この記事の概要
毎日のように目にする自分の髪。ツヤがない、抜け毛が増えた、白髪が急に……そんな「ちょっと気になる変化」は、もしかするとあなたの体が静かに発している「SOSのサイン」かもしれません。髪はただの装飾ではなく、内臓やホルモンバランス、栄養状態までも映し出す“もうひとつの健康の鏡”。このコラムでは、髪の7つの変化から読み取れる体調の兆候や病気の可能性を、専門用語をかみくだいてわかりやすく解説。髪を通して、自分の体とやさしく向き合ってみませんか?
髪の「異変」は、あなたの内側からのメッセージかもしれません

私たちは、毎日なんとなく鏡を見て、自分の髪の毛を目にしています。
でも、その髪の「声」を聞いている人は、どれだけいるでしょうか。
髪の毛は喋りません。けれど、語ります。
ツヤが失われ、色が褪せ、抜けやすくなり、地肌が見え始めたとき—それは、体の内側で、静かに、確かに起こっている変化を映し出しているのです。
このコラムは、美容の話でも、流行りのヘアケア商品紹介でもありません。
これは、髪という「からだのアンテナ」から、あなた自身の健康と生活を見直す旅のはじまりです。
以下では、7つの「髪の変化」に注目しながら、それが何を意味し、どんな背景があり、どう向き合えばいいのか—中学生でも読めるくらいわかりやすく、でも一歩深く掘り下げてお話ししていきます。
① 髪が乾いてパサパサ、毛先がちぎれてしまうとき

それは、水が足りていない合図かもしれません
「パサついているからトリートメントを増やさなきゃ」と、外側からのケアに意識が向きがちですが、実は髪の“乾き”は、内側から始まっていることがあるのです。
人間の体は、約60%が水分でできています。水は血液となり、リンパ液となり、細胞の隅々まで栄養を運びます。そして、その流れの中で髪の毛にも潤いが届けられているのです。けれど、コーヒーばかり飲んでいたり、水を意識して摂っていなかったり、慢性的な睡眠不足に陥っていたりすると、体の中の水が目に見えないかたちで減っていきます。
髪がパサパサし、手ぐしで引っかかるようになるとき、それは体内が「乾いているよ」と知らせてくれているのかもしれません。
加えて、この「パサつき」がもっと深い体の変化を教えてくれることもあります。たとえば、甲状腺(こうじょうせん)という小さな内分泌器官の働きが落ちている場合。甲状腺は、体の代謝、つまり「細胞がエネルギーを使って働く力」を調節する司令塔のような存在です。その機能が低下すると、肌や髪が乾燥しやすくなるほか、疲れやすい、太りやすい、気分が落ち込みやすいなど、さまざまな“静かな変化”が起こってきます。
あなたの髪の乾きは、もしかすると“内臓からのかすかな手紙”かもしれません。
水を飲む。休む。少し、立ち止まってみましょう。
② フケが増えた。頭皮がかゆい。なんだか赤い……
その小さな「粉雪」、もしかして皮膚のSOS?
頭から白い粉がパラパラと落ちてくる。肩に積もったフケを見ると、なんとなく気分が落ち込むものです。でもそれは、見た目の問題だけではありません。頭皮そのものが、助けを求めている証拠でもあります。
肌には、外敵(ばい菌やアレルゲンなど)から私たちの体を守る“バリア機能”があります。ところが、疲れがたまったり、ストレスが慢性的だったり、栄養が足りていなかったりすると、このバリアが壊れやすくなります。
すると、頭皮に住んでいる“常在菌”たちのバランスが崩れます。その中に「マラセチア菌(Malassezia fungus)」というカビの一種がいて、これが増えすぎると、かゆみ・赤み・フケといったトラブルを引き起こすのです。これは「脂漏性皮膚炎(しろうせいひふえん)」という病気の一種。軽症なら自宅でケアもできますが、悪化すると皮膚科での治療が必要です。
つまりフケは、「あなた、ちょっと無理しすぎてるよ」という頭皮からのメッセージ。
強いシャンプーで洗いすぎるのではなく、まずはやさしい洗い方と、体全体を整えることから始めてみてください。
③ 最近、髪の量が減ってきた気がする
更年期、ホルモンの波が髪にやってくる
ふと鏡を見たとき、分け目が前より広がっている気がする。髪がふわっと立ち上がらず、ぺたんとしてしまう……。それは、ホルモンのリズムの変化が髪に表れているのかもしれません。
女性の体の中では、毎月「女性ホルモン(エストロゲン:Estrogen)」が波のように上下しています。このホルモンには、髪の成長を促す働きがあります。けれど、30代後半から40代、50代へと年齢を重ねるにつれて、その量がだんだんと減っていきます。すると、髪が細くなったり、抜けやすくなったり、全体的なボリュームが減ってくるのです。
これは「年だから仕方ない」と思う必要はありません。
