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自毛植毛を検討している方にとって、手術の成功は見た目の変化だけでなく、その後の人生にも大きな影響を与える一歩です。しかし、手術の成功を左右する意外なリスクが「市販薬」や「サプリメント」に潜んでいることをご存じですか? 本記事では、服薬チェックリストの作り方や、注意すべき成分・理由をわかりやすく解説します。あなたの安全な手術とスムーズな回復のために、ぜひご一読ください。
市販薬=安全とは限らない ― 自毛植毛を受ける前に必ず確認したい服薬リスク

「市販薬(Over-The-Counter:OTC)」と聞くと、多くの人は「誰でも簡単に買える」「病院に行かなくても済む」「副作用が少ない」などのイメージを持っているかもしれません。風邪薬や鎮痛剤、胃腸薬、サプリメントなど、日常生活で気軽に使える便利な製品が多い一方で、これらの薬にも重大なリスクが潜んでいることは意外と知られていません。
特に、自毛植毛(hair restoration surgery)のような外科手術を受ける場合、市販薬やサプリメントの成分が思わぬかたちで手術の安全性に影響を与えることがあるのです。この記事では、植毛手術前に知っておくべき市販薬のリスクと、具体的な注意点を詳しく解説していきます。
アメリカ人の9割が「市販薬は安全」と回答。でもその裏にあるリスクとは?

アメリカのConsumer Healthcare Products Association(消費者ヘルスケア製品協会)による調査では、アメリカ人の92%が「市販薬は安全で効果的である」と考えていることが明らかになっています。これは、日本人にも共通する傾向があると考えられます。
しかし、薬剤の安全性とは、「どのような体質の人が、どのような状況で、何と一緒に使用するか」によって大きく左右されます。たとえば、病院で処方された薬と市販薬の成分が相互作用(drug–drug interaction)を起こすことによって、副作用や出血などのリスクが高まる可能性があります。
とくに外科手術においては、出血、麻酔との反応、感染症リスク、創傷治癒の遅れなど、「予期せぬトラブル」が服用している市販薬によって引き起こされることがあり、医師の間でも大きな問題として認識されています。
よくあるケース1:アスピリン(Aspirin)の見落としによる術中の大量出血
多くの人が「ただの痛み止め」と考えているアスピリンには、実は強い抗血小板作用(platelet aggregation inhibition)があります。これは、血小板同士がくっついて血を固める働きを阻害する作用で、心筋梗塞や脳梗塞の予防など、循環器系疾患の治療にも用いられる薬です。
しかしこの作用は、手術時には「血が止まりにくくなる」というリスクに直結します。特に頭皮は毛細血管が豊富に分布しているため、少量の出血でも視野が悪くなりやすく、外科的処置の精度に影響を与えかねません。
そのため、アスピリンを服用している患者さんには、通常は手術の7〜14日前から服用を中止してもらうように医師が指導します。日常的に服用していることを自覚していない人も多いため、必ず医師に「痛み止め」として何を使っているか詳細に伝えるようにしましょう。
よくあるケース2:ハーブサプリメントと血液凝固の問題
最近では「自然派」「オーガニック志向」が高まり、ハーブサプリメントや健康食品を愛用する方が増えています。しかし、これらの中にも手術時に問題を起こす成分が数多く含まれています。
特に注意すべき成分には以下のようなものがあります:
- フィッシュオイル(Fish oil):オメガ3脂肪酸が豊富で血液をサラサラにする作用がある一方で、過剰摂取すると出血傾向を助長します。
- ショウガ(Ginger)/ニンニク(Garlic):抗炎症・抗酸化作用がありますが、これも血小板の働きを阻害するため、出血リスクが上昇します。
- イチョウ葉(Ginkgo biloba):脳の血流を改善する効果がありますが、出血性の脳内出血を招く例も報告されています。
- 高麗人参(Ginseng):体力回復や免疫力向上に使われますが、抗凝固剤と併用するとリスクが増大。
- ノコギリヤシ(Saw palmetto):前立腺肥大の改善に使われますが、やはり抗凝固作用があります。
- 丹参(Danshen)・フィーバーフュー(Feverfew)・亜麻仁(Flaxseed)も同様に、血液凝固に影響を与える可能性がある成分として知られています。
これらのハーブ製品は、医薬品のように明確な用量や禁忌が記載されていないことが多いため、「健康のためによかれと思って」摂取していたものが、実は大きなリスクになることもあるのです。
よくあるケース3:ビタミンEの意外な落とし穴
ビタミンEは「若返りのビタミン」として知られ、抗酸化作用が強いため、アンチエイジングや生活習慣病の予防目的でサプリメントとして日常的に摂取している人も少なくありません。
しかし、ビタミンEには血液を固まりにくくする作用(抗凝固作用)もあるため、高用量で摂取している場合には出血のリスクが高まります。
特に、他の抗凝固作用を持つ成分(アスピリンやフィッシュオイルなど)と併用している場合には、リスクはさらに倍増します。そのため、手術の2〜3週間前にはビタミンEの摂取も中止すべきとされており、摂取しているかどうかを必ず医師に伝える必要があります。
手術前には「服用チェックリスト」を作って医師に提出を
手術を控えている方にとって、最も大切な準備のひとつが、現在服用している薬やサプリメントについての情報を正確にまとめ、担当医に伝えることです。これは、患者自身の安全を確保するために欠かせないステップです。市販薬やサプリメントは、医師の処方薬と違って申告し忘れがちですが、手術の安全性を左右する要因にもなりうるため、些細な内容でも漏れなく記録しておくことが重要です。
具体的には、まず医師に伝えるべき項目として、現在服用している病院からの処方薬(prescription medications)はもちろんのこと、ドラッグストアなどで購入した市販薬(OTC薬)—たとえば鎮痛剤、風邪薬、胃腸薬など—も含まれます。また、健康維持や美容目的で摂取しているビタミン剤やミネラル、栄養補助食品、さらには自然派志向の方に人気のハーブ系サプリメントや健康食品も、手術中や術後のリスクに関わる可能性があるため、忘れずにリスト化しましょう。
このリストには、薬やサプリメントの名前だけでなく、それぞれの摂取量(どれだけ飲んでいるか)、服用頻度(1日に何回、週に何回など)、服用期間(いつから継続しているか)といった情報も詳しく記載する必要があります。これにより、医師は薬剤の相互作用や出血リスク、術後の回復への影響などを事前に判断し、必要に応じて中止の指示や代替案を提案することができます。
こうした情報がしっかりと医師に伝わっていれば、万一のトラブルを未然に防ぐことができ、手術当日も安心して臨むことができます。さらに、手術後の経過も安定しやすく、出血や感染、炎症などの合併症(complications)を起こす可能性を大幅に軽減することができます。
安全で満足度の高い治療を受けるためには、患者と医師が情報を正確に共有することが何よりの土台となります。服用中のものを「たいしたことはない」と軽視せず、しっかりとリスト化して提出する習慣をつけましょう。
まとめ:命を守る第一歩は「正確な情報共有」
「市販薬だから安心」「サプリメントだから自然で安全」と思い込んでしまうことが、手術の現場では重大なリスクにつながることがあります。
手術を受ける際、最も重要なのは、医師との正確な情報共有と信頼関係の構築です。どんなに些細に思える薬やサプリメントでも、思い込みや遠慮から申告を省略するのではなく、「命を守るための情報」として正確に伝えることが重要です。
自毛植毛という人生を変える第一歩を、安全に、安心して踏み出すためにも、まずはご自身の服薬状況をしっかりと整理しておきましょう。







