肥満治療における薬物療法とマンジャロの役割の変化

医療

肥満は世界的に増加傾向にあり、生活習慣病のリスク要因としても注目されています。日本でもBMI(Body Mass Index)が25以上の成人は増加しており、肥満は糖尿病、高血圧、脂質異常症、心血管疾患などのリスクを高めます。こうした背景から、生活習慣改善だけでなく、薬物療法による肥満治療の重要性が高まっています。本記事では、肥満治療薬の中でも注目されるマンジャロ(マンジャロ)はどのような位置付けで使われてきたのか、そして今後の役割の変化について解説します。

1. 肥満治療薬の歴史と現状

肥満治療薬はこれまで、食欲抑制や脂肪吸収抑制を主な作用機序として使用されてきました。代表的な薬剤として以下があります。

  • オルリスタット(脂肪吸収抑制)
    小腸での脂肪吸収を阻害し、便として排出することで体重減少を促します。副作用として下痢や脂溶性ビタミン欠乏が報告されています。
    参考: 日本肥満学会ガイドライン
  • 食欲抑制薬(フェンテルミンなど)
    中枢神経系に作用し、食欲を減少させる薬剤です。心血管系の副作用に注意が必要です。

これまでの薬物療法は、短期間の減量や体重維持が目的であり、長期的な肥満治療には生活習慣改善との併用が不可欠でした。

2. マンジャロとは何か

マンジャロ(Semaglutide)は、元々2型糖尿病治療薬として開発されたGLP-1受容体作動薬です。GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)は腸管から分泌されるホルモンで、食欲抑制やインスリン分泌促進の作用があります。

  • 作用機序: 食欲中枢に作用し、満腹感を増強 → 摂取カロリー減少
  • 投与形態: 週1回皮下注射
  • 対象: BMI 30以上の肥満者、またはBMI 27以上で糖尿病など合併症のある患者

従来の食欲抑制薬と比較して、マンジャロはより持続的で顕著な体重減少効果が報告されています。

3. マンジャロの臨床試験結果

マンジャロの体重減少効果は複数の臨床試験で検証されています。

  • STEP 1試験(Semaglutide Treatment Effect in People with Obesity)
    BMI ≥30の非糖尿病患者を対象に、マンジャロを週1回投与。68週後、平均体重減少は約15%に達しました。
    参考: Wilding et al., NEJM 2021
  • STEP 2試験
    2型糖尿病患者を対象にマンジャロを投与した結果、平均体重減少は約9%であり、血糖コントロールの改善も確認されました。
    参考: Davies et al., NEJM 2021
  • 副作用
    主に消化器症状(吐き気、下痢、便秘)が報告され、治療初期に多く現れますが、徐々に軽減する傾向があります。重大な心血管イベントの増加は報告されていません。

4. マンジャロの役割の変化

これまで肥満治療は「生活習慣改善+補助的な薬物療法」が主流でした。しかし、マンジャロの登場により、薬物療法が肥満の主要治療戦略の一つとして認識されつつあります。

  • 従来との違い
    従来の薬物は体重減少幅が限定的であったのに対し、マンジャロは15%以上の減量も可能であり、糖尿病や高血圧などの合併症リスク低減にも寄与します。
  • 長期治療の実現
    週1回投与で持続的な体重管理が可能。患者の服薬負担が少なく、生活習慣改善との併用で体重維持効果が高まります。
  • 医療現場での位置付け
    日本では自由診療として導入されており、今後保険適用拡大の可能性も議論されています。

5. マンジャロの使用にあたっての注意点

  1. 消化器症状
    初期に吐き気や下痢が出ることがあります。投与量の漸増が推奨されます。
  2. 膵炎リスク
    ごくまれに膵炎の報告があります。腹痛や発熱時は中止が必要です。
  3. 低血糖リスク
    単独では低血糖はまれですが、SU薬やインスリン併用時は注意が必要です。
  4. 妊娠・授乳中の使用
    安全性が確立していないため、避ける必要があります。
注意 医者

6. マンジャロと生活習慣改善の併用

マンジャロ単独でも体重減少効果は高いですが、栄養管理・運動・行動療法との併用により、より良好な長期的効果が期待されます。

  • 栄養管理: カロリー制限や高たんぱく食を中心に摂取
  • 運動: 有酸素運動+筋力トレーニングで筋肉量維持
  • 行動療法: 食欲の自己管理やストレス対策

これにより、薬物療法による体重減少後のリバウンドを最小限に抑えることが可能です。

7. 今後の展望

マンジャロの登場により、肥満治療のパラダイムは変化しつつあります。

  • 肥満を慢性疾患として管理
    従来は短期間の減量が目的でしたが、今後は慢性疾患として継続的に管理する治療戦略が主流になります。
  • 保険適用の可能性
    世界的に注目されており、肥満関連疾患予防の観点から保険適用が拡大する可能性があります。
  • 他薬剤との併用研究
    他のGLP-1受容体作動薬やSGLT2阻害薬との併用による相乗効果の研究も進められています。

