「注射するだけで痩せられる」——そんなキャッチコピーで話題になっているのが、GLP-1/GIP受容体作動薬「マンジャロ注射（Mounjaro®／一般名：チルゼパチド）」です。もともとは2型糖尿病の治療薬として開発されましたが、その高い減量効果が臨床試験で証明され、海外では肥満症治療薬としても承認されています。
日本では糖尿病治療薬としてのみ承認されていますが、自由診療で医療ダイエットに活用する動きが急速に広がっています。本記事では、マンジャロ注射の作用機序や臨床データ、副作用、安全な使用方法、日本と海外の現状、費用を専門的かつ詳細に解説します。
1. マンジャロ注射とは？
マンジャロ（一般名：チルゼパチド）は、2022年にアメリカのFDA（食品医薬品局）で承認された新しいタイプの糖尿病治療薬です。これまで使われてきたGLP-1受容体作動薬（例：オゼンピック、リベルサスなど）に加え、「GIP受容体」への作用も持つ点が大きな特徴です。そのため「GLP-1/GIP二重受容体作動薬」と呼ばれています。
従来のGLP-1製剤は「食欲を抑える」「胃の働きをゆるめて満腹感を保つ」「インスリン分泌を助ける」といった効果で注目されてきました。これに対してマンジャロは、さらにGIPの作用を組み合わせることで代謝をより幅広く改善できると考えられています。
2つの作用ポイント
- GLP-1作用
・脳の食欲中枢に働きかけて食欲を抑える
・胃の内容物の排出を遅らせ、満腹感を長時間キープ
・血糖が上がった時に膵臓からのインスリン分泌を促進 - GIP作用
・膵臓でのインスリン分泌をさらに強める
・筋肉や脂肪組織で糖を効率的に取り込み、エネルギーとして利用しやすくする
・代謝全体を改善し、消費と利用のバランスを整える
この二重作用によって「血糖コントロール」と「体重減少」の両方を実現できるのがマンジャロの強みです。単に食欲を抑えるだけではなく、体の代謝を根本から立て直すような働きがあるため、従来のGLP-1製剤よりも強力な減量効果や生活習慣病リスクの改善が期待されています。
2. 医療ダイエットとしての効果
2-1. 臨床試験の結果
マンジャロの効果を最もよく示しているのが、世界的に注目された SURMOUNT-1試験 です。肥満症の患者を対象に、72週間（約1年半）にわたって投与したところ、以下のような体重減少が確認されました。
- 5mg投与群：平均 −15.0％
- 10mg投与群：平均 −19.5％
- 15mg投与群：平均 −20.9％
例えば体重100kgの人なら、15mg投与でおよそ20kg以上の減量が期待できる計算になります。これは食事改善や運動といった生活習慣の工夫だけで得られる減量率（約5〜7％）を大きく上回る成果です。
こうしたデータから、マンジャロは「薬によるダイエット」の常識を塗り替える存在として世界中で話題になっています。
2-2. 代謝改善効果
マンジャロのメリットは体重減少だけではありません。投与によって以下のような 代謝面での改善効果 も確認されています。
- 空腹時血糖の改善、HbA1c（血糖コントロールの指標）の低下
- 中性脂肪やLDL（悪玉）コレステロールの減少
- 血圧の改善傾向
つまり「痩せる」だけでなく、糖尿病や高脂血症、高血圧といった生活習慣病のリスク低減につながる点が大きな魅力です。
3. 作用機序の詳細
マンジャロの減量効果は、単なる「食欲を抑える薬」というシンプルなものではありません。体の複数の仕組みに同時に働きかけることで、痩せやすい状態を作り出しています。
- 脳の食欲中枢への作用
GLP-1とGIPが脳に働きかけることで、自然と食欲が抑えられます。「食べたい」という衝動そのものが弱まるため、無理な我慢をせずに摂取カロリーを減らせます。 - 胃排出の遅延
食べたものが胃から小腸へ送られるスピードを遅くし、満腹感が長く続きます。そのため「少量で満足できる」状態が作られ、間食や過食を防ぎやすくなります。 - 血糖の安定化
急激な血糖上昇（血糖スパイク）を抑えることで、脂肪が体に蓄積されにくくなります。血糖の乱高下による空腹感の出現も減るため、余計な食欲を抑える効果も。 - 脂肪代謝の促進
筋肉や脂肪組織での糖利用を高め、余分な脂肪を燃焼しやすい状態に導きます。エネルギー効率そのものが改善されるため、リバウンドしにくい体質づくりにもつながります。
こうした 「食欲抑制」「満腹感維持」「血糖安定」「代謝改善」 という複数の作用が組み合わさることで、マンジャロは従来の薬よりも大きな減量効果を発揮します。
4. 投与方法と治療スケジュール
マンジャロ注射は、基本的に 週に1回の皮下注射 で使用します。ペン型の自己注射器を使うため、病院で指導を受ければ自宅で自分で打つことが可能です。
