お酒と食習慣が体に与える影響とは?科学が示す健康へのヒントと日本人の特徴から考える

この記事の概要

日々の飲み物や食べ方が、将来の体型や健康にどう影響するのか――。このコラムでは、日本人に多い体質や文化的な背景をふまえながら、最新の科学研究をもとに「お酒」「食習慣」「肥満」「内臓脂肪」の関係をやさしく解説します。医療や栄養に詳しい方だけでなく、美容や健康に関心のある方にも読みやすい内容です。ほんの少しの習慣の違いが、長い目で見て大きな差になるかもしれません。

仕事終わりに居酒屋でビールジョッキを乾杯する日本人の手元。泡立つ黄金色のビールが、日本の飲酒文化や日常的な飲み会習慣を象徴している光景

飲酒・食習慣と健康に関する科学的ポイントまとめ

カテゴリ 主要な発見 科学的データ 実生活での意味
朝食の摂取 朝食欠食が肥満のリスク要因 BMI・腹囲肥満ともにオッズ比1.21(99% CI) 週に3日以上朝食を抜く習慣は、将来的なお腹周りの脂肪増加と関連があります。朝に食べる量は多くなくても、何かしら軽くとる習慣を作ることで、体脂肪の蓄積を抑える効果が期待できます 🍚
夜間の間食 夕食後の間食は内臓脂肪の増加と関連 腹部肥満リスク:オッズ比1.09 夕食後に甘い物やスナックを頻繁にとる習慣は、内臓脂肪の蓄積とわずかに関連しています。満腹後の間食は週2回以内に抑えるよう意識するだけでも、脂肪の蓄積リスクを下げられる可能性があります 🌙
飲酒の頻度と量 中程度の飲酒頻度は肥満リスクと逆相関 毎日飲酒者の肥満リスク:OR = 0.72(ただし60g/日以上では効果なし) 完全に禁酒する必要はありませんが、1日あたりの飲酒量が多すぎると、効果は逆転します。1回の飲酒量は缶ビール1本〜1.5本程度を上限にすると、体重管理に役立つかもしれません🍺
ビール vs ワイン ワイン愛飲者は生活習慣・バイオマーカーが良好傾向 ワイン愛飲者において、CRP・GGTなどの炎症・肝指標が低め ワインを適度に飲む人は、飲酒パターンが安定しており、喫煙率や肥満率も低い傾向がみられます。もし飲むなら週1〜3回、赤ワイン1杯程度をゆっくり楽しむスタイルが理想的です 🍷
ALDH2遺伝子と食習慣 遺伝子型により飲酒と甘味嗜好が変化 G/G型は飲酒量が多く、A型は甘味・乳製品の摂取が多め お酒に弱い体質(ALDH2 A型)の方は、甘い物や炭水化物に手が伸びやすい傾向があると報告されています。自分の体質を理解して、バランスの良い食事を意識することが、過食や体重増加の予防に役立ちます🧬
機能性ビール ホップ・麦芽成分に抗酸化・抗炎症の可能性 ポリフェノール、メラトニン、ペプチドに生理活性作用 新しいタイプの機能性ビールは、通常のビールよりも健康成分を多く含むよう設計されています。ただしアルコールは含まれているため、摂取量の上限を守りつつ、選ぶ際の一つの基準にするのがおすすめです 🍺✨

第一章:はじめに——酒は薬か毒か、それとも文化か

現代の私たちの食卓において、酒という存在は特異な立ち位置を占めています。ある人にとっては日々の疲れを癒す晩酌の友であり、またある人にとっては親しい人との時間を彩る社交の潤滑剤である一方で、医学的には生活習慣病の一因として警戒の対象でもあります。特に日本では、ビールを中心としたアルコール飲料が生活文化に深く根差しており、たとえば「飲みニケーション」や「花見の宴」など、酒は社交の場における不可欠な存在とされてきました。

しかし、科学の視点から見たとき、酒と健康との関係は単純ではありません。適度な飲酒は心血管系に良い影響を与えるという報告もあれば、一方で、いかなる量の飲酒であっても健康リスクが増加するという見解もあります。肥満、特に内臓脂肪(visceral adipose tissue: VAT)の蓄積と飲酒の関係についても、多くの矛盾した報告が存在します。本稿では、日本と世界の複数の大規模疫学研究と最新のメタ分析をもとに、飲酒、食習慣、肥満、遺伝子、そして生活スタイルがどのように相互作用し、私たちの健康に影響を与えるのかを、多角的に読み解いていきます。

