トリコモナス
- トリコモナスは膣トリコモナス原虫による性感染症で、男性は無症状が多いこと
- 女性のおりもの・かゆみなどの症状と、性交渉以外の経路が語られる理由
- 検査・診断の流れと、内服薬を中心とした治療方法
- ピンポン感染を防ぐためのパートナー同時治療の考え方
トリコモナスとは
トリコモナスは、膣トリコモナス原虫という小さな寄生虫が性器に感染して起こる性感染症です。
原因となるのは細菌でもウイルスでもありません。膣トリコモナス原虫と呼ばれる、鞭毛を持つ運動性の原虫です。この原虫が尿道や膣の粘膜にすみつき、炎症を引き起こします。
感染してから症状が現れるまでの潜伏期間は、おおむね10日前後とされます。ただし個人差があり、もっと早い場合もあれば、長く無症状のまま経過することもあります。
特徴的なのは、男女で症状の出方が大きく違う点です。男性は自覚症状が乏しく、女性は比較的はっきりした症状が出やすい傾向にあります。感染に気づかないまま、パートナーへうつしてしまうケースも少なくありません。
男性では尿道炎や前立腺炎の原因に、女性では膣炎の原因になります。放置した場合の妊娠への影響なども語られており、軽く見てよい病気ではありません。まずは正しい知識を持つことが、早めの対処につながります。
トリコモナスは、性交渉の経験がある方なら誰にでも起こりうる感染症です。決して珍しい病気ではありません。恥ずかしい、自分だけがかかったと思い込む必要はありません。
大切なのは、正しく検査を受け、適切な治療につなげることです。原虫による感染とわかれば、対処の方向性ははっきりします。次の章から、症状や検査、治療の流れを順に見ていきます。
トリコモナスの主な症状(男女別・無症状のケース)
トリコモナスの症状は男女で異なり、男性は無症状が多く、女性はおりものの変化やかゆみが出やすいのが特徴です。
男性の症状
男性は、感染しても多くが無症状のまま経過します。原虫が尿とともに排出されやすいためと考えられています。
症状が出る場合は、排尿時の軽い痛みや違和感、頻尿、尿道のむずがゆさなどが中心です。膿のような分泌物が少量出ることもあります。症状が弱いぶん、感染に気づきにくいのが男性の難しさです。
炎症が長引くと、前立腺炎につながることもあります。下腹部の違和感や陰部の重い感じが出るケースです。軽い症状でも、続くようなら受診の目安と考えてください。
女性の症状
女性は、男性に比べて症状がはっきり出やすい傾向があります。代表的なのが、おりものの変化とかゆみです。
黄色や黄緑色をした、泡立った悪臭のあるおりものが増えるのが典型的なサインです。外陰部や膣の強いかゆみ、熱っぽさ、排尿時や性交時の痛みを伴うこともあります。日常生活に支障を感じて受診し、判明する方が多い印象です。
おりものの変化は、カンジダなど別の原因でも起こります。においや色、泡立ちの有無は、原因を見分ける手がかりのひとつです。自己判断で市販薬を使う前に、検査で原因をはっきりさせてください。
かゆみが強いと、掻きこわして肌を傷つけることもあります。二次的な炎症を招く前に、早めに相談していただくのが安心です。
無症状のケース
男女を問わず、症状がまったく出ないまま感染が続くケースがあります。特に男性で無症状が目立ちます。
女性でも一定の割合で無症状のことが知られています。症状がないからといって感染していないとは限りません。心当たりがある場合は、自覚症状の有無にかかわらず検査を受けてください。
| 項目 | 男性 | 女性 |
|---|---|---|
| 症状の出やすさ | 無症状が多い | 比較的出やすい |
| 主な症状 | 排尿時痛・頻尿・尿道の違和感 | 泡状で悪臭のあるおりもの・外陰部のかゆみ |
| 関係する部位 | 尿道炎・前立腺炎 | 膣炎・外陰部の炎症 |
| 気づきやすさ | 気づきにくい | おりものの変化で気づきやすい |
感染経路と原因
トリコモナスの主な感染経路は性行為ですが、性交渉以外の経路の可能性も語られている点が、ほかの性感染症と違うところです。
もっとも多いのは、性的な接触による感染です。膣性交を中心に、粘膜同士の接触で原虫がうつります。パートナーが無症状でも感染源になり得ます。
