この記事の概要
植毛手術は「髪を増やす」だけではありません。自然で美しい仕上がりを実現するには、最後の工程である「グラフト移植」がカギを握ります。本記事では、専門的な視点とわかりやすい解説で、グラフトとは何か、移植がどのように行われるのか、そして術後のケアまで丁寧にご紹介します。
植毛の最終工程:グラフトの移植とは

植毛手術の最終段階にして、美容的に最も重要な工程がグラフト(graft)の頭皮への移植です。
この「グラフト」とは、頭皮の後頭部などから採取された1本以上の毛包(hair follicle)を含む組織ユニットのことで、脱毛が進行した部位に移植されます。
この移植は外科的処置であり、患者自身が術中にその様子を直接見ることはできません。移植後に包帯が外されて初めて、結果を目にすることになります。
グラフト移植中に何が行われるのか?

信頼できる医師との事前のコミュニケーションが取れていれば、患者は手術中に何が行われているかを理解できているはずです。不安や疑問がある場合は、毛髪再生の専門医(hair restoration specialist)に遠慮なく尋ねましょう。
この処置中、患者は通常、意識がある状態(局所麻酔)で行われます。痛みは局所麻酔(local anesthesia)で制御され、必要に応じて抗不安薬(anti-anxiety medication)が用いられることもあります。
グラフト移植に至るまでの準備
グラフトの移植に先立ち、以下の準備が行われます:
- 医師との初回カウンセリング:植毛を毛髪再生方法として選択する決断(詳細は「外科的な植毛治療」参照)
- 医学的評価:病歴、家族歴、身体検査、必要に応じた血液検査、頭皮診察などを通じて脱毛の原因を特定
- 患者とのすり合わせ:
- 植毛技術の詳細説明
- 患者が期待する仕上がりの確認
- 年齢や脱毛の進行度などを踏まえた現実的な結果のすり合わせ
- 植毛技術の詳細説明
- 事前プランニング:手術回数や移植部位、デザインなどの詳細設計
- ドナー毛髪の採取:男性型脱毛症(androgenetic alopecia)の影響を受けない後頭部などの「ドナー部位(donor site)」から、将来的にも残る毛包を採取
グラフトの準備工程
ドナー部位から採取された毛包は、専門の技術者(テクニシャン)によって移植用グラフトとして丁寧に加工されます。事前のプランに基づき、以下のような構成に分けられます:
- マルチ毛包グラフト(multi-follicular graft):複数の毛包を含む大きめの単位
- マイクログラフト(micro-graft):2〜3本の毛包を含む小さなユニット
- 単毛包グラフト(single-follicle graft):1本の毛包のみ
- 毛包単位グラフト(follicular unit):自然に3本程度の毛が束になっている構造
これらの異なるグラフトは、頭皮の部位ごとに美容的な目的に応じて使い分けられます。たとえば、生え際の繊細なラインには単毛包グラフトが適し、頭頂部の密度確保には複数毛包のグラフトが用いられます(詳細は「植毛手術と生え際のデザイン」参照)。
グラフト移植の実際
この工程は、外科的技術と審美眼(esthetic judgment)を兼ね備えた専門医によって行われます。グラフトは、頭皮に作られた微細な切開(incisions)に1つずつ丁寧に挿入されます。1回の手術で数百〜数千本の毛包が移植されることもあります。
切開の重要ポイント:
- 深さの調整:毛包に血流を供給できるよう、適切な深さが必要
- 角度の調整:自然な毛流れに沿って毛が生えるよう、角度を考慮
- サイズの調整:グラフトのサイズに合った切開でなければならない
- 方向の調整:元の髪の流れに一致するような配置が必要
これらの切開は、極細のメス(blade)や針(needle)、またはパンチ(punch)と呼ばれる器具で行われます。
手術中の管理項目:
- 出血のコントロール
- 麻酔の効果の維持
出血を抑えるため、手術前には以下のような対策が取られます:
- 抗凝固薬(anticoagulants)(例:アスピリン、ワルファリン)やNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)の一時中止
- 高血圧、肝疾患、出血傾向などの持病がある場合は事前に医師が対策を講じます
手術中に出血が生じた場合は、圧迫止血や血管収縮薬の局所投与によって制御されます。また、局所麻酔の効果が薄れると出血とともに痛みが出やすくなるため、麻酔の再投与が必要になることもあります。
グラフト移植後に起こること
術後1週間は、以下の管理が極めて重要です:
- 痛みや不快感のコントロール
- 患者にとって分かりやすい術後の生活指導
- 医師または看護師とのスムーズな連絡体制
- 移植部位の経過観察とアフターケア(詳細は「術後の経過とケア」参照)
良好な医師とのコミュニケーションは、術後の安心感にもつながります。移植された毛髪の成長には個人差があり、一時的に抜け落ちる「ショックロス」現象が起きることもあります。本格的な発毛が確認できるまでには数か月の経過観察が必要です。








