体毛で薄毛をカバーできる?ひげや胸毛を使った最新自毛植毛の実際とは

髪を持ち上げてうなじを見せた女性の後頭部。うなじ部分に見える産毛(軟毛)は、体毛移植に使われることもある毛の例。

この記事の概要

「後頭部の毛が足りないから、もう植毛はできない」と諦めていませんか?実は今、ひげや胸毛などの“体毛”を使って薄毛をカバーする「体毛移植(Body Hair Transplant)」が注目されています。この記事では、ひげ・胸毛・脚毛などを使った体毛植毛の可能性や限界、日本人にとってのメリット・注意点をわかりやすく解説します。

体毛移植とは?自毛植毛の最後の砦

笑顔の女性が腕を交差させ、右手の人差し指にあごを乗せてポーズをとる様子。清潔感のある印象は、自毛植毛後の自然な仕上がりへの関心を想起させるビジュアル。

自毛植毛とは、自分自身の髪の毛を薄毛の部位に移植する再生医療のひとつで、自然な仕上がりと長期的な効果が期待できる治療法です。通常は、後頭部や側頭部の脱毛の影響を受けにくい部位の毛髪をドナー(毛包の提供源)として使用します。

しかし、重度の男性型脱毛症(AGA)により後頭部の毛量が著しく少ない場合や、すでに複数回の植毛を行ってドナー部の毛を使い切ってしまった場合、次の手として注目されるのが「体毛移植(Body Hair Transplant, BHT)」です。

体毛移植では、ひげ(Beard)や胸毛(Chest hair)、腕毛、脚毛などの体毛をドナーとして利用します。特に欧米では、頭髪ドナーが枯渇した重度の脱毛症例に対し、“最後の選択肢”としてBHTが行われることがあります。一方、日本国内では体毛の毛質や量、見た目の自然さに対する懸念から、今もあまり一般的ではありません。

この記事では、日本人におけるBHTの有効性、各ドナー部位の特徴、成功率を高める工夫、そして最も重要な「テスト植毛」について、一般の方にもわかりやすく解説していきます。

自信を取り戻す、最適な植毛

なぜ日本人にはBHTが難しい?

強い日差しを手で遮る女性。黒く艶のある髪と白い肌のコントラストは、日本人特有の太く色素の濃い直毛の特徴を示す印象的なビジュアル。

日本人の髪は、東アジア人全般に共通する特徴として、「太く」「黒く」「直毛である」ことで知られています。毛髪の構造的にも、キューティクル層(毛表皮)が厚く、白人と比べてキューティクル細胞がより緻密に並んでいます。そのため、物理的な強度が高く、引っ張りや摩擦への耐性に優れているという特性があります。

さらに、毛の太さ(断面積)は遺伝的な要素、特に「ectodysplasin A receptor 遺伝子(EDAR遺伝子)」の変異によって大きく決定されることが、近年の研究で明らかになっています。このEDAR変異は東アジア人に高頻度で見られ、髪を太く強く、直毛にする作用があるとされています。

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こうした遺伝的および構造的な特徴により、日本人の頭髪は非常に太く、強く、真円に近い断面を持つ直毛であり、自毛植毛のドナーとしては理想的な性質を備えています。

しかし一方で、日本人の体毛、特に胸毛や四肢の毛は、欧米人と比べて全体的に量が少なく、毛が細くて柔らかく、毛根も浅い傾向があります。また、体毛の多くは「軟毛(vellus hair)」に分類されるような性質を持っており、移植後に太く成長しにくいという難点があります。これらの毛は毛周期(ヘアサイクル)も短く、移植に適した「成長期(Anagen phase)」の割合が低いため、術後の生着率にもばらつきが出やすくなります。

比較として、欧米系の男性は胸毛や腹部の体毛が濃く密に生えており、BHTのドナー資源として安定して使用できるケースが多く見られます。中東・南アジア系の男性では、ひげや胸毛が非常に濃く、毛の太さや密度にも優れるため、体毛移植における成功例も多く報告されています。

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これに対して、日本人を含む東アジア系では、腕毛や脚毛において軟毛の割合が高く、そもそも移植素材として利用できる毛の総量が限られています。

さらに日本人特有の「仕上がりの自然さ」を重視する傾向も、体毛移植に対する慎重な姿勢を強めています。太さや質感が周囲の頭髪と合わない毛を混在させると、髪型全体に違和感が出るリスクが高くなるためです。

このような背景から、日本ではBHTはあくまで補助的・例外的な選択肢とされており、基本的には後頭部などの頭髪ドナーの活用が第一選択となっています。

● ひげ(Beard)

最も信頼できる体毛ドナーとして挙げられるのが「ひげ」です。ひげは成長期(Anagen phase)にある割合が高く、毛が太くコシがあるため、生着率(graft survival rate)も非常に高め。成功例では60〜100%という報告もあります。

