やせていることは本当に健康?若い女性の「やせ願望」を科学から読み解く視点

この記事の概要

私たちはいつから「細い=美しい」と信じるようになったのでしょうか。日本では今、10代〜20代の女性の約5人に1人が低体重。見た目のために健康が損なわれている可能性があることを、最新の研究が明らかにしています。本記事では、やせ型女性の身体・心・食生活の背景を、科学的データをもとにわかりやすくお伝えします。医療関係者や保健指導に関わる方はもちろん、身体のことを見直したいすべての女性に読んでいただきたい内容です。

赤いセーターを着た細身の女性が、スナック菓子の入った小さなプラスチック容器を両手で持ち、一枚のポテトチップスをつまんでいる様子。やせ型女性の日常的な食習慣や間食傾向を象徴するシーン。

科学で読み解く「やせ願望」の実像と、私たちの暮らしへのヒント

カテゴリ 主要な発見 科学的データ 実生活での意味
やせ型女性の背景 やせている女性には、生まれつきの体質型とダイエット経験型の2タイプが存在 出生体重:NDG(体質型)群の方が有意に低い。BMIは平均17.4。 やせていても皆が「同じ理由」でやせているわけではありません🌱自分の体のことを理解し、それに合った健康管理をすることが大切です✨
ボディイメージ ダイエット経験者は、実際よりも「太っている」と思い込む傾向 DG群のBMI < 18.5でも「普通」または「太い」と回答。身体イメージの歪みあり。 鏡に映る自分が気になる日もあるけれど、本当の健康は「数字」や「見た目」だけでは測れません🪞自分にやさしくする時間も大事です💛
摂食行動とストレス ダイエット群はストレス時に過食傾向、体質型は食欲減退 DG:ストレス下での過食傾向、NDG:食欲低下。EAT-26スコアもDGで有意に高い。 ストレスで食べすぎたり、逆に食べられなくなったり…そんな自分を責めず、「心と体」のバランスを見つめることが第一歩です🌼
中高生の体型意識 女子中学生の約17%が理想体型とのギャップに悩んでいる 自己身体像の歪み:女子92%。心理的症状スコアとも強く相関(OR = 1.47) 「もっとやせたい」と思う気持ち、実は多くの人が抱えています。でも大切なのは、自分の「理想」に振り回されすぎないことです💭🌸
日本女性の食習慣 若年女性の間で伝統的な和食が減少、代わって清涼飲料や肉類が増加 清涼飲料水の摂取:年平均 +6.9%、魚介・果物は減少傾向(2001–2019) ジュースやスナックもいいけれど、時々はお味噌汁や焼き魚も食卓に😊体の内側からきれいになるヒントが、和食にたくさんあります🍙
健康教育の必要性 低体重女性には、タイプに応じた個別支援が必要 DG:心理支援とメディアリテラシーが有効。NDG:運動・栄養習慣のサポートが必要。 「あなたに合った健康のかたち」があります🍀無理なダイエットよりも、心地よいライフスタイルを一緒に見つけていきましょう🌷

序章:「やせすぎ」が日常になった国、日本

日本では今、「やせていること」が美しさや努力の証のように語られることがあります。特に若い女性のあいだでは、「少しでも細くなりたい」という気持ちが、日々の会話やSNSの投稿の中でごく自然に表現されています。

世界的には肥満が公衆衛生の最大の懸念とされている中で、日本だけは少し違った姿を見せています。実際、10代から20代の日本人女性の約20%が、体格指数(BMI:Body Mass Index)が18.5未満の「低体重」に分類される状態にあります。この割合は2000年代に入ってからも大きく変わっておらず、むしろ「当たり前のこと」として定着しているようにも見えます。

この現象は、単なる一時的な美容ブームではありません。1960年には、15〜24歳の女性の平均BMIは21.5でしたが、1995年には20.5に減少。2010年には20代女性の約29%が低体重とされ、2019年でも依然として20.7%という高い水準にあります。この傾向は、他の先進国と比べてもきわめて特異です。

こうした背景には、単に「スリムが好き」という感覚だけでなく、テレビや雑誌、SNSといったメディアからの影響、家庭や学校での無意識の価値観、そして「太ってはいけない」という社会的な規範意識など、さまざまな要素が複雑に絡み合っています。

そして何より忘れてはならないのは、「やせていること」が必ずしも「健康であること」を意味しないという事実です。筋肉量の低下や骨密度の不足、月経不順、不妊のリスク、さらには糖尿病や心血管疾患の可能性まで、医学的に明らかになっている健康リスクが多数存在しています。

では、なぜこれほどまでに「やせ願望」が根深く、そして長く日本社会に根を下ろしているのでしょうか? そして、やせている若い女性たちは、いったいどのような背景や意識、行動パターンを持っているのでしょうか?

