はじめに
近年、肥満や過体重に対する医療的介入として注目されている薬剤のひとつが「マンジャロ」です。マンジャロは、GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)受容体作動薬に分類され、食欲抑制や体重減少効果が報告されています。日本でも生活習慣病予防や肥満治療に対する関心の高まりとともに、マンジャロの導入の可能性が注目されています。本記事では、マンジャロの日本における承認状況、臨床エビデンス、使用の適応、今後の展望について詳しく解説します。
マンジャロとは
マンジャロは、GLP-1受容体作動薬の一種で、もともとは糖尿病治療薬として開発されました。GLP-1は消化管から分泌されるホルモンで、食事摂取後の血糖上昇を抑制するほか、満腹感の促進や胃排出の遅延による食欲抑制作用が知られています。
この作用を応用することで、肥満や過体重の患者において体重減少をサポートする目的で使用されることがあります。特に、従来の生活習慣改善のみでは十分な減量効果が得られない場合の補助療法として注目されています。
主な作用機序
- 食欲抑制:脳の視床下部に作用し、満腹感を増加させます。
- 胃排出の遅延:食物の消化吸収速度を緩やかにし、食後血糖の急上昇を抑えます。
- 血糖改善:インスリン分泌を促進し、糖代謝の改善に寄与します。
日本における承認状況
現在、日本国内ではマンジャロの肥満治療における使用は原則として承認されていません。厚生労働省が承認しているのは、糖尿病治療としての使用です。このため、肥満症患者に対して使用する場合は、自由診療(保険適用外)としての提供が中心となります。
2025年現在の日本での承認状況のポイントは以下の通りです。
| 項目 | 状況 |
| 承認対象 | 2型糖尿病患者 |
| 使用形態 | 注射薬(週1回投与) |
| 保険適用 | 糖尿病治療のみ |
| 肥満症での承認 | なし(自由診療での導入が可能) |
海外では米国食品医薬品局(FDA)が2021年に肥満症への使用を承認しており、臨床試験において有意な体重減少効果が報告されています[^1]。日本でも同様の臨床研究が進行中であり、将来的には肥満症への承認取得の可能性が期待されています。
マンジャロの臨床エビデンス
体重減少効果
複数の国際的なランダム化比較試験(RCT)において、マンジャロは高い体重減少効果を示しています。
- STEP 1試験[^1]:BMI 30以上の成人(糖尿病なし)を対象に、マンジャロを週1回投与した群は、プラセボ群に比べて平均体重減少率が約14.9%と報告。
- STEP 2試験[^2]:2型糖尿病患者においても、平均体重減少率は9.6%であり、糖代謝改善効果も同時に確認。
これらの試験では、生活習慣改善(食事・運動)と併用することで、より高い減量効果が得られることが示されています。
安全性
マンジャロの主な副作用は消化器症状であり、悪心、嘔吐、下痢が報告されています。また、まれに膵炎や胆嚢疾患のリスクも指摘されています。日本国内での使用においても、海外の臨床データを参考に慎重な管理が求められます。
日本での使用可能性
現在、マンジャロは肥満症治療に対して正式に承認されていませんが、以下の条件下で使用可能性があります。
- 自由診療としての導入
国内の一部クリニックでは、糖尿病治療での承認をベースに、肥満治療を目的としてマンジャロを自由診療で提供しています。この場合、投与量・投与間隔などは海外のガイドラインや臨床研究を参考に決定されます。 - 治験・臨床研究参加
日本国内でも肥満症に対するマンジャロの臨床試験が進行しており、研究に参加することで体験的に使用できるケースもあります。 - 海外承認データの活用
FDA承認の肥満症治療データをもとに、国内導入のためのエビデンスを蓄積する動きが進行しています。特に日本人を対象とした安全性・有効性のデータ収集が今後の承認取得の鍵となります。
今後の展望
日本におけるマンジャロの肥満症治療承認は、以下の要素が整うことで実現可能性が高まります。
- 国内臨床データの蓄積
日本人における安全性・有効性データが十分に得られることで、厚生労働省による承認審査が進みます。 - 肥満治療ガイドラインへの反映
日本肥満学会などの専門学会が、マンジャロの使用を指針に組み込むことで、医療現場での認知度が向上します。 - 保険適用の可能性
将来的に肥満症治療への承認が得られれば、自由診療から保険診療への移行が可能となり、より多くの患者が経済的負担を抑えて使用できるようになります。 - 多職種連携による包括的治療
医師、管理栄養士、運動療法士などが連携することで、薬剤単独では得られない持続的な体重管理が可能です。

使用上の注意点
マンジャロの使用には以下の点に留意する必要があります。
- 消化器症状の管理:初期投与時に悪心や嘔吐が生じやすいため、投与量を徐々に増量する「漸増投与」が推奨されます。
- 併用薬との相互作用:特に経口糖尿病薬や抗凝固薬との併用に注意が必要です。
- 既往歴の確認:膵炎、胆石症、腎障害のある患者では使用に慎重を要します。
