薄毛はいつ始まる?男性型脱毛症の原因と進行パターンをやさしく解説

男性が左手のひらを頭頂部にあて、右手で生え際をつつきながら、真剣なまなざしで鏡を見つめている。表情はまるで魚のように緊張感が漂う。

この記事の概要

「最近、おでこが広がってきた気がする…」「親も薄毛だけど、自分もそうなるの?」そんな疑問や不安を抱える方へ。この記事では、男性に多い“男性型脱毛症(AGA)”の仕組み、進行パターン、ホルモンや遺伝との関係について、専門的な情報をわかりやすく解説します。将来の髪の健康のために、正しい知識を今、身につけましょう。

男性の脱毛と男性型脱毛症(AGA)について

Partial Norwood scale for male pattern baldness

アメリカでは、推定3,500万人の男性が「男性型脱毛症(Androgenetic Alopecia/AGA)」に悩んでいるとされています。これは、思春期以降に進行する、特有のパターンをもった脱毛症であり、日本語では「男性型脱毛症」や「男性型脱毛」とも呼ばれます。

「Androgenetic(アンドロジェネティック)」という言葉は、2つの要素に由来しています。

  • 「Andro」はアンドロゲン(androgens)、つまり男性ホルモン(テストステロンやジヒドロテストステロン(DHT))を意味し、これらのホルモンがAGAの発症に必要です。
  • 「Genetic」は遺伝的要因を意味し、AGAの発症には遺伝子の存在が前提となります。



男性型脱毛症の発症タイミングと進行パターン

若い男性が髪の中に指を差し入れ、地肌が露出している部分を探るように頭皮を触っている。表情は無表情ながらも集中している様子がうかがえる。

AGAは、思春期以降に男性ホルモンの分泌が増加する時期から始まることが多く、早い人では10代後半から進行が始まります。最初の兆候としては、額の両側(側頭部)の生え際が後退することがあり、これは白人男性の96%に見られる典型的な変化です。ただし、この初期症状が見られても、必ずしもその後に重度の脱毛が進行するとは限りません。

脱毛の進行パターンについては、Hamilton(ハミルトン)とNorwood(ノーウッド)という研究者によって分類体系が確立されており、これが現在の診断や治療評価にも使用されています(※図参照)。

一方で、若年期にAGAが始まったからといって、将来的にどのような脱毛パターンに至るかは予測できません。ただし、脱毛の始まりが早ければ早いほど、進行が重度になる傾向があるのは事実です。中には、30代後半〜40代以降になってようやく症状が現れる方もいます。

統計的には以下のような傾向があります:

  • 20代男性の約20%
  • 30代男性の約30%
  • 40代男性の約40%
  • 50代男性の約50%

…と、年齢が10歳上がるごとに、AGAの有病率が約10%ずつ増加していく傾向があります。この割合から考えると、90代の男性のうち約90%が何らかの男性型脱毛を経験していると推定されます。



AGA発症のメカニズムとホルモンの役割

AGAの発症には、男性ホルモンのうち特にDHT(ジヒドロテストステロン)が深く関与しています。DHTは、テストステロンが5α還元酵素(5α-reductase)という酵素によって変換されることで生成されます。

  • 腋毛(脇毛)や陰毛の成長は主にテストステロンに依存
  • ヒゲの成長や男性型脱毛症は主にDHTに依存

このため、DHTの生成を抑えることでAGAの進行を抑える治療が行われています。代表的な薬剤がフィナステリド(商品名:プロペシア®)で、これは5α還元酵素を阻害し、DHTの生成を減らす作用があります。

さらに、毛包細胞(毛根のある細胞)にはアンドロゲン受容体(androgen receptors)が存在しており、DHTが最も強く結合します。DHTが受容体に結合すると細胞の核に作用し、DNAレベルでタンパク質の生成に影響を与えることで、最終的に毛包の成長が停止します。



毛周期の乱れと毛包のミニチュア化

AGAでは、髪の毛の成長サイクル(毛周期)が変化します。具体的には:

  • 成長期(Anagen)の期間が短縮
  • 休止期(Telogen)にある毛髪が増加

これにより、髪の毛が細く短くなりやすくなり、日常的なブラッシングや洗髪の刺激で抜けやすくなります。

AGAの進行とともに、毛包が徐々に「ミニチュア化(miniaturization)」し、毛髪の直径や長さが縮小していきます。最終的には産毛(vellus hair)程度の細くて色素のない毛になり、頭皮が透けて見えるようになります。

色素の生成も止まるため、髪の色は徐々に薄くなり、これが見た目の「薄毛」や「地肌が見える」状態として認識されるのです。長期的には、毛包そのものが完全に消失する部位も存在します。



遺伝的背景と「母方遺伝説」の誤解

AGAは遺伝性の疾患であり、発症に関わる遺伝子は父方・母方どちらからでも受け継がれる可能性があります。

世間には「薄毛は母方から遺伝する」という説がありますが、これは科学的には正確ではありません。確かに、X染色体上にある遺伝子も関与していることが知られていますが、複数の遺伝子が関与する多因子遺伝疾患であり、父方の遺伝情報も十分に影響します。



まとめ:男性型脱毛症(AGA)の理解と注意点

  • 男性型脱毛症(Androgenetic Alopecia/AGA)は、正常なレベルの男性ホルモンと遺伝子が組み合わさることで発症する、進行性の脱毛症です。
  • 遺伝的要因は母方・父方どちらからも受け継がれる可能性があり、性別による限定はありません。
  • 脱毛の開始時期・進行速度・重症度には個人差があり、予測は困難です。
  • 脱毛は10代後半〜40代の間に始まることが多く、年齢とともに有病率が高まります。
  • DHTの生成を抑える治療薬(例:フィナステリド)によって進行を抑制することは可能ですが、完全な回復は困難なことが多いです。

AGAは美容上の悩みであると同時に、心理的なストレスや自尊心の低下にも影響する重要な問題です。早期に専門の医師に相談することで、適切な対策や治療を始めることができます。



記事の監修者


監修医師

岡 博史 先生

CAPラボディレクター

慶應義塾大学 医学部 卒業

医学博士

皮膚科専門医

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