この問いに答えるために、以下では3つの重要な研究をご紹介します。いずれも科学的に裏付けられた知見をもとに、日本の若い女性たちの「やせ」とその背後にある世界を、静かに、しかし深く掘り下げていきます。

第一章:低体重女性の中にある二つの顔 —— ダイエット経験の有無による違い

2023年に『Frontiers in Public Health』に掲載された室伏由佳さんらの研究は、若年女性の「やせ」の背景に注目した、非常に先進的かつ丁寧な調査です。対象は18歳から29歳までの日本人女性589名。彼女たちを、体格とダイエット経験に基づいて分類し、詳細な分析を行いました。

まず、全体の約68%(400名)がBMI18.5未満の「低体重群」とされました。この低体重群の中でも、研究者たちはさらに重要な区別を設けました。それが、「ダイエット経験がある人(DG:Diet-experienced Group)」と「ダイエット経験がない人(NDG:Non-diet-experienced Group)」です。DGは220名、NDGは180名でした。これに対し、BMIが正常範囲(18.5〜25)にある「普通体重群」は189名で、比較対象として用いられました。

研究でとくに注目されたのが、NDGの女性たちがDGよりも有意に出生体重が低かった点です。これは、NDGの人々がもともと「体質的にやせている(congenitally thin)」可能性を示唆します。つまり、「やせたくて頑張っている」のではなく、「生まれつきスリムな体型で、それが今も続いている」という人たちです。

一方のDGは、自らの意思で体重を減らそうとし、食事制限や運動習慣を積極的に取り入れてきた人たちです。いわば「努力型のやせ」ですが、その裏には少し深刻な傾向も見え隠れします。

たとえば、DGの女性たちは、BMIが18未満であるにもかかわらず、自分の体型を「普通」あるいは「太っている」と感じていることが多いのです。これは「身体イメージの歪み」と呼ばれ、摂食障害(Eating Disorders)の初期兆候と考えられています。

対照的にNDGの女性たちは、自分の体型を「やせている」と客観的に認識しており、体型に対する満足度も高めでした。ただし、栄養や運動への関心はあっても、「実際に行動に移す意欲」が低いという特徴が見られました。

つまり、同じ「やせ」でも、背景にある心理や行動には大きな違いがあるのです。

第二章:食事と運動習慣の変遷 —— 日本女性の食生活はどこへ向かうのか

次に紹介する研究では、2001年から2019年にかけて実施された「国民健康・栄養調査(NHNS)」のデータが分析されました。この調査は、厚生労働省のもとで毎年行われており、信頼性の高い全国規模の食生活データを提供しています。

この研究では、20〜39歳の日本人女性13,771名を対象に、BMI・食事内容・歩数(身体活動量)などの変化を追いました。

まず、体型の傾向としては、低体重の割合は約20%でほぼ横ばい。一方で、肥満(BMI25以上)は2001年の10%から2019年には13%へとじわじわ増えています。

特筆すべきは、すべての体型群において「伝統的な和食要素」が減少していることです。魚や海藻、果物の摂取量は減り、代わって肉類やソフトドリンク、スナック菓子の消費量が増加。特に、低体重の女性であっても清涼飲料水の摂取は年平均6.9%の増加傾向にありました。

また、果物や乳製品といった栄養価の高い食品群が不足傾向にあることは、ビタミンやカルシウムの不足につながり、将来的な骨粗鬆症や月経障害のリスクも指摘されています。

さらに、運動習慣も減少傾向にありました。歩数は、低体重・普通体重群ともに年々減少し、特に日常の中での「無意識な身体活動」が減っている可能性があります。

つまり、若い女性たちは「食べすぎて太る」というよりも、「食べる量も動く量も減っている中で細いままでいる」状態になっているのです。

第三章:中学生から始まる「やせ願望」 —— 自己身体像の歪みの発現

やせ願望の始まりは、実は思春期よりも前から見られることがあります。2021年の野村恭子さんらの研究では、埼玉県の中学校に通う13〜15歳の生徒304名を対象に、「自己身体像の歪み(Body Image Self-Discrepancy)」がどのように表れるかが調査されました。

