この記事の概要
事故や病気によって髪を失ってしまった方々が、費用の心配なく毛髪再生手術を受けられる「オペレーション・リストア」という支援制度をご存じですか?この記事では、国際毛髪再生外科学会(ISHRS)が運営するこのプログラムの仕組みや申込方法、対象者の条件、実際の支援内容について、専門知識がない方でもわかるよう丁寧に解説します。
オペレーション・リストアとは何ですか?

オペレーション・リストア(Operation Restore) は、国際毛髪再生外科学会(ISHRS: International Society of Hair Restoration Surgery) が主導する慈善(プロボノ)プログラムです。このプログラムでは、事故・外傷・病気などによって脱毛に苦しむものの、経済的理由から自力で治療を受けられない患者さんを対象に、無償で毛髪再生手術を提供する医師とマッチングを行います。
ただし、遺伝や家系による脱毛(男性型脱毛症・女性型脱毛症など) は対象外となります。
2004年に開始されて以来、約50名の患者 に対して、総額45万ドル(約6,750万円)以上 の手術費および関連費用を無償提供してきました(※為替レート1ドル=150円換算)。2025年現在、世界中から90名以上のISHRSボランティア医師がこの活動に参加しています。
ISHRSとは?毛髪再生医療における役割

ISHRS(国際毛髪再生外科学会)は、1993年に設立された非営利の医学団体であり、現在では世界約60カ国・1,000名以上の医師が会員として所属しています。この学会の主な目的は、医師への継続的な医学教育の提供と、一般の方々への正確で信頼できる脱毛に関する知識の普及です。毛髪再生には、外科的治療(植毛など)と内科的治療(投薬など)の選択肢がありますが、その両面での啓発活動を行っています。
オペレーション・リストアにはどうやって申し込むのですか?
事故・外傷・病気が原因で脱毛し、かつ毛髪再生手術を自費で受けることが困難な方は、ISHRSのウェブサイト(www.ISHRS.org)から申請書をダウンロードし、プロボノ委員会(Pro Bono Committee)に提出できます。審査に通過した方は、地理的条件なども考慮され、ボランティア医師とマッチングされます。
必要に応じて移動費や宿泊費もプログラムが負担するため、遠方の医師とのマッチングも可能です。
なお、多くの場合、患者と医師は事前に面識がありません。そのため、ISHRSは事前に医師への質問や、これまでの症例写真(ビフォー・アフター)を確認する仕組みを整備しており、患者自身が医師を選んだかのように安心して手術を受けられる環境づくりを重視しています。
ヘア・ファウンデーション(Hair Foundation)との関係は?
ヘア・ファウンデーション(Hair Foundation) は、2005年に設立された米国の非営利教育団体(501(c)(3)団体)であり、脱毛や毛髪健康に関する科学的かつ専門的な情報提供を目的としています。2008年6月からは、ISHRSと提携し、企業スポンサーからの資金調達を通じてオペレーション・リストアを支援しています。
外傷や病気による脱毛はどのくらい一般的ですか?また、それらの脱毛は永久的ですか?
脱毛の最も一般的な原因は遺伝(男性型・女性型脱毛症)ですが、外傷や病気による脱毛も決して珍しくはありません。具体的には、やけど(熱傷)、犬に咬まれる事故、交通事故、あるいは脳腫瘍治療のための放射線療法の副作用などが原因となります。
特に、小児期(乳幼児から学童)では、好奇心旺盛な時期であるため、やけどや熱湯による事故が多発します。また、学童期~思春期の子どもたちは、自転車やスケートボード、キックボードなどでの頭部外傷が原因になることがあります。
残念ながら、このような外傷・病気由来の脱毛は恒久的(永久的)であることが多く、身体的にも精神的にも深刻な影響を及ぼします。毛髪再生手術はこうした患者にとって重要な治療選択肢ですが、多くの保険制度では「美容目的」と見なされて補償対象外となっており、経済的ハードルが高いのが実情です。
脱毛が子どもや若者の心理に与える影響とは?
研究によれば、遺伝的な脱毛でも、自己肯定感の低下や自信喪失、生活の質(QOL)の低下といった心理的影響が強く現れます。ましてや事故や病気という予期せぬ出来事によって脱毛した子どもや若年層では、その衝撃は計り知れません。うつ症状や社会不安、対人恐怖などに繋がることも多く、学校生活や日常生活にも大きな支障をきたすケースがあります。
しかし、手術後に「人生が変わった」と語る患者も多く、オペレーション・リストアは、毛髪と共に失われた自己尊厳や自信を取り戻すためのきっかけとして、大きな意味を持っています。
脱毛に悩む人はどのくらいいますか?
世界的に見て、男性の約50%、女性の25%以上が脱毛に悩んでいるとされています。米国だけでも、約8,000万人の男女が遺伝的な脱毛(男性型脱毛症・女性型脱毛症)に苦しんでいます。
一方で、外傷や病気が原因の脱毛の正確な患者数は不明ですが、何千人もの人々が「治療の選択肢があることすら知らずに苦しんでいる」と推定されています。
植毛手術はどのように進化してきたのですか?なぜ主流の治療法になったのですか?
近年の医学的進歩により、ほぼすべての脱毛患者に毛髪再生手術の選択肢が提供できるようになりました。現在の手術は、安全で、自然で、かつ永久的な効果があり、見た目にも手術跡がほとんどわからないほどになっています。
以前のような「プラグ」(人工的な束状移植)は過去のものとなり、現在では、患者自身の後頭部などから採取した毛包を薄毛部位に精密に移植する方法が一般的です。適切な訓練を受けた医師による手術であれば、まったく自然な毛の流れや生え際を再現することが可能です。
オペレーション・リストアを支援するにはどうすれば良いですか?
ISHRSでは、個人や企業からの寄付・協賛を歓迎しています。寄付やプログラム支援グッズ(衣類など)の購入は、ISHRSの公式ウェブサイト(www.ISHRS.org)または電話(1-800-444-2737、630-262-5399)から可能です。
寄付金はすべて「指定寄付(donor restricted)」として管理され、純収益の全額がオペレーション・リストアの活動費に充てられます。また、米国ではこれらの寄付は税控除の対象(charitable donation)になります。
現在、「フレンド・オブ・オペレーション・リストア」として支援を提供している企業には、スターウッド・ホテル&リゾート、フォーシーズンズ・ホテルズ&リゾーツがあります。彼らの協力により、患者の宿泊費や渡航費が無料または割引になることがあります。
さらに、Hair FoundationやExtremeVによる寄付活動やチャリティイベントも、このプログラムの持続に大きく貢献しています。







