この記事の概要
がん治療や火傷などで髪を失ってしまった方にとって、脱毛は見た目だけでなく心にも深い傷を残します。そんな方々を対象に、世界の医師たちが無償で毛髪移植を行う支援プログラム「Operation Restore(オペレーション・リストア)」があります。この記事では、人生を取り戻した患者たちの実話を交えながら、プログラムの詳細や申請方法をわかりやすくご紹介します。
社会貢献プログラム「Operation Restore」:髪と自己肯定感を取り戻す無償の医療支援

アメリカ・イリノイ州ジュネーブ発(2013年1月29日) — 年齢にかかわらず、進行性の脱毛は多くの人にとって深刻な精神的負担をもたらします。仕事や人間関係における不安、羞恥心、自信喪失など、外見の変化が日常生活に大きく影響を及ぼすケースも少なくありません。
なかには、がん治療や重度の外傷など、医療的理由や事故によって永久的な脱毛(permanent hair loss)に至る方もいます。このような場合、髪を失うことは単なる見た目の問題を超え、過去の辛い経験を日々思い出させる「心の傷」となり得ます。
国際毛髪再生外科学会(ISHRS)による無償支援「Operation Restore」

このような脱毛に苦しむ人々を支援するため、国際毛髪再生外科学会(International Society of Hair Restoration Surgery: ISHRS)は、無償医療提供プログラム「Operation Restore」を2004年に設立しました。
このプログラムでは、事故・外傷・病気などで脱毛し、経済的な理由から自費で治療を受けられない患者と、無償で手術を提供する意志のある医師をマッチングします。プログラム開始以来、約50名の患者に対して、総額45万ドル(約6,700万円)以上の無償毛髪移植手術と関連費用が提供されてきました。
「現在では、世界中から92名の医師がボランティアとして参加し、あらゆる年齢層の患者さんに治療を行っています。私たちが目指しているのは単に髪の回復ではなく、失われた自己肯定感と自己イメージを取り戻すことです」と、ISHRSのプロボノ委員会(Pro Bono Committee)委員長であるデビッド・ペレス=メサ医師は語ります。
がん生存者、脱毛を乗り越えて自信を取り戻す
テキサス州オースティンに住む27歳のソフトウェアエンジニア、デレク・ニコルさんは、2008年に極めてまれながんと診断されました。治療には手術、毎日の高線量放射線療法、化学療法など、過酷な医療が必要でした。治療は功を奏したものの、放射線の副作用により永久的な脱毛という深刻な影響が残りました。
「20代前半という若さで脱毛に悩まされ、外出時には常に帽子をかぶっていました」とニコルさん。「自分に自信が持てず、本当につらい日々でした。」
母親のルアン・ニコルさんもその悩みを振り返ります。「息子にとって毛髪再生手術は希望でしたが、費用が高額で諦めるしかありませんでした。がん治療そのものも心に大きなダメージを与えていましたが、脱毛による落ち込みも深刻で、なんとかして助けてあげたいと思っていました。」
その後、ISHRSの協力医師であるダニエル・マグラス医師(Daniel McGrath, DO)との相談を通じて、「Operation Restore」の存在を知ったニコルさんは応募を決意。幸運にもプログラムに採用され、2011年7月に2,541グラフトの毛髪移植手術を無償で受けることができました。
「がん患者は多くのものを失っています。そこに脱毛が加わるのは、あまりにも残酷です」とマグラス医師は語ります。「この手術によって、髪と共に尊厳と自信を取り戻してもらえるのです。」
術後数か月で発毛が始まり、ニコルさんは「驚くほどの効果があった」と言います。「人前に出るのが怖くなくなりましたし、ようやく普通の自分に戻れた気がします。」
火災で大やけどを負った消防士、髪の再生で日常を取り戻す
バージニア州フレデリックスバーグ在住のグレッグ・ヘドリックさん(当時51歳)は、2005年のホテル火災での救助活動中に閃光爆発(フラッシュオーバー)に巻き込まれ、上半身に重度の2度・3度熱傷を負いました。その結果、後頭部を含む頭部に重度の瘢痕性脱毛が残ってしまいました。
その後、皮膚移植手術と長年のリハビリを経て手や体の機能は改善されましたが、脱毛だけは解決できず、鏡に映る自分に苦しみ続けていました。
「最初は火傷の方が大きな問題だったので髪のことは後回しでした。でも他の症状が回復するにつれ、髪だけが戻らないことが気になるようになったんです。顔や手の傷は隠せても、頭部のハゲは隠せませんでした。」
費用の面で手術を断念せざるを得なかったヘドリックさんですが、バージニアビーチの毛髪移植外科医であり、Operation Restoreの協力医師であるエドウィン・S・エプスタイン医師(Dr. Edwin S. Epstein)と出会ったことで状況は一変しました。
医師の勧めでOperation Restoreに応募し、2010年4月に2,632グラフトの移植手術を受けることができました。「皮膚移植の後、ティッシュ・エクスパンジョン(皮膚拡張)法が提案されていましたが、毛髪移植の方がはるかに低侵襲で現実的でした」とエプスタイン医師。「ドナー部位は限られていましたが、髪質が理想的だったため成功率も高かったのです。」
「髪が戻り、傷が見えなくなったことで本当に気が楽になりました」とヘドリックさんは話します。「以前は、少し外に出るだけでも火傷した頭皮が日光で痛んだため、常に帽子をかぶっていました。今ではその必要もありません。」
Operation Restoreの対象と申込方法
Operation Restoreでは、病気や事故によって脱毛したが、経済的理由で毛髪移植手術を受けられない患者を対象に、無料の支援を行っています。
申込は、ISHRSの公式ウェブサイト(www.ishrs.org)から可能で、ISHRSのプロボノ委員会(Pro Bono Committee)が審査を行います。選出された患者は、居住地域に近いISHRS認定の協力医師とマッチングされ、移動が必要な場合はその費用もカバーされます。
また、2008年には、健康な毛髪の維持や治療法に関する啓発を目的とした非営利団体「ヘアファウンデーション(Hair Foundation)」が、Operation Restoreへの支援を目的とした企業からの資金提供活動を開始しました。
寄付のご案内
Operation Restoreの継続的な活動には、皆さまからのご支援が不可欠です。この社会貢献プログラムへの直接寄付をご希望の方は、ISHRSのウェブサイト内「Operation Restore」ページをご参照ください。あなたの支援が、脱毛に苦しむ誰かの人生を変える力になります。







