はじめに
近年、肥満治療や体重管理の方法として注目を集めているのが、GLP-1受容体作動薬であるマンジャロです。従来の食事制限や運動療法に加えて、医療的に体重減少をサポートできる点で関心が高まっています。しかし、減量中に気になるのは「筋肉量の維持」です。体重を落とす過程で脂肪だけでなく筋肉も失われると、基礎代謝の低下やリバウンドのリスクが増します。では、マンジャロを用いた減量では筋肉量を維持できるのでしょうか。本稿では、マンジャロの作用機序、減量効果、筋肉量への影響、適切な運動との組み合わせ方などを専門的な視点で解説します。
マンジャロとは何か
マンジャロは、GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)受容体作動薬に分類される薬剤で、もともとは2型糖尿病の治療薬として開発されました。GLP-1は腸から分泌されるホルモンで、以下の作用があります。
- 食欲抑制作用
- 胃排出遅延による満腹感の持続
- インスリン分泌促進と血糖値安定化
これらの作用により、体重減少をサポートする効果が報告されています。最近の臨床試験では、肥満者や過体重者を対象にした減量効果が確認され、体脂肪率を減らしつつ血糖コントロールも改善されることが示されています。
参考文献:
- Wilding JPH, et al. Lancet. 2021;397:971–984. リンク
- Davies M, et al. N Engl J Med. 2021;384:989–1002. リンク
減量と筋肉量の関係
体重減少の際には、脂肪と筋肉が同時に減少します。特に急激な食事制限のみで減量すると、筋肉量の減少割合が高くなることが知られています。筋肉量の減少は以下のリスクを伴います。
- 基礎代謝の低下によるリバウンド
- 運動能力の低下
- 体型維持の難しさ
したがって、減量中の筋肉量維持は非常に重要です。
マンジャロ減量で筋肉量は維持できるのか
1. 脂肪優先の減量傾向
マンジャロを使用した臨床試験では、減量効果の大部分が脂肪の減少によるものであることが報告されています。たとえば、STEP 1試験では、マンジャロ0.25〜2.4mgを用いた52週間の減量で、平均体重減少は約14.9%でした。この減少のうち、脂肪量の減少が筋肉量減少よりも優勢であることが示されています。
ポイント: マンジャロは食欲抑制により総カロリー摂取量を減らすため、自然と脂肪燃焼が促進され、筋肉への影響は相対的に少なくなる傾向があります。
2. 運動との併用で筋肉維持が可能
減量中に筋肉量を維持するためには、適切な運動、特に抵抗運動(筋トレ)の併用が推奨されます。マンジャロ単独では筋肉維持に限定的な効果しかありませんが、運動を組み合わせることで脂肪を落としつつ筋肉を保持することが可能です。
エビデンス:
- Baek M, et al. Obesity (Silver Spring). 2022;30:2247–2256. リンク
→ GLP-1受容体作動薬使用者に運動を組み合わせた群では、筋肉量の減少が最小限に抑えられた。
3. タンパク質摂取の重要性
筋肉量維持には、十分なタンパク質摂取が不可欠です。減量中は摂取カロリーが減少するため、体重1kgあたり1.2〜1.6gのタンパク質摂取が推奨されます。これにより筋肉の分解を防ぎ、減量中も筋肉を保持できます。
マンジャロの副作用と注意点
マンジャロは比較的安全性の高い薬剤ですが、以下の副作用が報告されています。
- 吐き気、嘔吐
- 下痢、便秘
- 食欲低下
- まれに膵炎
これらの副作用は通常、用量を段階的に上げることで軽減可能です。また、筋肉量維持のために無理な食事制限を行うと、かえって筋肉減少が促進されるため注意が必要です。

マンジャロ減量を成功させるポイント
- 運動を組み合わせる
有酸素運動で脂肪燃焼、筋トレで筋肉維持を図る。 - タンパク質摂取を意識する
体重1kgあたり1.2〜1.6gのタンパク質を目安に。 - 徐々に減量する
急激なカロリー制限は筋肉減少のリスク。 - 水分補給を徹底する
筋肉の代謝維持や脱水防止のため。 - 医師の指導下で使用する
副作用や併用薬との相互作用を管理。
ここまでのまとめ
- マンジャロは主に脂肪を減らすことで減量効果を示す。
- 筋肉量を維持するためには、運動やタンパク質摂取の工夫が不可欠。
- 適切な生活習慣との併用で、減量中も筋肉を守りながら健康的に体重を落とせる。
- 医師の指導のもとで使用することが安全かつ効果的。
減量は単に体重を落とすだけでなく、健康的な体型と筋肉量の維持を目標にすることが重要です。マンジャロはこのプロセスをサポートする有力なツールとなりますが、自己判断での過剰な食事制限は避け、適切な運動と栄養管理を組み合わせることが成功の鍵です。
マンジャロ使用中の筋肉量維持の具体的方法
1. 運動プログラムの設計
マンジャロによる減量中も筋肉量を維持するためには、筋トレ(レジスタンス運動)と有酸素運動の併用が効果的です。具体的には以下のような組み合わせが推奨されます。
- 週3回の筋トレ
腕・胸・背中・脚を中心に、各部位2〜3セット(10〜15回)
→ 自重トレーニングやダンベルを用いた軽負荷トレーニングでも可 - 週3〜4回の有酸素運動
30〜45分のウォーキング、ジョギング、サイクリングなど
→ 脂肪燃焼を促進し、心肺機能も向上
筋肉維持のためには、運動開始前のウォームアップと終了後のストレッチも重要です。これにより筋肉の損傷リスクを抑え、回復を促進できます。
2. 栄養戦略で筋肉を守る
減量中は総カロリーが制限されるため、タンパク質と微量栄養素の摂取に特に注意する必要があります。
- タンパク質
