“いつ食べるか”が未来を変える?──時間制限食と断続的制限の科学的可能性

この記事の概要

私たちは日々、何を食べるかに意識を向けがちです。しかし、最近の研究は「いつ食べるか」が体脂肪や筋肉量、そして代謝にまで影響を与える可能性を示しています。本記事では、時間制限食(TRE)や断続的カロリー制限(ICR)といった食事法に関する臨床研究を紐解き、運動や“リバウンド”の科学も交えながら、持続可能な健康へのヒントを探ります。専門家も一般の方も、納得できる知見がきっと見つかるはずです。

白い編み目のランチョンマットの上に置かれた紅茶とビスケットの皿。ゆったりとしたティータイムの様子は、時間制限食や断続的カロリー制限における「食事の時間帯の選び方」が健康に与える影響を考えるうえで、現代人の日常生活との調和を感じさせる。

第一章:痩せるには「いつ食べるか」が重要?——時間制限食の可能性

ある平凡な午後、ランチタイムの賑わいのなかで、あなたは「今日は夜遅くまで仕事だから、夕食は22時になりそう」と思うかもしれません。けれども、私たちの体は「いつ食べるか」にも非常に敏感です。ここに注目したのが、「時間制限食(Time-Restricted Eating:TRE)」という食事法です。

時間制限食とは、1日のうちで食事を摂る時間を限定し、たとえば正午から夜8時までの8時間の間にすべての食事を済ませるという方法です。この方法では食べる量や内容を厳しく制限するわけではなく、「時間」だけに注目する点が特徴です。

2021年、アメリカ・ノースダコタ州立大学の研究者クリストファー・コタースキー博士らが実施した臨床試験によって、この方法の有効性が検証されました。被験者は21名(平均年齢44歳、BMI 29.6、約86%が女性)。全員が日頃ほとんど運動をしていない過体重または肥満傾向のある成人でした。

参加者は2つのグループに分かれました。一方は、食事を12時から20時の間に制限し、それ以外の時間は絶食する時間制限食グループ。もう一方は食事時間に制限を設けない「通常食」グループ。いずれのグループも週3回の筋力トレーニングと、有酸素運動(最大心拍予備能55%以上で週最大300分)を並行して行いました。注目すべきは、すべての運動が「絶食中」ではなく「食事時間内」に行われたという点です。これは筋肉の維持にとって非常に重要です。

8週間後、結果は明らかでした。時間制限食グループは体脂肪率を平均で9.0%も減少させたのに対し、通常食グループでは3.3%の減少にとどまりました(p=0.002)。また、体重全体では時間制限食グループが−3.3%の減少を示し、通常食グループ(−0.2%)よりも有意に大きな変化が見られました。興味深いのは、両グループとも摂取カロリーは約250〜300kcal/日とほぼ同等に減少していたことです。つまり、「摂取量」ではなく、「食べる時間帯」が体脂肪の燃焼に深く関わっていた可能性が高いのです。

さらに、時間制限食グループでは「内臓脂肪」の減少が、通常食グループの約2倍という顕著な結果が得られました。内臓脂肪は心疾患や2型糖尿病のリスクに密接に関わるため、この減少は健康上も非常に意義深いものです。

ただし、血糖値(HbA1c)、炎症指標(CRP)、インスリンや性ホルモンなどの代謝マーカーには大きな変化は見られませんでした。これは被験者がもともと「健康的な代謝状態」であったことが影響している可能性があります。

この研究は、厳格な食事内容の制限や複雑なカロリー計算を行わずとも、「食べる時間を整える」だけで体脂肪の大幅な減少と心肺機能の改善が得られる可能性を示しています。現代人にとっては、「何を食べるか」に加えて、「いつ食べるか」にも目を向けるべき時代が来ているのかもしれません。

第二章:「毎日少し」か「隔日がっつり」か——断続的カロリー制限の効果

カロリー制限(Calorie Restriction:CR)は、長年にわたり減量の王道とされてきましたが、その実施方法には大きく2つのアプローチがあります。

1つは「毎日少し減らす」毎日型のカロリー制限(daily CR)。もう1つが、「ある日は普通に食べ、ある日はほとんど食べない」断続的カロリー制限(Intermittent Calorie Restriction:ICR)、あるいは「隔日断食(Alternate Day Fasting:ADF)」と呼ばれる方法です。

2011年、シカゴ・イリノイ大学のヴァラディ博士が行ったレビュー研究では、2000年から2010年までに発表された18件の臨床試験(daily CR 11件、ICR 7件)を分析しました。全試験の対象は非糖尿病の成人で、BMIは25以上、試験期間は4〜24週間でした。

結果として、両方のアプローチは同様の体重減少をもたらしました。daily CRでは体重が5〜19%減少、ICRでは6〜8%の減少が確認されました。ただし、ICRの方が「除脂肪体重(Lean Mass)」の維持に優れていた点が特筆されます。daily CRでは減量分の20〜25%が筋肉の損失であったのに対し、ICRでは筋肉損失はわずか10%でした。

筋肉は基礎代謝(安静時に消費されるエネルギー)の維持に不可欠であるため、この違いは長期的な体重維持に大きな意味を持ちます。

一方で、ICRの研究では体脂肪や内臓脂肪の計測方法にばらつきがあり(多くが生体インピーダンス法であり、MRIやDXAに比べて精度が劣る)、結果の一貫性には注意が必要です。また、24週間以上に及ぶ長期試験が少ないため、持続性に関しては更なる研究が望まれます。

第三章:運動はどれほど体重減少に貢献するのか?