第二章:日本人の食行動と飲酒習慣が未来の体型を決める——12万人を超える健常者の5年間の記録

京都大学の関友嗣氏らの研究(British Journal of Nutrition, 2021)では、日本全国の企業に勤務する働き盛りの男女123,182人を対象とし、5年間にわたる生活習慣と肥満の関係を調査しました。本研究は、「特定健康診査(メタボ健診)」という日本政府の国民健康政策に基づいた巨大なデータベースを活用して行われました。

その結果、5年後に一般的な肥満(体格指数:Body Mass Index, BMI ≥ 25 kg/m²)になった人の割合は5.8%、腹部肥満(男性で腹囲85cm以上、女性で90cm以上)は10.3%でした。驚くべきことに、「朝食を週3回以上抜く」習慣がある人は、朝食をとる人に比べて、一般的な肥満・腹部肥満ともに21%高いリスクを抱えていました(オッズ比: OR = 1.21, 99%信頼区間)。

また、食後の夜食(夕食後の間食)を週3回以上取る習慣も、腹部肥満のリスクを9%増加させていました(OR = 1.09)。これは、夜遅くの間食が脂肪の代謝に悪影響を及ぼし、特に内臓脂肪の蓄積を助長するためと考えられています。

一方で、飲酒習慣については意外な結果が出ました。「毎日適量を飲む人」および「時々飲む人」は、飲まない人に比べて肥満リスクがむしろ低かったのです(例えば、毎日飲む人の肥満リスクのオッズ比は0.72)。ただし、摂取量が60g/日以上(ビール中瓶3本以上相当)になると、この保護効果は失われ、むしろリスク増加の傾向も見られました。

この結果は一見、飲酒が肥満を防ぐかのようにも見えますが、研究者たちは慎重にこの因果関係を解釈するべきであると述べています。なぜなら、適度な飲酒をする人々は、一般的に社交的で、生活が規則的である傾向があり、それ自体が肥満予防の要因となるからです。

第三章:飲酒と遺伝子——「お酒に弱い人」は何を食べているのか?

日本人の約半数が持つ「ALDH2(アルデヒド脱水素酵素2)」遺伝子の変異(rs671)は、アルコールの代謝能力を決定づける重要な因子です。A型の遺伝子を持つ人は、少量のアルコールでも顔が赤くなり、動悸や吐き気を起こす「フラッシング反応」を示すことがあり、自然と飲酒量が少なくなります。

文京保健研究(Sugimoto et al., 2022)では、65歳から84歳の日本人高齢者1,612名を対象に、このALDH2遺伝子型と食事パターンの関係を調査しました。その結果、男性においては、ALDH2の遺伝型が特定の食事パターン(特に酒をともなう和風の副菜中心の食事)と強く関連しており、たとえ現在の飲酒量が少なくても、かつての飲酒習慣が食事選好に「痕跡」として残っている可能性が示唆されました。

たとえば、酒を多く摂取するタイプの人は、甘い物や炭水化物の摂取量が少なく、魚や発酵食品、動物性たんぱく質を多く摂取する傾向にあります。これは神経伝達物質(セロトニンやドーパミン系)の報酬系に由来する可能性があり、飲酒と食欲の相関を示唆しています。

第四章:酒の種類で健康リスクは変わる——フィンランド22,000人の検査データ

フィンランドの大規模疫学研究(Niemelä et al., 2022)では、22,000人の成人を対象に、飲酒の頻度、量、酒の種類(ビール、ワイン、スピリッツ)が肝機能や炎症指標などの生化学的検査値にどう影響するかを分析しました。

その結果、ビールやスピリッツ(蒸留酒)を主に飲む人は、GGT(γグルタミルトランスペプチダーゼ)やALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)といった肝機能酵素、CRP(C反応性タンパク質)といった炎症マーカーが明らかに高値を示しており、特に「月1回以上のビンジ飲酒(60g以上/1回)をする人」ではリスクが顕著でした。

逆に、ワインを主に飲む人は、運動習慣が多く、喫煙率が低く、検査値も比較的良好でした。ただし、これはワインそのものの効果というより、ワインを好む人の生活習慣が比較的健康的であることが大きな要因と考えられています。

第五章:25年間の追跡からわかる——酒を減らすとお腹周りが減る?

