髪に効くサプリは本当にあるの?脱毛の原因と成分の真実を専門医が徹底解説

口を開け、手を伸ばして薬を飲もうとしている女性の姿。女性型脱毛症(FPHL)の治療としてスピロノラクトンやフィナステリドなどの内服薬を積極的に取り入れる場面を象徴。薄毛に対する医学的アプローチを前向きに実践する読者像と重なる、治療開始の瞬間を切り取ったイメージ。

この記事の概要

「これを飲めば髪が生える!」そんな広告を見かけたことはありませんか?でも、そのサプリメント、本当にあなたに必要でしょうか?ビタミンやミネラル、ハーブに期待される育毛効果の“真実”を、世界の毛髪専門医がわかりやすく解説します。正しい知識で、髪を守る第一歩を。

髪にいいサプリって本当に効くの?―専門医が明かす「育毛サプリ」のホントのところ

スマートフォンを見つめながら思案する若い女性。背景には〇と×のマークが分かれて表示されており、信頼できる植毛クリニック選びに慎重になる様子を象徴したイメージ写真

テレビやSNSを見ていると、「これを飲めば髪がフサフサに!」というような育毛サプリの広告が目に入ってきませんか?きらびやかなパッケージ、芸能人の使用レビュー、そして「臨床試験済み」「皮膚科医が推奨」といった言葉…。まるで魔法のように髪が生えてくるような気がしてきますよね。

でもちょっと待って。
髪の専門医たちはこう言います。「サプリメントは、正しく使わなければお金の無駄になるばかりか、髪に悪影響を与えることさえあります」。

本記事では、国際毛髪外科学会(ISHRS)の専門医たちの声をもとに、「髪に良い」とされる成分の本当の効果や、サプリメントにまつわる誤解についてわかりやすく解説していきます。



まずは「なぜ髪が抜けているのか」を知ることから

診療記録を手に微笑む医師の男性|植毛手術は医師の専門知識と外科的技術が必要であることを象徴するイメージ

人の髪が抜ける理由はひとつではありません。たとえば、ストレスや病気によって突然抜ける「円形脱毛症(Alopecia Areata)」、男性や女性に多い「男性型脱毛症(Androgenetic Alopecia)」、体調の変化や出産後などに見られる「休止期脱毛(Telogen Effluvium)」など、種類も原因もさまざまです。

そして、これらの脱毛には、体の中の栄養バランスが大きく関わっていることもあります。
とくに注目されているのが、「亜鉛」「鉄」「ビタミンD」という3つの栄養素。これらが足りないと、髪が細くなったり、抜けやすくなったりすることがあります。



でも、だからといって「じゃあたくさん飲めばいい!」と考えるのは早計です。
逆に、これらの栄養素を過剰にとると、体の中にたまりすぎて、かえって髪に悪い影響を与えることがあるのです。

アメリカ・アリゾナ州の毛髪専門医であり、ISHRSの元会長でもあるキーン医師はこう語ります。
「自分で判断せずに、まずは毛髪の専門医に相談して、血液検査などでビタミンやミネラルの状態を調べてください。数値が正常なら、サプリを飲んでも意味がないだけでなく、長く飲み続けると体に有害なレベルにまで達してしまう恐れがあります」

特に気をつけたいのが「脂溶性ビタミン」。これは、ビタミンA・D・Eなど、脂肪に溶けやすく、体内に蓄積されやすいビタミンです。水に溶けるタイプのビタミンと違って、過剰に摂ってもおしっこで出ていかず、体にたまってしまうのです。



サプリよりもまず「ふつうの食事」を見直そう

では、どうしたら良いのでしょうか?

オハイオ州の毛髪専門医、ヘイバー医師はこうアドバイスします。
「健康的な食事をしている人は、特別なサプリをとる必要はあまりありません。でも、ビーガンのように制限の多い食事をしている人は、必要な栄養素が不足することもあります。その場合は、医師の指導のもとで補うのがよいでしょう」

つまり、栄養はまず「日々の食事」で摂るのが基本。サプリメントは、あくまで補助的なものにすぎないのです。



ビタミンD:足りなくても、摂りすぎても危険!

ここで、実際に注目されている栄養素について、ひとつずつ詳しく見ていきましょう。

まずは「ビタミンD」。
これは、骨を丈夫にしたり、免疫力を保ったりするのに欠かせない栄養素です。太陽の光を浴びることで体内で作られるため、「日光ビタミン」とも呼ばれます。

ビタミンDが足りないと、髪が抜けることもあります。
キーン医師は「アリゾナのような日差しの強い地域でも、患者の3割以上がビタミンD不足でした」と驚きのデータを示します。

ただし、ビタミンDが不足している人が全員脱毛するわけではなく、逆にサプリで過剰に摂取すると、体にカルシウムがたまりすぎて脱毛を引き起こすこともあるそうです。とくに、もともとビタミンDが足りている人が「念のため」と高容量のサプリを飲み続けると、危険なレベルになることもあるのです。



亜鉛:髪にいいけど、足りてる人がほとんど?

