女性の薄毛はなぜ起こる?原因と対策をやさしく解説|医師が教える安心の脱毛ガイド

青い浴衣を着た女性が、整えられた美しい髪を揺らしながら空を見上げる様子。髪の健康と内面のゆとり、ライフスタイルのバランスが髪の美しさに影響することを象徴するシーン。

この記事の概要

最近、「髪のボリュームが減った気がする」「抜け毛が気になる」と感じていませんか?実は、女性の薄毛は特別なことではなく、多くの方が同じ悩みを抱えています。このコラムでは、薄毛の主な原因やよく見られるタイプ、早めに取るべき対応方法について、専門医の視点からわかりやすくご紹介します。

女性の薄毛と遺伝的素因について

女性の薄毛(脱毛症)は、男性の脱毛と異なる特徴を持ち、さまざまなパターンで現れることがあります。もしあなたが髪のボリュームの減少や抜け毛に悩んでいるなら、まずは毛髪専門の皮膚科医(トリコロジスト:trichologist)に相談することが重要です。



女性の薄毛は決して特別なことではありません:多くの人が同じ悩みを抱えています

自宅で薄毛ケアの情報を調べる若い女性が、ソファに座って笑顔でパソコンを操作している様子|女性のための薄毛治療・自宅ケア特集コラム用イメージ

「最近、髪の毛がよく抜ける気がする」「分け目が広がってきたような気がする」「前よりボリュームが減って、髪型が決まらない」――こんな風に感じたことがある女性は、あなただけではありません。実は、女性の脱毛(薄毛)は、決して珍しいものではありません。

私たちは、薄毛というとどうしても「男性特有の悩み」というイメージを持ちがちです。テレビや雑誌で目にするのは、頭頂部がはっきり見える男性や、M字型に後退する生え際など、典型的な男性の脱毛パターンばかり。そのため、女性が髪の悩みを感じたとき、「どうして自分が?」「病気なのかも?」と、不安に陥ってしまうことが多いのです。



驚きと不安:髪が抜け始めた女性が最初に感じること

女性が薄毛に気づくとき、多くの場合、最初に感じるのは「驚き」です。「まさか自分が髪の毛に悩むことになるなんて」と、信じられない気持ちになります。

次にやってくるのは「不安」です。
「これは一時的なもの?それとも進行性のもの?」
「原因は何?ストレス?ホルモン?年齢のせい?」
「もう元には戻らないのかもしれない……」

こうした疑問や不安に悩まされる女性は少なくありません。しかし、ここで知っておいていただきたいことがあります。それは、女性の脱毛症の多くは、正しい原因を知り、適切な対処をすれば改善できる可能性が十分にあるということです。



女性の脱毛は、男性とちがって見た目では分かりづらい

男性の脱毛は、「あ、薄くなってる」とすぐに周囲が気づくほど、見た目に変化がはっきり出ます。前髪の生え際が後退するM字型、頭頂部の地肌が見えてくるO字型など、誰が見ても「脱毛だ」とわかる特徴的なパターンがあるからです。

一方、女性の脱毛症(female pattern hair loss)は、必ずしもこのようなわかりやすい進行パターンを示すとは限りません。むしろ、以下のようなあいまいで見分けにくい変化から始まることが多いのです。

  • 髪全体がなんとなくボリュームダウンしてきた
  • 分け目が少しずつ広がってきた
  • 髪の一本一本が細くなった気がする
  • シャンプーやドライヤー時に抜け毛が増えている気がする

このような「なんとなくの変化」は、本人以外には気づかれにくく、自分でも「気のせいかも」と思ってしまいがちです。しかし、こうした初期サインを見逃さず、できるだけ早い段階で専門医に相談することが、症状の悪化を防ぐカギになります。



女性の脱毛症は年齢や遺伝と無関係に起こることも

男性の脱毛症(男性型脱毛症)と異なり、女性の脱毛症(女性型脱毛症:female pattern hair loss)は、20代から50代以降までのあらゆる年齢で発症する可能性があります。また、明確な家族歴(遺伝的背景)や典型的なパターンを伴わない場合もあります。例えば、出産や病気などの一時的な身体的ストレスに伴う「一過性の脱毛(脱毛性休止期:telogen effluvium)」と、長期的な進行性の脱毛とを見分けるのは困難です。

そのため、自己判断は避け、専門医による正確な診断を受けることが推奨されます。



自己診断は危険:専門医による診断が不可欠

女性の脱毛は、明確な「M字ハゲ」や「頭頂部の禿げ上がり」など、男性のような典型的な脱毛パターンを示すことは稀です。したがって、自己判断に頼ると誤ったケアや不適切な治療につながる可能性があります。

女性の薄毛の多くは、以下のように不定型であるため、経験豊富な専門医による評価が不可欠です:

  • 頭頂部や後頭部の広範囲にわたるびまん性(diffuse)な脱毛
  • 生え際を残しながら前方に進行する脱毛
  • 前頭部の生え際にも影響を与えるパターン



女性にも見られる「アンドロゲン性脱毛症(AGA)」とは?

