この記事の概要
2017年、ヨーロッパの古都プラハで開催された「国際毛髪再生外科学会(ISHRS)世界大会」。世界中の専門医が集まり、毛髪医療の“今”と“未来”について熱い議論が交わされました。本記事では、最新の植毛技術「FUE法」や、ロボット支援手術、さらには毛髪クローン技術まで、一般の方にもわかりやすく解説します。今後、あなたの髪の悩みを根本から変えるかもしれない、革新の医療技術に迫ります!
チェコ・プラハで開かれた世界的な植毛医療の祭典

2017年10月、ヨーロッパの古都プラハが、ある分野の最先端を牽引する専門家たちの集結地となりました。その分野とは——「毛髪再生医療」。チェコ共和国の首都プラハで開催されたのは、第25回国際毛髪再生外科学会(ISHRS: International Society of Hair Restoration Surgery)世界大会です。
この大会には、世界中から約1,000人もの医療専門家が集まりました。参加者の中には、美容外科医、皮膚科医、研究者、クリニック経営者などが名を連ね、「毛を増やす」ための科学と技術について熱く議論が交わされました。
私たちの髪の毛は、見た目の印象や自己肯定感に大きな影響を与えます。「薄毛が気になる」「髪がもっと元気だったら…」そんな願いを叶えるために、どんな技術が進化しているのか?本記事では、ISHRS世界大会の見どころを、わかりやすく楽しく解説していきます。
今、世界中で「植毛手術」が急増している

まず最初に注目したいのが、植毛手術の世界的な広がりです。ISHRSのジャン・M・デブロワ医師(Dr. Jean M. Devroye、ベルギー在住の著名な植毛外科医)は、次のように語っています。
「2014年から2017年のわずか3年間で、世界中の植毛手術は約60%も増加しました。これは驚異的な伸びです。植毛という治療法が、特別な人だけのものではなく、一般の方々にも受け入れられ始めている証拠です。」
たとえば、かつては有名人やセレブだけが利用していた印象のあった植毛。しかし、近年では医療技術の進歩とともに費用が抑えられ、安全性も高まり、一般の方が「気軽に相談できる医療」へと進化してきています。
ライブ手術で学ぶ——「FUE法」とはどんな技術?
大会に先立って、ポーランドで行われたライブサージェリーワークショップ(World Live Surgery Workshop)も大きな注目を集めました。これは、実際の手術を間近で見ながら学べる、プロ向けの教育イベントです。
このワークショップの主役となったのが、FUE法(Follicular Unit Extraction/毛包単位抽出法)です。
FUE法とは?
FUE法とは、後頭部などの毛がしっかり残っている部分(ドナー部位)から、1本1本毛包(毛根を含む小さな皮膚組織)を“くり抜く”ようにして採取し、それを薄毛が気になる部分に移植する手術方法です。
この方法の最大の特徴は、「目立つ傷跡が残りにくい」こと。昔ながらの方法では、頭皮を帯状に切り取る必要がありましたが、FUE法ではメスを使わず、細いパンチ(器具)で毛包を個別に採取するため、傷が点状で小さく済みます。
つまり、術後に髪型の自由度が高く、「バレにくい」点が、世界中の患者に支持されている理由なのです。
ワークショップで学べる内容とは?
このライブ手術の場では、経験豊富な医師たちが実際の患者に手術を行いながら、以下のようなリアルな解説を加えていきます。
- 患者の頭皮状態に応じた移植計画の立て方
- 使用する機器の選定とその扱い方
- 手術中の姿勢や動作を工夫する“エルゴノミクス(ergonomics:人間工学)”
- スタッフ配置や役割分担による効率化
これらは、医療従事者にとっては現場力を鍛える貴重な学びであり、患者にとってはより高品質な医療を提供する土台となります。
FUE vs FUT——2大植毛技術の徹底比較!
