頭皮フラップ手術とは?薬や植毛で治らない重度の薄毛に挑む外科的治療法を徹底解説

こめかみ付近の髪を指でかき分け、耳まわりと植毛後に回復したとみられる頭皮の一部が見えている様子。頭皮フラップ手術後の自然な仕上がりや、補助的に行われた自毛植毛の経過例を示唆。

この記事の概要

薬や通常の自毛植毛では改善が難しい、重度の脱毛症に対して選択される「頭皮フラップ手術」。この高度な外科手術は、毛髪がしっかり残っている頭皮部分を物理的に移動させることで、見た目を即座に改善できる手段です。この記事では、有茎フラップや自由フラップ、頭皮拡張術との併用まで含めて、適応条件、手術の流れ、リスク、他の治療法との違いまで、専門的かつ分かりやすく解説します。「薬が効かなかった」「植毛でも足りなかった」…そんな悩みに対する“最後の切り札”を一緒に探ってみましょう。

頭皮フラップ手術とは?―脱毛治療の中でも最も外科的な選択肢

頭頂部の地肌が透けて見える薄毛の男性頭皮の様子。軽度〜中等度の男性型脱毛症(AGA)の進行例として、頭皮フラップ手術の適応外である可能性があるケースのイメージ。

現代の薄毛治療は、内服薬や外用薬、レーザー治療、さらには自毛植毛まで多様化していますが、それらの方法では対応が難しいケースが存在します。特に、広範囲の脱毛や、瘢痕(はんこん)による毛根破壊を伴う症例においては、通常の自毛植毛だけでは十分な毛髪密度や自然な仕上がりを得るのが難しいことがあります。

そうしたケースにおいて、頭皮フラップ手術(scalp flap surgery)は重要な治療選択肢のひとつとなります。これは、頭皮の中で毛髪が密に生えている部分の皮膚(=フラップ)を脱毛部位に物理的に移動させる手術です。通常の自毛植毛では、1本1本の毛根を移植するために多大な時間と労力が必要ですが、フラップ手術では一度に大量の毛髪を移動できる点が大きな特徴です。

自信を取り戻す、最適な植毛

フラップ手術が適応となるケース:すべての薄毛に有効なわけではない

頭を下げて専用の小型マッサージ器で頭皮ケアを行う女性の様子。薬や生活習慣改善など、外科的治療に頼らない薄毛対策の一例として紹介される場面。

頭皮フラップ手術は非常に専門的な技術を要するため、誰にでも適応できるわけではありません。医師は以下のような条件をもとに、患者ごとに適応を慎重に判断します。

  • 前頭部または頭頂部の広範囲にわたる脱毛
  • 後頭部や側頭部に、健康で毛髪が密に生えている頭皮が十分に残っている
  • 皮膚の弾力性があり、フラップの移動・縫合に耐えられる
  • 他の治療法(薬物療法や通常の自毛植毛)では効果が不十分だった

特に、事故や手術後の瘢痕(けがや火傷など)によって毛根が失われた場合には、毛包の再生が望めないため、薬や通常の植毛では治療ができません。そのような場合に、頭皮ごと移動して毛髪を回復させるというこの手術が有効になります。

ただし、軽度〜中等度の男性型脱毛症(AGA)であれば、まずは薬物療法(フィナステリドやミノキシジル)やFUE法による自毛植毛など、侵襲の少ない方法から検討されるのが一般的です。

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頭皮フラップ手術の種類と手術の流れ

頭皮フラップ手術にはいくつかの方法がありますが、中でも特によく使われているのが「有茎フラップ(ゆうけいフラップ:pedicle flap)」という方法です。この手術では、髪の毛がしっかりと生えている頭皮の一部を、毛が抜けてしまった部分に移動させることで、見た目の改善を図ります。

この「フラップ」という言葉は、英語の “flap”(皮膚のひらひらした部分)から来ていて、頭皮の一部を切り取って、まるごと別の場所へ移すことを意味します。移動させる際には、ただ切って貼るだけではなく、血管がつながったままの状態で皮膚を動かすという、非常に繊細で高度な医療技術が用いられます。

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有茎フラップ(Pedicle Flap)とは? ― 血流を保ったまま皮膚を動かす手術

「有茎フラップ(pedicle flap)」の「茎(くき)」という言葉は、まるで植物の葉っぱが茎とつながっているように、頭皮の一部を切り離すときに、血液が流れている部分を“つながったまま”にして残すという意味です。つまり、切り取った皮膚の一部を「根っこ(血管)」で体とつなげたまま、別の場所に動かして固定するのです。

この方法で移動されるのは、たいてい後頭部(こうとうぶ)や側頭部(そくとうぶ)の頭皮です。これらの場所は、男性型脱毛症(AGA)の影響を受けにくく、年齢を重ねても毛が抜けにくいため、丈夫で“生え続ける髪”を持つ安全なエリアとして知られています。

この有茎フラップの手術は、以下のような4つのステップで行われます:

ステップ①:デザインとマーキング

まず最初に、どの部分の頭皮を動かして、どこに移動させるかを決めます。これはまるで建築の設計図を描くような作業です。医師は、髪の毛の流れ(毛流・もうりゅう)や自然な生え際を考慮しながら、フラップ(動かす皮膚)と移植先の位置を慎重に決め、専用のペンで頭皮に印(マーキング)をつけます。

ここで注意するのが、「毛の生える方向」です。たとえば、移植する部分の毛が本来は下向きに生えていたのに、新しく移動させた髪が上向きに生えていたら、不自然に見えてしまいます。したがって、できる限り自然に見えるように計画を立てることが大切です。

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ステップ②:皮膚の切開と剥離(はくり)

