- 前立腺炎の主な症状(排尿痛・頻尿・会陰部の違和感)と受診の目安
- 急性前立腺炎と慢性前立腺炎、細菌性と非細菌性の違い
- 慢性骨盤痛症候群(CPPS)の考え方と原因の捉え方
- 長時間座位や冷えなど、日常で見直せるセルフケアのヒント
前立腺炎とはどんな病気か
前立腺炎とは、膀胱の下にある前立腺に炎症や不快感が起こる状態をまとめた呼び名です。ひとつの病気ではなく、いくつかのタイプに分かれます。
前立腺は、精液の一部をつくる男性特有の臓器です。尿道を取り囲む位置にあるため、炎症が起きると排尿の症状として現れやすくなります。
幅広い年代でみられますが、慢性のタイプは10代後半から40代の比較的若い世代にも起こります。私が診察でお話を伺っていても、「年齢のわりに尿トラブルが続く」と戸惑って来院される方は少なくありません。
高齢者に多い前立腺肥大症とは、まったく別の病気です。名前が似ているため混同されがちですが、原因も対処の考え方も異なります。
前立腺炎の主な症状
前立腺炎の症状は、排尿に関する違和感と、下腹部や会陰部の痛み・不快感が中心です。タイプによって、あらわれ方や強さが変わります。
会陰部とは、陰のうと肛門のあいだの部分を指します。ここに重だるさや圧迫感を覚える方が多く、座っているときに気になりやすい傾向。デスクワーク中に落ち着かない、という声もよく聞きます。
代表的な症状を、下の表に整理しました。複数が重なって出ることもあれば、ひとつだけが目立つこともあります。
| 分類 | あらわれやすい症状 |
|---|---|
| 排尿の症状 | 排尿痛、頻尿、残尿感、尿意切迫感、尿の勢いの低下 |
| 痛み・不快感 | 会陰部の違和感、下腹部痛、鼠径部や腰まわりの重さ |
| 全身の症状 | 発熱、寒気、倦怠感(主に急性の細菌性でみられます) |
| そのほか | 射精時の違和感、症状が続くことによる不安感 |
急性の細菌性では、38度を超える発熱や強い排尿痛があらわれることがあります。全身状態がつらいときは、早めの受診を考えてください。
一方、慢性のタイプでは症状がゆっくり続きます。強い痛みではなくても、会陰部の違和感や頻尿が長引くと、生活の質に影響が出やすくなります。
急性前立腺炎と慢性前立腺炎の違い
大きく分けると、急性は短期間に強い症状が出るタイプ、慢性は軽い症状が長く続くタイプです。国際的にはNIH分類という4つのカテゴリーで整理されています。
NIH分類は、米国国立衛生研究所がまとめた前立腺炎の分類です。細菌が関わるかどうかを軸に、次のように分かれます。
| カテゴリー | タイプ | 特徴 |
|---|---|---|
| Ⅰ | 急性細菌性前立腺炎 | 細菌感染で急に発症。発熱など全身症状を伴いやすい |
| Ⅱ | 慢性細菌性前立腺炎 | 細菌が関与し、症状の再発を繰り返すことがある |
| Ⅲ | 慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群 | 細菌が確認されないタイプ。前立腺炎の多くを占めるとされる |
| Ⅳ | 無症候性炎症性前立腺炎 | 自覚症状がなく、検査で偶然みつかる |
このうち、細菌が確認できないカテゴリーⅢが最も多いタイプとされています。症状に悩む方の大半が、このタイプに当てはまります。
急性の細菌性は、細菌の存在がはっきりしているぶん、治療方針も立てやすいタイプです。反対に慢性骨盤痛症候群は、原因が複雑で対応に時間がかかることもあります。
前立腺炎の原因
原因は、細菌によるものと、細菌が確認できないものに分けて考えます。それぞれで背景が大きく異なります。
細菌性のタイプ
細菌性は、尿道から入った細菌が前立腺に達して炎症を起こすと考えられています。大腸菌などの腸内細菌が関わることが知られています。
疲労や睡眠不足で体の抵抗力が下がっているときは、発症しやすくなる場面のひとつ。尿をがまんし続ける習慣も、負担につながりやすい要素です。
慢性骨盤痛症候群(非細菌性)のタイプ
細菌が確認できないタイプは、はっきりとした原因が特定しきれていません。複数の要因が重なって起こると推測されています。
医療現場では、前立腺まわりの血流の悪さ、骨盤内の神経の過敏さ、ストレスなどが関わると考えられています。加えて、長時間の座位や冷え、過度の飲酒が症状を強める引き金になりやすい点も指摘されています。
デスクワークや長距離運転で座りっぱなしの時間が長い方は、骨盤まわりへの負担がたまりやすい生活習慣といえます。
前立腺炎の治し方・治療の考え方
治療は、タイプによって方針が変わります。まずは泌尿器科で検査を受け、細菌が関わるかどうかを見きわめることが出発点です。
診察では、症状の問診に加えて、尿検査や必要に応じた各種検査で状態を確認します。自己判断で市販薬を使い続けるより、原因に合った対応を選ぶことが回復への近道です。
