この記事の概要
かつて毛髪移植といえば「ハゲ対策」が定番でしたが、今やその常識は大きく変わりつつあります。最近では、眉毛・ヒゲ・まつ毛・胸毛・陰毛など、頭以外の“体毛”を対象にした移植が世界的に急増中。なぜ今、人々は“本物の毛”を求めているのでしょうか?本記事では、注目の美容医療「非頭皮の毛髪移植」について、最新データや実例を交えながらわかりやすくご紹介します。
いま注目の「毛を生やす場所」は頭じゃない?世界で急増する“体毛移植”の話

かつて「毛が足りない」といえば、多くの人がまず思い浮かべるのは「薄毛」や「ハゲ」など、頭髪に関する悩みだったことでしょう。しかし、時代は変わりました。今や毛が“足りない”と感じる場所は、眉毛、まつ毛、ヒゲ、さらには胸毛や陰毛まで。まさに“全身”が毛の移植対象になっているのです。
この新たな美容トレンドを裏付けるように、国際毛髪外科学会(ISHRS:International Society of Hair Restoration Surgery)が2015年に発表した調査では、頭皮以外の部位を対象とした毛髪移植が、たった2年間で95%も増加していたことが判明しました。
え?眉毛や胸毛の移植ってそんなに人気なの? そんな疑問を持ったあなたのために、今回はこのちょっと意外で、でも実は納得の背景がある「非頭皮の毛髪移植」について、たっぷりと、わかりやすく解説していきます。
「眉毛移植」ってどうやるの?1日で完了、半年でふんわり育つ“自眉再生”の物語

あなたの目元を縁取る眉毛。実はこの眉毛、顔の印象を大きく左右する非常に重要なパーツです。ほんの少し細すぎるだけで「老けて見える」、左右のバランスが悪いだけで「不機嫌そうに見える」、逆にふんわりと自然な眉毛があるだけで、顔立ちが整って見えたり、優しそうな印象を与えることもあります。
そんな眉毛ですが、過去のファッション(90年代の細眉ブームなど)で抜きすぎてしまったり、ストレスや加齢、ホルモンバランスの変化などで眉毛が薄くなってしまった…という人は意外に多いのです。
そこで注目されているのが、「眉毛移植(eyebrow transplant)」という選択肢。これは、まさに“本物の眉毛を取り戻す”ための医療的な技術であり、たった1日で完了する施術です。
では、この眉毛移植は実際にどのように行われるのでしょうか?順を追ってご説明しましょう。
ステップ①:まずは“ドナー毛”を探せ!適した毛はどこにある?
眉毛に移植する毛は、当然ながらただの髪の毛ではいけません。太さ、柔らかさ、成長スピード、クセ毛か直毛かなど、実は眉毛に適した毛というのはかなり条件が厳しいのです。
そこで移植に使われるのが、後頭部や側頭部の中でも「やや細くて柔らかい毛」。この部分は、体の中でも比較的変化が少なく、安定して毛が生えているため、移植に向いているのです。
医師は一人ひとりの毛質や顔立ちに合わせて、「どこから、どのくらいの本数を採るか」を慎重に判断します。
ステップ②:毛根ごと1本ずつ採取——FUE法という匠の技術
毛を採取する際に使われるのが、FUE法(Follicular Unit Extraction:毛包単位抽出法)という技術です。
これは、毛根を含む小さな毛包(もうほう)単位で、ひとつひとつ丁寧に毛を採取していく方法。手作業または専用のマイクロパンチ機器を用い、1mm未満の極小の穴をあけて毛を取り出すため、傷跡もほとんど目立ちません。
採取した毛は、そのまま植えるのではなく、「今から眉毛になりますよ」という役割を担う新しいパーツ」として丁寧に準備されます。まさに“毛の引っ越し”のためのパッキング作業といえるでしょう。
ステップ③:1本1本、眉毛として植える——方向、角度、密度へのこだわり
いよいよ移植作業に入ります。ここからは、医師の美的センスと熟練の技術が試される領域です。
眉毛は、髪の毛のようにまっすぐではなく、中央は立ち上がり、外側に向かってカーブしながら流れるという複雑な構造をしています。さらに、皮膚との角度も非常に浅く、約10〜15度とされています。つまり、毛を植える角度が少しでもズレると、眉毛が立ってしまったり、不自然な方向を向いてしまうのです。
医師は、この細かい流れや角度を完全に再現するよう、1本1本を“芸術作品を彫刻するかのように”植えていきます。必要な本数は一般的に200〜400本ほどですが、顔立ちや希望する濃さによって異なります。
ステップ④:終わったらその日に帰れる!その後は半年かけて“ふんわり眉毛”が完成
この眉毛移植、実は全工程が1日で完了し、入院の必要もありません。施術時間は3〜5時間ほど。局所麻酔を使用するため、痛みはほとんど感じません。
移植された毛は、最初の2〜3週間で一度「抜け落ちる」ように見えるのが通常です。これは驚くかもしれませんが、毛根が皮膚の中に定着するための自然なプロセス。数か月後には、根付いた毛根から新しい毛がゆっくりと生えてきます。
そしておよそ6か月〜1年ほどで、自然な“ふんわり眉毛”が完成します。まつ毛エクステやアイブロウメイクでは得られない、「本物の毛」がある安心感と美しさがそこに生まれるのです。
世界の人々が選ぶ新しい“毛の移植先”
ISHRSの調査では、2014年に全世界で行われた397,048件の毛髪移植手術のうち、なんと約11%が頭皮以外の部位を対象としていました。もう「毛髪移植=ハゲ対策」という時代ではないのです。
具体的には以下のような部位が注目されていました:
- 眉毛(eyebrow):5.5%
- 顔(ヒゲ・口ひげ・あごひげなど:moustache/beard):3.7%
- まつ毛(eyelash):0.6%
「眉毛って描けばいいんじゃないの?」と思う人もいるかもしれませんが、汗や皮脂で消えやすいというデメリットや、「すっぴんでも美しい顔を作りたい」という願望を持つ人にとって、ナチュラルで本物の毛が生えているという安心感はとても大きいのです。
なぜいま、こんなに“非頭皮の毛移植”が人気なのか?
