核や被殻の障害をきたします。多くは生後3~36か月の間に、胃腸炎や発熱を伴う感染などを契機に急性脳症様発作で発症します。頭囲拡大や退行で発症し、錐体外路症状が徐々に進行する症例もあります。

日本での罹患頻度は約21万出生に1人と推定されています。一旦発症するとほとんどが神経学的後遺症を残し、治療は一生継続する必要があります。本疾患は早期診断・治療により健常な発達が見込まれることから、新生児マススクリーニングの一次対象疾患となっています。

疫学

日本での頻度は出生児28万人に1人程度と稀な病気ですが、海外には300人に1人以上と非常に頻度の高い地域もあります。

原因

グルタリルCoA脱水素酵素をコードするGCDH遺伝子の異常によります。

ETHE1遺伝子であれば当院のN-advance FM+プランN-advance GM+プランで検査が可能となっております。

症状

1)頭囲拡大出生後より頭囲拡大を認める、あるいは乳児期以降に頭囲拡大を示します。2)神経症状急性発症型の場合、典型的には発熱後1~3日後より嘔吐が出現し、急激な筋緊張低下がみられ、頚定の消失や、けいれん、硬直、ジストニアなどの錐体路症状が認められます。その後、いったんは緩やかな改善を認めるが、感染時などに同様の発作を反復しながら症状は進行し、不可逆的な変化を示すことが多いです。慢性進行型では退行や運動発達遅延、筋緊張低下、ジストニア・ジスキネジアなどの不随意運動(錐体外路症状)が緩徐に出現、進行します。

診断

臨床所見:頭囲拡大、発熱後1-3日以降よりみられる嘔吐、急激な筋緊張低下や頚定消失、けいれん、硬直、ジストニアなどの急性症状の他、退行や発達遅滞を認めます。一般血液・生化学分析:通常は異常なしです。急性期には代謝性アシドーシスや高アンモニア血症、低血糖、肝逸脱酵素の上昇を認めることがある頭部画像検査(CT、MRI):Sylvius裂や側脳室の拡大を伴う前頭葉と側頭葉の脳萎縮、線条体の障害の他、硬膜下出血・水腫や網膜出血を伴う場合もあります(注1)。

尿中有機酸分析:通常3-ヒドロキシグルタル酸、グルタル酸およびグルタコン酸の有意な上昇がみられ、これにより化学診断が可能です(注2)。

血中アシルカルニチン分析:C5-DCの上昇が特徴的である。酵素活性:リンパ球や培養細胞を用いて、GCDH活性の低下を確認する。遺伝子診断:原因遺伝子であるGCDH遺伝子の解析で98-99%の感度があります(注3)。

注1:硬膜下出血・水腫や網膜出血を伴う場合、虐待と診断されることがある。注2:特に3-ヒドロキシグルタル酸の排泄増加は本疾患に特徴的であります。グルタル酸の尿中への排泄量によって、高排泄型(グルタル酸≧100 mmol/mol creatinine)と低排泄型(グルタル酸<100 mmol/mol creatinine)に分類されるが、これら2つの間に臨床的な違いは認められません。注3:海外の文献では低排泄型を示すalleleの存在が報告されるが、日本人症例では欧米とは全く異なる変異を示します。

治療

食事療法(前駆アミノ酸の負荷を軽減し、異常代謝産物の蓄積を防ぐことを目的とします。自然タンパクの制限のために、母乳や一般粉乳にリジン・トリプトファン除去ミルクを併用します。)、薬物療法(L-カルニチンの投与)、10%濃度以上のブドウ糖を含む電解質輸液

【参考文献】

難病情報センター – グルタル酸血症1型