この記事の概要
髪のボリュームが減った、頭皮が透けて見える……そんなとき、AGAやびまん性脱毛症を疑う人は多いでしょう。しかし実は、毛根が二度と再生しない「瘢痕性脱毛症(Cicatricial Alopecia)」という、もっと深刻な脱毛症が存在します。あまり知られていないこの病気は、気づかないまま進行すると、取り返しがつかないことに。今回は専門用語に解説を加えながら、この恐るべき脱毛症の特徴・原因・診断法・治療の注意点までを、やさしく解説します。
知られざる脱毛の正体「瘢痕性脱毛症(はんこんせいだつもうしょう)」——毛根が消える!? 見逃してはいけない脱毛の話

鏡の前に立ち、自分の髪の毛を整えるとき、ふと「最近髪が薄くなったかも?」と思った経験はありませんか? 髪のボリュームが減ってきた、頭皮が見える範囲が広がってきた……そんなとき多くの人が思い浮かべるのは、「男性型脱毛症」や「びまん性脱毛症」など、比較的よく知られたタイプの脱毛症です。
しかし、実はそれらとはまったく異なる性質をもつ、「瘢痕性脱毛症(Cicatricial Alopecia)」という脱毛が存在することをご存知でしょうか? この脱毛症は、毛根そのものが破壊され、二度と毛が生えてこなくなる可能性のある病気です。あまり世間では知られていないものの、見逃してはならない深刻な疾患のひとつです。
今回は、そんな「瘢痕性脱毛症」について、専門用語に補足を加えながら、誰にでもわかりやすく、読みやすく、かつ少し面白くお届けしていきます。
「瘢痕性脱毛症」ってなに?毛が抜けるだけじゃない、根っこが壊れる恐怖

まず、「瘢痕性脱毛症(Cicatricial Alopecia)」という名前からして、少し難しそうに感じますよね。
ここで大事なのは、「瘢痕性」という言葉です。「瘢痕(はんこん)」とは、簡単に言えば「傷あと」のこと。皮膚が深く傷ついたとき、その部分が元の状態には戻らず、少し硬くてつるつるした状態になることがありますよね? それと同じように、頭皮の毛根が炎症や免疫異常などによって壊され、その部位が傷あとになってしまう——これが「瘢痕性脱毛症」です。
つまりこの脱毛症は、「毛が抜ける」のではなく、「毛を生やす土台そのものが壊れる」病気。一度破壊された毛根(毛包)は再生しません。だからこそ、通常の脱毛症とは一線を画す、非常に厄介で深刻な症状なのです。
一般的な脱毛症との違いは?「非瘢痕性」と「瘢痕性」の二大分類
脱毛症は、医学的には大きく2つのグループに分けられています。
- 非瘢痕性脱毛症(Non-scarring Alopecia)
- 瘢痕性脱毛症(Scarring Alopecia)
聞き慣れない言葉かもしれませんが、ちょっとだけ頑張って覚えてみましょう。
● 非瘢痕性脱毛症ってどんなもの?
これは、毛根(正確には「毛包」)が無事な状態で起こる脱毛です。毛は一時的に抜けても、土台が無事なのでまた生えてくる可能性があるというわけです。
代表的な例には、
- 男性型脱毛症(AGA: Androgenetic Alopecia)
- 女性型脱毛症(FAGA)
- 円形脱毛症(Alopecia Areata)
などがあります。
これらは主にホルモンの影響や遺伝的要因が関係していて、医療用の育毛剤や生活習慣の改善、ストレスケアなどによって改善が期待できるケースも少なくありません。
● では、瘢痕性脱毛症とは?
一方、瘢痕性脱毛症は、毛根が物理的・免疫的に破壊されてしまうタイプの脱毛です。原因となるのは、皮膚の深部に及ぶ慢性的な炎症や、自己免疫疾患と呼ばれる体の防御システムの暴走です。
よくあるタイプには:
- 扁平苔癬毛包炎(Lichen Planopilaris, LPP)
→ 免疫系の異常によって頭皮に炎症が起こり、毛包が徐々に壊れていく病気。 - 中心性遠心性瘢痕性脱毛症(Central Centrifugal Cicatricial Alopecia, CCCA)
→ 特にアフリカ系の女性に多く、頭頂部を中心に脱毛が広がるタイプ。
これらの病気は遺伝によるものではなく、突然発症することが多いのが特徴です。そして、発見が遅れるとどんどん進行し、取り返しのつかない脱毛状態に至る可能性があります。
「これってもしかして?」と思ったら、まずは皮膚科専門医へ!
