植毛は、薄毛や生え際の後退に悩む方が自然な髪を取り戻すための有効な治療法です。しかし、手術時間や術後の過ごし方を正しく理解していないと、せっかくの移植毛の定着率や最終的な仕上がりに影響を及ぼす可能性があります。本記事では、植毛の手術時間の目安、施術中の流れ、そして術後に注意すべきポイントを詳しく解説します。これから植毛を検討している方は、術前準備から回復期までの全体像を把握しておくことで、より安心して臨むことができます。
1. 植毛手術時間の目安と影響する要因
植毛の手術時間は、施術方法や移植する毛根の数、施術範囲によって大きく異なります。一般的には3〜8時間程度が目安ですが、ケースによっては半日以上かかることもあります。
主な要因
- 移植本数
植毛時間に最も直結するのが、移植本数です。例えば、1,000グラフト(約2,000〜2,500本)程度であれば3〜5時間前後で終了することが多く、これに休憩時間を含めても1日で十分完結します。一方、3,000グラフト(約6,000〜7,500本)を超える大規模移植になると、施術時間が8〜10時間以上に及ぶことも珍しくありません。
毛根は採取後できるだけ早く移植することが理想ですが、長時間作業になると毛根や頭皮への負担が増えるため、医師の判断で休憩を多めに取りながら進めたり、2日に分割して施術することがあります。
- 採取方法(FUT法・FUE法)
FUT法(ストリップ法)
後頭部の皮膚を帯状に切り取り、そこから毛根をまとめて採取する方法です。一度に大量の毛根を確保できるため、移植本数が多くても比較的短時間で終了しやすい傾向があります。ただし切開を伴うため、縫合や処置に時間を要する場合があります。
FUE法(ダイレクト法)
専用のパンチを用い、毛根を一本ずつ丁寧に採取していく方法です。切開を伴わないため傷跡は小さく、ダウンタイムも短いというメリットがありますが、1株ごとの採取に時間がかかるため、施術時間は長くなる傾向があります。精密な作業であるため、特に大量移植では1日かかることもあります。
- 施術スタッフの熟練度
同じ条件でも、施術を行うチームの経験やスキルによって所要時間は大きく変わります。経験豊富な医師と熟練した看護師・技術スタッフによるチームワークが確立していれば、効率的かつ正確な作業で時間を短縮でき、毛根のダメージも最小限に抑えられます。
また、熟練チームは患者の体位変換や麻酔管理、器具の受け渡しなどもスムーズで、結果的に患者の負担を減らすことにもつながります。
- 患者への配慮と施術時間のバランス
施術時間が長引くと、腰や首への負担、体のこわばり、集中力低下による微細な作業精度の低下が懸念されます。そのため、大規模移植の場合は午前と午後に分けて休憩を挟む、または2日間に分けて施術するといったスケジュールが組まれることがあります。
さらに、採取した毛根の生着率を高めるためには、毛根を頭皮外に置く時間を極力短くする工夫も重要で、これは施術計画やチームワークによって大きく左右されます。
また、長時間にわたる施術は患者の体力的負担も増すため、移植本数が多い場合は2日に分けて行うケースもあります。
2. 手術当日の流れ
植毛の施術は、まず事前のカウンセリングで毛髪の状態や薄毛の進行度を詳細に診断し、患者の希望や顔立ちに合わせて最適なデザイン・移植範囲・採取方法(FUT法またはFUE法)を決定します。当日は、その計画に基づき、次のような工程で進行します。
まずデザイン・マーキングの工程では、生え際の位置や形、毛の密度を細かく調整しながら頭皮にマーキングを行います。この際、毛流の方向や角度も考慮し、将来的に自然に見える仕上がりを目指します。特に生え際は顔の印象を大きく左右するため、数ミリ単位の微調整が行われます。
次に採取の工程に移ります。FUT法(ストリップ法)では後頭部から帯状に皮膚を切り取り、その中から毛根を株分けします。一方、FUE法(ダイレクト法)では、専用の極細パンチを用いて毛根を一本ずつ採取します。どちらの方法でも、移植後にしっかりと成長する健康な毛根を選び取ることが重要です。
採取された毛根は株分け・準備の工程で、1株あたりの毛数・太さ・質感を確認しながらグラフト単位に分けられます。この作業は非常に繊細で、毛根を傷つけないために熟練したスタッフが顕微鏡下で行います。グラフトの状態は移植後の生着率や自然な毛並みに直結します。
そして移植の工程では、事前のデザイン通りに毛穴の方向・角度・間隔を調整しながら毛根を植え込みます。髪の向きや立ち上がりを自然に再現するため、1本1本の配置が慎重に行われます。
施術中は局所麻酔が施されるため痛みはほとんど感じませんが、数時間から場合によっては8時間以上同じ姿勢になることがあり、腰や首に負担がかかることがあります。そのため、多くのクリニックでは適度な休憩を挟みながら進めます。施術後は頭皮に軽い圧迫感や腫れ、赤みが出ることがありますが、通常は数日で軽減します。
