自毛植毛は、薄毛に悩む方にとって自然な見た目と長期的な効果が期待できる治療法です。しかし、まれに「植毛が定着しない」というケースも報告されています。このような場合、どのような原因が考えられ、再治療はどのように選択すれば良いのでしょうか。本記事では、植毛の定着に失敗する原因を医学的・技術的観点から解説し、再治療の方法とその判断基準について詳しくご紹介します。
植毛が定着しないとは?基本的な理解
植毛の「定着」とは、移植された毛包が頭皮の血流に取り込まれ、安定して再び毛髪を生み出す状態を指します。通常、FUE法やFUT法を用いた自毛植毛では、移植後1か月以内に一度脱毛(ショックロス)が起き、3~4か月目以降に再び発毛が始まり、半年から1年で最終的な仕上がりになります。
ところが、このプロセスがうまくいかない場合、以下のような症状が見られます。
- 一部または全体のグラフトが脱落したまま生えない
- 発毛量が著しく少ない
- 部分的に不自然な薄毛が残る
手術技術の問題
医師の経験不足や施術ミス
植毛は高度な医療技術が求められる治療法です。特に、FUE法では1ミリ以下のパンチで毛包をくり抜くため、熟練の技術がなければ毛根を傷つけてしまい、定着率が下がります。
エビデンス:
- Bernstein RMら(2017)は、FUE法の定着率が術者の経験に大きく依存することを報告しています(参考:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5477380/)。
グラフトの取り扱い不良
移植した毛包は非常に繊細で、脱水や過度な物理的刺激に弱いため、施術中の冷却・湿潤管理の不足は定着失敗の大きな要因です。
患者側の体質や生活習慣
血流不良や皮膚疾患の影響
糖尿病や重度の脂漏性皮膚炎、頭皮の血行不良は、毛包が栄養を受け取れない原因になります。これにより、植毛後の生着率が著しく低下します。
喫煙・飲酒・睡眠不足
ニコチンやアルコールは血管を収縮させ、頭皮への血流を妨げます。術後の発毛環境に悪影響を与えるため、再治療を考える前に生活習慣の見直しが必須です。
術後ケアの不備
洗髪・保湿ケアの失敗
術後1週間程度は非常に重要な期間です。指示通りの洗髪方法を守らなかった場合や、頭皮の乾燥を放置したことで、移植部が剥がれ落ちることがあります。
外的な衝撃
頭皮への物理的な圧力(就寝時の枕や帽子、ぶつける等)により、グラフトが脱落するケースも少なくありません。定着を促すには、安静と保護が求められます。
植毛後に定着しなかった場合の再治療とは?
定着に失敗した場合、すぐに再植毛を行うのは推奨されません。まずは以下の2つのステップを踏む必要があります。
1. 定着失敗の正確な診断
専門医による頭皮診断(マイクロスコープや毛髪診断)により、原因が外的要因なのか、体質的・技術的要因かを判断します。
2. 頭皮の回復期間を確保
再治療までには最低でも6〜12か月のインターバルが必要です。頭皮が完全に回復していない状態での再植毛は、再び失敗を招く可能性があります。
再治療における3つの選択肢
(1)再度の自毛植毛(FUEまたはFUT)
ドナー部(後頭部など)に十分な毛髪が残っていれば、再度の自毛植毛が可能です。2回目はより慎重な施術が求められるため、クリニック選びが重要になります。
(2)人工毛植毛
自毛が十分に採取できない場合の代替手段として「人工毛植毛」があります。ただし、異物反応やメンテナンスの問題から、日本皮膚科学会では推奨していません(推奨度D)。
(3)医薬品治療との併用
再治療前後にミノキシジルやフィナステリドなどの内服・外用薬を併用することで、毛母細胞の活性化と既存毛の維持が期待できます。
エビデンス:
- Olsen EAら(2002)による臨床研究では、ミノキシジル5%外用により発毛率が著しく向上することが報告されています(参考:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12196747/)。
再治療を成功させるためのクリニック選びのポイント
- 定着率の実績を公表しているか
- 術後のアフターケアに力を入れているか
- 再治療の症例数が豊富か
- 医師が学会所属・資格保持者か
特に「毛髪外科学会」や「日本皮膚科学会」認定医が在籍する施設は信頼性が高く、再治療でも安心です。
再治療後のケアで成功率を高めるには
再治療を成功させるためには、術後のセルフケアが非常に重要です。以下のポイントを正しく守ることで、グラフトの定着率が大きく変わってきます。
1. 頭皮を保護する生活を送る
- 術後1週間は患部を触らない
無意識のうちに頭を掻いたり、帽子をかぶることでグラフトがずれてしまう危険があります。就寝時にも枕や布団との摩擦を避けるよう注意が必要です。 - シャンプーは指先ではなく泡洗浄
術後は泡シャンプーを使用し、優しく押し洗いするのが基本。摩擦や強い流水は厳禁です。
2. 処方薬を適切に使用する