次は「亜鉛」です。
これは体の中でたんぱく質を作ったり、免疫機能を維持したりするのに必要なミネラルで、髪の生成にも関わっています。

ただし、亜鉛が足りなくて髪が抜けるというケースは、あまり多くありません。
ヘイバー医師によれば、「びまん性脱毛(頭全体の髪が均等に薄くなるタイプ)」の人には亜鉛不足が見られることもあるものの、全体としてはまれとのこと。

一方で、キーン医師は「亜鉛を補って髪の密度が増えた」と感じる患者さんもいると報告しています。



ビオチン:広告でよく見るけど、効果の証明はナシ?

育毛サプリの定番成分といえば「ビオチン(Biotin)」ですね。
これはビタミンB群の一種で、爪や髪、肌の健康に関わっているとされます。

でも実は、健康な人がビオチンを飲んでも、髪が増えるという確かな科学的証拠はまだありません。
キーン医師ははっきりとこう言っています。「ビオチンの効果が証明されているのは、先天性または病気でビオチンが不足している人だけです。それ以外の人が飲んでも、髪には影響しません」

さらにやっかいなのが、ビオチンが血液検査の結果に影響を与えてしまうこと。とくにホルモンや甲状腺の検査に影響を及ぼすため、採血前には数日間、サプリの摂取をやめるように指示されることもあります。



カフェイン:話題先行だけどエビデンス不足

カフェイン入りのシャンプーも注目されていますが、その効果にはまだ疑問の声もあります。

研究では、「毛包(もうほう)=髪の根っこ」にカフェインが浸透することは確認されているものの、「髪がどのくらい増えたか?」を正確に測定したデータは少ないのです。
つまり、「何となく抜け毛が減った気がする」という自己報告はあっても、科学的な裏付けがまだ弱いのです。



鉄とフェリチン:見落とされやすい脱毛の原因

「鉄分」と聞くと、貧血を思い浮かべるかもしれませんが、実は貧血になっていなくても「フェリチン(鉄の貯蔵たんぱく質)」の値が低いことで髪が抜けやすくなることがあります。これを「非貧血性鉄欠乏」といいます。

こうした場合、適切な鉄サプリメントでフェリチン値を回復させることで、脱毛が改善されることがあります。

また、キーン医師は「お茶やコーヒーに含まれるタンニンやシュウ酸は鉄の吸収を妨げるため、食事中には控えるのが望ましい」とアドバイスしています。特に肉を食べない人(ビーガンなど)は注意が必要です。



植物成分やペプチド:将来に期待?

最近では、果物や野菜に含まれる「ポリフェノール」や「ペプチド(たんぱく質の小さい断片)」といった成分にも注目が集まっています。

例えば、赤ワインに含まれる「レスベラトロール」、緑茶の「カテキン」、ウコンに含まれる「クルクミン」などが知られていますが、これらが髪に直接効果があるかどうかは、まだ研究段階です。

ペプチドについては、成長因子など髪の成長を促す働きをするものも含まれており、可能性はありそうですが、これもまだ十分なデータがないのが現状です。



自然のDHT抑制成分―でも過信は禁物

AGA(男性型脱毛症)の原因物質として知られる「ジヒドロテストステロン(DHT)」を抑える天然成分にも人気があります。代表的なものは、ノコギリヤシ、カボチャの種、ローズマリーオイルなどです。

しかし、これらが医薬品の「フィナステリド」や「ミノキシジル」と同じような効果を持つという証拠は、まだしっかりとは示されていません。



サプリの広告にある「推奨」や「試験済み」は信用できる?

「臨床試験済み」や「医師が推奨」と書かれていても、それが必ずしも科学的に証明された効果を意味するわけではありません。

FDA(米国食品医薬品局)の「承認済み」製品は厳しい審査を通過していますが、「推奨」や「試験済み」は単なる企業の主張だったり、一人の医師の意見に過ぎないこともあるのです。

また、FDAはサプリメントの純度や効果を事前にチェックしておらず、健康効果をうたうことも原則として許されていません。

信頼できる目安としては、「ConsumerLab」「USP」「NSF」といった第三者機関による認証マークがついているかどうかを確認するとよいでしょう。



最後に:髪の悩みは、まず「医師に相談」がいちばんの近道

育毛サプリメントは、「飲めばすぐ髪が生える」という魔法の薬ではありません。
根本的な原因を探らないまま自己判断でサプリを続けると、時間もお金も無駄になってしまうことがあります。

「本当に効果がある治療法は、やめればまた抜けていきます。唯一、恒久的な解決法は毛髪移植だけです」とヘイバー医師は述べています。

髪の悩みはとても繊細な問題。でも、正しい情報と医師のサポートがあれば、きっと前向きな選択ができるはずです。

もっと詳しく知りたい方は、ISHRS(国際毛髪外科学会)の公式サイト「Nutrition and Vitamins」のページをご覧ください。



記事の監修者


監修医師

岡 博史 先生

CAPラボディレクター

慶應義塾大学 医学部 卒業

医学博士

皮膚科専門医

Click Me