「運動すれば痩せる」は本当でしょうか? 2009年、ハーバード大学公衆衛生大学院とブリガム・アンド・ウィメンズ病院の研究チーム(Wuら)は、食事療法単独(D)と、食事療法に運動(Exercise:E)を加えたD+Eの効果を比較するメタ分析を発表しました。

18件のRCT(ランダム化比較試験、追跡期間6ヶ月以上)が分析対象となり、平均年齢36〜55歳、BMIは25〜38の成人が参加しました。

結果は明瞭でした。D+Eの群では平均−3.60kgの体重減少が見られたのに対し、Dのみの群では−1.78kgにとどまりました。その差−1.14kg(95%信頼区間:−2.07〜−0.21)は統計的にも有意でした。さらに、体脂肪率ではD+E群が平均−2.0%多く減少していました。

興味深いのは、追跡期間が1年以上の長期試験ほど、D+Eの効果が顕著だったことです。つまり、運動は「短期間では目立たないが、継続するほど効果が現れる」性質を持っているのです。

第四章:「リバウンド」はなぜ起こるのか?——身体が仕掛ける“代謝の防衛戦”

減量に成功したとしても、その成果を維持することは非常に困難です。実際、1年後も10%以上の体重減少を維持できている人は、わずか20%にすぎないと言われています。その背後には、身体の驚くべき防御機構が存在します。

2018年に発表されたオタワ大学・ドゥセ博士らのレビューは、「エネルギー補償(Energy Compensation)」の科学を徹底的に解析しました。これは、減量に対して身体が自動的に起こす代謝・行動面の適応反応です。

まず、体重が減ると「基礎代謝(Resting Energy Expenditure:REE)」が体重1kgあたり約15kcal低下します。しかも、この減少は理論値以上に進み、「適応性熱産生(Adaptive Thermogenesis)」と呼ばれる現象が確認されています。

さらに、食欲に関するホルモンにも大きな変化が起こります。食欲抑制に関わるレプチン(Leptin)は脂肪量の減少とともに急激に減り、逆に食欲を増進するグレリン(Ghrelin)は増加。食欲抑制ホルモンであるPYYやGLP-1も減少します。この内分泌的変化は、体重が減っても1年以上持続することが確認されています。

また、カロリー制限中は「食べ物の匂い」への感受性が高まり、報酬系も敏感になります。つまり、身体はあらゆる感覚を総動員して「もっと食べろ」と指令を出してくるのです。

こうした代償的反応は、運動による減量でも観察されます。ある研究では、1年間の有酸素運動介入を行ったにもかかわらず、44%の被験者が「想定以上のエネルギー補償」を行い、体重が思ったほど減らなかった、あるいは増えたという結果も報告されました。

終章:「痩せる」は目標ではない——持続可能な健康をめざして

私たちはしばしば、「痩せること」そのものをゴールとしてしまいます。しかし、ここで紹介した研究が示すように、本当に大切なのは「痩せた後、どう維持するか」、そして「痩せながらどのように健康を保つか」です。

食事の内容だけでなく「時間」に着目するTRE、筋肉を維持しやすいICR、運動との組み合わせによる効果の増強、そして何より「身体の抵抗メカニズムを知ること」。これらはすべて、「科学が提供する道具」です。それをどう使うかは、私たち一人ひとりにかかっています。

肥満や生活習慣病に悩む方、食事制限に挫折した方、体重を維持したいすべての人にとって、この新たな知識はきっと「もう一度挑戦するための手がかり」となることでしょう。

マンジャロとは?

マンジャロ(一般名:チルゼパチド)は、GLP-1受容体とGIP受容体という二つの代謝ホルモン受容体を同時に刺激する注射薬で、肥満症や2型糖尿病の治療に使われます。GLP-1は食事後の血糖上昇を抑え、満腹感を長く保ちます。一方、GIPは脂質代謝を改善し、インスリン分泌をサポートします。これらの作用を併せ持つことで、食欲・血糖・脂肪燃焼の3つを同時にコントロールできるのが特徴です。
時間制限食や断続的カロリー制限が「食事タイミング」を軸に代謝を整えるアプローチであるのに対し、マンジャロは体内ホルモンバランスそのものに作用し、食事のタイミングに左右されにくい持続的な代謝改善を可能にします。例えば、夜遅い時間に食事を取ると本来は血糖や脂質の処理効率が下がりますが、マンジャロを使うとこれらの代謝の乱れを一定程度抑えることができます。生活リズムの改善と薬理的サポートを組み合わせることで、より効率的な体重管理や血糖コントロールが期待できます。

マンジャロの効果

マンジャロは臨床試験で、HbA1c(血糖管理の指標)の平均2%前後の改善に加え、体重を10〜20%減らす効果が報告されています。特に注目されるのは、その減量効果が食事量や時間帯に関わらず比較的安定して現れる点です。時間制限食や断続的制限を続けるのが難しい人でも、マンジャロを用いることで過食や間食を自然に抑えられ、摂取カロリーを減らしやすくなります。
さらに、内臓脂肪の減少、中性脂肪やLDLコレステロールの改善、血圧低下といった心血管リスク低減効果も確認されています。これらは体重減少そのものの影響に加え、脂肪組織からの炎症性物質の分泌が減ることによるものです。
時間制限食は食事時間をコントロールすることで代謝リズムを整えますが、マンジャロはホルモンレベルで満腹感と代謝効率を調整します。両者を組み合わせれば、食事時間による自然な代謝調整と、薬による強力な食欲抑制・脂肪燃焼促進を同時に得られるため、体重管理の成功率をさらに高めることができます。

引用文献

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