もしあなたが、「最近、髪がまばらになってきた気がする」「頭皮にかゆみや痛みがある」「なんだか頭皮が光って見える」などの症状を感じていたら、すぐに皮膚科専門医(Board-certified Dermatologist)に相談することをおすすめします。
特に瘢痕性脱毛症は、早期発見と早期対応がカギです。なぜなら、一度毛根が破壊されてしまった部分には、もう毛が生えてこないからです。
● 頭皮の「生検(biopsy)」で原因を特定
皮膚科では、瘢痕性脱毛症かどうかを見極めるために、「頭皮生検(とうひせいけん)」という検査が行われることがあります。これは、頭皮のごく小さな部分(米粒よりも小さいくらい)を局所麻酔で採取し、顕微鏡で詳しく調べる検査です。
生検により、次のような情報が得られます:
- 毛根の数や状態
- 炎症の有無と広がり
- 免疫細胞の活性状況
この情報をもとに、薬による炎症のコントロールや、今後の治療戦略を練ることができます。
● 植毛専門医を探すには?
もし「このまま髪が戻らなかったら……植毛ってできるの?」と思った方は、ISHRS(国際毛髪外科学会 / International Society of Hair Restoration Surgery)が提供している「Find A Doctor」ツールを使って、信頼できる専門医を探すこともできます。地域や専門分野で絞って検索できるので便利です。
瘢痕性脱毛症に植毛はできる?その答えは「ケースバイケース」
ここで気になるのが、「髪が生えないなら、植毛すればいいんじゃない?」という疑問ですよね。
確かに、「自毛植毛(Hair Transplantation)」は、近年進化を遂げた脱毛治療のひとつです。しかし、瘢痕性脱毛症の場合、話はそう簡単ではありません。
● 移植しても毛根が再び攻撃される可能性
瘢痕性脱毛症の多くは、自己免疫反応によって毛根が破壊される病気です。つまり、体が「毛根」を異物とみなして攻撃してしまうという状態。そんな状況下で新しく毛根を植えても、再び攻撃されてしまうリスクが高いのです。
そのため、移植が成功するためには:
- 病状がすでに「安定している」こと(=炎症が止まっていること)
- 移植後も免疫が毛根を攻撃しない状態を維持できること
これらが非常に重要になります。
● 脱毛タイプの見極めが治療のカギ
そもそも、あなたの脱毛が「瘢痕性」なのか「非瘢痕性」なのかによって、治療法は180度違います。
- 非瘢痕性脱毛症なら、薬や植毛などの選択肢が広がります。
- しかし瘢痕性脱毛症なら、まずは炎症を抑える治療(免疫抑制剤、ステロイド、抗マラリア薬など)が必要です。ここを飛ばしていきなり植毛すると、せっかくの努力が水の泡になりかねません。
まとめ:あなたの「毛の悩み」、もしかしたら放っておけないかも?
脱毛症にはいろんなタイプがあり、正しい診断と対処をしないと、取り返しのつかない結果になってしまうこともあります。特に瘢痕性脱毛症は、その代表格です。
最後に、今後のために大切な3つのステップをおさらいしましょう。
① 自分の脱毛が「瘢痕性」か「非瘢痕性」かを見極める
鏡や写真で気になる症状がある場合、早めに皮膚科で相談しましょう。自己判断は禁物!
② 皮膚科専門医に相談し、必要なら生検を受ける
正確な診断こそ、最適な治療への第一歩。信頼できる医師に巡り会うことが、脱毛改善のカギです。
③ 植毛を検討する前に、病気の安定性を確認する
「髪を取り戻したい!」という気持ちは当然ですが、焦りは禁物。病気のタイプと状態を正確に把握した上で、治療方針を立てましょう。
瘢痕性脱毛症は、確かに怖くて深刻な病気ですが、正しい知識と適切な医療の力で、進行を止め、生活の質を守ることは可能です。一人で悩まず、まずは一歩踏み出してみてください。あなたの毛髪と頭皮の未来が、大きく変わるかもしれません。