トリコモナス原虫は、湿った環境である程度生き延びると考えられています。そのため、下着やタオルの共用、浴槽や便座などを介した感染の可能性が語られることがあります。ただし、これらが主な経路というわけではなく、頻度は高くないと考えられています。
私が診療でよく感じるのは、「性交渉に心当たりがないのに」と戸惑われる女性が一定数いらっしゃることです。性交渉以外の経路が語られるのは、こうした背景があるためです。感染経路を過度に気に病む必要はありません。大切なのは、早く見つけて治すことです。
| 経路 | 説明 | 頻度の目安 |
|---|---|---|
| 性的接触 | 膣性交など粘膜の接触による感染 | もっとも多い |
| タオル・下着の共用 | 湿った布を介して原虫が移る可能性 | 可能性は語られるが高くない |
| 浴槽・便座など | 湿った環境を介した接触の可能性 | 可能性は語られるが高くない |
細菌によるクラミジアや淋菌とは原因が異なるため、対処法も変わってきます。それぞれの疾患についてはクラミジア感染症のページや淋菌感染症(淋病)のページもあわせてご覧ください。
検査・診断の方法
トリコモナスの診断は、分泌物や尿を採取して原虫の有無を確認する検査で行います。
代表的なのは、膣分泌物や尿を顕微鏡で観察する鏡検です。動いている原虫を直接確認できれば、その場で診断につながります。ただし原虫が少ないと見つけにくいこともあります。
見逃しを減らすために、原虫を増やして調べる培養検査や、遺伝子を検出する核酸増幅検査を用いることもあります。検査の組み合わせは、症状や状況に応じて医師が判断します。
検査を受けるタイミングも大切です。感染してすぐは原虫が少なく、判定しにくいことがあります。心当たりから10日ほどたっていれば、より確認しやすくなります。
クラミジアや淋菌など、ほかの性感染症を併発していることもあります。症状が重なると原因を切り分けにくいため、まとめて調べることもあります。気になる症状は遠慮なくお伝えください。
当院では、女性の検体採取を女性看護師が担当します。プライバシーに配慮した環境を整えていますので、羞恥心から受診をためらっている方も、まずはご相談ください。
| 検査方法 | 調べ方 | 特徴 |
|---|---|---|
| 顕微鏡検査(鏡検) | 分泌物や尿を直接観察 | その場で確認できるが少数だと見逃しも |
| 培養検査 | 原虫を増やして確認 | 鏡検で分かりにくい場合に有用 |
| 核酸増幅検査 | 原虫の遺伝子を検出 | 感度が高く見逃しを減らせる |
トリコモナスの治療方法
トリコモナスの治療は、抗原虫薬による薬物療法が基本で、多くの場合に改善が期待できます。
使われるのは、5-ニトロイミダゾール系と呼ばれるメトロニダゾールやチニダゾールなどの抗原虫薬です。膣錠だけでなく、尿路にも原虫が及んでいることがあるため、内服薬による全身への治療が中心になります。
用法や期間は、症状や検査結果をふまえて医師が決めます。自己判断で市販薬を使ったり、途中でやめたりすると、原虫が残って再発の原因になります。処方された薬は最後まで飲みきってください。
治療中に注意したいのが飲酒です。この系統の薬は、アルコールと一緒だと腹痛や吐き気、顔のほてりなどが起きることがあります。服用中から服用後しばらくは禁酒してください。
治療が終わったあとは、一定期間をあけて原虫が消えたかを確認します。症状が消えても原虫が残っていることがあるためです。治癒の確認まで含めて、ひとつの治療と考えてください。
薬が効きにくい場合や再発した場合は、期間をあけて再度治療を行うことがあります。同じ薬を使い直したり、別の系統の薬に切り替えたりする方法です。うまくいかないときも、あきらめずに医師へ相談してください。
放置するとどうなるのか
トリコモナスを放置すると、炎症が続いたり、周囲に感染を広げたりするリスクがあります。
男性では、尿道の炎症が前立腺などに及ぶことがあります。女性では、膣炎が続くだけでなく、妊娠中の場合は早産や低出生体重児との関連が語られています。妊娠を考えている方は、特に早めの対応が望まれます。
また、粘膜の炎症があると、ほかの性感染症にかかりやすくなるとの関連も報告されています。前立腺の病気や子宮頸部の病気との関連を指摘する報告もありますが、はっきり確立したものではありません。過度に不安を抱く必要はないものの、放置してよい理由にもなりません。