この歪みとは、自分の「現在の体型」と「理想の体型」との間に、どれくらいギャップを感じているかを示す指標です。視覚的なシルエットを使って選択させる方法が使われました。

結果として、全体の17.4%の生徒が「1点以上の差(歪み)」を示し、そのうちの92%が女子でした。つまり、女子中学生の約1割半が「もっとやせたい」と考えており、その多くがすでに心理的な負担や食行動の変化を抱えているのです。

具体的には、朝食を抜いていたり(OR = 2.43)、夕食を意識的に減らしたり(OR = 8.67)、疲労や気分の落ち込みなどの心理的症状(OR = 1.47)を感じている傾向が強く見られました。自己肯定感が低い(OR = 0.86)ことも共通しています。

これは、摂食障害の診断が出る前の「前段階」にあたる非常に重要な兆候であり、学校や家庭での早期の気づきと支援が必要だと考えられます。

終章:公衆衛生としての「やせ」をどう捉えるか

こうして見てくると、「やせたい」という気持ちは、ただの美容志向ではないことがはっきりしてきます。それは、社会の期待やメディアの影響、心理的ストレス、そして生活習慣が複雑に絡み合った結果として現れているのです。

ときに「美しさ」や「自制心」として称賛される「やせ」ですが、その裏には、自己否定、栄養不足、月経障害、不妊、そして将来的な健康リスクが静かに潜んでいます。

これからの日本には、若年女性に向けた新しい健康教育が必要です。数字だけでなく、心や体の調和を大切にし、体型の多様性を認め合う文化が求められています。

科学的な知識と、ひとりひとりの思いに寄り添う共感が重なったとき、ようやく「やせ」ではなく「健やかさ」が主役となる社会が生まれるのではないでしょうか。

マンジャロとは?

マンジャロ(一般名:チルゼパチド)は、週1回投与型の糖尿病・肥満治療薬です。最大の特徴は、GLP-1受容体とGIP受容体という二種類のホルモン受容体に同時に作用する「デュアルアゴニスト」であること。GLP-1は食欲を抑え、胃から食べ物をゆっくり送り出すことで満腹感を長く維持します。GIPはインスリン分泌を促進し、糖や脂質の代謝を改善します。この二重作用によって、血糖コントロールと体重管理を同時に進められる点が画期的です。
日本の若い女性は「やせ願望」が強く、十分な栄養を取らないまま体重だけを落とそうとする傾向がありますが、これは筋肉量の減少や基礎代謝低下、将来的な健康リスク(骨粗鬆症、不妊、免疫力低下など)を高めます。マンジャロは過食傾向や内臓脂肪の蓄積を抑える効果が期待されますが、極端な低体重や必要栄養不足の改善には薬だけでは不十分です。栄養バランスの整った食事と適切な運動を組み合わせることが不可欠であり、あくまで生活習慣改善を支える一つの医療ツールとして位置づけられます。

マンジャロの効果

マンジャロは、肥満や糖尿病の改善だけでなく、全身の代謝を整えることが目的の薬です。GLP-1作用で過食や間食を減らし、GIP作用でインスリン感受性を高め、脂肪の利用効率を改善します。海外の臨床試験(SURPASSシリーズ)では、HbA1cが平均2%程度改善し、体重は10〜20%減少しました。さらに、内臓脂肪や中性脂肪の減少、血圧や脂質の改善も報告されています。
ただし、痩せすぎの人や極端なカロリー制限をしている人が使用すると、筋肉量の減少や栄養不足を助長する恐れがあり、美容や健康の両面で逆効果となる可能性があります。薬の効果を最大限に活かすためには、十分なたんぱく質摂取や運動による筋肉維持が欠かせません。特に女性の場合、適正体重を維持しながら体脂肪率を健全な範囲に保つことが、美容と健康の両立に直結します。
マンジャロは、単に体重を減らすための薬ではなく、過剰な脂肪と栄養不足のどちらも避け、健康的な体組成を目指すためのサポート薬として考えるべき存在です。そのため、「細さ」ではなく「健康的な引き締まり」をゴールに据えることが、薬の恩恵を最大化する鍵になります。

引用文献

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