3. 術後24時間以内の過ごし方
術後24時間は、植毛の成否を左右するといっても過言ではない極めて重要なタイミングです。移植毛はまだ頭皮の組織や血管としっかり結合しておらず、まさに「置かれているだけ」の状態に近いため、この間に加わる物理的な刺激や圧迫は毛根のずれや脱落を引き起こす可能性があります。
まず頭皮への接触を徹底的に避けることが第一です。帽子やヘルメットの着用はもちろん、普段何気なく使っている枕の摩擦も毛根にとっては大きな負担となります。特にうつ伏せ寝や横向き寝は移植部位に直接圧力がかかるため厳禁です。仰向けで頭部を固定し、摩擦や圧迫が発生しない環境を整えることが必要です。
次に安静の確保です。術後間もない時期に激しい運動を行うと、全身の血流が急激に高まり、頭皮の血管が拡張します。その結果、移植部位から出血したり、腫れや炎症が悪化する可能性があります。長時間の入浴やサウナも同様に血流を促進し、腫れや赤みを長引かせる原因となるため避けましょう。体温を大きく変動させず、心拍数を上げない生活が理想です。
さらに清潔管理も欠かせません。移植毛はまだ皮膚バリアが十分に回復していないため、雑菌の侵入を防ぐことが重要です。洗髪や頭皮への直接的な水流は医師の許可が出るまで控え、患部を無意識に触らないよう意識することが求められます。特に指先や爪による刺激は、毛根だけでなく頭皮全体を傷つける恐れがあります。
加えて、帰宅後は頭を高くして休むことが推奨されます。これは重力による血液や体液の滞留を防ぎ、術後の腫れを最小限に抑えるためです。クッションや枕を重ね、上半身をやや起こした姿勢で休むと効果的です。
この24時間を慎重に過ごすことが、数カ月後の毛髪の生着率や仕上がりに直結します。ここでの注意が、長期的な満足度を大きく左右するのです。
4. 術後1週間までの注意点
手術からおよそ1週間が経過すると、移植部位やドナー部位(採取部)の皮膚に小さなかさぶたが形成され始めます。これは、頭皮が自己修復のプロセスを進めている証拠であり、血液やリンパ液が乾燥して硬化したもので、毛根を覆い保護する役割を果たしています。
しかし、このかさぶたは見た目が気になるからといって無理に剥がすことは絶対に避けるべきです。かさぶたの下ではまだ新しい血管や皮膚組織が再生しており、強引に剥がすと毛根ごと抜け落ちてしまう恐れがあります。これは「移植毛の生着率低下」に直結し、最終的な仕上がりにも悪影響を及ぼします。
この時期の洗髪は特に慎重に行う必要があります。専用シャンプーをしっかり泡立て、その泡を頭皮にのせるだけで優しく洗い流す方法が基本です。指の腹や爪でこすらず、シャワーの水圧も弱めに設定し、移植部位に直接水流を当てないようにします。
また、飲酒や喫煙の制限も非常に重要です。アルコールは血管を拡張させ血流を急激に変化させるため、移植部位の出血や腫れを長引かせる原因となります。一方、喫煙は毛細血管の収縮を引き起こし、酸素や栄養素の供給を阻害します。その結果、毛根が十分に栄養を受け取れず、定着率が下がる危険があります。
さらに、紫外線対策も欠かせません。直射日光は頭皮に炎症反応を引き起こし、赤みやかゆみを悪化させるだけでなく、色素沈着(シミ)の原因にもなります。外出時は日傘やつばの広い帽子で物理的に遮光し、帽子が使えない場合は医師の許可を得たうえでUVカットスプレーを活用します。

1週間を過ぎると、多くの方が仕事や軽い外出など日常生活に戻りやすくなりますが、強い衝撃や摩擦はまだ大敵です。スポーツやヘルメット着用、自転車やバイクの長時間利用など、頭皮に圧力や揺れが加わる行動は、もうしばらく控えるのが安心です。
5. 術後1〜3か月:一時的な脱毛期(ショックロス)
手術後2〜4週間ほどで、多くの人が移植毛の一時的な脱毛を経験します。これは毛根が新しい環境に適応する過程で休止期に入り、古い毛が抜け落ちる現象です。毛根は生きており、数か月後には新しい毛が発毛を始めます。
この期間は見た目の変化に不安を感じやすい時期ですが、焦らず経過を見守ることが大切です。頭皮マッサージや血流改善を目的とした軽い運動は、医師の許可を得た上で取り入れると良いでしょう。
6. 術後半年〜1年:本格的な発毛期
術後6か月頃から新しい毛が太くなり、ボリューム感が増してきます。1年を過ぎると、ほとんどの移植毛が定着し、最終的な仕上がりが見えてきます。この時期は髪型のアレンジやカラーリングも可能になりますが、過度なブリーチやパーマは頭皮ダメージの原因になるため、慎重に行いましょう。
まとめ
植毛は手術時間や術後の過ごし方によって、その成果が大きく変わります。手術時間は施術方法や移植本数によって異なりますが、長時間の施術でも正しいアフターケアを徹底すれば高い定着率が期待できます。術後は毛根を守るための安静と生活習慣の管理が不可欠であり、この期間をどう過ごすかが、自然で満足度の高い仕上がりを実現する鍵となります。







