世界の植毛事情2012:国別件数・治療法・市場規模をやさしく解説!

世界中で拡大する毛髪再生治療市場を象徴するガラス製の地球儀と、自然美を象徴する桜の背景。植毛手術や薄毛治療の国際的な関心と需要の高まりを表現したイメージ。

この記事の概要

近年注目が高まっている「植毛治療」ですが、世界ではどのくらい普及しているかご存じですか? 本記事では、国際毛髪外科学会(ISHRS)の公式データをもとに、世界中で行われている植毛手術の件数や男女別の傾向、地域ごとの成長率、注目の治療法までをやさしく解説。これから植毛を検討したい方、美容医療に関心がある方にもおすすめの内容です。

世界の植毛手術件数の推定

植毛に関する統計データをパソコンで調べる女性。世界の植毛件数や治療法、市場規模に関心を持つ一般読者のイメージ画像

国際毛髪外科学会(ISHRS)が2013年に発表した調査によると、2012年には全世界で推定310,624件の外科的な毛髪再生手術(surgical hair restoration procedures)が行われました。これは2010年と比較して10%の増加に相当します。

地域別の実施件数は以下の通りです:

  • アメリカ合衆国:88,304件
  • カナダ:10,758件
  • メキシコ/中南米:15,611件
  • ヨーロッパ:54,343件(2010年比で39%増)
  • アジア:102,702件
  • オーストラリア:3,820件
  • 中東地域:35,086件



世界の植毛市場規模(推定)

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この310,624件の手術件数に、調査参加医師が報告した平均的な施術費用(average fee)を掛け合わせて算出された、世界の植毛市場規模(2012年時点)は以下のように報告されています(通貨別):

  • 米ドル(USD):19億3,159万9,813ドル
  • ユーロ(EUR):14億9,370万6,135ユーロ
  • カナダドル(CAD):19億9,742万8,734ドル
  • オーストラリアドル(AUD):20億563万8,034ドル
  • 韓国ウォン(KRW):2,368億2,727万1,928ウォン
  • 香港ドル(HKD):865億7,430万3,610ドル
  • 日本円(JPY):149億9,597万5,147円
  • インドルピー(INR):1,073億4,386万9,229ルピー
  • サウジアラビアリヤル(SAR):72億4,382万7,670リヤル
  • メキシコペソ(MXN):240億6,392万8,416ペソ
  • ブラジルレアル(BRL):39億7,022万9,571レアル

※注意:「平均施術費用」は、調査に参加した医師が報告した金額の平均値であり、個々の患者が支払う実際の費用とは異なる可能性があります。施術に必要な移植グラフト数(grafts)や範囲などによって価格が大きく変動するため、ここで示されている金額はあくまで参考値です。



外科的・非外科的毛髪再生治療の患者数(2012年)

2012年に世界で治療を受けた毛髪再生医療の患者数(surgical and non-surgical patients)は、合計で約971,460人と推定されています。このうち、

  • 外科的治療(手術)を受けた患者:285,425人
  • 非外科的治療(薬物・育毛治療等)を受けた患者:686,035人



これは、2010年と比較して5%の増加でした。

地域別の患者数:

  • アメリカ合衆国:251,035人
  • カナダ:51,341人
  • メキシコ/中南米:37,024人
  • ヨーロッパ:101,928人
  • アジア:395,982人
  • オーストラリア:7,010人
  • 中東地域:127,139人



毛髪再生医療の主な施術方法(外科的アプローチ)

FUT法(Follicular Unit Transplantation:毛包単位移植法)

FUT法は、頭皮の後頭部などから細長く帯状の皮膚を切り取り、そこから毛包単位(follicular unit)を取り出して、薄毛部分に移植する方法です。

  • メリット:広範囲の移植が可能で、毛包の損傷率が比較的低い
  • デメリット:後頭部に線状の傷跡が残る可能性がある
  • 適している人:毛髪密度が高く、広範囲な移植が必要な方

※この方法は「ストリップ法」とも呼ばれ、比較的歴史の長い技術です。



FUE法(Follicular Unit Extraction:毛包単位摘出法)

FUE法は、特殊なパンチ機器を用いて頭皮から1つずつ毛包をくり抜いて採取し、移植部位に植え込む方法です。

  • メリット:傷跡が点状で目立ちにくく、回復が早い
  • デメリット:手作業による精密な操作が求められ、時間とコストがかかる
  • 適している人:短髪を希望する方、傷跡を目立たせたくない方

※現在、世界的に最も普及している方法で、技術の進歩により高密度の移植も可能となっています。

DHI法(Direct Hair Implantation:直接毛髪移植法)

DHI法はFUEと同様に毛包を摘出しますが、専用のインプランター(Implanter pen)を用いて、毛穴を作る作業と毛髪の挿入を同時に行う高度な手法です。

  • メリット:移植時の毛包へのダメージが少なく、角度や向きの制御がしやすい
  • デメリット:高い技術力が必要で、費用が高め
  • 適している人:仕上がりの自然さを最重視する方



補助的治療法(非外科的アプローチ)

PRP療法(Platelet-Rich Plasma:多血小板血漿療法)