症状が軽い、あるいは無症状だからと様子見を続けると、その間にパートナーへうつしてしまう可能性もあります。気づいた時点で検査と治療に進むのが、結果的にいちばん負担の少ない選択です。
市販薬で一時的にかゆみが和らいでも、原虫そのものが消えるわけではありません。症状を抑えるだけの対処では、根本の解決になりません。原因に合った薬で、しっかり治しきることが遠回りに見えて近道です。
予防とパートナーの検査
トリコモナスの予防と再発防止には、パートナーの同時治療が欠かせません。
片方だけが治療しても、もう片方が感染したままだと、治った側が再びうつされてしまいます。これをピンポン感染と呼びます。感染が判明したら、パートナーにも検査と治療を受けてもらうことが原則です。
日常の予防としては、コンドームの使用が基本になります。不特定の相手との接触を避けること、体調に不安があるときは早めに検査を受けることも、感染を広げないうえで役立ちます。
ただし、コンドームで覆えない部分の接触では、完全には防ぎきれません。過信せず、気になる症状が出たら早めに検査を受ける姿勢が大切です。定期的な検査は、無症状の感染を見つける助けにもなります。
タオルや下着を共用しない、入浴後の下着を清潔に保つといった生活面の配慮も、可能性として語られる経路への対策になります。神経質になりすぎる必要はありませんが、基本的な清潔を心がけてください。
パートナーに検査をすすめるのは、気まずく感じるかもしれません。ただ、お互いが安心して過ごすためには避けて通れないステップです。当院では男女とも診療しており、二人そろっての相談にも対応しています。
よくある質問
トリコモナスは自然に治りますか
自然に治ることは期待しにくい感染症です。原虫が残ったまま無症状になることもあり、放置すると再発やパートナーへの感染につながります。抗原虫薬による治療を受けてください。
男性は症状がなくても検査した方がよいですか
受けた方が安心です。男性は無症状が多く、気づかないうちに感染していることがあります。パートナーが陽性だった場合は、症状がなくても検査と治療を検討してください。
性交渉に心当たりがなくても感染しますか
主な経路は性的接触ですが、タオルや下着の共用、浴槽などを介した可能性も語られています。頻度は高くないと考えられており、心当たりがなくても感染を過度に責める必要はありません。
治療期間はどれくらいですか
薬の種類や症状によって異なります。内服を一定期間続けたあと、期間をあけて原虫が消えたかを確認します。詳しい期間は診察のうえで医師がお伝えします。
治療中に気をつけることはありますか
飲酒を控えてください。使用する薬はアルコールと一緒だと吐き気やほてりが出ることがあります。また、治療が完了するまでは性交渉を控え、パートナーと同時に治療することが大切です。
プライバシーは守られますか
配慮しています。当院では秘匿性を重視し、女性の検体採取は女性看護師が担当します。周囲に知られたくないという理由で受診をためらう必要はありません。自費(実費)での診療にも対応しています。
オンライン診療でも相談できますか
ご相談いただけます。当院はオンライン診療に対応しており、通院しづらい方や人に知られたくない方にも配慮しています。まずはオンライン診療のページをご確認ください。
畠中 聡(ヒロクリニックなんば心斎橋院 院長/日本泌尿器科学会 泌尿器科専門医)
関連情報(検査・女性の視点)
トリコモナス症は、性感染症検査専門サイトや女性向けの解説もあわせてご覧いただけます。
- 検査の詳細:トリコモナス症の検査・治療(性感染症検査)
- 女性の視点:おりものの色・においでわかるサイン(婦人科)
畠山 聡先生 (はたやま さとし)
医師・医学博士 / ヒロクリニック医師
略歴
- 2016年 大阪市立大学(現:大阪公立大学)卒業
- 2016年 育和会記念病院
- 2019年 大阪鉄道病院
- 2021年 大阪公立大学附属病院
- 2022年 大阪鉄道病院医長
- 2023年 ヒロクリニックなんば心斎橋院院長
資格・所属
- 日本泌尿器科学会認定の泌尿器科専門医
この記事は、ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。