この記事の概要
薄毛治療や自毛植毛に興味がある方は、「ドナー部位」という言葉を耳にしたことがあるかもしれません。ドナー部位とは、脱毛の影響を受けにくい頭皮の領域であり、将来のヘアラインを支える大切な資源です。本記事では、ドナー部位の役割や評価方法、髪の質や密度が移植結果に与える影響について、専門知識がない方でも分かりやすく解説します。未来の自分の髪を守るために、今知っておくべき基礎知識を一緒に学びましょう。
ドナー部位とは?──髪の毛を「貯金・貸し出し」する場所
ドナー部位(Donor Site)とは、男性型脱毛症(MPHL:Male-Pattern Hair Loss、いわゆる男性型脱毛)の影響を受けない頭皮領域を指します。ここから毛髪を採取し、薄毛や脱毛が進行した箇所に移植(ヘアトランスプラント)するために使用されます。

具体的には、耳やこめかみの上方約2〜5センチから、後頭部にかけて広がる髪の毛がしっかり生えている領域が対象です。この部分の毛包(Hair Follicle)は、MPHLの遺伝的影響から守られており、他の場所に移植してもその耐性を保ち、引き続き発毛を維持します。
このためドナー部位は、髪の毛を「貯金しておき、必要なときに貸し出す(移植する)」ための大切な資源といえます。ヘアトランスプラントを成功させるためには、受け入れ部位(Recipient Site)と同様に、ドナー部位の正確な評価と戦略的活用が不可欠です。
ドナー部位の個人差と評価の重要性
すべての男性にドナー部位は存在しますが、その広さや質は個人差があります。毛髪再生の専門医(Physician Hair Restoration Specialist)は、MPHLの進行によって将来的に失われる可能性のない、「安全な」ドナー組織を特定する必要があります。

この特定作業には、以下の慎重な評価が求められます。
- 家族歴の確認:患者さんの家族の脱毛パターンを詳しく調べ、将来の自身の脱毛傾向を予測します。家族に重度の脱毛が多い場合、安全なドナー領域が限られている可能性があります。
- 頭皮検査:脱毛の兆候を詳細に調べ、見た目では問題なさそうでも、将来的に毛髪を失うリスクがある領域を見極めます。
これらの情報をもとに、医師はドナー部位から適切に毛髪を採取し、移植計画を立てます。適切な評価を行うことで、将来的な移植毛の脱落リスクを大幅に減らすことができます。
ドナー部位評価に影響する要素
ドナー部位の利用計画を立てる際には、さらに以下の要素も考慮されます。
患者の年齢
若年男性ではMPHLが進行中であることが多く、数年にわたって複数回の移植手術が必要になる場合があります。このため、将来のためにドナー髪を「温存」する戦略が重要になります。一方、高齢男性では進行が緩やかになっているため、比較的少ない移植回数で済む場合が多いです。
脱毛のタイプ
MPHLの進行には個人差があります。例えば、Norwood-Hamilton分類(男性型脱毛の進行度を示すスケール)で「タイプI」(額が少し後退しただけ)に留まる高齢男性の場合、広範囲な脱毛(タイプVII)まで進行するリスクは低いため、比較的積極的な移植が可能です。
一方、若年男性の場合は、タイプIから将来的に重度の脱毛へ進行するリスクを慎重に評価しなければなりません。この評価も、家族歴や頭皮検査に基づいて行われます。
ドナー部位の効果的な活用方法
もし脱毛が広範囲に及んでいて、ドナー部位の資源が限られている場合、頭皮縮小術(Scalp Reduction)という外科的処置も選択肢になります。これは、脱毛した頭皮の面積を物理的に縮小する手術です。メリット・デメリットについては、専門医と十分に相談することが推奨されます。

また、移植に使用する毛髪を選定する際には、以下の特性も慎重に評価されます。
髪の密度(Density)
ドナー部位でも部位ごとに髪の密度(1平方インチあたりの毛髪本数)が異なります。密度の高い部分から採取すれば、移植に適した「複数毛包ユニット(Multiple Hair Follicle Grafts)」を得やすくなります。
髪の太さ(Caliber)
毛髪1本の太さは、移植後の「ボリューム感」に直結します。太くしっかりした髪と、細く繊細な髪をバランスよく組み合わせることで、より自然な仕上がりが実現します。
髪色(Color)
移植後の自然な見た目を得るには、ドナー毛髪と受け入れ部位の頭皮の色合いのバランスが重要です。
髪質(Texture)
髪の質感には、ストレートから縮れ毛(Frizzy)まで幅広いバリエーションがあります。髪質に応じた移植設計により、個々の患者さんに最も自然な仕上がりをもたらします。
髪のカール(Curl)
髪のカール(巻き具合)も仕上がりに大きな影響を与えます。特にアフリカ系男性のような強いカールは、移植後も特徴的な外観を保ちやすいです。なお、カールは毛包のカーブ形状によって決まります。
世界的に著名な毛髪移植の先駆者であるWalter Unger, MDは、「特定のドナー特性が他より優れているわけではない」と述べています。最も重要なのは、患者さんの希望と専門医の判断により、最良の結果を得ることです。
ドナー部位採取技術の進歩
近年、ドナー部位からの毛髪採取技術は大幅に向上しています。最新技術を用いることで、従来よりも50〜100%多くの毛髪を採取できる可能性があり、しかもドナー部位の傷跡(スカー)も最小限に抑えることができます。
患者さんは、手術前のカウンセリング時に、使用予定の採取技術について詳しい説明を求めるべきです。ドナー部位の取り扱い方を理解することは、移植先(受容部位)のデザインを理解するのと同じくらい重要です。







