この記事の概要
頭皮にできた傷跡は、見た目だけでなく心にも大きな影響を与えることがあります。交通事故、火傷、病気、あるいは手術後に生じた瘢痕によって髪が失われた場合でも、現代医療の進歩により毛髪再生が可能になりつつあります。本記事では、傷跡のある頭皮に対する毛髪再生治療について、わかりやすく解説します。
傷跡のある頭皮における毛髪再生
頭部は人体の中でも特に外傷を受けやすい部位です。頭部外傷では、しばしば頭皮や眉毛が損傷し、これに伴って毛包(hair follicle)が破壊されることが少なくありません。負傷部位が治癒した後も、その部分には毛髪が生えず、脱毛した状態(瘢痕性脱毛症、scarring alopecia)となることがあります。
頭皮に瘢痕(傷跡)ができる原因
外傷(Injuries)
交通事故は頭皮に外傷を負う代表的な原因の一つです。鋭利な金属片やガラス片によって頭皮が裂傷し、広範囲にわたる瘢痕が残ることがあります。幼少期の事故による頭部外傷も、長年にわたって傷跡を残すことがあります。その他にも、スポーツ事故、工場での労働災害、さらには対人暴力なども、頭皮の外傷の原因となります。
火傷(Burns)

火傷(熱傷、thermal burns)もまた、深く広範な瘢痕を引き起こします。直接火にさらされたり、熱い金属や液体(熱湯など)に触れたりすることで、頭皮に深刻な損傷が生じることがあります。化学薬品による火傷(chemical burns)は、工業用酸(industrial acids)やアルカリ性物質(alkalies)、強力な洗浄液に皮膚がさらされることで起こります。また、放射線火傷(radiation burns)は、X線やガンマ線(gamma rays)などの電離放射線(ionizing radiation)を過剰に浴びることで生じます。
※火災事故により頭皮に火傷を負った41歳男性の実例もぜひご覧ください。
病気(Diseases)
いくつかの炎症性疾患(inflammatory diseases)も頭皮に損傷を与え、瘢痕を残す原因となります。たとえば、円盤状エリテマトーデス(discoid lupus erythematosus)、毛包性扁平苔癬(lichen planopilaris)、重症型乾癬(severe psoriasis)などが挙げられます。顔面や胸部、背中にできる重症ニキビ(acne)が頭皮に発生した場合も、治癒後に瘢痕性脱毛が起こることがあります。
※17歳で頭皮に瘢痕を負った若者のストーリーも紹介されています。
手術(Surgeries)
外科手術による瘢痕も存在します。たとえば、脳神経外科手術(neurosurgery)で頭蓋骨へのアクセスを必要とする場合や、フェイスリフト(face lifting)によって側頭部(temporal region)の毛髪が後退してしまうケースなどです。
自己損傷(Self-Inflicted)
自己による行為が原因となることもあります。例として、タイトな三つ編みやコーンロウ(corn rowing)が長期間続いた場合に生じる瘢痕性脱毛症、あるいは抜毛症(trichotillomania)という強迫的な抜毛行為が挙げられます。その他の脱毛原因についても、ぜひ参考にしてください。
傷跡のある頭皮における毛髪再生治療

外傷や瘢痕により毛包が破壊されると、その部位では自然に毛髪が再生することはありません。
瘢痕が小規模な場合は、髪型によって目立たなくすることが可能な場合もあります。しかし、瘢痕の大きさや位置によってはヘアスタイリングで隠すことができず、その場合は毛髪移植手術(hair transplant surgery)が必要となります。
傷跡のある頭皮に対して毛髪移植は可能か?
答えは「多くの場合、可能」です。一般的には、毛髪移植(hair transplantation)が選択されます。熟練した医師による施術で、傷跡のある頭皮にも毛髪の再生が成功しています。
場合によっては、外科的切除術(surgical excision and repair)により瘢痕の面積を縮小し、その後に毛髪移植を行う選択肢もあります。この方法は、医師と患者が事前に十分に話し合う必要があります。
また、大規模な瘢痕部位に対しては、頭皮拡張術(scalp expansion)、頭皮弁術(scalp flaps)、頭皮縮小術(scalp reduction)といった他の外科的アプローチが検討されることもあります。たとえば、頭皮弁や拡張術を行った後、必要に応じて毛髪移植を追加するという、複合的な手法が用いられることもあります。
傷跡のある頭皮への毛髪再生における重要な考慮点
傷跡のある頭皮への毛髪再生は慎重に行うべき手術です。成功の可否に影響を及ぼすさまざまな要因を十分に検討しなければなりません。主な考慮点は以下の通りです。
慢性炎症性疾患の存在
エリテマトーデス(lupus erythematosus)、扁平苔癬(lichen planus)、限局性強皮症(localized scleroderma)といった慢性炎症性疾患が原因で瘢痕性脱毛症が起こっている場合、病状が活動中であれば毛髪移植は推奨されません。一般的には、最低2年間の病勢不活動(inactive period)を確認した上で手術を行うことが望まれます。
傷跡部位の血流
傷跡部分では血管損傷により血流が不足していることがあり、これが毛髪移植の成否に大きく影響します。毛包は生着および成長のために十分な血流を必要とするため、血流が不十分であれば移植された毛包は生着せず機能しません。血流評価には、血管の通りや健康状態を調べる検査、または「テスト移植」(test grafts)を事前に行う方法があります。
頭皮の厚さ
瘢痕組織は、厚さやもろさ(friability)が異なる場合があります。極端に厚い瘢痕(肥厚性瘢痕、hypertrophic scar)は血管へのアクセスを制限する可能性があり、逆に極端に薄い瘢痕(萎縮性瘢痕、atrophic scar)は毛包の固定が困難になることもあります。これらの場合でも、適切な技術を用いれば対応可能ですが、術者の高い技術力が要求されます。
既存の外科的修復物
頭部外傷や脳神経外科手術後に金属プレート(metal plate)などが埋め込まれている場合、それらが手術の妨げになったり、感染源となったりするリスクがあります。毛髪再生手術を計画する際には、以前の手術記録を確認したり、担当した外科医に問い合わせることが推奨されます。ただし、プレートの存在が絶対的に手術の禁止要因となるわけではありません。
まとめ
適切な検査と診察を経た上であれば、多くの場合、傷跡のある頭皮でも毛髪再生は可能です。万が一、毛髪移植が困難と判断された場合でも、医師と相談しながらウィッグ(hair prosthesis)など他の方法で傷跡をカバーする選択肢も検討できます。







