「冷たいレーザー」で毛が生える?低出力レーザー治療(LLLT)による薄毛対策の最前線

髪の毛にそっと手を通しながら頭皮の状態を確認している女性の後ろ姿。薄毛や頭皮ケアを意識した日常の一コマをイメージ。低出力レーザー療法(LLLT)による発毛促進を扱うコラムの導入部に最適なビジュアル素材

この記事の概要

薄毛や抜け毛に悩む方にとって、「髪の毛を取り戻す」ことは大きなテーマ。近年、注目を集めているのが、頭皮に「赤い光」を当てるだけで毛髪の再生を促す低出力レーザー療法(LLLT)です。家庭でも使えるデバイスから、クリニック専用の本格機器まで、その仕組みと効果、注意点をわかりやすく解説します。

男性型・女性型脱毛症の治療における低出力レーザー療法(LLLT)

「冷たいレーザー」とは?脱毛症に対する新しい非外科的治療法

頭頂部に両手を当て、指を広げてブラウンに染めた髪を押さえる女性の後ろ姿。頭皮や薄毛への悩みを示唆する仕草。女性型脱毛症や低出力レーザー療法(LLLT)の効果に関連した場面イメージ

近年、低出力レーザー療法(Low-Level Laser Therapy, LLLT)は、男性および女性のパターン型脱毛症(androgenetic alopecia)に対する非外科的な治療法として注目されています。これは、手持ち型のレーザーコームやキャップ型デバイスを使用して自宅で行える治療法であり、また、医療機関では大型のフード型(美容室のヘアドライヤーに似た)機器を用いて施術されます。

ただし、LLLTは円形脱毛症や栄養失調、内分泌異常、薬剤性脱毛など、パターン型以外の脱毛症には効果が確認されておらず、使用は推奨されていません。脱毛の原因が明確でない場合は、使用前に必ず脱毛治療専門医の診察を受け、正しい診断を受ける必要があります。



医療分野におけるレーザーの応用とLLLTの位置づけ

「うつむいた女性が髪をかき分けながら毛根や頭皮の状態を指先で確かめている様子。薄毛や抜け毛への不安、セルフチェックの様子を象徴するイメージ。低出力レーザー療法(LLLT)を紹介する脱毛症コラム内に適した視覚表現

レーザーは長年、医療分野で外科手術や皮膚治療に利用されており、レーザー光と人体組織との相互作用に関する物理・化学・生物学的な知見はすでに確立されています。LLLTはその中でも比較的新しい応用分野であり、遺伝的要因によって進行する脱毛症(androgenetic alopecia)に対して、組織の修復や細胞活性を促す目的で使用されます。

LLLTに使われるレーザーは「コールドレーザー(cold laser)」とも呼ばれます。これは、高出力レーザーのように組織を切断・熱変性させるのではなく、標的組織に吸収されても熱を発しないほどの低出力光線であることを意味しています。



レーザーの仕組みとLLLTに使用される光の特性

レーザーとは、特定の波長と出力(ワット数)を持つ光を発生・照射する装置です。レーザー光の最大の特徴は、波長の「単色性(coherence)」にあり、用途に応じて波長や出力が精密に調整されます。
たとえば、緑色、赤外線、可視赤色などの波長帯があり、それぞれに適した目的があります。

パターン型脱毛症の治療に使用されるのは、630〜670ナノメートル(nm)の波長を持つ可視赤色光(visible red light)で、非常に低い出力(低ワット)です。



LLLTが毛髪再生に作用する仕組み

レーザー光と生体組織の相互作用は「光生物学(photobiology)」と呼ばれます。中でも、光によって引き起こされる化学反応や物理反応は、それぞれ「光化学反応(photochemistry)」「光物理反応(photophysics)」と分類されます。このような医療目的の光照射は、総称して「光治療(phototherapy)」と呼ばれます。

なぜ、この630〜670 nmの赤色光で、かつ低出力である必要があるのでしょうか?
その理由は、この波長域の赤色光が、毛包(hair follicle)内の特定分子(主に酵素など)に選択的に吸収されることで、毛の成長や再生を促す生物学的反応が起こるためです。光が吸収されなければ、何の反応も起きません。



