この記事の概要
「薄毛が気になる」「髪を増やしたい」そう思って情報を探しているあなた、その“施術者”が医師かどうか、気にしたことはありますか?実は、髪の治療には全身の医学的知識と外科的スキルが必要不可欠。この記事では、なぜ植毛には医師が必要なのか、医学的・審美的観点から分かりやすく解説します。
植毛専門医は、なぜ「医師」でなければならないのか?

「最近、髪の毛が薄くなってきた気がする」「鏡を見るたびに、以前よりもおでこが広くなってるかも…」
こんな風に、自分の髪の状態に不安を感じる人は少なくありません。特に男性にとっては、加齢とともに訪れる「薄毛」は避けがたい現象の一つですし、女性にとっても髪は見た目の印象を大きく左右する大切な存在です。
そんなとき、多くの人が「どうにかして元の状態に戻したい」「できるだけ自然に見える形で、髪を増やしたい」と考えることでしょう。そして、頼るのが「植毛」や「育毛」の専門家です。
でも、ここでちょっと立ち止まって考えてみてください。
その専門家は、本当に“医師”でしょうか?
実は、現在の日本を含む世界では、「医師免許を持たない人」でも、ある程度の施術を行っているケースが存在します。ですが――「髪」という一見単純そうなテーマの裏には、実は私たちの全身の健康状態やホルモンバランス、遺伝子、免疫機能など、驚くほど多くの医学的要素が複雑に絡み合っているのです。
だからこそ、「髪の治療」を任せるなら、医師免許を持ち、全身の医療知識と外科的技術を備えた専門医にこそ任せるべきなのです。本記事では、「なぜ植毛医は医師である必要があるのか?」というテーマについて、誰でも分かるように、そしてちょっと楽しく、詳しく解説していきましょう。
髪は「外見」だけの問題じゃない!?──医師が持つ“全身的視点”とは

まず、私たちが髪の毛に対して持つイメージを考えてみましょう。
多くの人にとって、髪は「見た目」を整えるためのもの。つまり、美容的な装飾(cosmetic element)として捉えられがちです。「おしゃれのためにセットする」「印象を良くするために整える」など、主に外見上の役割が注目されています。
ですが――「髪」とは本当にそれだけの存在なのでしょうか?
実は、髪の毛を作り出す器官である毛包(hair follicle)は、私たちの身体の中でもかなり「多機能」で「重要」な組織の一つなのです。たとえば:
- 毛包は幹細胞(stem cell)の供給源でもあり、皮膚の傷を治すための細胞を生み出す役割も担っています。
- ある種の皮膚がんや自己免疫疾患(たとえば円形脱毛症=alopecia areata)の発症に関与することもあります。
- そして何より、髪の成長や脱毛は、ホルモン分泌、甲状腺の働き、遺伝子情報、栄養状態など、身体全体のあらゆる要素と深く関係しています。
つまり、「髪のトラブル=見た目の問題」ではなく、体全体の健康のサインでもあるのです。
医師は、このような全身的な視点を持ち、髪だけでなく体全体を診る訓練を受けています。ですから、単に髪が抜けたからといってすぐに植毛を勧めるのではなく、まずなぜ髪が抜けたのか?原因はどこにあるのか?という点から丁寧に探ってくれます。
もしかすると、ホルモンバランスの乱れ、ストレス、甲状腺機能の異常、栄養失調など、根本的な原因が潜んでいるかもしれません。それを無視していきなり植毛をしても、問題は再発したり、期待した効果が得られないこともあるのです。
これこそ、医師の視点でしか見抜けない部分。だからこそ、髪の治療は医師に任せるべきなのです。
植毛手術は「手術」です──だから外科の訓練を受けた医師が必要
次に重要なのが、「植毛はれっきとした外科手術である」という事実です。
手術というと、大げさに感じる人もいるかもしれません。「髪の毛をちょっと増やすだけでしょ?そんな大ごとじゃない」と思うかもしれません。でも、実際には頭皮にメスを入れて毛包を移植するという、非常に繊細で高度な技術が求められる外科処置なのです。
