えっ、髪がこんなに抜けるの!?出産と更年期に起こる女性の薄毛、その意外な正体とは

つわりによる吐き気に苦しむ妊娠中の女性の顔アップ写真。両手で口元を押さえ、産後脱毛やホルモンバランスの変化と深く関わる妊娠初期の体調変化を象徴している

この記事の概要

出産や更年期を迎えたあと、「あれ、髪の分け目が広がってる?」「お風呂の排水口に髪がいっぱい…」と驚いた経験はありませんか?実は、これらは多くの女性が経験する自然な脱毛現象です。この記事では、米国の毛髪専門医ナスバウム医師の知見をもとに、産後脱毛症や更年期脱毛症の原因と対処法をわかりやすく解説します。「誰も教えてくれなかった!」そんな女性たちの不安に寄り添い、今日からできるケア方法をご紹介します。

髪が抜けるなんて聞いてない!出産と更年期に訪れる、知られざる「女性の脱毛」の正体とは?

トイレの前で激しい吐き気に襲われうずくまる妊婦の後ろ姿。妊娠によるホルモン変動が髪や体調に与える影響を暗示する場面

鏡を覗いたとき、分け目が広がっている気がする。お風呂の排水口にごっそり溜まった髪の毛を見て、心がざわつく。「もしかして、私、薄毛になってる……?」

そんな不安を感じたことはありませんか?

女性の人生には、ホルモンが大きく変化する節目がいくつかあります。その中でも特に影響が大きいのが、「出産」と「更年期」。実は、この2つのタイミングで、かなり多くの女性が一時的な脱毛や髪のボリュームの減少を経験しています。

「髪が抜けるなんて、誰も教えてくれなかった!」

そんな声をあげたくなる女性も少なくありません。でも大丈夫。これは病気ではなく、体の中で起きている自然な現象で、きちんと原因を知って、正しく対処すれば、怖がる必要はないのです。

この記事では、アメリカの毛髪再生専門医、バーナード・P・ナスバウム医師(Dr. Bernard P. Nusbaum)の知見をもとに、「なぜ女性は産後や更年期に髪が抜けるのか?」「どう対処すればいいのか?」をやさしく、わかりやすく、そしてちょっぴり楽しくご紹介していきます。



出産後に髪がゴッソリ抜ける!?それは「産後脱毛症」という自然現象

口元を手で覆い、髪が目元を隠す女性の顔のクローズアップ。急激な抜け毛に悩み、産後や更年期に起こる女性の薄毛による気分の落ち込みを象徴する暗い表情

まずは、赤ちゃんを産んだ後に髪が抜け始めるという現象。これは医学的には「産後脱毛症(postpartum hair loss)」、または「休止期脱毛(telogen effluvium)」と呼ばれています。

なんだか難しそうな名前ですが、仕組みは意外とシンプル。妊娠中に増加する女性ホルモン、特に「エストロゲン(estrogen)」がカギになります。



妊娠中は“髪が抜けにくくなる”って知ってた?

妊娠すると、エストロゲンの量が通常よりぐっと増えます。このエストロゲンは、髪の成長サイクルを“休止”させる働きがあり、本来なら日々自然に抜けていた髪の毛が、そのまま残り続けるのです。だから、妊娠中の女性の多くは「なんだか髪がフサフサしてる」「ツヤが出てきた気がする」と感じるのです。

でもこの“髪が抜けにくくなる魔法”は、出産とともに一気に終了。

エストロゲンの分泌が急激に減少すると、たまっていた髪が「順番待ちでした!」とばかりに、一斉に抜け落ちていきます。

この現象は、出産後2〜3か月で始まり、たいていの場合は半年以内に落ち着きます。でも中には、1年近く続くこともあるので、あまりにも長引く場合は専門医に相談することが大切です。



髪だけじゃない、体も心も揺れる「産後」のホルモンジェットコースター

ナスバウム医師は、「出産後の女性は心も体も揺れやすい時期です。赤ちゃんがかわいくて幸せいっぱいのはずなのに、髪がどんどん抜けることで自己肯定感が下がってしまう方もいます」と語っています。

しかも、髪が抜ける理由はホルモンだけではありません。たとえば、

  • 出産時の出血による鉄分不足
  • 睡眠不足や育児によるストレス
  • 授乳中の栄養バランスの乱れ

なども、髪の健康に影響を与えます。

「妊娠中に処方される妊婦用ビタミン(prenatal vitamins)は、髪の健康にも役立ちます。さらに、たんぱく質をしっかりと摂ることも、髪の成長を支えるうえでとても大切です」と、ナスバウム医師はアドバイスしています。