アンドロゲン性脱毛症(androgenetic alopecia)とは、毛根がアンドロゲン(androgens:男性ホルモン)に対して遺伝的に過敏になることで、毛髪が徐々に細く短くなっていく現象を指します。男女問わず発症する可能性があり、遺伝的素因が影響します。

ただし、女性のAGAは、男性のように「完全な禿げ頭」になることは稀で、下記のような特徴を示すことが多いです:

  • 脱毛範囲は広く、均一に薄くなる
  • 生え際は比較的保たれる傾向がある
  • 毛髪の「直径」が不均一に細くなる(ミニチュア化:miniaturization)

女性の場合、毛髪ミニチュア化の程度や範囲が一定ではなく、ホルモン変化(例:閉経)などと複合的に関係するケースも多いため、単にミニチュア化の有無だけでは診断できません。



若年女性でも発症することがある

思春期の早期に発毛が始まった女性では、20代の早い時期から脱毛が始まることがあります。このようなケースでは、早めの診断と対応が、将来の進行性脱毛を防ぐ鍵となります。



アンドロゲン性脱毛症以外に多い女性の脱毛原因

女性の脱毛は、AGA以外の原因によって引き起こされることも多く、以下のような疾患や心理的要因が関与している場合があります:

1. トリコチロマニア(抜毛症:trichotillomania)

自身の毛髪を無意識に引き抜く強迫行動により、局所的な脱毛斑が生じる精神疾患です。心理的または感情的ストレスが背景にある場合が多く、精神療法と並行して毛髪治療を行うことが重要です。

2. 円形脱毛症(alopecia areata)

自己免疫疾患が関与すると考えられ、脱毛範囲は小さな円形から頭部全体に及ぶこともあります。急激な脱毛が見られる場合には、皮膚科での診断と治療が必要です。



3. 三角形脱毛(temporal triangular alopecia)

幼少期から見られる、こめかみ付近の局所的な脱毛です。原因は未解明で、軟毛のまま残存する毛髪が見られることもあります。外科的または内科的治療が適用される場合があります。

4. 瘢痕性脱毛症(cicatricial alopecia)

頭皮の炎症や外傷が原因で毛包が破壊され、瘢痕(傷跡)によって毛髪が再生しなくなる脱毛症です。アフリカ系女性に多く見られ、髪を強く引っ張る編み方やスタイリングが原因となることがあります。また、閉経後の女性では、頭皮の慢性炎症が引き金となる場合もあります。



5. 休止期脱毛(テロゲン脱毛:telogen effluvium)

髪の成長サイクルの「休止期」に大量の毛髪が移行し、一時的に抜け毛が増える現象です。原因はストレス、ホルモン変化(出産や更年期)、栄養不良、薬剤性(抗うつ薬など)など多岐にわたります。

6. ルーズアナジェン症候群(loose anagen syndrome)

主に金髪の子どもに多く見られる先天的な脱毛症で、髪が毛包にしっかり固定されず、ブラッシングなどで容易に抜けてしまいます。思春期にかけて自然に改善することもあります。



正確な診断と適切な治療が鍵

女性の脱毛は、原因により治療法が大きく異なります。まずは、毛髪疾患を専門とする皮膚科医による診察を受け、正確な診断と原因の特定を行うことが重要です。

その上で、次のような選択肢が検討されます:

  • 内服治療(ホルモン療法、ミノキシジルなど)
  • 外用薬
  • ライフスタイル・栄養指導
  • 外科的アプローチ(自毛植毛など)



ルートヴィヒ分類(Ludwig Classification)による女性型脱毛症の評価

女性のアンドロゲン性脱毛症は、ルートヴィヒ分類(Ludwig classification)によって以下の3段階に分類されます:

  • ステージ1:頭頂部の髪の分け目がやや広がる程度の軽度な脱毛
  • ステージ2:頭頂部の脱毛が明らかに広がる中等度の進行
  • ステージ3:頭頂部がほとんど見えるほどの高度な脱毛

これにより、治療計画を立てる際の指標となります。



参考文献

  • Olsen EA (編). Female Pattern Hair Loss: Clinical Features and Potential Hormonal Factors. J Am Acad Dermatol. 2001; 45:S70-S80.
  • Olsen EA. Hair Disorders. In: Freedberg IM et al., eds. Fitzpatrick’s Dermatology in General Medicine. 5th ed. New York: McGraw-Hill; 1999:729-751.



記事の監修者


監修医師

岡 博史 先生

CAPラボディレクター

慶應義塾大学 医学部 卒業

医学博士

皮膚科専門医

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