この記事の概要
いま、薄毛や脱毛は多くの人が抱える共通の悩み。そんな中、世界中の毛髪専門医が集まり、最新の治療法や未来の毛髪医療を語り合った国際会議「ISHRS世界大会」がアメリカ・ハリウッドで開催されました。本記事では、FUE(単一毛包抽出法)や体毛移植、女性の脱毛治療、非外科的アプローチなど、医療の最前線で語られたトピックを、わかりやすく丁寧に解説。専門用語もすべてやさしく補足しているので、医療知識がない方でも安心して読み進められます。「自分に合った髪の治療法を知りたい」そんなあなたのための一冊です。
世界最高峰の植毛専門医たちが集結——最先端の技術と未来の毛髪医療を語る、ISHRS世界大会レポート

2018年10月、アメリカ・ハリウッドの華やかな舞台に、世界各国から毛髪医療のプロフェッショナルたちが集まりました。
その名も第26回 国際毛髪再生外科学会世界大会(ISHRS World Congress)。
この学会は、植毛医療や脱毛治療の最前線で活躍する医師や研究者が年に一度集い、最も新しい知見や技術を共有し合う、まさに“毛髪医療界のオリンピック”とも言える国際イベントです。
今回は「受賞歴のある植毛外科医たちの集い(When Award Winning Hair Transplant Surgeons Meet)」というテーマのもと、アメリカ・ロサンゼルスのロウズ・ハリウッド・ホテル(Loews Hollywood Hotel)で開催されました。約1,000名にも及ぶ医師や手術アシスタントたちが世界中から参加し、毛髪再生医療の今と未来を語り合いました。
それでは、専門用語もわかりやすく解説しながら、今回の学会で話題となった注目トピックを、ひとつずつ詳しく見ていきましょう。
医療の世界でも注目度急上昇!「毛髪再生医療」の現在地

ここ数年、脱毛や薄毛に悩む人の数は世界的に増加しています。特にストレス社会の影響や、ホルモンバランスの乱れ、加齢、さらには抗がん剤治療(いわゆる「化学療法」)による脱毛など、さまざまな原因が関係しています。こうした背景から、髪の毛の再生や移植に関する医療——すなわち「毛髪再生医療(hair restoration therapy)」への関心が急速に高まっているのです。
この分野の世界的な中心機関が、今回の学会を主催したISHRS(International Society of Hair Restoration Surgery/国際毛髪再生外科学会)です。1993年に設立されて以来、毛髪移植手術や脱毛治療に関する教育・研究をリードし続けてきました。
今回の会議のプログラム責任者であるパルサ・モヘビ医師(Dr. Parsa Mohebi)は、以下のように語っています。
「毛髪治療に対する関心がこれまでにないほど高まっている今こそ、臨床現場で役立つ実践的かつ科学的な知識の習得が必要不可欠です。ISHRSの学会では、実技を重視した体験型の講座やワークショップを通じて、世界中の医師たちが互いに学び合う場を提供しています。」
まさに“教科書に載っていない、本物の技術と知識”が飛び交う学会なのです。
世界的な名医たちが登壇!基調講演にも注目の顔ぶれが勢ぞろい
会議では、世界各地の第一線で活躍する医師や研究者が次々と登壇し、毛髪医療の最新知見を発表しました。
特に注目されたのが、以下の5名の基調講演者(Keynote Speakers)です。
- マリオ・E・ラクチュール医師(Dr. Mario E. Lacouture):抗がん剤治療と毛髪の関係についての世界的専門家。
- アントネラ・トスティ医師(Dr. Antonella Tosti):皮膚科学の権威であり、女性の脱毛症治療にも造詣が深い。
- アポストロス・パパス博士(Dr. Apostolos Pappas):皮膚と毛包(もうほう:毛根の袋状組織)の分子生物学に関する研究で著名。
- キャロリン・ゴー医師(Dr. Carolyn Goh):女性型脱毛症(Female Pattern Hair Loss)の治療で高い実績。
- チェン・ミン・チュオン博士(Dr. Cheng-Ming Chuong):毛髪の発生メカニズムを研究する発生生物学の第一人者。
彼らの講演は、医学的な最先端の話題でありながらも、人々の生活に直結する「脱毛」という普遍的な悩みへの希望を与えるものでした。
注目トピック①:FUE(単一毛包抽出法)——“髪の毛1本ずつ”の技術革新
「FUE(Follicular Unit Excision)」とは、髪の毛が生えている最小単位である「毛包ユニット(follicular unit)」を、ひとつひとつ丁寧に採取して移植する手術法です。かつての植毛手術では皮膚を帯状に切り取る手法が主流でしたが、FUEは傷跡が小さく、ダウンタイム(回復期間)も短いことから、世界的に急速に普及しています。
