コラム

性病が不妊につながる?放置の危険性とは

Posted on 2025年 8月 25日

女性

性感染症(性病)は、「かかったら治せばいい」という軽い問題ではありません。多くの性病は早期に適切な治療を行えば完治しますが、放置してしまうと一生に関わる深刻な影響を残す可能性があります。その最たるものが、不妊症です。特にクラミジアや淋病は、感染していても自覚症状がない場合が多く、気づかないまま炎症が進行し、女性では卵管の閉塞や癒着、男性では精管や精巣上体の障害を引き起こします。その結果、自然妊娠の可能性が大きく低下したり、子宮外妊娠や精子数減少などの深刻なトラブルを抱えることになります。

さらに、性病は若年層や性活動の活発な年代だけの問題ではありません。近年は中高年層でも感染率が上昇しており、「今さら自分は関係ない」と思っている人ほど検査や予防が疎かになり、発見が遅れやすいのです。また、妊娠中の感染は母子感染のリスクも伴い、新生児に重い健康被害をもたらすことがあります。

本記事では、性病がどのように不妊症を引き起こすのか、その医学的メカニズムから、放置によって起こる合併症、男女別の症状や無症状の怖さ、検査・治療の流れ、そして再発や予防のための具体的な方法までを詳しく解説します。「症状がないから大丈夫」という思い込みが、どれほど危険で取り返しのつかない結果につながるのかを理解し、今日からできる行動を一緒に確認していきましょう。

1. 性病と不妊症の関係

性病が不妊を引き起こすのは、感染が生殖器やその周辺の組織に炎症や損傷をもたらすためです。

クラミジア感染症
女性:子宮頸管から卵管へ感染が広がると卵管炎を発症し、卵管閉塞や癒着を招く
男性:精管や精巣上体の炎症(精巣上体炎)で精子の通り道が塞がることがある

淋菌感染症
強い炎症と組織破壊を引き起こしやすく、短期間で生殖機能に影響を及ぼす

梅毒やHIV
直接的に不妊を起こすわけではないが、全身状態や妊娠継続能力に影響

慢性的な炎症は、卵子や精子の通過障害、着床環境の悪化、精子形成の阻害といった問題を生じさせ、自然妊娠の可能性を低下させます。

2. 放置すると起こる合併症

性病を放置した場合、以下のような合併症が高確率で発生します。

女性の場合
・骨盤内炎症性疾患(PID)
・卵管閉塞・卵管水腫
・子宮外妊娠のリスク上昇(卵管のダメージが原因)
・慢性下腹部痛

男性の場合
・精巣上体炎・前立腺炎
・精管閉塞による無精子症
・勃起障害(ED)や性機能低下

さらに、妊娠中に感染していると母子感染の危険性もあり、流産・早産、新生児感染症などの原因になります。

3. 男女別の初期症状と無症状のリスク

性感染症の厄介な点は、症状が出る場合とまったく出ない場合があることです。さらに、無症状のままでも感染は進行し、周囲へ感染させるリスクも高まります。性別によって症状の現れ方や合併症の進行スピードが異なるため、男女別に理解しておくことが重要です。

男性の場合

初期症状の例

・排尿時の痛みや違和感(尿道炎の初期サイン)
・透明〜黄緑色の膿や分泌物が尿道口から出る
・尿道口のかゆみ・赤み
・精巣や精巣上体の軽い腫れや圧痛
・性器や亀頭周囲の小さな水ぶくれ(ヘルペス)やいぼ(尖圭コンジローマ)

無症状のリスク
男性は比較的症状が出やすいとされますが、それでもクラミジアの約半数、淋病の一部、梅毒の初期などは気づかれにくいことがあります。特にクラミジアでは、気づかないまま精管や精巣上体に炎症が広がり、精子の通り道が塞がれることで不妊につながるケースがあります。また、無症状でもパートナーに感染させる危険性が高く、知らぬ間に相手の健康を損なうことになります。

女性の場合

初期症状の例

・おりものの量や色、においの変化(黄色〜緑色、泡状など)
・下腹部の軽い痛みや重さ
・排尿時の痛み、頻尿
・性行為時の出血や痛み
・外陰部のかゆみや赤み、水ぶくれやいぼの発生

無症状のリスク
女性は男性以上に無症状で進行するケースが多く、クラミジアでは約70〜80%が自覚症状なしといわれます。このため、感染が長期間放置され、骨盤内炎症性疾患(PID)に進行するリスクが高まります。PIDは卵管の閉塞や癒着を引き起こし、自然妊娠が困難になる最大の原因の一つです。また、妊娠中に感染していると早産・流産・母子感染のリスクも高まります。