次に、マーキングに沿って皮膚を切開(せっかい)し、ゆっくりと浮かせていきます。このとき、血液が通っている部分(茎)は残しておき、完全に切り離さないようにします。まるでコンセントにつながった電化製品のように、「電源(=血流)」が切れない状態を保ったまま、皮膚を動かす準備をするのです。

この作業は非常に細かくて繊細なので、医師の経験や技術力が大きく関わります。

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ステップ③:フラップの移動と固定

剥がしたフラップ(皮膚)を、薄毛の部分や脱毛した部分に移動させます。このとき、ただ乗せるのではなく、頭皮の下に通っている組織の位置や厚さを調整しながら、ずれないようにしっかりと固定します。

この工程で、毛の流れや自然な分け目の見え方にも注意が払われます。医師の手によって、どの方向にどのくらいの角度でフラップを動かせば、もっとも自然に見えるかを考えながら行われます。

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ステップ④:ドナー部位の縫合と閉鎖

最後に、フラップを取り出したもとの場所(ドナー部位)を縫い合わせて閉じる処置が行われます。人によっては、皮膚のつっぱり感やわずかな段差が残ることもありますが、たいていは周囲の毛髪に隠れて目立ちにくくなります。

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有茎フラップ手術のメリットと補足手術の必要性

この有茎フラップ手術の最大の特徴は、なんといっても「手術直後から、そこに髪の毛がしっかり生えている状態が再現される」という点です。ふつうの自毛植毛の場合、移植された毛根が成長して実際に見た目が改善されるまでに数か月以上かかることが多いですが、有茎フラップでは頭皮ごと動かすため、その日から“髪がある見た目”を取り戻すことができるのです。

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ただし、すべてが完璧に自然になるとは限りません。たとえば、以下のような点に注意が必要です:

  • フラップで移動した毛の流れが、まわりの髪と少し違ってしまうことがある
  • フラップとフラップの間に、細い隙間(すきま)や薄く見えるラインができてしまうことがある

こうした仕上がりの調整には、後から1本ずつ毛を移す自毛植毛(follicular unit extraction: FUE)を追加したり、頭皮を縮めて境界をなじませる「頭皮縮小手術(scalp reduction)」を行ったりすることもあります。

このように、有茎フラップは即効性が高く、特定の脱毛症例にとても効果的な外科的手段ですが、同時に、高い専門性と医師の熟練が求められる手術でもあります。したがって、この手術を検討する場合は、事前の十分なカウンセリングと信頼できる専門医の診察を受けることが、なにより大切です。

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自由フラップ(Free Flap)+顕微外科:血管再接合が必要な高度手術

次に紹介するのが、自由フラップ(free flap)と呼ばれる方法です。これは、ドナー部位から皮膚と毛髪を完全に切り離し、血管も断ち切った状態で移植する方法であり、移植先で再度血管をつなぐ「顕微外科手術(microsurgery)」が必要となります。

この方法は、以下のような特長があります:

  • 毛髪の向きや密度を精密にコントロールできる
  • フラップ間の境目がより自然に仕上がる

しかし、形成外科や再建外科の訓練を受けた医師にしか施行できず、美容目的の頭髪治療としては一般的ではありません。実際、多くの植毛専門医はこの技術を提供しておらず、費用も高額になる傾向があります。

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頭皮拡張術(Scalp Expansion)との併用でより広範囲の薄毛にも対応

広範囲に脱毛が進んでいる場合、フラップに使える毛髪付き頭皮の量が不足することがあります。そのような場合に行われるのが、頭皮拡張術(scalp expansion)です。これは、シリコン製の組織拡張器(ティッシュエキスパンダー)を皮下に挿入し、数週間かけて膨らませることで毛髪のある頭皮を物理的に増やす技術です。

この方法の手順は次の通りです:

  1. 拡張器の皮下埋入(麻酔下で行う)
  2. 数週間にわたり少しずつ注入して拡張
  3. 拡張器を取り出し、新たに伸びた頭皮からフラップを作成
  4. フラップを脱毛部位に移動し、縫合して閉鎖

この方法により、ドナー部位を犠牲にせずに十分な面積の毛髪付き皮膚を確保できるため、特に女性の脱毛症や瘢痕性脱毛の治療に適している場合があります。

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手術のリスクと限界:慎重な判断が不可欠

頭皮フラップ手術には、以下のようなリスクや注意点があります:

  • フラップ内の一部が壊死してしまう(血流不足による)
  • 傷跡が目立つ(特に額や側頭部)
  • 毛髪の向きが自然と異なる
  • 術後の腫れ・痛み・感染リスク
  • 完全なカバーには複数回の手術が必要になることも

また、一度行ったフラップ手術は元に戻すことが困難であるため、適応の判断には慎重さが求められます。手術前には必ず、経験豊富で信頼できる医師との綿密なカウンセリングを行い、自分の頭皮の状態・脱毛の原因・期待する結果を明確にしたうえで決断することが大切です。

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まとめ:頭皮フラップ手術は「最後の切り札」になり得る高度技術

頭皮フラップ手術は、毛髪が失われた部分に対して、より自然に近い、密度の高いカバーを即時的に実現できる唯一の手術ともいえる方法です。しかしその一方で、非常に高度な医師の技術と正確な術前計画を要するため、万人向けの治療法ではないという現実もあります。

特に、「薬では効果が出なかった」「他の植毛法では対応できない」など、他の手段が尽きたときの“最後の切り札”として検討する価値があるでしょう。

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記事の監修者


監修医師

岡 博史 先生

CAPラボディレクター

慶應義塾大学 医学部 卒業

医学博士

皮膚科専門医

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