この記事の概要
薄毛に悩む方にとって、植毛手術は希望の光です。しかし「どの手術法が自分に合っているのか」「ドナー部位の髪をどう活かせばいいのか」など、分からないことも多いのではないでしょうか?本記事では、FUTとFUEの違いをわかりやすく解説しながら、後悔しない選択をするための考え方や、ドナー部位の管理戦略について、専門医の見解を交えて丁寧にご紹介します。
薄毛治療の未来を変える鍵 ―「ドナー部位」の最大活用とは?

「最近、髪のボリュームが減ってきた気がする……」「分け目が気になるようになった……」——そんな悩みを抱えたことはありませんか?
薄毛は年齢に関係なく、多くの人が直面する共通の悩みです。中には「自分にはもう髪が戻らないのでは」と不安になる方もいるかもしれません。でも、あきらめるのはまだ早いのです。
医学の進歩により、植毛手術(hair transplant surgery)という選択肢が、今や現実的で信頼できる解決法として注目されています。
中でも、FUT(毛包単位移植法:Follicular Unit Transplantation)とFUE(毛包単位切除法:Follicular Unit Extraction)という2つの技術は、植毛手術の代表格といえる存在です。
今回のコラムでは、「ドナー部位」と呼ばれる後頭部の毛髪をいかに最大限に活用するか、というテーマを中心に、FUTとFUEの違いやそれぞれのメリット、そして患者に合わせた最適な選択方法について、専門医の見解も交えながら、わかりやすく、そして楽しく解説していきます。
まず知っておきたい「ドナー部位」ってなに?

植毛の話になると、よく出てくる「ドナー部位(donor area)」という言葉。これは、髪の毛を採取するための部位を指します。具体的には、一般的に後頭部や側頭部がドナー部位とされます。
なぜこの部分なのかというと、実はこのエリアの毛は、薄毛の原因となる男性ホルモン(ジヒドロテストステロン:DHT)の影響を受けにくい性質を持っているからです。
つまり、抜けにくく、生涯にわたって比較的しっかり生え続けるという「強い毛」なんですね。
このドナー部位から毛包(hair follicle:毛の根っこの部分)を採取し、前髪の生え際や頭頂部など、薄毛が目立つ部分に移植するのが植毛手術の基本的な流れです。
ドナー部位の毛は、たとえ別の場所に移植してもその「強い性質」を維持するため、移植後も長期間にわたってしっかりと育ってくれる可能性が高いのです。
FUTとは?ベテラン技術に潜む実力
まずご紹介するのが、FUT(毛包単位移植法)という方法です。これは、植毛の世界では長年使われてきた「クラシック」な手法で、多くの実績があります。
この方法では、ドナー部位の皮膚を帯状に切り取り、そこから毛包を1本ずつ取り出して、薄毛の部位に植え付けます。例えるなら、ケーキを一切れ切り出し、その中にあるチョコチップ(=毛包)を丁寧に取り出して別の場所に移すようなイメージです。
FUTの大きな利点は、一度にたくさんの毛包を高密度で採取できること。そのため、広範囲の薄毛に対応でき、1回の手術でしっかり効果が見えるケースが多いのです。
ただし注意点もあります。切除した部分は線状の傷跡(linear scar)が残ることがあるため、後ろ髪を短く刈る髪型(刈り上げスタイルなど)を好む方にはやや不向きです。
FUEとは?新世代のスター選手
次に紹介するのは、FUE(毛包単位切除法)です。これは、近年急速に人気を集めている、より「やさしい」植毛技術です。
FUEでは、ドナー部位の皮膚を切り取ることはせず、直径1mm以下の小さなパンチ器具を使って、1本ずつ毛包をくり抜くように採取します。そのため、術後に線状の傷が残ることはありません。
また、回復も比較的早く、ダウンタイムが短いのも特徴です。ただし、採取するためにはドナー部位の髪を短く剃る必要があるため、女性や長髪の男性には抵抗感があるかもしれません。