医師から処方された抗炎症薬や抗生物質、血行促進剤(場合によってはミノキシジル外用剤など)は、自己判断で中断せず指示通り使用しましょう。
3. 栄養・睡眠・禁煙
再治療後は、たんぱく質、鉄分、亜鉛、ビタミンB群などの栄養素を意識的に摂取し、頭皮の再生をサポートすることが重要です。特に亜鉛は毛母細胞の分裂に関与しており、不足すると毛髪の再生が妨げられる可能性があります。
再治療のリスクと注意点
再治療は初回よりも慎重な計画が求められるため、以下のリスクも考慮する必要があります。
移植可能なドナー数の制限
後頭部などのドナー部には限りがあり、複数回の施術を受けることで、毛根が枯渇してしまう可能性もあります。そのため、再治療は“最後のチャンス”という意識をもって臨むべきです。
傷跡のリスク
特にFUT法では、再手術によってドナー部の皮膚を再度切除することになるため、瘢痕(はんこん)形成のリスクが高まります。FUE法でもパンチの跡が目立つ可能性があるため、施術技術の高さと個人の皮膚特性に左右されます。
感染や炎症
再治療では、前回の手術による瘢痕や血流障害のある皮膚に対して施術を行うこともあり、感染症や炎症のリスクが若干高まります。術後の発赤や痛みが強い場合は早めに医師の診察を受けましょう。

再発を防ぐために日常でできる予防策
せっかく再治療に成功しても、日常生活の積み重ねで再び薄毛が進行することがあります。以下の習慣は、再発の予防として非常に重要です。
● AGA進行の根本治療を併用
再治療後も、DHT(ジヒドロテストステロン)の抑制を目的としたフィナステリドやデュタステリドの服用を継続することが、薄毛の進行抑制に効果的です。
研究エビデンス:
- Kaufman KDら(1998)の研究により、フィナステリド1mgの継続内服で2年後の脱毛進行が大幅に抑制されたと報告されています(参考:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9859974/)。
● ストレスの管理
ストレスはホルモンバランスを崩し、皮脂の過剰分泌や血行不良を引き起こします。規則正しい生活と適度な運動、ストレス解消の趣味などを持つことも毛髪環境に良い影響を与えます。
● 頭皮マッサージや育毛剤の活用
頭皮の血行を改善するためのマッサージや、医師に相談の上での育毛剤の使用も、毛母細胞の活性化を促す手段として有効です。
よくある質問(FAQ)
Q. 植毛がうまくいかなかったら全額返金される?
多くのクリニックでは“定着保証”や“再施術無料”などのアフターケア制度を設けていますが、返金制度は非常にまれです。契約時に必ず確認しておくことが大切です。
Q. 定着率の平均は?
施設や施術法によって異なりますが、一般的にはFUTで90〜95%、FUEで85〜90%が平均的な定着率とされています。
Q. 再治療は保険適用になる?
植毛は美容目的であるため、健康保険の適用対象外です。したがって、再治療もすべて自由診療扱いとなります。
専門医とともに最適な再治療を選ぼう
「植毛 再治療」は決して珍しい話ではありません。技術の進歩と共に、再治療の成功率も着実に向上しています。しかし、同じ失敗を繰り返さないためには、原因を正しく把握し、慎重なクリニック選びと日常のケアを徹底することが欠かせません。
薄毛治療は「一発勝負」ではなく、継続的な戦略とサポート体制が重要です。信頼できる医師と二人三脚で治療を進めることで、再び髪と自信を取り戻すことができるはずです。
失敗しても諦めないことが重要
植毛の定着に失敗した場合でも、原因の把握と適切な再治療により、十分に改善の余地があります。重要なのは、焦らず、専門医の診断を受け、信頼できる医療機関で再治療に臨むことです。
髪の悩みは生活の質に直結する深刻な問題です。再治療を通じて、もう一度前向きな気持ちで鏡に向かえるよう、正しい知識と選択が求められます。
参考文献一覧
- Bernstein RM, Rassman WR. “The ARTAS System for FUE Hair Transplantation.” Facial Plast Surg Clin North Am. 2017.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5477380/ - Olsen EA, Hordinsky M, et al. “A randomized clinical trial of 5% topical minoxidil vs placebo.” J Am Acad Dermatol. 2002.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12196747/ - 日本皮膚科学会 AGAガイドライン(2017年版)
https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/AGA_GL2017.pdf