- 開始量
最初は 2.5mg／週 からスタートします。いきなり高用量を使うと副作用（吐き気や下痢）が強く出やすいため、低用量から始めて体を慣らしていきます。 - 増量の流れ
数週間ごとに
→ 5mg
→ 7.5mg
→ 10mg
…と段階的に上げていきます。最大で 15mg／週 まで使用可能ですが、必ず医師が患者さんの体調や効果を見ながら調整します。 - 治療期間
短期間でも体重は落ち始めますが、安定した効果を得るには 3〜6ヶ月以上の継続 が推奨されます。 - 生活習慣との併用
薬だけに頼るのではなく、 栄養指導や運動療法と組み合わせることが効果最大化のポイント です。特に、たんぱく質を意識した食事や軽い筋トレを取り入れると、筋肉を維持しながら脂肪を減らすことができます。
5. 副作用と安全性
マンジャロ注射は高い効果がある一方で、副作用も報告されています。特に初期段階や増量時に出やすいので、医師と相談しながら使うことが大切です。
5-1. よくある副作用
- 消化器症状：吐き気、下痢、便秘、胃の不快感
- 食欲不振：食欲が落ちすぎてしまい、必要な栄養まで不足することがある
- 注射部位の反応：皮膚の赤みや腫れ
→ これらは多くの場合、投与を続けるうちに体が慣れて軽減していきます。特に吐き気は、初期に一番多く見られる症状です。
5-2. 重篤な副作用（まれ）
- 急性膵炎：強い腹痛や背中の痛みが出た場合はすぐに受診が必要です。
- 低血糖：特に他の糖尿病薬と併用している場合に起こりやすいです。
- 甲状腺髄様癌のリスク：動物実験で報告されていますが、人での発症は明確ではありません。
→ これらは頻度としては非常に低いですが、放置すると危険なので注意が必要です。
5-3. 注意が必要な人
- 妊娠中・授乳中の方
- 重度の胃腸疾患がある方（消化管の動きに影響が出やすいため）
- 過去に膵炎を経験した方
→ こうした方は、原則として使用を避けるか、慎重な判断が必要です。
6. 日本と海外での承認状況
マンジャロ注射は、国によって承認範囲が異なります。
米国・EU
- 2型糖尿病の治療薬として承認
- さらに、肥満症治療薬としても承認済み
- 肥満を「糖尿病や心疾患のリスクを高める慢性疾患」と捉え、薬物治療を積極的に導入しています。
日本
- 現在は糖尿病治療薬としてのみ承認
- 肥満症目的での使用は未承認のため、行う場合は**自由診療（自費）**となります。
- 日本では「肥満は生活習慣の改善で対応するべき」という考え方が根強く、薬物治療はまだ補助的な位置づけに留まっています。
背景の違い
- 海外：肥満を病気として積極的に治療し、糖尿病や心疾患の予防を目指す流れ。
- 日本：まず食事・運動による改善を優先し、薬物療法は限定的に使う傾向。
→ そのため、日本で肥満症の治療としてマンジャロを希望する場合は、保険適用外で高額になりやすい点に注意が必要です。
7. 費用の目安（日本の自由診療）
マンジャロ注射をダイエット目的で使用する場合、日本では保険が適用されないため、全額自己負担（自由診療）となります。
主な費用の目安は以下のとおりです。
- 初診・検査費用：5,000〜10,000円程度
（血液検査や体組成測定などを含む場合あり） - 薬剤費：1ヶ月あたり約30,000〜60,000円
（容量や投与量によって変動） - その他の費用：栄養指導や定期的な血液検査が別途必要になるケースあり
なお、糖尿病治療として使用する場合には保険適用が可能ですが、肥満症やダイエット目的では全額自費負担となります。そのため、長期的に継続する場合は、費用負担について事前にしっかり確認しておくことが大切です。
まとめ
マンジャロ注射は、従来のGLP-1製剤を超える体重減少効果を持つ新世代の医療ダイエット薬です。海外では肥満症治療薬としても承認され、その有効性は臨床試験でも明らかになっています。
一方で、日本ではまだ糖尿病治療薬としてのみ承認されており、肥満症目的での使用は自費診療となります。また、副作用や費用といった課題もあるため、自己判断ではなく医師の管理下で安全に使用することが欠かせません。
「短期間で痩せる」ことをゴールにするのではなく、生活習慣の改善と組み合わせて長期的に健康を維持するためのサポートツールとして活用するのが望ましいでしょう。マンジャロ注射は、そのための有力な選択肢のひとつです。
さらに大切なのは、薬だけに頼らず、自分に合った食事・運動・生活習慣の改善を並行して行うことです。そうすることでリバウンドを防ぎ、真に「痩せて健康になる」ことが実現できます。マンジャロは、その第一歩を後押ししてくれる強力な味方となるでしょう。