医師になるには、6年間の医学部教育を受け、国家試験を経て医師免許を取得しなければなりません。さらに、外科的なトレーニングには数年単位の臨床研修や実地経験が必要です。
このような訓練を受けて初めて、以下のような高度な判断と技術が可能になります:
- 患者の全身状態を確認し、安全な麻酔の選択を行う
- 血管や神経を傷つけないようにメスを入れる
- 出血を最小限に抑える処置を行う
- 傷跡が最小限になるように縫合する(=縫合法 suturing principles)
つまり、植毛手術は「医療」であり、「美容」ではありません。そこに必要なのは、美容の知識だけでなく、医療の知識と手術の技術なのです。
頭皮って実はスゴい!──医師しか知らない「頭皮の秘密」
さて、ここでちょっと「頭皮」の話をしましょう。
皆さん、頭皮はただの「皮膚」だと思っていませんか? 実は、頭皮は5層構造からなる非常に精巧な構造体なのです。
頭皮の5つの層
- 表皮(superficial skin)
私たちが目にする皮膚の表面。髪が生える場所でもあります。 - 皮下脂肪と繊維組織(subcutaneous fat and fibrous tissue)
血管、リンパ管、神経が集中する、非常に重要な層。 - 腱膜(galea aponeurotica)
頭頂部を覆う頑丈な“膜”のような構造で、頭の筋肉の動きを支えます。 - 疎性結合組織(loose connective tissue)
頭皮の可動性を担う層。つまり、頭皮が自由に動くのはこのおかげ。 - 頭蓋骨膜(pericranium)
頭蓋骨とその他の層をつなぐ接着面のような部分。
そして、頭皮には血管が非常に多く分布しています。そのため、少しの切開でも出血が多くなることがあります。これを正確に制御するには、頭皮の血流(vascular supply)やリンパの流れ(lymphatic drainage)を熟知している必要があります。
特に術後は、リンパの流れが一時的に滞ることで、額の腫れ(前額部浮腫)や目の周りの内出血(俗にいう“パンダ目”)が起こることがあります。これを予防し、素早く回復させる処置もまた、医師の専門知識があってこそ可能なのです。
「自然に見えるか」が命!──医師が持つ審美眼(esthetic judgment)
ここまで医学や手術の話ばかりしてきましたが、もうひとつ、非常に大切な要素があります。
それが美的判断力(esthetic judgment)です。
たとえば、ただ髪を「増やす」こと自体は、ある程度の技術があれば誰にでもできるかもしれません。でも、「自然に」「美しく」「違和感なく」見えるようにデザインし、植毛するには、熟練した医師の“目”と“センス”が必要です。
生え際の形、髪の密度、毛流(毛の流れる向き)、顔の輪郭とのバランス――これらを総合的に判断しなければ、どれだけ技術があっても「不自然な仕上がり」になってしまいます。
つまり、理想的な植毛とは、
- 科学的な根拠
- 外科的な技術
- 美学的な感性
この3つがすべて揃って初めて実現するのです。
まとめ:あなたの「髪の主治医」を選ぶ基準
薄毛や脱毛に悩む人にとって、植毛や育毛は人生を変える一大決断となることもあります。そのときに、あなたの髪を託す相手は、美容師でもなく、無資格の施術者でもなく――医師免許を持つ専門医であるべきです。
医師であれば、見た目の改善だけでなく、あなたの体全体の状態を考慮したうえで、安全かつ自然な仕上がりを目指すことができるからです。
髪の悩みは、あなたが思っている以上に「医学的な問題」かもしれません。
だからこそ、髪の相談は「医師に」。これが、あなたの未来の髪と笑顔を守る第一歩となるのです。