この効果は、1967年、ハンガリーの科学者によって偶然発見されました。彼はマウスの皮膚がん治療にレーザー光を使用していましたが、剃毛したマウスの皮膚に照射したところ、通常よりも早く毛が再生されたのです。

その後の研究で、赤色光が細胞内酵素「シトクロムC(cytochrome c)」に吸収されることが分かりました。これにより、遺伝子の活性化、細胞死(アポトーシス)の抑制、細胞の修復促進などが誘導されることが確認されています。

ただし、すべての人に毛髪再生効果があるわけではありません。細胞内の分子が光をうまく吸収できない場合や、吸収しても反応が起こらない場合には、再生効果は得られません。



LLLTの効果が期待できるケースと補助療法との併用

臨床経験では、脱毛が初期〜中等度の段階であれば、LLLTの効果が現れやすいことが分かっています。逆に、脱毛が進行している、または長期にわたっている場合は効果が得られにくい傾向があります。

医師による報告では、ミノキシジル(minoxidil)やフィナステリド(finasteride)といった他の医薬品治療と併用することで、より高い効果が期待できるとされています。また、自毛植毛手術後の炎症軽減や毛髪の成長促進にもLLLTが補助的に役立つという報告があります。

ただし、LLLTは一度の治療で終わるものではありません。継続的に使用しないと、効果を維持することはできません。パターン型脱毛症に対する唯一の恒久的治療法は自毛植毛(hair transplantation)である点も留意が必要です。



LLLT機器の種類とその特徴

自宅用の手持ち型デバイス

現在、市販されている家庭用LLLT機器には以下のようなものがあります:

  • ヘアマックス・レーザーコーム(HairMax LaserComb)
    コームの歯にレーザーが組み込まれており、髪を分けながら頭皮に直接照射します。米国食品医薬品局(FDA)により「男性型脱毛症の治療機器」として認可されています。価格は数百ドルで、医師の診療所やオンラインで購入可能です。
  • X5レーザー
    複数のレーザーダイオードで直接頭皮に光を照射する装置です。美容機器として販売されており、医療機器としてのFDA認可は不要ですが、将来的に臨床試験の結果によって認可が変わる可能性があります。価格は約200ドルです。
  • サネティクス・レーザーヘアブラシ(Sunetics Laser Hair Brush)
  • レーザキャップ(Laser Cap)
    帽子型の機器に224個のレーザーが内蔵されています。医師を通じて購入可能で、X5同様、美容機器として販売されています。価格は約3000ドルです。

購入を検討する際は、価格だけでなく、照射範囲や出力性能などの違いも比較することが重要です。



医療機関で使用される大型機器

クリニックでは、美容室のフード型ドライヤーに似た大型機器が使われます。これにより、頭皮全体への広範囲照射が可能です。

科学的根拠と今後の課題

現在、LLLTの効果に関する大規模かつ長期的、無作為化二重盲検試験は限られており、十分な科学的裏付けがあるとは言い切れません。2009年に発表された初の無作為化二重盲検・多施設共同試験では、HairMaxレーザーコームと偽装デバイスを比較した結果が報告されています(Leavittら、Clinical Drug Investigation, 2009; 29:283-292)。

国際毛髪外科学会(ISHRS)は、LLLTに対する公式な見解を示していません。一部の会員医師は、LLLTをフィナステリド、ミノキシジル、植毛と併用する補助療法として高く評価していますが、他の会員は「大規模な科学的研究が不足している段階での安易な推奨は避けるべき」と慎重な立場をとっています。



まとめ:LLLTはパターン型脱毛症の補助療法の選択肢の一つ

低出力レーザー療法(LLLT)は、男性型・女性型脱毛症の進行を遅らせ、毛髪の再生を促す可能性のある治療法の一つです。ただし、万人に効果があるわけではなく、補助療法としての位置づけが現実的です。

使用を検討している方は、必ず毛髪治療に精通した専門医と相談し、自身の症状に適した治療法を総合的に判断することが大切です。



記事の監修者


監修医師

岡 博史 先生

CAPラボディレクター

慶應義塾大学 医学部 卒業

医学博士

皮膚科専門医

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