陰嚢に膨らみや違和感を覚えたとき、その背景に精索静脈瘤が関わっている場合があります。男性不妊の原因の一つとして知られる一方で、はっきりした症状が出ないまま見つかることも少なくありません。この記事では、症状から検査、治療の考え方までを順番に整理します。
- 精索静脈瘤の主な症状(陰嚢のふくらみ・違和感・痛み)
- 左側に多い理由と、静脈の逆流が起こるしくみ
- 男性不妊との関係、グレード分類と検査の流れ
- 経過観察と手術という治療の考え方
精索静脈瘤とは陰嚢の静脈がこぶ状に膨らむ状態です
精索静脈瘤は、精巣から心臓へ戻る静脈の血流が滞り、血管がこぶのように膨らむ状態を指します。
精巣の上には精索と呼ばれる管の束があり、その中を通る静脈が拡張します。見た目は、太くなった血管の集まり。触れると、やわらかいふくらみとして感じられることもあります。
思春期以降の男性に見つかりやすい、比較的ありふれた状態です。すぐに命に関わるものではありません。ただし精巣の働きに影響することがあるため、正しく知っておきたいテーマだと日々の診療で感じています。
成人男性の一定の割合に見られると報告されており、けっして珍しい病気ではありません。だからこそ、必要以上に落ち込まず、事実を知って向き合う姿勢が助けになります。
まずは「どんな病気なのか」を落ち着いて理解することから始めてみてください。次の章から、症状や原因を一つずつ見ていきます。
主な症状は陰嚢のふくらみ・違和感・痛み
代表的なサインは、陰嚢のふくらみ、片側の違和感、そして立っているときに強くなる鈍い痛みです。
とはいえ、はっきりした症状がまったく出ないことも珍しくありません。健康診断や不妊の検査で、はじめて指摘される方もいます。
症状の出方には個人差があります。診察室でも「痛みはないのに、入浴時に血管の膨らみに気づいた」という方に、しばしばお会いします。
次のような変化がある場合は、一度ご自身の状態を確認してみてください。
- 陰嚢の左側に、やわらかいふくらみや血管の浮き出しがある
- 長時間の立ち仕事や運動のあとに、陰嚢が重く感じられる
- 引っ張られるような、鈍い痛みや違和感が続く
これらの症状は、横になると和らぐことが多い点も特徴です。一方で、強い痛みや急な腫れ、発熱を伴うときには別の病気の可能性もあります。その場合は早めの受診を心がけてください。
片側だけに起こることが多いため、左右差に気づいて来院される方もいます。「たいしたことはない」と感じても、精巣の働きに関わる場合があるため、気になるふくらみは放置せず確認する価値があります。
原因は静脈の逆流、左側に多い理由
主な原因は、静脈の弁がうまく働かず、血液が逆流して精巣の周りに溜まることにあります。
静脈には、血液の逆流を防ぐための弁が備わっています。この弁の働きが弱まると、重力に逆らって心臓へ戻るはずの血液が逆流し、血管が拡張していきます。
発症する側は、左側が大半を占めます。左の精巣静脈は、腎臓へ向かう静脈に急な角度で合流するため、血液の圧が高まりやすいと考えられています。
右側は太い静脈へ緩やかに合流するため、比較的起こりにくいとされています。両側に生じることもあり、その際は左右のバランスも含めて診察で確認します。
思春期に体が急に成長する時期、血流が増えるのに合わせて目立ってくることもあります。生活習慣が直接の原因になるわけではないため、自分を責める必要はありません。
まれに、お腹の中の状態が背景にある場合もあります。短い期間で片側だけが急に膨らんだときは、念のため一度医師に相談しておくと安心です。
男性不妊との関係
精索静脈瘤は、原因を特定できる男性不妊のなかで、よく見つかる要因の一つとして知られています。
血液が滞ると精巣の温度が上がりやすくなり、精子をつくる働きに影響することがあると考えられています。精子の数や運動率、形に変化が見られる場合もあります。
ただし、精索静脈瘤があるからといって、必ず不妊になるわけではありません。自然にお子さまを授かる方も多くいます。過度に不安になる必要はありません。
手術などで血液の滞りが改善すると、精液の状態が良くなる場合があると報告されています。ただし効果のあらわれ方には差があり、必ず妊娠につながるとは限りません。パートナーと一緒に、無理のないペースで検討してください。
男性不妊は、原因が一つとは限りません。精索静脈瘤が見つかっても、ほかの要因が重なっている場合があるため、総合的に診ていく視点が欠かせません。
