この記事の概要
事故や火傷、手術のあとにできた頭皮の傷跡。そこから髪が二度と生えてこなくなる――それが「瘢痕性脱毛症」です。育毛剤が効かず、「もう髪は戻らない」と悩む方も少なくありません。この記事では、傷跡による脱毛の仕組みから、自毛植毛をはじめとする再生医療の最新情報、さらには日常的にできるカバー法や心のケアまで、医療現場で注目される対処法をわかりやすく解説します。
瘢痕性脱毛症が「治る」かどうかは、原因のタイプによって大きく変わります。やけどや手術痕などで炎症が落ち着いた安定した瘢痕なら、自毛植毛で毛を取り戻せる可能性があります。一方、免疫や炎症で毛包が壊れ続けている活動期のタイプでは、まず皮膚科での診断と治療が先です。効果には個人差があり、断定はできません。
この記事では、「傷跡から髪が生えない」とお悩みの方に向けて、瘢痕性脱毛症の2つのタイプの違い、自毛植毛を検討できる条件、そして手術以外の選択肢までを、専門用語もかみ砕いて解説します。監修はヒロクリニック植毛 統括院長・岡 博史(医学博士/日本皮膚科学会 皮膚科専門医)です。

この記事でわかること
- 瘢痕性脱毛症が「治る」かどうかはタイプで変わること
- 原発性(炎症性)と続発性(外傷・やけど・手術痕)の違い
- 自毛植毛を検討できるのは炎症が落ち着いた安定した瘢痕だけであること
- なぜ皮膚科での診断と原因疾患の治療を先に行うのか
- 手術以外の選択肢(ウィッグ・SMP・ヘアスタイル・心理的ケア)
瘢痕性脱毛症は「治る」のか?まず結論から
結論からお伝えすると、「瘢痕性脱毛症は必ず治る」と一律に言うことはできません。原因のタイプと傷跡の状態によって、経過も治療方針も変わるからです。
瘢痕性脱毛症(scarring alopecia)とは、けがや火傷、手術などで頭皮(とうひ)に傷跡ができ、その部分から髪が生えてこなくなる状態を指します。髪の根元をつくる毛包(もうほう、hair follicle)という器官が壊れてしまうため、通常の薄毛や抜け毛とは性質が異なります。育毛剤(いくもうざい)を使っても回復しにくく、放置しても自然には戻りにくいのが特徴です。
ただし、失われた毛を物理的に補う自毛植毛(じもうしょくもう、hair transplantation)という外科的な方法があります。健康な後頭部などから毛根を含む組織を採取し、脱毛した部分に移す治療です。適応できる条件を満たせば、傷跡の部分に髪を取り戻せる可能性があります。まずは自分がどのタイプなのかを知ることが第一歩。自毛植毛そのものの流れは自毛植毛の基礎知識をまとめた記事もあわせてご覧ください。
瘢痕性脱毛症の2つのタイプ(原発性と続発性)
瘢痕性脱毛症は、原因のちがいで大きく「続発性」と「原発性」の2タイプに分けられます。この違いが、植毛できるかどうかを左右します。
続発性瘢痕性脱毛症(外傷・やけど・手術痕など)
事故・火傷・手術・放射線治療など、外からの明らかな原因で頭皮に傷ができたケースです。原因となる出来事が過ぎ去れば、傷跡そのものは時間とともに落ち着いていきます。たとえば以下のような場面が当てはまります。
- 交通事故やスポーツで頭にけがをした
- 熱湯や火でやけどをした
- 手術で頭皮を縫ったあとに髪が生えない
- 白癬菌(はくせんきん、tinea capitis)などの感染が治ったあとに傷が残った
傷が治っても、その部分の毛包は壊れているため髪は戻りません。ただし炎症がくすぶり続けるわけではないので、傷跡が安定すれば自毛植毛の検討対象になりやすいタイプです。
原発性瘢痕性脱毛症(炎症で毛包が壊れるタイプ)
外傷がなくても、免疫の異常や強い炎症(inflammation)で毛包そのものが内側から壊れていくタイプです。代表的な疾患には次のようなものがあります。
- 扁平苔癬(へんぺいたいせん、lichen planopilaris)
