FUEは本当に“切らない”のか?──毛髪移植の誤解と名称変更の真相に迫る

長く伸びた髪の下に地肌が透ける薄毛の頭皮。毛髪の密度が低く、ベージュ色の頭皮が黒髪の合間から目立って見えるFUE対象者の典型例

この記事の概要

「FUEは切らない毛髪移植法」と思っていませんか?その認識、じつは間違っているかもしれません。国際毛髪外科学会が名称を変更した背景には、患者の安全を守るための重要な意図がありました。医療行為としてのFUEの本質、そして“黒市場FUE”の実態に迫ります。

「切らない手術」ではない?FUEの真実──名前が変わった理由と毛髪移植の本質

頭頂部とこめかみに手を当てて薄毛を気にする男性。FUE手術を検討中の患者像として、髪の減少に不安を抱える様子を表現

薄毛に悩んでいる方にとって、毛髪移植という言葉はもはや珍しいものではないかもしれません。テレビやインターネット、SNSでもよく見かけるこの治療法。その中でも、ここ十数年で世界的に注目を集めているのが「FUE法」という毛髪移植技術です。

この「FUE」という言葉、なんとなく聞いたことはあっても、「ああ、それって簡単に毛を取って移すだけの、切らない方法でしょ?」と思っていませんか?実はそれ、大きな誤解なのです。

このたび、国際毛髪外科学会(ISHRS)が、このFUEの正式名称を変更しました。従来の「Follicular Unit Extraction(フォリキュラーユニット・エクストラクション)」から、今後は「Follicular Unit Excision(フォリキュラーユニット・エクシジョン)」と呼ばれることになります。

ちょっとした言い換えのように思えるかもしれませんが、実はこの名称変更の裏には、「患者の命と安全を守る」という、極めて重要な意図が隠されているのです。

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「エクストラクション」から「エクシジョン」へ──たった一語に込められた重大な意味

後頭部に髪を束ね、こめかみ付近の髪に手を添える人物。FUEで毛包が採取されるドナー領域の一部として、側頭部の毛の状態を確認する様子

まず、「Extraction(エクストラクション)」という言葉を見てみましょう。これは英語で「取り出す」「抽出する」といった意味があり、どちらかというと科学実験や非外科的な行為を連想させる言葉です。

これに対して、今回新たに採用された「Excision(エクシジョン)」は、明確に「外科的な切除」という意味を持つ専門用語です。たとえば、皮膚や腫瘍などをメスで切り取る処置も「Excision」と呼ばれます。

つまり、FUEという技術は、決して「ただ髪を抜くだけ」の軽い処置ではなく、れっきとした外科手術であるという事実を、世界中の患者に正しく伝えるために、名称を変えるという重要な決断が下されたのです。

ISHRSの理事であり、無資格者による医療行為を監視する特別委員会の委員長でもあるリカルド・メヒア医師は、こう語ります。

「FUEは外科手術であり、髪とそれを包む皮膚組織を小さな器具で切除する処置です。医療行為であることを隠すような表現は、患者にとって大きなリスクとなります。」

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FUEとは?──マイクロパンチで毛包を「くり抜く」高精度な手術

では、実際のFUE手術はどのように行われるのでしょうか?

頭の後ろや側頭部など、比較的毛が残りやすい「ドナー領域(permanent donor area)」と呼ばれる部分から、毛包(follicular unit)をひとつひとつ取り出します。毛包とは、髪の毛の根元を包む小さな組織で、1つに1〜4本の毛が生えている自然な毛の束です。

この毛包をマイクロパンチ(micro punch)という器具で、直径0.8mm〜1.0mmほどの穴をあけながらくり抜いていくのがFUEの特徴です。この器具は非常に小さく、肉眼では見づらいサイズですが、経験豊富な医師が使えば、非常に正確に毛包を取り出すことができます。