共通する無症状の怖さ

感染拡大の温床になる:自覚がないまま複数の相手と接触し、広範囲に感染が広がる可能性があります。
発見が遅れることで治療が長期化:早期であれば数日〜1週間の治療で済む病気も、慢性化すると数ヶ月以上かかる場合があります。
潜伏感染のまま重症化:梅毒やHIVは数年〜十数年潜伏し、気づいたときには重大な臓器障害や免疫低下が起きていることがあります。

こうした背景から、「症状がないから大丈夫」ではなく、「症状がなくても検査する」という意識が非常に大切です。特に無症状が多い女性や、複数の性パートナーがいる人、コンドーム使用が不十分だった人は、定期的なチェックを習慣にしましょう。

4. 検査と治療の流れ

性病が疑われる場合、または感染リスクがあった場合は早急な検査が必要です。

検査方法
尿検査(クラミジア・淋菌)
血液検査(梅毒・HIV・B型肝炎)
分泌物検査(膣分泌物・尿道分泌物)

治療
抗菌薬(クラミジア・淋菌)
抗ウイルス薬(HIV・ヘルペス)
治療中は性行為を中止し、パートナーも同時に治療する

治療後は再検査を行い、陰性を確認するまで油断しないことが大切です。

医者

5. 性病の予防と再発防止のポイント

性病の予防は「感染しない」だけでなく、「再び感染しない」ことも含まれます。なぜなら、多くの性病は一度治っても免疫ができず、同じ種類に再感染する可能性があるからです。

予防の基本戦略

  1. コンドームの正しい使用
     膣性交だけでなく、肛門性交やオーラルセックスでも使用することで、感染リスクを大幅に減らせます。ただし、梅毒や性器ヘルペス、尖圭コンジローマのように皮膚接触で感染するタイプは完全には防げないため、あくまで「リスク低減策」として認識しましょう。
  2. 定期的な検査
     年1回以上、またはパートナーが変わるタイミングでの検査が理想です。特に無症状の感染が多いクラミジアは、検査習慣を持つことが将来の不妊予防につながります。
  3. ワクチン接種
     HPV(子宮頸がん・尖圭コンジローマ予防)やB型肝炎のワクチンは、予防可能な性病の発症率を大きく下げます。

再発・再感染防止のために重要な行動

パートナーも同時に検査・治療
 一方だけが治療しても、もう一方が感染していれば再感染(ピンポン感染)が起こります。
治療後の再検査
 クラミジアや淋病は、治療後2〜4週間ほどで再度検査を行い、確実に陰性であることを確認します。
治療期間中の性行為禁止
 症状が軽くなっても、治療が完全に終了し再検査で陰性が確認されるまでは性行為を避けることが必要です。
信頼できる関係の構築
 複数人との性行為や、不特定多数の相手との接触は感染リスクを増加させます。性行為において相互の健康意識を高めることが、長期的な予防になります。

最も大切なのは、「予防」「早期発見」「確実な治療」という3つの柱を生活習慣に組み込むことです。このサイクルを守れば、性病による不妊やその他の深刻な合併症をほぼ防ぐことが可能になります。

まとめ

性感染症は、単に「一時的な病気」として片付けられるものではなく、放置すれば将来の妊娠・出産に直接的な悪影響を与える可能性が非常に高い疾患群です。特にクラミジアや淋病は、無症状のまま生殖器に炎症を広げ、卵管や精管といった妊娠に欠かせない重要な経路を塞いでしまうことがあります。このダメージは一度起きると元に戻せない場合も多く、不妊治療を行っても改善が難しいケースが少なくありません。

また、性病は自分だけの問題ではなく、パートナーや将来生まれてくる子どもにも影響を及ぼします。母子感染による新生児の失明、肺炎、神経障害などは、予防と早期治療でほぼ回避できるにも関わらず、発見が遅れることで命や一生に関わる後遺症を残すことがあります。

だからこそ重要なのは、「予防」と「早期発見」です。コンドームを正しく使用すること、年1回以上の定期的な性病検査、新しいパートナーとの関係開始前のチェック、そしてHPVやB型肝炎などワクチンで防げる感染症への備え。これらを組み合わせることで、性病による不妊や合併症のリスクを大幅に下げることができます。

性病は恥ずかしいことでも、珍しいことでもありません。大切なのは「かからない努力」と「もし感染してもすぐに治す行動力」です。あなた自身と、あなたが守りたい人の未来のために、今日から予防と検査を生活の一部として取り入れてください。