大会本編では、「FUE法」と並ぶもう一つの代表的な技術——FUT法(Follicular Unit Transplantation/毛包単位移植法)との比較セッションも行われました。
FUT法は、後頭部の頭皮を帯状に切り取り、そこから毛包を取り出して移植する方法です。少し聞いただけでも「痛そう…」と感じるかもしれませんが、この方法にもFUEにはない利点があります。
FUT法の利点と欠点
- メリット:一度に多くの毛包を採取できるため、「広範囲の薄毛」に対応しやすい。
- デメリット:線状の傷跡が残りやすく、術後に髪を短くカットしにくい。
FUE法は「目立たない自然さ」、FUT法は「大量移植に強い」という特徴があり、医師は患者の状態や希望に応じて最適な方法を選びます。
ロボット技術と“長髪移植”の進化
さらに、今回の大会では未来を感じさせる革新的なトピックも多数取り上げられました。
ロボット支援型FUEとは?
ここ数年で注目を集めているのが、ロボット支援型FUE(robotic-assisted FUE)です。これは、毛包を採取する際の一部工程をロボットが自動で行うというもので、人間の手よりも安定した精度とスピードを実現できます。
ロボットといっても、すべての作業を勝手にやってくれるわけではありません。あくまで医師が操作し、診断や移植部位のデザインは人間の判断によるものです。しかし、機械の力を借りることで手術の質が向上し、施術時間も短縮されるため、今後の標準的技術として期待されています。
長髪植毛(Long Hair FUE)とは?
また、長髪植毛(long hair procedure)も話題になりました。これは、移植用の髪をカットせず、長いまま採取してそのまま移植する方法です。
通常、FUEやFUTではドナー部分の髪を短く刈ってから採取しますが、長髪植毛では刈り上げずに済むため、術後すぐに自然な仕上がりが得られるのが魅力です。たとえば「手術したことを職場や家族に気づかれたくない」という方には理想的な技術といえるでしょう。
髪の“成長メカニズム”を解明する研究が熱い!
大会では手術技術だけでなく、より根本的な問題——髪の毛がなぜ抜けるのか?なぜ生えるのか?といった「毛髪生物学」にも焦点が当てられました。
毛髪生物学シンポジウムの内容とは?
髪の毛は、実は常に「生まれては抜ける」を繰り返している“周期的な器官”です。これを「ヘアサイクル」と呼びます。毛髪生物学の研究では、このヘアサイクルを分子レベルで解明し、「抜け毛を防ぐ」「再び太く健康な髪を育てる」ためのヒントが次々と明らかになってきています。
この分野のセッションでは、世界各国の研究者たちが、発毛を促進する新たな物質や、毛包の“ミニチュア化(miniaturization)”を逆転させる方法などを発表しました。これらは、将来的に新しい育毛剤や治療法の開発にもつながっていくと期待されています。
毛を「再生する」時代へ——毛包新生とクローン技術の可能性
今回のISHRS大会でもっとも夢のあるテーマといえば、やはり毛包新生(Hair Follicle Neoformation)や毛髪クローン(Hair Cloning)の話題でしょう。
毛髪クローンとは?
毛髪クローンとは、わずかな毛包細胞から、実験室内で新しい毛包を人工的に作り出すという技術です。たとえば、腕や脚などから採取した少量の細胞を特殊な培養液で育て、何百・何千もの毛包へと再生させることができれば——その髪を頭皮に戻すことで、「毛がない場所に、まったく新しい毛が生える」可能性が生まれます。
この技術はまだ研究段階ではありますが、動物実験では成功例もあり、将来的には「毛を増やす」医療の常識を根本から覆す可能性を秘めています。
まとめ:毛髪再生医療の未来は、すでに始まっている
今回の国際学会は、毛髪医療の最前線をリアルに知ることができる貴重な機会でした。技術の進化はもちろん、髪の成長のしくみや、新たな発毛技術の可能性まで——あらゆる角度から「髪」にアプローチする姿勢は、まさに“未来志向”。
植毛は、ただの美容手術ではありません。自己肯定感や人生の質(QOL)にまで深く関わる医療であり、その重要性は今後さらに高まるでしょう。
「もっと自然に」「もっと安全に」「もっと自由に」——そんな未来の髪を目指して、世界の専門家たちの挑戦は続いています。