- 円板状エリテマトーデス(discoid lupus erythematosus)
- 中心性瘢痕性脱毛症(central centrifugal cicatricial alopecia)
これらは炎症が「今も進行している」ことがある点が最大の違いです。炎症が活動している状態では、髪を移植してもその毛包まで巻き込まれて抜けてしまうおそれがあります。そのためまず皮膚科で炎症を診断し、鎮静化させる治療が最優先になります。円形脱毛症など一部の疾患による脱毛も、植毛の適応外となることがあり、自己判断は禁物。専門医の診断が欠かせません。
| タイプ | 主な原因 | 炎症の状態 | 植毛の基本的な考え方 |
|---|---|---|---|
| 続発性 | やけど・外傷・手術・放射線 | 原因が去れば安定しやすい | 傷跡が安定していれば検討対象になりうる |
| 原発性 | 扁平苔癬・円板状エリテマトーデスなど | 進行中のことがある | まず皮膚科で炎症を鎮静化。活動期は基本的に適応外 |
自毛植毛を検討できるのは「炎症が落ち着いた安定した瘢痕」だけ
自毛植毛が現実的な選択肢になるのは、炎症が完全に沈静化し、傷跡が長期間安定しているケースに限られます。ここは医療的にとても大切なポイントです。
専門的には、炎症がすっかり収まった状態を「バーンアウト(burned out)」と呼びます。原発性のタイプでは、この落ち着いた状態が一定期間続いていることを確認してから、はじめて植毛を相談する流れになります。炎症がまだ活動している時期に移植を急ぐと、移した毛まで抜けてしまうため、順番を守ることが結果を左右します。
ここで知っておきたい独自の事実があります。日本皮膚科学会の「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版」では、自毛植毛術は男性型脱毛症に対して推奨度B、人工毛植毛術は推奨度Dと位置づけられています。学会が自毛植毛を相対的に推奨し、人工毛植毛は行うべきでないとしている点は、術式を選ぶうえで参考になります。詳細は日本皮膚科学会の診療ガイドライン(PDF)で確認できます。
つまり、瘢痕性脱毛症で植毛を考えるときの順番は、「①皮膚科で診断・原因治療 → ②炎症の沈静化を確認 → ③植毛を相談」という流れ。この段取りを飛ばさないことが、遠回りに見えて確実な近道です。傷跡と術式の相性についてはFUE法と傷跡に関する記事も参考になります。
まずは皮膚科での診断と原因疾患の治療が最優先
瘢痕性脱毛症と疑われたら、最初にすべきは「なぜ脱毛が起きているのか」を専門医と一緒に調べることです。原因によって治療の入口がまったく変わります。

原因ごとの治療の入口は、おおむね次のように整理できます。
- 免疫の異常が原因 → ステロイド薬(steroids)や免疫抑制剤(immunosuppressants)で炎症を抑える
- 細菌感染が原因 → 抗生物質(antibiotics)で治療する
- 白癬(はくせん)などの真菌感染 → 抗真菌薬(antifungals)を使う
これらの治療で炎症を抑え、脱毛の進行を止めることが先決です。原因疾患をそのままにして見た目だけを整えようとすると、脱毛範囲が広がってしまうおそれがあります。自己判断で市販薬に頼らず、皮膚科での診断を受けてください。脱毛症全般の考え方は日本皮膚科学会の皮膚科Q&Aもわかりやすくまとまっています。
瘢痕部の植毛は通常部位より条件が厳しい(血流と生着)
安定した瘢痕に植毛できる場合でも、傷跡は通常の頭皮より条件が厳しいことを正直に知っておく必要があります。過度な期待も、過度な不安も禁物です。
