自毛植毛は一度で終わる?──「髪の物語」が長編になる理由とは

明るい表情で「大丈夫」のジェスチャーを見せるアフリカ系の女性。象徴的なカールのある豊かな天然ヘアスタイルが印象的で、黒人女性の文化的なヘアアイデンティティや自信を感じさせる一枚。脱毛に悩みながらも前向きに髪と向き合う姿勢を象徴している。

この記事の概要

「薄毛が気になり始めた…」そんな瞬間から、あなたの“髪の物語”は静かに始まります。 育毛剤やサプリを試しても思うような効果が出ず、たどり着いたのが「自毛植毛」。でも実は、この施術、一回で完結しないことがあるのをご存知ですか? 本記事では、自毛植毛が「一度では終わらない」理由を、医学的・現実的な観点からやさしく解説します。理想の髪型を手に入れるために必要な「長期的な視点」とは?初めての方にも分かりやすくご紹介します。

自毛植毛って一回で終わるの?──「髪の物語」は一度の手術で完結しないことも

薄毛に悩み、人知れず苦しむ若い日本人男性のイメージ写真。自己肯定感の低下や見た目の不安を抱える20代男性が、職場やSNSでのストレスにより涙をこらえている様子を表現。若年性脱毛やAGAの心理的影響を示唆するビジュアル素材。

「最近、なんだか髪が薄くなってきた気がする…」

鏡の前でふとそんなことを思った瞬間から、多くの人の“髪の物語”は静かに始まります。男性も女性も関係なく、髪に変化を感じると、人はまず自分なりに調べ始めます。

「シャンプーを変えたほうがいいのかな?」
「育毛剤って効くの?」
「このサプリ、口コミがいいみたい」

インターネットで“薄毛 対策”と検索し、自然由来の育毛剤や食事改善、頭皮マッサージなど、ありとあらゆる方法を試してみたくなるでしょう。けれど、実際のところこうした自然療法だけで劇的な変化を得るのは難しいのが現実です。

そうして最終的に、多くの人が次に頼るのが病院です。かかりつけ医に相談したり、皮膚科を紹介されたり。そして、そこで出会う選択肢のひとつが――「自毛植毛(じもうしょくもう/hair transplant)」なのです。

自信を取り戻す、最適な植毛

自毛植毛との出会いは、写真の世界から

柔らかな笑顔を浮かべた日本人女性が、右手のこぶしをそっと握りしめながら、前向きな気持ちで励ますようなポーズをとっている様子。毛髪移植という選択に勇気をもって向き合う姿を象徴し、自然な美しさと自信を取り戻すプロセスを応援するイメージカット。

「自毛植毛ってどんな感じなんだろう?」

そう思ってネットで調べると、あなたの画面には無数の“ビフォー・アフター写真”が現れることでしょう。術前は額が大きく露出していた男性が、術後には自然な生え際を取り戻している。女性も分け目がふんわりとボリュームアップしている…。

これらの画像はまさに「夢のような変化」を伝えるものです。誰だって、「自分もこうなれたら…!」と胸が高鳴ります。さらに、クリニックのホームページには、施術する医師の経歴や、清潔で高級感のある院内写真、口コミ評価の高さなど、信頼感を醸成する情報があふれています。

こうしてあなたは、勇気を出してカウンセリングを予約し、クリニックのドアを叩くことになります。

カウンセリングは髪の「授業」

カウンセリングでは、実際に施術を行う医師、あるいは経験豊富なカウンセラーと面談します。ここで提供されるのは、いわば「髪の授業」。自毛植毛とは何か、どんな方法で行うのか、自分に合った選択肢は何か──といった基本情報が丁寧に説明されます。

この時点で、あなたの中には希望と不安が入り混じった「ふわふわした期待感」が芽生えているかもしれません。そして話を聞いた末、「やってみよう!」と決心し、施術日が決まります。

手術当日は、主に後頭部や側頭部など、薄毛になりにくい部分(これを“ドナー部位”といいます)から毛根を採取し、薄毛の目立つ箇所に移植します。これは“植毛”というより“引っ越し”のようなもので、自分の元気な毛を「新しい住所」に移してあげるイメージです。

その後は数週間から数ヶ月の経過観察期間があり、ゆっくりと結果が出てきます。しかし――ここでひとつ、大切な質問が生まれます。

「この手術、1回で終わりなんですか?」

答えは、「多くの場合、NOです」。

では、なぜ“人生に一度の大手術”で終わらないことがあるのでしょうか?

自信を取り戻す、最適な植毛

自毛植毛が「一度で終わらない」理由とは?