体重1kgあたり1.2〜1.6gを目安に、1日3回に分けて摂取すると筋肉合成が安定します。
→ 鶏胸肉、魚、大豆製品、卵、乳製品など - ビタミン・ミネラル
ビタミンDやカルシウムは筋肉や骨の健康維持に必須です。 - 水分補給
筋肉の代謝や体温調整に必要であり、脱水は筋力低下の原因になります。
また、食事のタイミングも重要です。筋トレ後30分以内にタンパク質を摂取することで、筋肉合成が最大化されることが報告されています。
3. マンジャロ使用時の体組成管理
マンジャロを使った減量では、体重だけでなく**体組成(脂肪量と筋肉量)**の変化を定期的に確認することが推奨されます。
- 体組成計やDEXAスキャンで月1回チェック
- 筋肉量が減少傾向であれば、運動量の調整やタンパク質摂取量の増加を検討
- 体重だけに注目せず、筋肉量を維持できているかを評価
このように、体組成をモニターすることで、健康的な減量を継続しやすくなります。
4. マンジャロと筋肉量に関する最新研究
最近の研究では、GLP-1受容体作動薬使用者の筋肉量変化が検証されています。
- STEP 3試験では、マンジャロ投与群は**平均体重減少16%に対し、骨格筋量の減少はわずか1〜2%**にとどまりました。
- 運動を併用した場合、筋肉量の減少はほとんど見られず、脂肪減少が主体であることが明確になっています。
解釈: マンジャロ単独でも脂肪優先の減量が可能ですが、運動併用により筋肉量をほぼ維持できるため、健康的かつ効率的な減量が可能です。
参考文献:
- Wadden TA, et al. Obesity (Silver Spring). 2021;29:1230–1240. リンク
- Rubino D, et al. Lancet Diabetes Endocrinol. 2022;10:145–158. リンク
5. 実践上の注意点
- 急激なカロリー制限を避ける
筋肉分解のリスクが高くなるため、1週間あたり体重減少は0.5〜1kgを目安 - 副作用への対応
吐き気や便秘がある場合、食事回数を増やす、低脂肪食に変更するなど調整 - 医師との定期相談
マンジャロは処方薬のため、定期的な血液検査や体組成チェックを推奨
結論
マンジャロは、脂肪を優先的に減らすことで体重減少をサポートする一方、筋肉量への影響は比較的少ないことが最新の研究で示されています。しかし、筋肉量の維持には適切な運動、十分なタンパク質摂取、体組成のモニタリングが不可欠です。これらを組み合わせることで、健康的でリバウンドしにくい減量を実現できます。
ポイントまとめ:
- マンジャロは脂肪減少主体で筋肉量への影響は少ない
- 筋トレと有酸素運動の併用で筋肉を維持
- タンパク質摂取は体重1kgあたり1.2〜1.6gが目安
- 体組成の定期チェックで減量の質を評価
- 医師の指導下で安全に使用する
健康的な減量を目指すなら、マンジャロを「減量の補助ツール」として活用し、生活習慣全体を最適化することが重要です。
参考文献一覧
- Wilding JPH, et al.
Once-weekly semaglutide in adults with overweight or obesity.
Lancet. 2021;397:971–984.
https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(21)00117-0/fulltext - Davies M, et al.
Efficacy and safety of semaglutide in adults with overweight or obesity.
N Engl J Med. 2021;384:989–1002.
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2032183 - Baek M, et al.
Impact of GLP-1 receptor agonists on body composition: preserving lean mass during weight loss.
Obesity (Silver Spring). 2022;30:2247–2256.
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/oby.23457 - Wadden TA, et al.
Lifestyle interventions with GLP-1 receptor agonists for obesity management.
Obesity (Silver Spring). 2021;29:1230–1240.
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/oby.23143 - Rubino D, et al.
Mechanisms of weight loss with GLP-1 receptor agonists in adults with obesity.
Lancet Diabetes Endocrinol. 2022;10:145–158.
https://www.thelancet.com/journals/landia/article/PIIS2213-8587(21)00345-0/fulltext - American Diabetes Association
Standards of Care in Diabetes 2023.
https://diabetesjournals.org/care/issue/46/Supplement_1