理由は血流にあります。瘢痕組織は正常な皮膚に比べて血流(blood supply)が乏しく、皮膚も固くなっています。移植した毛根が根付くことを「生着(せいちゃく)」と呼びますが、栄養や酸素を運ぶ血流が少ない瘢痕では、通常部位に比べて生着の条件が不利になりやすいのが実情です。生着の程度には傷跡の状態や体質による個人差が大きく、具体的な数値を保証することはできません。
そこで、瘢痕部の植毛では慎重な工夫が重ねられています。代表的なものは次のとおり。
- テスト植毛(test grafting):まず少量の毛を移植し、生着の様子を見てから本格的に進める
- 移植株を1回に詰め込みすぎず、複数回に分けて負担を減らす
- 術後のケアで移植部位の血流と回復をサポートする
私自身、カウンセリングで瘢痕部のご相談を受けるときは、まず「一度で完璧を目指さない」ことをお伝えしています。少しずつ確かめながら進める姿勢が、結果として満足度につながると感じています。植毛で起こりうるリスクや副作用は副作用・リスク管理の記事、成功と失敗の分かれ目は植毛の成功と失敗をまとめた記事で詳しく解説しています。
手術以外の選択肢も広がっています
植毛が今は難しい方や、手術に踏み切れない方にも、傷跡をカバーし、前向きに付き合うための方法はいくつもあります。手術がすべてではありません。
ウィッグ・ヘアピースで自然にカバー
もっとも手軽な方法が、ウィッグ(wig)やヘアピースの活用です。脱毛箇所に合わせてカスタマイズすれば、自然に見せられます。通気性に優れた医療用ウィッグも増え、蒸れやかゆみは軽くなりました。着脱式なので、仕事や外出時だけ使う運用も可能です。ただし定期的なメンテナンスが必要で、長期的にはコストがかさむ点は押さえておいてください。
SMP(スカルプマイクロピグメンテーション)
SMP(Scalp Micropigmentation)は、頭皮に極小の点状色素を入れて、髪があるように見せる技術です。短髪スタイルや傷跡の地肌を目立ちにくくする用途で選ばれます。ただし実際に髪が生えるわけではなく、色素は時間とともに薄れるため数年ごとの再着色が必要。信頼できる専門クリニックで受けることが大切です。
ヘアスタイル・メイクの工夫と心理的ケア
分け目を変える、前髪を厚めにする、頭皮ファンデーションで地肌の色を馴染ませるなど、日常の工夫で目立ちにくくすることも十分に可能です。女性ならヘアアクセサリーでおしゃれを楽しみながらカバーできます。女性特有の薄毛の悩みは女性の薄毛に関する記事もご覧ください。
外見の悩みは、自己肯定感や生活の質(QOL)にも影響します。一人で抱え込まず、同じ悩みを持つ人の体験談を読んだり、カウンセリングを受けたりして、気持ちの面から向き合う視点も大切に。「隠す」だけでなく「受け入れる」道もあることを、覚えておいてほしいと感じています。
傷跡の脱毛に植毛が向いているか、まずは判断だけでもしたい方へ。ヒロクリニック植毛「Natural Pro」では、自毛植毛の無料カウンセリングを受け付けています。費用や仕上がりの不安は、専門医に直接ご相談ください。
ヒロクリニック植毛「Natural Pro」でできること
当院の自毛植毛専門ブランド「Natural Pro」は、低侵襲で自然な仕上がりを大切にしています。傷跡の状態を見極め、無理に手術を勧めないことを方針としています。
瘢痕部のご相談では、まず傷跡が植毛に適した安定した状態かどうかを確認します。炎症が疑われる場合は、皮膚科的な診断や治療を優先していただくようご案内します。順番を守ることが、遠回りに見えて満足のいく結果につながると考えているからです。監修を務める岡 博史 統括院長は、医学博士であり日本皮膚科学会の皮膚科専門医。皮膚の状態と植毛の両面から判断できる体制を整えています。効果や適応には個人差があり、まずは診察でお一人おひとりの状態を確認します。
よくあるご質問(FAQ)
瘢痕性脱毛症と植毛について、相談の場でよくいただく質問をまとめました。
Q1. 瘢痕性脱毛症は自然に治りますか?