今回の会議では、このFUEに関して——
- 使用する器具の種類
- 採取方法による毛包の「生着率(graft survival)」
- ロボットやAIを活用した支援技術
など、最新の研究成果や臨床結果が紹介され、参加者から大きな関心を集めました。
注目トピック②:眉毛・ヒゲ・体毛——「頭以外の毛」を活かす新時代の移植
近年、植毛の対象は「頭髪」だけではありません。
体毛移植(Body Hair Transplantation)という新しい分野が急成長しており、眉毛やヒゲ、さらにはまつげへの移植希望者が急増しています。
今回の学会では、以下のようなトピックが取り上げられました。
こうした技術は、美容目的だけでなく、事故や手術などで毛を失った方の“再建医療”としても注目されています。
注目トピック③:毛包と皮膚の“ミクロの世界”から治療を変える
髪の毛は、ただ外に出ている部分だけではなく、皮膚の奥深くにある毛包(hair follicle)という構造から成長します。この毛包の内部では、成長因子(growth factors)やホルモンなどが絶妙なバランスで働いています。
今回の学会では、毛包のミクロ構造や再生力についての研究成果が多数紹介されました。
中でも話題となったのが、
といった“再生医療の可能性”に関する発表です。
単なる「見た目」の改善にとどまらず、毛髪移植が皮膚の健康にも影響を与えるかもしれない——そんな未来が垣間見える発表でした。
注目トピック④:抗がん剤による脱毛と、女性特有の薄毛への挑戦
抗がん剤治療を受ける人の多くが経験する「化学療法による脱毛(Chemotherapy-induced alopecia)」。また、加齢やホルモンの影響で起きる「女性型脱毛症(Female Pattern Hair Loss/FPHL)」も、近年注目されている分野です。
今回の学会では、これらの症状に対して:
- 医療用ウィッグや頭皮冷却療法(Scalp Cooling)
- 非外科的な内服・外用薬との併用治療
- 心理的ケアやQOL(生活の質)への配慮
など、多角的な治療戦略が紹介されました。
とくに女性の脱毛に関しては、「見た目」だけでなく、「社会生活や自尊心」にも大きな影響があるため、医療者側にもより繊細な対応が求められています。
注目トピック⑤:切らずに育てる!注目の非外科的治療たち
手術をしなくても効果が期待できる治療法も、年々進化しています。今回の学会では、以下のような非外科的治療法(non-surgical therapies)について、最新の効果と科学的根拠が紹介されました。
- ミノキシジル(minoxidil):頭皮の血流を改善し、発毛を促す外用薬。市販でも手に入る代表的な育毛剤。
- フィナステリド(finasteride):男性ホルモンの一部を抑えることで抜け毛を防ぐ内服薬。特に男性型脱毛症に効果があるとされます。
- 光線療法(PBM: photobiomodulation):特定の波長の光を頭皮に照射して、毛根細胞の活動を活性化する治療法。
- マイクロニードリング(microneedling):極細の針で頭皮に微細な刺激を与え、成長因子の吸収を高める施術。
- 栄養補助食品(nutraceuticals):ビタミンやアミノ酸など、毛髪の健康維持をサポートする成分を含んだサプリメント。
これらの治療法を、症状や生活スタイルに応じて「カスタマイズ」していく時代が始まっています。
ISHRS公式サイトもリニューアル!専門医検索がもっと身近に
今回の世界大会にあわせて、ISHRSの公式ウェブサイト(www.ishrs.org)も全面リニューアルされました。
新たな機能として、「Find a Doctor(医師を探す)」機能がより使いやすくなり、世界中の専門医を地域別に簡単に検索できるようになっています。
さらに、脱毛に関する患者向けの情報、治療法の比較、医療施設の選び方なども充実し、「正しい知識を持った上で、自分に合った治療を選ぶ」ための心強いツールとなっています。
おわりに——「毛」は、見た目以上に“心”を映す存在
髪の毛は、単なる見た目の一部ではありません。
それは“自己表現”であり、“自信”であり、“生きる力”とも言えます。
脱毛に悩む人にとって、毛髪医療は人生を変える選択肢の一つです。
ISHRSのような国際的学会は、単に医療者のための会議にとどまらず、私たち一般の生活者にも、未来へのヒントと安心を届けてくれる存在なのです。
薄毛や脱毛に悩んでいるあなたも、「正しい知識」と「確かな専門医」に出会えれば、きっと未来は変わります。
髪の毛が、あなたの明日を支える力になりますように。