自毛植毛はとても効果的な治療法ですが、「一回で理想の髪型がずっと続く」とは限らないのが現実です。その理由はさまざまですが、ここでは代表的なケースを、わかりやすくお伝えします。

理由①:髪はこれからも抜け続けるかもしれない

まず最初に知っておいてほしいのが、自毛植毛は「薄毛の根本原因を治す治療」ではないということです。

多くの人が悩む薄毛の正体は、「男性型脱毛症(AGA:Androgenetic Alopecia)」という進行性の症状です。これは遺伝やホルモンの影響によって、徐々に髪が細くなり、抜けやすくなるというもの。

つまり、植毛で一度ふんわりした髪を取り戻したとしても、その周囲にある“まだ抜けていない毛”は、今後もAGAの影響を受け続けてしまうのです。

これを防ぐには、植毛と並行して内服薬や外用薬を続けることが大切です。たとえば、フィナステリド(商品名:プロペシア)やデュタステリド(商品名:ザガーロ)などの薬は、AGAの進行を抑える効果があります。

薬でAGAの進行を食い止めなければ、せっかく植えた毛だけが“島”のように浮いてしまうこともあり、見た目が不自然になることもあります。そんなときには、修正のために2回目、3回目の手術が必要になるのです。

理由②:移植した毛がうまく育たないこともある

「ちゃんと手術してもらったのに、あまり生えてこなかった…」というケースも、実はゼロではありません。

これは決して手術の技術が低いからではなく、人間の体は100%コントロールできるものではないという現実があります。どんなに名医が丁寧に施術しても、体質や頭皮の状態によっては、毛根が新しい場所にうまく馴染まないことがあるのです。

特に喫煙者、糖尿病患者、または頭皮の血流が悪い人は、毛根の“定着率”が下がる傾向があります。また、本人も気づいていなかった皮膚疾患(たとえば脂漏性皮膚炎など)が発見されることもあります。

このような場合、まずは頭皮の環境を整えたり、病気の治療を優先したうえで、必要に応じて再手術を行うことで、理想の髪型に近づけることができます。

理由③:説明不足や誤解が起きやすい

クリニックには、患者に対して十分な説明責任がありますが、残念ながら「完璧に説明された」と感じる患者は意外と少ないのが実情です。

とくに多いのが、「昔のようなボリュームを完全に取り戻せる」と思っていたのに、実際にはそこまで密度が出なかった…」という誤解です。

その原因のひとつは、移植できる髪の“在庫”に限界があること。後頭部や側頭部には、AGAの影響を受けにくい“永久毛”が残っていますが、その量は限られており、薄毛の範囲が広いほど「毛の引っ越し先」が多すぎて、供給が追いつかなくなるのです。

たとえるなら、東京23区にしか住人がいないのに、北海道から沖縄までカバーしようとしても無理があるようなものです。

そのため、自然と比べてやや密度が劣っていたとしても、見た目としては十分に満足できるレベルの仕上がりを目指すのが、現実的なゴールとなります。

理由④:患者側の「理想」が高すぎることも…

もちろん、患者側の気持ちもよく分かります。「せっかく高いお金を払うなら、完璧な仕上がりを手に入れたい!」というのは、自然な願いです。

でも、SNSや広告で見かける成功例は“奇跡の一枚”であることが多いことを忘れないでください。もともとの毛量、髪質、太さ、色、くせの有無、頭皮の柔らかさ、そして施術できる予算など、人によって条件はまったく異なります。

同じ「自毛植毛」といっても、仕上がりには個人差があるのです。

だからこそ、自分の状態を冷静に把握し、「ここまで改善できたら満足」と思える現実的な目標を持つことが大切です。理想ばかりを追い求めると、ドナー部の毛が足りなくなり、「もう移植できません」と言われる日が来てしまうかもしれません。

自信を取り戻す、最適な植毛

若い人ほど「一度で終わらない前提」で考えよう

とくに要注意なのが、20代〜30代前半の若い世代です。この年代は、まだAGAの進行パターンが確定しておらず、医師も「今は控えめにやっておこう」と判断することがあります。これは、今後薬が効かなくなった場合に備えて、ドナー毛を温存しておくための“先を見据えた戦略”です。

つまり、1回の手術で“劇的ビフォー・アフター”を狙うのではなく、5年後、10年後の自分のために、じっくりと計画的に取り組むことが重要なのです。

まとめ:「一度で終わる」と思わなければ、がっかりしない

自毛植毛は、数千人以上の人々に笑顔と自信を取り戻してきた、非常に有望な治療法です。しかし、「一回の手術ですべてが終わる」と思い込むと、あとでがっかりする可能性があります。

髪の未来は「手術の技術」だけで決まるのではなく、あなたの生活習慣、頭皮環境、そして“知識と心構え”によっても左右されます。

ぜひ、髪との付き合いを“短距離走”ではなく、“マラソン”のようにとらえてください。一度の手術で終わらないとしても、それは失敗ではなく、あなたの髪の物語の「次の章」なのです。

自分の髪とじっくり向き合うこと。それが、自然で美しい仕上がりへの、もっとも確実な道なのです。

自信を取り戻す、最適な植毛

記事の監修者


監修医師

岡 博史 先生

CAPラボディレクター

慶應義塾大学 医学部 卒業

医学博士

皮膚科専門医

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