コラム

女性に多い性感染症とリスクの実態

Posted on 2025年 8月 18日

女性

性感染症(性病)は、性行為を介して感染する病気の総称であり、年齢や生活環境に関係なく、誰にでも感染の可能性があります。特に女性は、解剖学的な構造やホルモンの影響などから、男性よりも感染のリスクが高く、しかも初期には症状がほとんど現れないことが多いため、発見が遅れやすいという特徴があります。

代表的なものとしては、クラミジア感染症、淋菌感染症、梅毒、HIV、性器ヘルペス、尖圭コンジローマなどがあり、それぞれ原因となる病原体や感染経路、症状の現れ方が異なります。これらの性感染症は、軽いかゆみやおりものの変化などのわずかな異常から始まる場合もあれば、全く自覚症状がないまま進行し、気づいた時には不妊症や子宮外妊娠、慢性骨盤痛など、将来の生活や妊娠・出産に深刻な影響を及ぼす段階に至っていることも珍しくありません。

さらに、妊娠中に感染すると、母子感染によって新生児が結膜炎や肺炎、発育障害などを起こす可能性もあり、女性本人だけでなく、パートナーや生まれてくる子どもの健康にも関わります。

性感染症は「特定の人だけがかかる病気」ではなく、日常的なパートナーとの関係の中でも感染リスクは存在します。そして、その予防や管理の第一歩は「正しい知識を持ち、適切なタイミングで検査を受けること」です。本記事では、女性に多い性感染症の種類と特徴、それぞれの健康リスク、そして予防と早期発見のための実践的な方法までを、最新の医療情報を交えて詳しく解説します。知ることが、自分の体と未来を守る第一歩です。

1. 女性に多い主な性感染症と特徴

女性が感染しやすく、かつ進行による健康被害が大きい性感染症は複数あります。それぞれ原因となる病原体、感染経路、初期症状から進行後の合併症までの特徴を理解することは、予防と早期発見に欠かせません。

クラミジア感染症

原因菌:クラミジア・トラコマティス(細菌)

感染経路:性器性交・口腔性交・肛門性交

主な症状(女性)
初期はほぼ無症状。進行すると異常なおりもの、下腹部痛、不正出血、性交痛などが現れる。

進行・合併症
放置すると卵管炎・骨盤内感染症(PID)を引き起こし、不妊症や子宮外妊娠の原因に。妊娠中の感染では、分娩時に新生児が結膜炎や肺炎にかかるリスクがある。

特徴:女性患者の約7割が無症状と言われ、定期検査での発見が重要。

淋菌感染症(淋病)

原因菌:ナイセリア・ゴノレアエ(細菌)

感染経路:性器・口腔・肛門性交

主な症状(女性)
初期は軽度の排尿痛や黄色〜緑色のおりもの、下腹部痛など。咽頭感染ではのどの痛み、発熱。

進行・合併症
卵管炎やPIDを引き起こし、不妊や慢性骨盤痛の原因となる。耐性菌化が進んでおり、治療が難しい場合もある。

特徴:咽頭感染は無症状であることが多く、口腔性交経験者は検査部位に咽頭を含める必要がある。

梅毒

原因菌:トレポネーマ・パリダム(細菌)

感染経路:性器・口腔・肛門性交、キスや皮膚の傷からも感染可能

主な症状(女性)
第1期:感染部位にしこり(硬性下疳)や潰瘍が出現。
第2期:全身の発疹、発熱、リンパ節腫脹、脱毛など。

進行・合併症
治療せず放置すると、数年〜数十年後に心血管系や神経系の障害(第三期・第四期)を引き起こす。妊娠中は胎児梅毒(死産・先天異常)を起こす危険が高い。

特徴:国内でも再流行傾向があり、特に20〜30代女性で報告増加。

性器ヘルペス

原因ウイルス:単純ヘルペスウイルス(HSV-1またはHSV-2)

感染経路:性器・口腔接触、皮膚・粘膜の微細な傷

主な症状(女性)
性器や肛門周囲に水ぶくれ(小水疱)やびらん、強い痛み、発熱、全身倦怠感。

進行・合併症
ウイルスは神経節に潜伏し、再発を繰り返す。妊娠後期に初感染すると新生児ヘルペスのリスクが高い。

特徴:再発型では症状が軽く出るが、感染力はあるため注意が必要。

尖圭コンジローマ

原因ウイルス:ヒトパピローマウイルス(HPV)主に6型・11型

感染経路:皮膚・粘膜接触(性器・肛門・口腔)

主な症状(女性)
外陰部・膣内・肛門周囲などにカリフラワー状またはイボ状の突起。かゆみや違和感。

進行・合併症
放置しても自然消失する場合もあるが、再発率が高い。ハイリスク型HPV感染では子宮頸がんのリスク上昇。

特徴:予防にはHPVワクチンが有効。

トリコモナス膣炎

原因寄生虫:トリコモナス・ワジナリス

感染経路:性行為(稀にタオルや下着を介して)