ただし、ひげは頭髪よりも硬く縮れやすいため、移植部位との相性を考慮したデザインが求められます。

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● 胸毛(Chest Hair)

胸毛は個人差が大きく、成長期の割合が30%程度と少なめ。毛の長さも最大で5cm前後と短く、移植後のカバー力や生着率に不安が残ります。成功率は25%前後、場合によっては発毛しないことも。

● 腕毛・脚毛(Arm/Leg Hair)

これらは細く柔らかい軟毛(vellus hair)に近く、色も薄め。成長期の割合も低く、採取しても見た目に変化が出にくいため、ドナーとしてのポテンシャルは高くありません。生着率も3〜5割程度とされています。

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非ひげ系体毛ドナーの生着率が低い理由

  1. 毛周期の違い:頭髪の約85%が成長期であるのに対し、体毛の多くは休止期(Telogen phase)にあります。休止期の毛を移植しても発毛しないことが多く、無駄打ちのリスクが高まります。
  2. 毛質・毛量の不足:体毛は本数自体が少なく、細いために術中の乾燥やダメージに弱く、生着率を下げる要因となります。
  3. 長期的な安定性の欠如:軟毛は男性ホルモンの影響を受けにくく、そもそも成長能力が限られている可能性があるため、一時的に生えても長期的に維持されないことがあります。
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生着率の目安

  • 頭髪ドナー:85〜95%
  • ひげドナー:60〜100%(平均80%)
  • 胸毛・腕毛・脚毛:25%前後(0〜50%)

このように、ひげを除いた体毛ドナーの生着率は不安定です。そのため、いきなり大規模な移植に踏み切るのではなく、まずは「テスト植毛」を行うのがセオリーです。

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テスト植毛とは?成功率を見極める“お試し移植”

テスト植毛とは、ひげや胸毛などの体毛を少量(30〜100株ほど)移植し、6ヶ月〜1年ほど経過を観察することで、自分の体毛が移植に適しているかどうかを事前に確認する方法です。

テスト植毛で確認できるポイントは以下の通りです:

  • 実際にどの程度の毛が生えてくるか
  • 生えた毛が周囲の頭髪となじむか(太さ、色、クセなど)
  • 毛包の強さやダメージ耐性
  • 医師の技術や対応への信頼性

これらを事前に確認することで、大規模な移植後に「思ったより生えなかった」「仕上がりが不自然だった」といった後悔を回避できます。まさに、“進むべきか引くべきか”を見極めるための安全装置といえるでしょう。

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成功率を高める技術的工夫

● 成長期毛の選別(ウェットシェーブ法)

ドナー部位を事前に深剃りし、数日後に伸びてきた毛のみを採取することで、成長期の毛包に絞って移植する方法。これにより、成功率を85〜95%まで高められるとされています。

● 密度の最適化

体毛は頭髪よりも1本あたりのボリュームが少ないため、無理に密度を上げると発育を妨げてしまいます。経験豊富な医師は、適度な間隔を保って移植し、必要に応じて半年〜1年後に追加植毛を行います。

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再生医療「ACell」の併用

ACell(エーセル)は、豚の膀胱由来の細胞外マトリックス(Extracellular Matrix, ECM)製剤で、創傷治癒を促進し、毛包の活性化にも効果があるとされています。特に胸毛グラフトの生着率が向上したという報告もあります。ただし、国内では未承認のため、使用できるクリニックが限られている点には注意が必要です。

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術後の経過と注意点

体毛移植の術後は、通常の自毛植毛と同様、まず移植毛が一時的に抜け落ち(ショックロス)、その後数ヶ月かけて再び発毛します。多くの方は3ヶ月目から発毛を実感し始め、6ヶ月で大きな変化が現れます。最終的な仕上がりの確認は12ヶ月後が目安ですが、体毛の場合は12〜24ヶ月の長期的な観察が推奨されます。

発毛を促進するために、ミノキシジルの外用やPRP療法(多血小板血漿注入)、成長因子注射といった補助治療を組み合わせることも有効です。

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まとめ:体毛移植は「補助的な選択肢」として

体毛移植は、頭髪ドナーが足りないときの“最後の手段”として、有効な選択肢になり得ます。特にひげは、体毛の中でも生着率が高く、補助的に活用できる優れたドナーです。

しかし、それ以外の体毛は質や量の問題、生着の不確実性などから、基本的には頭髪ドナーが使える限りそちらを優先すべきです。体毛移植を検討する場合は、まずはテスト植毛を行い、自分の体毛が本当に移植に向いているかどうかを見極めることが非常に重要です。

焦らず、信頼できる専門医と相談しながら、一人ひとりに合った治療方針を慎重に立てていくことが、後悔しない結果につながるでしょう。

自信を取り戻す、最適な植毛

記事の監修者


監修医師

岡 博史 先生

CAPラボディレクター

慶應義塾大学 医学部 卒業

医学博士

皮膚科専門医

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