更年期を迎えると髪が細くなる?ホルモンバランスの変化が引き起こす「更年期脱毛症」

さて、次は50歳前後で訪れる「更年期(menopause)」について。

この時期、多くの女性が感じるのは、ホットフラッシュ(ほてり)、眠れない、イライラする……といった不快な症状ですが、実は「髪の変化」も大きなテーマです。

「最近、髪にボリュームがなくなった」「分け目が目立ってきた」「おでこが広がってきた」そんな変化があったら、それは更年期の脱毛かもしれません。

更年期になると女性ホルモンが減ってくる

更年期を迎えると、女性ホルモン(特にエストロゲンとプロゲステロン)が大きく減少します。これにより、髪を育てる「毛包(hair follicle)」の働きが弱くなり、髪が細くなったり、抜けやすくなったりするのです。

実際、50歳以上の女性の約40%が「薄毛や抜け毛」に悩んでいるというデータもあり、決して珍しいことではありません。



遺伝や病気が原因になることも

中には、以下のような背景がある人もいます:

  • 遺伝的要因:母親や祖母に薄毛があった場合、同じ傾向になることがあります。
  • 内分泌疾患(endocrine disorders):特に甲状腺機能異常や、男性ホルモン(アンドロゲン)が過剰に働く体質などが関係します。
  • 鉄分不足(iron deficiency):髪の生成に欠かせない鉄が不足すると、髪がうまく育ちません。

ナスバウム医師は、「分け目が広がったり、こめかみが後退したり、地肌が透けて見えるといった初期サインに気づいたら、早めに毛髪の専門医に相談することが大切です」と話しています。



更年期脱毛の対処法:諦めなくていい、いま選べる治療法たち

では、更年期による脱毛にはどう対処すればよいのでしょうか? 実は、いまではいくつかの有効な治療法があります。

医学的に効果が確認されている主な治療法

  • ミノキシジル(minoxidil):頭皮に直接塗ることで、血流を促進し、毛包を活性化させます。日本でも「リアップ」という市販薬に使われています。
  • 低出力レーザー治療(LLLT: Low-Level Laser Therapy):特別なレーザー機器を使って、毛包に刺激を与え、髪の成長を助けます。痛みはなく、自宅用の機器も登場しています。
  • PRP療法(Platelet-Rich Plasma):自分の血液から取り出した血小板を頭皮に注入し、自然治癒力で毛包を再生させます。アンチエイジング治療としても注目されています。
  • フィナステリド(finasteride):本来は男性用の脱毛治療薬ですが、医師の管理下で女性にも“適応外使用(off-label use)”されることがあります。ただし、妊娠の可能性がある女性には使えません。

さらに、治療の効果が出にくい方や、広範囲の薄毛に悩む方には毛髪移植手術(hair restoration surgery)も選択肢のひとつです。最近の技術は非常に自然で、まったく気づかれないほどの仕上がりが可能です。



自分でできる「髪を守る生活習慣」

薬や治療だけでなく、日々の生活でも髪を大切にすることはできます。ナスバウム医師は次のようなアドバイスをしています:

  • 良質なタンパク質(肉、魚、大豆製品など)を毎食意識する
  • ビタミンDと鉄分の不足を防ぐ
  • ビタミンAの摂り過ぎに注意する(過剰摂取は脱毛の原因に)
  • アンチエイジング目的のテストステロンやDHEAを含むサプリメントには慎重になる(髪に逆効果になることも)

特に「女性用の栄養補助食品は身体に良さそう」と思ってなんとなく選んでしまうと、髪にはよくない成分が入っていることもあるので、成分表示はよく確認しましょう。



おわりに:脱毛は「自分だけの悩み」じゃない

出産、育児、閉経――。女性の人生には、自分ではコントロールできない体の変化がたくさんあります。脱毛もその一つですが、「おかしいな」「不安だな」と感じたら、それは体が出している大切なサインかもしれません。

一人で悩まず、専門医に相談すること。正しい知識を持つこと。それだけで、気持ちはずっとラクになります。

もし、毛髪の専門医を探したいときは、国際毛髪外科学会(ISHRS: International Society of Hair Restoration Surgery)の公式サイト(www.ishrs.org)をチェックしてみてください。信頼できる医師の情報が、国や地域ごとに検索できます。

「髪は女の命」と言われますが、何より大切なのは「自分を大切にすること」。髪も、心も、すこやかでいられる毎日を目指しましょう。



記事の監修者


監修医師

岡 博史 先生

CAPラボディレクター

慶應義塾大学 医学部 卒業

医学博士

皮膚科専門医

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