さらに、FUTと比べると1回で採れる毛包数がやや少なめなので、広範囲の薄毛には複数回の施術が必要になることもあります。
専門医が語る「ドナー部位をどう最大限に活用するか?」
アメリカ・ミネソタ州にあるShapiro Medical Group(シャピロ・メディカル・グループ)では、薄毛治療の第一人者であるDr. David Josephitis(デビッド・ジョセフィティス医師)とDr. Ron Shapiro(ロン・シャピロ医師)が、ドナー部位の可能性を最大限に引き出す方法を長年研究しています。
彼らの研究テーマはシンプルかつ非常に重要です。「患者が本当に必要としている毛髪の量を、どのようにしてドナー部位から効率よく引き出すか」ということです。
例えば、後頭部には平均して6,000〜8,000グラフト(1グラフトは1〜4本の毛を含む)ほどの毛包が存在すると言われています。数字だけ見れば「たくさんあるじゃないか」と思うかもしれません。
しかし実際には、植毛を考える時点では、すでに頭部全体に1,000グラフトほどしか残っていない人も少なくないのです。このギャップが、薄毛に悩む人の深刻さを物語っています。
FUTとFUE、どっちが自分に合うの?年齢・性別・スタイルで考える
ジョセフィティス医師は、患者ごとのライフスタイルや希望に応じてFUTとFUEを使い分けるべきだと語っています。以下は、その一例です。
若年層や短髪派にはFUEがピッタリ!
若くて薄毛の進行がまだ軽度な人、特に刈り上げやスポーティーなヘアスタイルを好む人には、FUEが最適です。傷跡が目立たず、自然な仕上がりが期待できるのがポイントです。
女性や長髪の方にはFUTがおすすめ
髪を短く剃ることに抵抗がある方、特に女性にはFUTが向いています。切り取った帯状の部分は、長い髪でうまく隠せるため、見た目にも支障が出にくいのです。
重度の脱毛症には「合わせ技」戦略!
薄毛がかなり進行している方、いわゆるNorwood分類(男性型脱毛の重症度分類)で6~7レベルの人には、FUTとFUEを組み合わせる方法が非常に効果的です。
まずFUTで大量のグラフトを確保し、その後FUEで残りの毛包を補うことで、なんと最大で追加2,000~3,000グラフトも取得可能になるケースがあるのです!
将来を見据えた「ドナー管理」が成功のカギ
植毛は1回で終わる施術ではないこともあります。薄毛は時間とともに進行するため、人生を通して複数回の施術が必要になる可能性もあるのです。
そのため、「今どれだけ毛を移植できるか」だけでなく、「将来にどれだけ残しておくべきか」という長期的な視点がとても重要です。
熟練の植毛医師と相談しながら、「未来の自分のために、今どう動くべきか」を一緒に考えることが、後悔のない選択につながります。
信頼できる医師と出会うために
もしあなたが本格的に植毛を検討したいと考えているなら、まずは信頼できる医師とのカウンセリングが第一歩です。
ISHRS(International Society of Hair Restoration Surgery:国際毛髪外科学会)の公式サイトには、「Find A Doctor」という検索ツールがあり、世界中の認定医師を探すことができます。
経験豊富で、あなたの将来も見据えた提案ができる医師との出会いは、薄毛治療の成功を大きく左右します。
まとめ:自分の未来を見据えて、一歩踏み出そう
FUTとFUE、どちらにもメリットがあり、万能な「正解」は存在しません。大切なのは、あなた自身のライフスタイル・希望・将来の髪型イメージに応じて、最適な選択をすることです。
そして、ドナー部位という貴重な資源をムダなく使い、未来に備えるためにも、焦らず、じっくり、納得のいく治療計画を立てましょう。
髪の悩みは、あなたの人生を暗くするものではありません。正しい知識と専門医の力を借りて、自分らしい未来の髪を育てていきましょう。