PRP療法は、自身の血液から血小板を高濃度に含む血漿を取り出し、頭皮に注入して毛母細胞の活性化を促す治療です。

  • 仕組み:血小板に含まれる成長因子(growth factors)が毛根を刺激
  • 効果:薄毛の進行抑制や毛質の改善に有効とされる
  • 安全性:自己血液を使用するため、アレルギーのリスクが極めて低い

低出力レーザー治療(LLLT:Low Level Laser Therapy)

LLLTは、特定波長の赤色レーザーやLEDを照射して、頭皮の細胞代謝や血行を促進し、毛髪の成長をサポートする治療法です。

  • 非侵襲的(non-invasive):皮膚を切開せずに治療可能
  • 使用方法:専用のヘルメット型デバイスやコーム型機器で定期照射
  • 主な対象:初期の脱毛症、AGA(男性型脱毛症)、産後脱毛など



ミノキシジル(Minoxidil)・フィナステリド(Finasteride)などの内服・外用治療

これらは医薬品による薄毛対策として、外科的治療と併用されることも多いです。

  • ミノキシジル(Minoxidil):外用薬で血行促進効果があり、毛根を刺激
  • フィナステリド(Finasteride):内服薬で男性ホルモン(DHT)の生成を抑制し、脱毛を抑える
  • デュタステリド(Dutasteride):フィナステリドよりも広範囲に作用する男性型脱毛症治療薬



組み合わせ治療と個別化医療の重要性

近年では、これらの治療法を単独で行うのではなく、患者の症状や年齢、進行度に応じた組み合わせ治療(combination therapy)が主流になっています。また、遺伝子検査(genetic testing)やホルモン検査を用いた個別化医療(personalized treatment)も注目されています。



まとめ

毛髪再生医療は、FUTやFUEといった外科的な植毛技術から、PRPや低出力レーザー、内服薬を用いた非外科的治療まで、多様な選択肢が存在しています。患者一人ひとりの状態や希望に応じて、適切な治療法を選ぶことが、自然で満足度の高い結果につながります。

これらの治療を検討する際には、専門医師によるカウンセリングを受け、ご自身の脱毛原因や治療目標を明確にすることが非常に重要です。



年齢・性別による傾向(2012年)

外科的治療を受けた患者の性別構成:

  • 男性:86.3%
  • 女性:13.7%

女性患者の割合は、2004年の11.4%から2012年には13.7%へと約20%増加しました。

非外科的治療を受けた患者の性別構成:

  • 男性:66.8%
  • 女性:33.2%

年齢層:

  • 外科的治療を受けた男性の59.6%、女性の55.9%が30〜49歳の年齢層に集中していました。



地域別の成長傾向

2012年に実施された手術件数(310,624件)を基準とした地域別の成長トレンド:

  • ヨーロッパ:54,343件(2010年比で39%増)
  • 中東地域:2004年から2012年にかけての手術件数の増加率は740%と最も大きい
  • アジア:同期間で397%の増加

ISHRSが2004年に診療データの集計を開始して以降、世界全体での植毛手術件数は2012年までに85%増加しました。



移植部位別のトレンド(2010年〜2012年)

頭髪以外の部位に対する毛髪移植も近年注目されています。以下は2010年から2012年にかけての傾向です:

  • 眉毛(eyebrow)・顔(口ひげ/あごひげ:moustache/beard)への移植は、全体で13.1%増加
  • アジアでは、以下の症例数が最多:
    • まつげ(eyelash)移植:601件
    • 眉毛移植:5,160件
    • 顔の毛(ひげ等)の移植:1,904件
  • 中東地域:
    • 眉毛移植の増加率:113.1%(2010年比)
    • 顔の毛移植の増加率:263.2%(最大の伸び率)
  • ヨーロッパ:
    • 眉毛移植の増加率:78.4%
  • アジア:
    • 顔の毛移植の増加率:77.9%



調査の目的と方法について

この調査の目的は、以下の情報を収集・分析し、毛髪再生医療の実態を可視化することにありました:

  • 世界中で実施された植毛手術の件数
  • 患者の年齢・性別などの人口統計(demographics)
  • 使用される施術技術や治療法
  • 地域別・施術部位別のトレンド

本調査の信頼区間(confidence level)は95%、許容誤差(margin of error)は±6.5%です。

この調査は、米国イリノイ州シカゴの独立調査機関「Relevant Research, Inc.」がISHRSの依頼を受けて実施しました。データはISHRS会員医師から提供されたもので、機密性は厳守され、将来予測ではなく、実際の過去データに基づいた統計です。

詳細なレポートはISHRS公式サイト(https://ishrs.org/media/statistics-research/)にて公開されています。



総括

このISHRSの調査は、近年ますます需要が高まっている毛髪再生医療の現状を定量的に把握するうえで非常に重要な資料です。特に、男性だけでなく女性の需要増加、アジア・中東地域の急成長、そして眉毛やひげといった新たな移植対象部位への関心の高まりが顕著に示されています。

毛髪再生医療を検討している方や、美容医療に関心のある方にとって、本レポートは市場動向を知る貴重な手がかりになるでしょう。



記事の監修者


監修医師

岡 博史 先生

CAPラボディレクター

慶應義塾大学 医学部 卒業

医学博士

皮膚科専門医

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