くり抜かれた毛包は、そのまま薄毛が気になる前頭部や頭頂部に移植されます。このようにして自分自身の髪を移動させることで、自然な仕上がりの発毛が期待できるのです。

重要なのは、この「くり抜く」行為そのものが、れっきとした外科的切除(Excision)であるということ。頭皮には数千単位の小さな穴があけられ、それぞれが皮膚の全層に達する傷(full-thickness wounds)です。これらの傷は縫合されず、自然に治癒することで小さな点状の傷跡(speckled scars)となります。

「切らない手術」どころか、FUEは非常に繊細で、高度な技術を要する本格的な外科処置なのです。

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なぜ今、名称変更が必要だったのか?──世界中で広がる「黒市場FUE」

では、なぜこれまで「Extraction(取り出し)」という言葉が使われ続けてきたのでしょうか?

それは、広告やマーケティング上の都合によるものでした。美容医療の世界では、「手術」と聞くだけで不安を覚える人も多く、少しでも「簡単そう」「負担が軽そう」と思わせたほうが、施術の申し込みが増える傾向にあります。

このような心理につけ込む形で、「Extraction=ただ髪を抜くだけの簡単な処置」という誤った印象が広まりました。これが招いたのが、無資格者によるFUE施術の急増です。

世界中で、医師免許を持たない人々がFUEと称して施術を行うようになり、「黒市場(black market)FUE」と呼ばれる問題が深刻化しています。安価な価格で派手な広告を出し、見た目はクリニックでも、実態は美容師や無資格者が施術を担当しているというケースも少なくありません。

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その結果、以下のような被害が報告されています。

  • 予定外の脱毛や不自然な毛並み
  • 感染症による腫れや痛み
  • 縫合が必要なレベルの傷跡
  • 最悪の場合、死亡例も

FUEが手術であることを軽視した結果、取り返しのつかない美容トラブルや健康被害が発生しているのです。

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ISHRSの使命──正しい知識で、命と髪を守る

世界中の毛髪外科医が集うISHRS(国際毛髪外科学会)は、この状況に強い危機感を抱いています。名称を変更するという決断には、単なる言葉遊びではなく、患者の安全を守り、正しい情報を広める使命感が込められています。

メヒア医師は次のように語っています。

「患者が本当に信頼できる医師を選び、無資格者による施術から身を守れるよう、我々は教育と啓発を続けていきます。」

また、ISHRSは公式サイト上に「信頼できる医師を選ぶための質問集」をまとめたページも用意しており、施術を受ける前にチェックすべきポイントを紹介しています。

ISHRS公式:患者向け注意喚起ページ(Consumer Alert)

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FUEの人気は上昇中──2016年には世界で63万件以上

FUEの人気は年々高まっており、ISHRSが発表した2017年の実態調査(Practice Census)によると、2016年には世界中で63万5,189件もの外科的毛髪移植手術が行われたとのことです。これは、2014年から比べてなんと60%もの増加を示しています。

この急激な増加には、医療機器メーカーによる積極的な宣伝活動や、自動パンチ装置の登場といった技術革新も影響しています。とはいえ、それだけ多くの人が「自然な自毛での発毛」を求めている証拠とも言えるでしょう。

調査によれば、ISHRSの会員医師のうち92.5%がFUEを採用しており、多くのクリニックでは、患者が自分の希望に応じてFUEか帯状切除法(ストリップ法)かを選べるようになっています。

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正しい情報で、自分の髪を守る時代へ

毛髪移植の世界は、技術的にも文化的にも日々進化しています。その一方で、情報の誤解や商業的な誇張によって、患者が本質を見失ってしまうリスクも増えているのです。

だからこそ、今、私たちに求められるのは「本当に信頼できる医師と、正しい知識を持つこと」。安易な広告に惑わされず、治療法の名称一つにも注意を払うことが、自分の髪と命を守ることにつながります。

FUEが「Excision(切除)」であるという事実を受け止め、毛髪移植という選択を、もっと賢く・もっと安全に行うために──この名称変更は、私たちに新たな一歩を踏み出させてくれる大切なメッセージなのです。

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記事の監修者


監修医師

岡 博史 先生

CAPラボディレクター

慶應義塾大学 医学部 卒業

医学博士

皮膚科専門医

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