- 自己判断での使用禁止:自由診療であっても、医師の管理下での使用が必須です。
医療従事者の視点から見たマンジャロの意義
医療従事者にとって、マンジャロは従来の減量支援手段では効果が得られにくい患者に対する新しい選択肢となります。特に以下の点が注目されます。
- 安全性の高い薬剤管理
海外での長期データにより、心血管リスクの低下や糖代謝改善効果が確認されており、安全性の評価が進んでいます。 - 医療現場での多様な応用
糖尿病患者だけでなく、肥満による脂質異常症や高血圧などの生活習慣病リスク軽減にも寄与する可能性があります。 - 患者のモチベーション向上
目に見える体重減少が得られることで、患者の生活習慣改善への意欲向上に直結します。
今後の研究動向
マンジャロに関する研究は、日本国内でも積極的に進められています。特に、以下のテーマが注目されています。
- 日本人対象の体重減少効果の検証
体格や食習慣の違いから、海外試験のデータをそのまま国内に適用できない可能性があるため、日本人における詳細な効果検証が必要です。 - 長期安全性の評価
数年間にわたる使用での消化器症状や膵炎、胆石症などの発症率を追跡し、国内承認に向けた安全性データの蓄積が進められています。 - 心血管リスク低減効果の確認
体重減少に伴う心血管疾患予防効果を検証する研究も進行中であり、肥満症治療の社会的価値を高める重要な指標となります。
自宅での生活管理との併用
マンジャロは薬剤単独での使用よりも、生活習慣改善との併用で効果を最大化できます。
- 食事管理
栄養バランスを意識した食事を心がけ、特に糖質や脂質の摂取量を調整することが効果的です。 - 運動療法
有酸素運動や筋力トレーニングを組み合わせることで、基礎代謝の向上や脂肪燃焼を促進します。 - 行動変容支援
日記やアプリで体重・食事・運動量を記録し、自己管理能力を高めることが長期的な減量維持につながります。
まとめ
マンジャロは、肥満症治療において画期的な選択肢となりうる薬剤です。日本国内では現時点で糖尿病治療としての承認に留まっていますが、海外での肥満症治療実績や国内での臨床研究の進展により、将来的な承認取得と使用拡大が期待されます。
患者にとって重要なのは、マンジャロを単独で使用するのではなく、医師の管理下で生活習慣改善と併用することで、より安全かつ効果的な体重管理が可能になることです。医療従事者にとっても、従来の減量方法では十分な効果が得られない患者に対する新しい選択肢として、マンジャロの活用が期待されています。
参考文献
- Wilding JPH, et al. Once-Weekly Semaglutide in Adults with Overweight or Obesity. New England Journal of Medicine. 2021;384:989-1002.
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2032183 - Wilding JPH, et al. Effect of Once-Weekly Semaglutide on Body Weight in Patients with Type 2 Diabetes. Diabetes Obes Metab. 2021;23:1983-1995.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33959988/ - American Diabetes Association. Pharmacologic Approaches to Glycemic Treatment: Standards of Care in Diabetes—2025. Diabetes Care. 2025;48(Suppl. 1):S123-S141.
https://diabetesjournals.org/care/article/48/Supplement_1/S123/155514/ - FDA. FDA approves new drug treatment for chronic weight management in adults with obesity or overweight. 2021.
https://www.fda.gov/news-events/press-announcements/fda-approves-new-drug-treatment-chronic-weight-management-adults-obesity-or-overweight - Pi-Sunyer X, et al. A Randomized, Controlled Trial of 3.0 mg of Liraglutide in Weight Management. New England Journal of Medicine. 2015;373:11-22.
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1411892