アメリカのコロナリー動脈リスク開発(CARDIA)研究では、若年成人4,355人を25年間追跡し、飲酒習慣の変化と体重・腹囲の変化の関係を解析しました。

男性では、過剰飲酒(週14杯以上)をやめた人は、腹囲が平均0.77cm、BMIが0.2低下しました。女性では、適度な飲酒(週1〜7杯)を新たに始めた人は、非飲酒者に比べて腹囲・BMIともに増加が抑えられていました。特にワインの摂取を増やした女性ではBMIが有意に減少しました。

この研究では、「何をどれだけ飲むか」だけでなく、「どのように飲み方が変化するか」が長期的な体型変化と関連していることが明らかになりました。

第六章:食の質と内臓脂肪——BMIよりも大切な指標

ドイツと米国の研究者らによる2024年の体系的レビュー(Thimm et al.)では、35の観察研究を分析し、食事の質(Diet Quality Patterns: DQP)と内臓脂肪の蓄積との関係を検討しました。結果として、健康的な食事パターン(地中海食、DASH、植物中心の食事など)に従う人は、内臓脂肪が有意に少ないことが判明しました。これはBMIを調整しても関係が持続するため、体重だけでなく「脂肪の質と場所」が重要であることを示しています。

第七章:ビールに潜む健康の可能性と落とし穴——機能性ビールという新たな挑戦

最後に、ビールという飲み物自体が持つ潜在的な健康機能について触れておきましょう。2024年に発表されたレビュー(Zeng et al.)では、ビールに含まれるポリフェノール、メラトニン、苦味酸、ビタミンB群、ペプチドなどの成分が、26種類の慢性疾患に対してさまざまな生理作用を持つ可能性があることが紹介されています。

ただし、ビールには尿酸を増やすプリン体が多く含まれ、痛風のリスクが高いという問題点もあります。これを受けて、近年では低プリン体で抗酸化物質を多く含む「機能性ビール」の開発が進んでおり、伝統的な嗜好品から健康志向の食品への転換が模索されています。

終章:酒と食と人間の物語——私たちにできること

本稿で見てきたように、酒はそれ自体が善でも悪でもありません。その摂取の仕方、頻度、種類、遺伝的背景、そして食との組み合わせによって、その影響は大きく異なります。

特に日本のように、ビールを中心とする飲酒文化が広く根付いた社会では、文化的価値を尊重しながらも、健康的な飲み方と食事の選択をする知識と意識が求められます。たとえば、朝食を欠かさず、夜遅くに間食を控え、アルコールは量よりも「飲み方」を見直す。あるいは、ALDH2型の人は無理に酒を飲まず、別の形で人とつながる術を持つ。こうした一つ一つの選択が、長い目で見たとき、私たちの健康と幸福に大きな影響を与えるのです。

この科学的知見が、一人ひとりの生活の中で生かされ、健やかで文化的な酒と食のあり方につながることを願ってやみません。

マンジャロとは?

マンジャロ(チルゼパチド)は、週1回皮下注射で使う新しいタイプの糖尿病治療薬です。従来のGLP-1受容体作動薬に加えて、GIP受容体も刺激する二重作用型であることが大きな特徴です。GLP-1は食欲を抑え、胃の内容物をゆっくりと送り出すことで食後の血糖上昇を抑制します。一方、GIPはインスリン分泌を促進し、脂肪や糖の代謝改善に関与します。この相乗効果により、血糖コントロールと減量を同時に目指せます。海外では肥満症治療にも使われており、日本でも肥満や生活習慣病予防の新しい選択肢として注目されています。

マンジャロの効果

マンジャロは、糖代謝の改善と体重減少の両面で効果を発揮します。胃の動きを遅らせて満腹感を長く保ち、自然に食事量を減らすことで摂取カロリーを抑えます。同時に、血糖の安定化やインスリン感受性の向上を促すことで、糖尿病の進行を抑えることが期待されます。海外の臨床研究では、HbA1cの大幅な改善とともに、投与後数か月で体重が平均10〜20%減少した例も報告されています。さらに、内臓脂肪や中性脂肪の減少、血圧改善など、肥満関連の健康リスクを下げる効果も示されています。ただし、副作用として吐き気や胃部不快感が出る場合があるため、必ず医師の指導のもとで使用する必要があります。

引用文献

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