お子さまを望んでいてなかなか授からないとき、パートナーの検査とあわせて男性側の状態を調べる意味があります。精液検査や診察で、原因の手がかりが見つかることも。専門的な情報は日本泌尿器科学会の公式サイトでも公開されています。
グレード分類と検査の流れ(触診・超音波)
精索静脈瘤は膨らみの程度によって段階分けされ、触診と超音波検査で調べます。
診察では、立った姿勢でお腹に軽く力を入れながら、陰嚢の血管の状態を触れて確認します。程度は一般的に、次のように整理されます。
| グレード | 状態の目安 |
|---|---|
| グレードⅠ | お腹に力を入れて、はじめて触れる程度 |
| グレードⅡ | 立った状態で、触れて分かる |
| グレードⅢ | 力を入れなくても、外見で膨らみが分かる |
| 潜在性 | 触診では分からず、超音波ではじめて確認できる |
触診に加えて、陰嚢の超音波(カラードプラ)検査で、血液の逆流や血管の太さを確認します。体への負担が少なく、外来で受けられる検査です。
触診では分かりにくい軽度のものが、超音波ではじめて見つかることもあります。検査は数分ほど、痛みを伴わないのが一般的。どのグレードにあたるかを知ることが、治療方針を考える出発点になります。
グレードを調べる目的は、治療が必要かどうかを見極めることにあります。同じ膨らみでも、症状や不妊の悩みの有無によって、選ぶべき対応は変わってきます。検査の結果は、その場で一緒に確認しながら説明します。
治療は経過観察と手術という選択肢
治療は、症状や不妊の有無によって、経過観察と手術のどちらかを選ぶのが基本です。
症状が軽く、痛みや不妊の悩みがなければ、無理に治療をせず定期的に様子を見る場合があります。日常生活を大きく制限する必要はありません。
一方、痛みが続くときや、男性不妊の一因と考えられるときには手術が検討されます。逆流している静脈を処理して、血液の滞りを減らすことを目的とした方法があります。
手術を受けるかどうかは、年齢やお子さまを望む状況、症状の程度をふまえて相談します。回復の見え方には個人差があり、担当医とよく話し合って決めることが大切です。
手術を選ぶ場合でも、体への負担を抑えた方法が用いられることが増えています。仕事や生活への影響がどの程度になるかは、事前に担当医へ確認しておくと見通しが立てやすくなります。
経過観察を選んだ場合も、定期的に状態を確かめることが安心につながります。自己判断で放置せず、膨らみが大きくなる、痛みが強くなるといった変化があれば、そのつど相談してください。
よくある質問
精索静脈瘤について、受診前によく寄せられる質問をまとめました。不安の解消に役立てば幸いです。
Q1. 精索静脈瘤は放置しても大丈夫ですか?
A. 症状がなく不妊の悩みもない場合は、経過観察となることがあります。ただし自己判断は避け、一度は診察で状態を確認してください。痛みが強くなる、精巣が小さくなるといった変化があれば、あらためて相談が必要です。
Q2. どのくらいの痛みが出ますか?
A. 痛みが出ない方も多くいます。出る場合は、立っているときや夕方に強まる鈍い痛み、引っ張られるような違和感が中心です。横になると和らぐ傾向があります。
Q3. 精索静脈瘤は自然に治りますか?
A. 拡張した静脈が自然に元へ戻ることは、基本的に期待しにくいと考えられています。生活習慣の見直しだけで消えるものでもないため、症状や不妊への影響がある場合は、経過観察や手術といった対応を検討します。
Q4. 精索静脈瘤があると必ず手術が必要ですか?
A. 必ずしも手術が必要なわけではありません。症状の程度やお子さまを望む状況によって、経過観察を選ぶこともあります。方針は検査結果をもとに、担当医と相談して決めます。手術を選ぶ場合は、期待できることと注意点の両方について、事前に十分な説明を受けてください。
Q5. 男性不妊の検査で見つかることはありますか?
A. 不妊の相談をきっかけに、精液検査や診察で見つかるケースがあります。原因を特定できる要因の一つとして知られているため、男性側の検査もあわせて受ける意味があります。
Q6. スポーツや日常生活に影響しますか?
A. 多くの方は、日常生活を大きく制限せずに過ごせます。定期的な運動そのものを控える必要は基本的にありません。運動後に陰嚢の重さを感じたときは、無理をせず休息をとってください。
畠中 聡(ヒロクリニックなんば心斎橋院 院長/日本泌尿器科学会 泌尿器科専門医)