傷跡部分の毛包が失われている場合、その部分の髪が自然に生えてくることは難しいのが実情です。ただし原発性のタイプでは、皮膚科での治療によって炎症を抑え、脱毛の進行を止められることがあります。回復の程度には個人差があるため、まずは診断を受けてください。
Q2. やけど跡や手術痕にも植毛できますか?
炎症が落ち着き、傷跡が安定していれば検討の対象になります。逆に炎症が活動している時期は、先に皮膚科での治療が必要です。植毛が可能かどうかは、傷跡の状態を医師が診察したうえで判断します。
Q3. 瘢痕部の植毛は生着しにくいと聞きました。本当ですか?
瘢痕は血流が乏しいため、通常の頭皮より生着の条件が不利になりやすいのは事実です。生着の程度には個人差が大きく、具体的な数値を保証することはできません。テスト植毛などで慎重に確かめながら進める方法があります。
Q4. 費用はどれくらいかかりますか?
費用は移植する範囲や株数、術式によって変わります。傷跡の状態で必要な工夫も異なるため、一律の金額はお伝えできません。無料カウンセリングで状態を確認したうえで、お見積りをご案内します。
Q5. 手術が怖いです。ほかに方法はありますか?
ウィッグやSMP、ヘアスタイルの工夫など、手術に頼らない選択肢があります。今は準備段階として非手術の方法でカバーし、傷跡が安定してから植毛を考える進め方も可能です。無理のない範囲で選んでください。
「自分の傷跡は植毛できるのか」を知りたい方は、まず専門医の診察へ。ヒロクリニック植毛「Natural Pro」では、自毛植毛の無料カウンセリングを受け付けています。費用や仕上がりの不安は、専門医に直接ご相談ください。
まとめ:タイプを見極め、順番を守れば道はある
瘢痕性脱毛症は「毛が生える場所そのものが失われる」という難しさを抱えます。それでも、タイプを見極めて正しい順番で対処すれば、選べる道は残されています。
やけどや手術痕などで炎症が落ち着いた安定した瘢痕なら、自毛植毛で髪を取り戻せる可能性があります。一方、炎症が進行しているタイプは、まず皮膚科での診断と原因治療が最優先。植毛はその後の選択肢です。効果や生着には個人差があり、断定はできません。だからこそ、傷跡の状態を専門医に正確に診てもらうことが出発点になります。日本皮膚科学会の一般公開ガイドラインもあわせて確認しながら、あなたに合ったアプローチを一緒に探していきましょう。
【監修】ヒロクリニック植毛 統括院長・岡 博史(医学博士/日本皮膚科学会 皮膚科専門医/AGA外来 診療部長)。【発行】ヒロクリニック植毛編集部(医療法人社団福美会)。本記事は日本皮膚科学会「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン」等の公的情報をもとに作成しています。治療の適応や効果には個人差があります。施術を検討される場合は、必ず医師の診察を受けてください。
略歴
- 1996年 慶應義塾大学医学部 卒業
- 2004年 慶應義塾大学 医学博士号 取得
- 2005年 慶應義塾大学 皮膚科学教室 助手
- 2008年 ヒロ皮フ形成クリニック 開業
- 2009年 医療法人社団福美会 理事長
- 2015年 医療法人社団福美会 理事
資格・所属
- CAPラボディレクター
- 日本皮膚科学会 皮膚科専門医
- 日本医師会 産業医
- 東京衛生検査所 指導監督医
この記事は、ヒロクリニック植毛の編集・監修体制にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。