8. ここまでのまとめ

マンジャロは、従来の肥満治療薬とは異なり、顕著で持続的な体重減少効果を持つ薬物です。食欲抑制と血糖改善の作用を併せ持ち、糖尿病や高血圧などの合併症予防にも寄与します。今後は生活習慣改善との併用による慢性的な体重管理が中心となり、肥満治療の戦略そのものが変化していくと考えられます。医療現場では、個々の患者に合わせた投与計画と副作用管理が重要であり、長期的なフォローアップが求められます。

9. 臨床現場でのマンジャロ使用の実際

マンジャロは、日本では自由診療として導入されていることもあり、医療現場では以下の点が重視されています。

  • 個別化投与
    患者の体重や合併症、ライフスタイルに応じて投与量を調整します。通常、0.25mgから開始し、徐々に増量して2.4mgまで調整するプロトコールが推奨されます。
  • 副作用への対応
    消化器症状(吐き気・下痢・便秘)は初期に多く発生します。医師は服用開始前に十分な説明を行い、必要に応じて投与間隔や量の調整を行います。
  • 長期フォローアップ
    マンジャロは慢性的な体重管理薬として使用されるため、患者の体重変化、血圧、血糖値、肝腎機能などを定期的に評価することが推奨されます。
  • 生活習慣改善との併用
    薬物療法単独では体重減少後のリバウンドリスクがあります。栄養指導や運動療法を組み合わせることで、長期的な体重維持が可能になります。

10. マンジャロが変える肥満治療の戦略

従来の肥満治療は「短期的な減量」や「生活習慣改善の補助」が中心でした。しかしマンジャロの登場により、以下のような戦略の変化が見られます。

  1. 慢性疾患としての肥満管理
    肥満は一度の減量で解決するものではなく、長期的に管理すべき慢性疾患と捉えられるようになりました。マンジャロは週1回の投与で、長期的な体重管理を可能にします。
  2. 合併症リスクの低減
    STEP試験において、マンジャロ使用者は血糖値、血圧、脂質異常などの改善も確認されました。これにより、糖尿病や心血管疾患の二次予防的な役割も期待されています。
  3. 患者の治療モチベーション向上
    大幅な体重減少は心理的な達成感を与え、生活習慣改善のモチベーションにもつながります。医師や栄養士はこの心理的効果を活用した行動療法を併用することが推奨されます。
  4. 個別化医療の強化
    マンジャロは、患者のBMI、合併症、生活背景に応じて投与量を調整できるため、より精密な個別化治療が可能となります。

11. 患者教育と支援の重要性

薬物療法の成功には、患者自身の理解と協力が不可欠です。マンジャロ使用時に医療従事者が行うべき支援は以下の通りです。

  • 投与方法と副作用の説明
    週1回注射の方法や、初期の吐き気・下痢などの副作用について十分な説明を行います。
  • 栄養・運動指導
    単独での薬物使用ではリバウンドが起こる可能性があるため、栄養士による食事管理や運動指導が必須です。
  • 心理的サポート
    大幅な体重変化は心理的ストレスになることがあります。医療チームは定期的に面談を行い、モチベーション維持や心理サポートを提供します。
  • 定期的な評価とフォローアップ
    体重、血糖値、血圧、肝腎機能などを定期的にチェックし、安全性と効果を評価します。

12. 将来的な展望と研究課題

マンジャロの登場により、肥満治療は大きく進化しましたが、今後さらに発展する余地があります。

  1. 保険適用の拡大
    現在は自由診療ですが、肥満による生活習慣病予防という観点から保険適用の議論が進められています。
  2. 併用療法の研究
    他のGLP-1受容体作動薬やSGLT2阻害薬との併用による相乗効果、また精神的ストレスや睡眠障害を組み合わせた包括的治療も研究されています。
  3. 長期安全性の検証
    現在は約2年程度の長期試験データがありますが、5年以上の使用における安全性や持続効果のデータは今後の課題です。
  4. デジタルヘルスとの連携
    アプリやウェアラブルデバイスを活用し、体重変化や活動量を可視化することで、マンジャロ治療の効果を最大化する取り組みも注目されています。

13. まとめ

肥満治療におけるマンジャロは、従来の薬物療法とは異なり、顕著で持続的な体重減少を実現できる点で革新的です。生活習慣改善と組み合わせることで、リバウンドの抑制や合併症予防にもつながります。今後は慢性疾患としての肥満管理を中心に、個別化医療や患者支援、保険適用拡大の議論が進むことで、肥満治療の選択肢はさらに広がるでしょう。

医療従事者は、マンジャロの有効性と安全性を理解しつつ、患者に適した投与計画と生活習慣改善の支援を提供することが重要です。患者自身も、医師や栄養士と協力しながら、継続的な体重管理に取り組むことが求められます。

参考文献一覧

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    https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/oby.23158

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