この記事の概要
日々のシャンプーやブラッシング時に「最近、抜け毛が増えたかも?」と心配になることはありませんか? 実は、多くの抜け毛は毛髪の自然なサイクルによる一時的な現象です。しかし、なかには注意が必要なサインも隠れています。この記事では、誰にでも起こりうる一時的な脱毛の原因や、気をつけるべきポイント、対処法までをわかりやすく解説します。髪の健康が気になる方は、ぜひ参考にしてみてください。
一時的な脱毛:一時的でも心配になることがあります
私たちは、乳児期から高齢期に至るまで、日々髪の毛を失っています。これは、毛包(hair follicle)が「成長期(anagen phase)」「退行期(catagen phase)」「休止期(telogen phase)」というサイクルを繰り返す、自然な生理現象によるものです。(詳しくは「毛髪成長サイクル(The Hair Growth Cycle)」の解説をご参照ください。)

毛包がこの成長期・退行期・休止期の一連のサイクルを一周するには、数年を要します。通常、ひとつの毛包は一生の間に10回から20回このサイクルを繰り返すとされています。頭皮上の毛包のうち、退行期にあるものは常に1%未満と非常に少数であり、新たな成長期の始まりとともに古い毛が抜け落ちます。
健康な「フサフサした髪」の状態でも、正常な退行期の働きによって、1日に最大100本以上の髪が自然に抜けることがあります。しかし、1日に100本を大きく超える量の脱毛が続く場合は、毛髪サイクルの異常が疑われることもあります。

なお、毛包は個々に独立して活動しており、隣接する毛包同士で動きを同期させるわけではありません。ただし、同じ成長制御信号(growth control signals)には共通して反応します。
このような自然なサイクルによる脱毛は、通常、本人にとって「いつもの抜け毛の量」として認識されます。そして、数回のサイクルを経るうちに、失った毛は新たな成長期に入った毛包から再生されるため、結果的に「一時的な脱毛」で済むことが大半です。
しかし、ブラッシングや枕、衣服などに付着する抜け毛が急増すると、「これは本当に一時的なのか?」と不安になることがあります。そして、「もしかして永久脱毛の始まりでは?」「自分はハゲてきているのでは?」と心配になるのです。
男性にとって特に大きな不安要因、男性型脱毛症(Androgenetic Alopecia)
このような心配は、特に近親男性に脱毛歴がある男性にとって深刻です。男性型脱毛症(androgenetic alopecia、通称「AGA」)は、遺伝的要因に基づくものであり、家族内に遺伝する傾向があります。(詳しくは「男性型脱毛症(Androgenetic Alopecia)」についての解説をご覧ください。)
家族に男性型脱毛症の人がいる男性は、日々の抜け毛の増加に対して一層敏感になりがちです。しかし、家族歴があったとしても、自身の抜け毛がすぐに「AGAの初期症状」とは限りません。実際、多くの男性は、髪の毛が実際に薄くなり始めるまで異常な抜け毛には気づかないことが多いのです。
男性型脱毛症は確かに遺伝的素因を持つものですが、その遺伝形式は完全には解明されていません。つまり、「遺伝子を持っている=必ず発症する」とは限らず、将来の進行を正確に予測することは困難です。
とはいえ、抜け毛の量が通常よりも多い状態が長期間続く場合は、やがて頭髪の目立つ減少、すなわち典型的な「ハゲ」の症状が現れる可能性が高くなります。
このような不安を抱える男性は、実際に目に見える大量の脱毛が起きる前に、毛髪専門の医師(physician hair restoration specialist)に相談することをおすすめします。早期に専門医の診察を受けることで、原因を特定し、必要に応じて脱毛抑制または進行予防のための治療を開始することが可能です。(詳しくは「医療による毛髪再生(Medical Hair Restoration)」の項目をご覧ください。)
一時的な脱毛のその他の原因
一時的な脱毛には、男性型脱毛症以外にもさまざまな原因があります。数週間から数ヶ月にわたって脱毛が続くと、本人にとっては「永続的な脱毛ではないか」と疑念を抱かせることもあります。
このようなケースでも、毛髪専門医への相談により、原因が特定され、適切な対策が講じられるため、安心感を得ることができます。
甲状腺機能低下症(Hypothyroidism)
甲状腺ホルモンの不足(甲状腺機能低下症)が発症すると、しばしば一時的な脱毛が見られます。原因であるホルモン異常を治療すれば、毛包のサイクルは正常に戻り、脱毛量も通常レベルに回復します。
貧血と鉄欠乏
特に、月経過多の女性や、出産後に鉄分補給が不足した女性において、重度の貧血(anemia)が一時的な脱毛を引き起こすことがあります。この場合も、適切な医療処置や鉄剤補充療法によって改善が可能です。
妊娠と出産後のホルモン変動
女性は、妊娠中または出産後にも一時的な脱毛を経験することがあります。妊娠中は、胎盤から分泌される高レベルのエストロゲン(placental estrogen)によって、毛髪は成長期に留まりやすくなります。しかし、出産後にエストロゲン濃度が急激に低下すると、多くの毛包が一斉に退行期へ移行し、脱毛が増加するのです。
この妊娠に伴う脱毛変化は通常一時的ですが、出産後数ヶ月を経ても脱毛が続く場合には、ホルモンバランスの異常が潜んでいる可能性があり、専門的な診察が必要となります。
極度の身体的・精神的ストレスや高熱
極度の肉体的または精神的ストレス、あるいは高熱も、一時的な脱毛の原因となることがあります。これらの要因によって、通常より多くの毛包が退行期へと移行する「異常脱毛」が引き起こされることがあるのです。
例えば、高熱や外傷の後数週間経ってから発症する脱毛症は「休止期脱毛症(Telogen Effluvium)」と呼ばれます。これは、通常の髪よりも細く短い「縮小毛(miniaturized hair)」が増える特徴を持っています。
さらに、抗がん剤治療や強力な化学物質に曝露された場合には、ほぼ即座に毛が抜け落ちる「成長期脱毛症(Anagen Effluvium)」が起きることもあります。
これらストレスや発熱による毛周期の変化は、基本的に一時的なもので、時間とともに自然に回復する傾向があります。しかし、一時的であっても本人にとっては外見上大きな問題となりうるため、深刻に捉えられることも少なくありません。
また、抗がん剤などによる一時的脱毛も、本人にとって大きな精神的・審美的負担となり得ます。
一時的脱毛に対する対処法
どのような原因であれ、外見上気になる一時的な脱毛に悩まされた場合は、毛髪専門医に相談することが有効です。必要に応じて、ウィッグやヘアプロテーゼ(hair prosthesis)といった一時的な対処法を提案してもらえることもあります。