この疑問に対し、ISHRSの会長であり東京を拠点とする医師・柳生邦良(やぎゅうくにより)先生は、こう語っています。
「毛髪移植の技術が進化したことで、今では体のほぼすべての部位に“本物の毛”を生やすことが可能になりました。たとえば、眉毛を細くしすぎた女性が自然な形で毛を戻したいという要望にも応えられます。また、胸毛やヒゲなどは“男らしさ”を象徴するものとされている文化もあり、その期待に応えるために移植を選ぶ男性も増えているのです。」
つまり、美容目的だけでなく、文化的なイメージやジェンダー観も、こうした移植ニーズを後押ししているのです。
実際にどれだけ増えてるの?カテゴリ別の驚きの伸び率
では、実際にどのくらい手術件数が増えたのでしょうか?2012年から2014年までのたった2年間で、以下のような驚きの伸びが報告されています:
中でも注目すべきはヒゲの移植。特に中東やインド、ラテンアメリカではヒゲが「男らしさ」「威厳」「成熟」の象徴とされており、「ヒゲが生えないのがコンプレックス」という男性の間で人気が高まっているのです。
「眉毛移植」ってどうやるの?実は1日で完了する施術
では、たとえば眉毛の移植って、実際にはどうやって行うのでしょうか?
眉毛移植のプロセスは以下のようになります:
- ドナー部位を選定
眉毛と質感が似ている毛を選ぶ必要があるため、通常は後頭部の細くて柔らかい毛を使用します。 - 毛根ごと採取(毛包単位の採取)
1本ずつ毛根付きで取り出す「FUE法(Follicular Unit Extraction)」という技術が使われます。 - 丁寧に移植
眉毛の形や流れに合わせて、自然に見えるよう角度や方向を微調整しながら1本ずつ移植します。 - 日帰りで完了、半年かけて生え揃う
施術自体は数時間で完了し、当日帰宅できます。毛が定着し、自然なボリュームに育つまでにはおおよそ半年ほどかかります。
このように、高度なテクニックと繊細な審美眼を要する手術ですが、痛みやダウンタイムも少なく、多くの人が気軽に受けられるようになってきました。
どこの国で多いの?実施件数トップはアジア圏
2014年のデータによれば、非頭皮の毛髪移植を最も多く実施していたのはアジア地域でした。件数の詳細は以下の通りです:
また、アメリカでは「その他の部位(もみあげ、傷跡、フェイスリフト後の手術痕など)」に関する手術が2,604件と最多を記録しています。
このことからも、毛髪移植が単なる“若返り”の手段ではなく、美容・自己表現の一部として世界中に広まっていることが分かります。
男性と女性、それぞれが求める毛とは?
ISHRSの会員医師への調査によると、
という結果が出ています。
眉毛を整えたい女性、美しいヒゲラインを目指す男性、それぞれの“理想の毛”へのニーズが具体的に数字として表れているのです。
もっと知りたい人へ:脱毛の原因と治療法を解説する動画も公開中
毛の悩みは人それぞれです。薄毛だけでなく、毛が多すぎる・少なすぎる・形が気に入らないなど、その種類は無限大。そんな悩みに対し、ISHRSは脱毛の原因と治療法を分かりやすく解説した動画シリーズを公式サイトにて公開しています。
- 「女性はなぜ髪を失うのか?(Why Do Women Lose Their Hair?)」
- 「男性はなぜ髪を失うのか?(Why Do Guys Lose Their Hair?)」
(視聴はISHRS公式サイトからどうぞ)
美容に関する選択肢が広がる中で、「どんな毛が必要か」「どこに毛を増やしたいか」は、自分らしさを表現する大切なポイント。今後も“毛”に関する意識は、ますます多様化していくことでしょう。