主な症状(女性)
黄緑色の泡状おりもの、強い悪臭、膣のかゆみや灼熱感。

進行・合併症
慢性化すると膣炎の反復、性交痛、不妊の原因となる。

特徴:男性は無症状保菌者となることが多く、カップルでの同時治療が必須。

2. 感染による女性特有の健康リスク

性感染症が女性にとって危険なのは、症状が軽いまま進行し、「気づかないうちに将来の妊娠や健康に大きな影響を与える」ことです。特に以下のリスクが重要です。

不妊症:クラミジアや淋菌による卵管の瘢痕化で卵子が通れなくなる。

子宮外妊娠:卵管の損傷により受精卵が子宮外で着床。

慢性骨盤痛:炎症が慢性化して骨盤周囲の神経や組織にダメージが残る。

妊娠合併症:早産、低出生体重児、胎児発育不全、母子感染による新生児疾患。

がんリスク:HPVによる子宮頸がん、外陰がんなど。

3. 検査と診断の流れ

性感染症の早期発見には、以下の検査方法が用いられます。

尿検査:クラミジア・淋菌など。初尿採取でPCR検査を行う。

血液検査:梅毒、HIV、B型・C型肝炎。

分泌物検査:膣分泌物や子宮頸管分泌物を採取し顕微鏡・培養・遺伝子検査。

HPV検査:子宮頸がん検診と同時に実施可能。

検査は症状が出てからではなく、新しいパートナーができたときや妊娠前、少しでも感染の可能性がある行為の後に行うのが理想です。

血液検査

4. 予防と早期発見のために

性感染症は「感染してから治療する」だけではなく、「感染しないための予防」と「感染しても早く発見して治療する仕組み」を日常に取り入れることが何より重要です。特に女性は、感染から症状が現れるまで時間がかかる場合が多く、気づかないうちに進行してしまうリスクが高いため、予防と早期発見の両方を意識する必要があります。

コンドームの正しい使用

性行為の際は、膣性交・肛門性交・オーラルセックスを含め、すべての場面でコンドームを使用することが基本です。

性器同士の直接接触や体液の交換を防ぎ、クラミジア、淋菌、HIV、梅毒など多くの性感染症予防に有効です。

使用時は「性行為の最初から最後まで」装着し続けることが重要。途中で外すと予防効果が大幅に下がります。

保管は高温・直射日光を避け、使用期限内のものを選びましょう。

定期的な検査の習慣化

無症状でも感染しているケースは非常に多く、クラミジアでは感染者の約7割が自覚症状なしとされます。

年1回以上の定期検査を「健康診断の一部」として組み込み、新しいパートナーとの関係を始める前やコンドームを使わない性行為をした後は必ず検査を受けましょう。

自分だけでなくパートナーも同時に検査することで、再感染(いわゆるピンポン感染)を防ぎ、相互の信頼関係も強化できます。

ワクチンによる予防

HPVワクチンは、尖圭コンジローマや子宮頸がんの原因となる高リスク型・低リスク型HPVの感染を防ぎます。接種対象年齢の女性はもちろん、成人女性でも接種が推奨される場合があります。

B型肝炎ワクチンは、性行為や血液を介して感染するB型肝炎ウイルスから身を守ります。慢性化や肝がんの予防にも有効です。

これらのワクチンは「感染前の接種」が最も効果的なため、早期の検討・接種が重要です。

体調変化への敏感さと早期相談

おりものの色やにおいの変化、下腹部痛、不正出血、かゆみ、発疹など、日常の中でわずかな異常に気づくことが早期発見につながります。

症状が軽くても、「そのうち治るだろう」と放置せず、婦人科や性感染症外来など専門の医療機関に相談しましょう。

最近は匿名検査や自宅でできる郵送検査キットもあり、プライバシーに配慮した方法を選べます。

パートナーとのコミュニケーション

性に関する話題はタブー視されがちですが、感染予防のためには率直な会話が不可欠です。

過去の感染歴や検査受診の有無を確認し合い、安全な関係づくりを心がけましょう。


このように、女性の性感染症予防には「日常的な予防行動」と「早期発見のための習慣化」の両輪が大切です。自分の体の変化を見逃さず、必要なときはためらわずに検査・受診することが、将来の健康と安心を守る第一歩となります。

まとめ

女性に多い性感染症は、その多くが初期には無症状か、あっても軽度なために気づかれにくく、放置されやすいという共通点があります。しかし、感染が進行すれば不妊症や子宮外妊娠、慢性骨盤痛、さらには妊娠中の母子感染など、人生の質や将来の計画に深刻な影響を与える可能性があります。また、HPVによる子宮頸がんのように、感染後数年〜数十年を経てから発症する疾患もあるため、短期的な健康だけでなく長期的な健康管理の視点が求められます。

性感染症の最大の予防策は、「感染経路を断つこと」と「感染しても早く発見すること」です。コンドームの正しい使用、年1回以上の定期検査、パートナーと一緒の検査受診、そしてHPVやB型肝炎ワクチンなど予防接種の活用は、誰でも今すぐ始められる具体的な方法です。さらに、症状がなくても少しでも不安があれば医療機関や匿名検査サービスを利用する勇気を持つことが、将来のリスク回避につながります。

性感染症は、決して「恥ずかしい病気」や「特定の人だけの問題」ではなく、誰もが向き合うべき健康課題です。今日の小さな行動が、未来の自分と大切な人を守ります。知識を持ち、予防し、必要なときには迷わず行動する——この積み重ねが、性感染症から自由で健やかな生活を送るための確かな土台となります。