細菌性のタイプでは、細菌に対する薬による治療が行われることが一般的です。症状が落ち着いても、医師の指示があるあいだは治療を続けてください。
慢性骨盤痛症候群では、症状を和らげる治療と生活習慣の見直しを組み合わせて、時間をかけて向き合っていきます。すぐに完治する魔法のような方法はありませんが、付き合い方を工夫することで楽になっていく方は多くいらっしゃいます。
治療の効果や期間には個人差があります。ここで具体的な治り方を断言することはできませんので、実際の方針は診察のうえで担当医とご相談ください。
日常でできるセルフケア
セルフケアの基本は、骨盤まわりの血流を保ち、前立腺への負担を減らすことです。慢性のタイプでは、日々の習慣の見直しが症状の安定につながりやすくなります。
ただし、セルフケアは医療機関での治療に置きかわるものではありません。あくまで補助として、次のような工夫を取り入れてみてください。
座り方と体の動かし方
長時間の座位を避けることが、まず取り組みやすいポイントです。1時間に一度は立ち上がり、軽く歩くだけでも骨盤への圧迫がやわらぎます。
硬い椅子が気になる方は、クッションを使うのもひとつの方法。同じ姿勢を続けない工夫が、会陰部の負担を減らす助けになります。
冷え・水分・お酒との付き合い方
体の冷えは血流を悪くするため、下半身を冷やしすぎない服装を心がけてください。ぬるめの入浴で温めるのも心地よい習慣です。
水分は適度にとり、尿を長くがまんしないようにします。過度の飲酒や香辛料のとりすぎは症状を刺激することがあるため、量を控えめにすると安心です。
睡眠と休息をしっかりとることも、体調を整える土台になります。無理を重ねている自覚があるときは、まず休む時間を確保してみてください。
泌尿器科を受診する目安
症状が続く、または急に強くなるときは、早めに泌尿器科を受診してください。とくに高熱を伴う場合は、急いで相談が必要な状態です。
受診を考える目安を、下にまとめました。当てはまるものがあれば、様子見を続けずに専門医へご相談ください。
- 発熱や寒気を伴う強い排尿痛がある
- 排尿痛や頻尿、会陰部の違和感が数日以上続く
- 尿が出にくい、残尿感が抜けない
- 症状を繰り返し、生活に支障が出ている
「たいしたことはない」と感じても、症状が長引くときは背景に別の病気が隠れていることもあります。自己判断で放置せず、一度専門医の目で確認してもらうと安心です。
当院ではオンライン診療にも対応しています。通院の時間がとりにくい方や、まず相談したいという方も、気軽にご利用いただけます。
よくある質問
前立腺炎について、患者さんからよく寄せられる質問をまとめました。気になる点の確認にお役立てください。
Q. 前立腺炎は自然に治りますか?
A. 軽い症状が自然に落ち着くこともありますが、タイプによって経過はさまざまです。とくに細菌性が疑われる場合は、自然に任せず受診して確認することをおすすめできる状況です。症状が続くときは泌尿器科で相談してください。
Q. 前立腺炎はうつる病気ですか?
A. 多くの前立腺炎は、人から人へうつる病気ではありません。ただし、原因や状態は診察でないと判断できません。パートナーへの影響が心配な場合も、まずは医師に相談すると安心です。
Q. 慢性前立腺炎と前立腺肥大症は同じですか?
A. 別の病気です。前立腺肥大症は主に高齢の方に多く、前立腺が大きくなることで排尿トラブルが起こります。慢性前立腺炎は若い世代にもみられ、炎症や骨盤の痛みが中心です。症状が似ていても、対応の考え方は異なります。
Q. 排尿痛や頻尿があれば前立腺炎ですか?
A. これらの症状は前立腺炎でみられますが、膀胱炎や尿道の感染など、ほかの原因でも起こります。症状だけで自己判断するのは難しいため、検査で原因を確かめることが大切です。気になる症状があれば受診してください。
Q. 慢性骨盤痛症候群は治りますか?
A. 経過には個人差があり、ここで治ると断言することはできません。ただし、治療と生活習慣の見直しを続けることで、症状がやわらぎ生活の質が改善していく方は多くいらっしゃいます。担当医と相談しながら、長い目で向き合っていく病気です。
Q. セルフケアだけで様子を見てもよいですか?
A. 症状が軽く一時的であれば、座位や冷えへの配慮など生活面の工夫が助けになります。ただし、発熱を伴う場合や症状が続く場合は、セルフケアだけで様子を見ずに受診してください。自己判断での放置は避けたほうが安心です。
前立腺炎は、タイプを見きわめて向き合えば、付き合い方が見えてくる病気です。気になる症状は自己判断で放置せず、泌尿器科を受診してください。公的な医療情報は厚生労働省のサイトなども参考になります。
畠中 聡(ヒロクリニックなんば心斎橋院 院長/日本泌尿器科学会 泌尿器科専門医)