食事や睡眠、適度な運動でホルモンを整えることもできますし、必要であれば婦人科で「ホルモン補充療法(Hormone Replacement Therapy)」を相談することも可能です。
髪を通して、自分のライフステージとやさしく向き合っていきましょう。
④ 白髪が急に目立ち始めた
色が抜けた髪の下で、ビタミンと心が枯れているかもしれない
白髪は「年齢の証」と思われがちですが、じつは20代、30代の若いうちから白髪に悩まされる人も少なくありません。もちろん、遺伝の影響はあります。けれど、家族に白髪の少ない人が多いのに、自分だけ早くから目立ち始めたとしたら——それは「体の中で何かが足りなくなってきたよ」というメッセージかもしれません。
髪の色を決めているのは、メラニン色素(Melanin)。これは、毛根の中にある「メラノサイト(色素細胞)」が作ってくれています。でも、このメラノサイトを元気に動かすためには、ある種の栄養素が必要不可欠。とくに大切なのが、ビタミンB12(Vitamin B12)と葉酸(Folic Acid)です。
このふたつは、赤血球をつくったり、細胞の分裂を助けたりする働きがあり、不足すると、肌や髪、神経にさまざまな不調が現れやすくなります。さらに、睡眠不足や精神的ストレスも、白髪を引き起こす要因になることが近年の研究で分かってきました。
だから、白髪を見つけたとき、ただ抜いて隠すだけじゃもったいない。
その一本が「最近、ちゃんと休んでる? 栄養とれてる?」と問いかけてくれているのかもしれないのです。
⑤ 頭のてっぺんにピョンピョン立つ短い毛が目立ってきた
生えてきた? いいえ、それは切れてしまった髪かもしれません
鏡をのぞいて、頭のてっぺんにふわふわ立ち上がる短い毛を見つけたとき、「わっ、新しく生えてきた!」と喜びたくなるものです。けれど、残念ながらその多くは、髪の毛が途中で切れてしまった「切れ毛」です。
髪の毛は、ケラチン(Keratin)というたんぱく質からできています。つまり、髪の材料は“食べもの”なんです。ところが、現代の食生活では、ダイエットや偏食によって、たんぱく質が不足しがち。おにぎりやパンでお腹を満たしても、髪や爪、肌に必要な栄養が足りていなければ、体の一部が少しずつ弱ってしまいます。
髪の強さは、体の底力のようなもの。
ボロボロ切れるのは、カラダが「ちょっと材料が足りません」とつぶやいているからかもしれません。今日の食事に、ゆで卵や納豆、豆腐、お魚をひとつ足してみることから始めてみませんか。
⑥ 生え際が後退してきた。ポニーテールがなんだか痛い
髪を引っ張りすぎると、毛根が「もう無理」と言ってくる
毎日のように髪を強く結ぶスタイル——たとえば、ポニーテールやお団子、編み込みなど——を続けていると、知らないうちに髪の根元が引っ張られて傷ついてしまうことがあります。
これが「牽引性脱毛症(けんいんせいだつもうしょう/Traction Alopecia)」と呼ばれる症状です。最初は生え際の毛が細くなったり、チクチクとした痛みを感じたりする程度ですが、そのまま放置すると、毛根が炎症を起こし、やがて髪が生えなくなることもあるのです。
毛根(毛をつくる根っこの部分)は、とても繊細で正直です。
毎日強く引っ張られれば、当然ながら「もうがんばれません」と弱ってしまいます。
ヘアスタイルは、外見を整えるもの。でも、ときには「ほどく勇気」も大切です。
ゆるく結ぶ。おろして休ませる。寝るときはナイトキャップでやさしく守る。
髪にも、休日が必要です。
⑦ 額がM字型に後退してきたように感じる
もしかして、それは女性ホルモンのバランスのSOSかも
「M字ハゲ」と聞くと、ほとんどの人は男性を思い浮かべるでしょう。でも、女性の髪にも“M字型の後退”が起こることがあるのです。とくに、それが20代や30代など若い世代で起こっている場合は、無理なダイエットやホルモン異常が原因かもしれません。
なかでも注目されているのが、「多嚢胞性卵巣症候群(たのうほうせいらんそうしょうこうぐん/Polycystic Ovary Syndrome、略称PCOS)」という病気です。これは、卵巣にたくさんの小さな嚢胞(袋)ができて、女性ホルモンのバランスが崩れてしまう状態のこと。生理が不規則になったり、ニキビが増えたり、体毛が濃くなったりすることが特徴です。
このPCOSでは、男性ホルモン(アンドロゲン)が一時的に多くなり、髪が男性型の抜け方をすることがあります。つまり、額の生え際がM字に後退してしまうのです。
でも大丈夫。PCOSは、早めに婦人科で検査すれば、薬や生活改善でしっかりコントロールできます。「ちょっとおかしいな」と思ったときが、体からのサイン。恥ずかしがらず、ちゃんと受け止めてあげてください。
髪の変化は、「沈黙の手紙」かもしれません
からだは、あなたを責めてなんかいない。ただ、知らせようとしているだけ
髪の毛は、何も言いません。でも、変化というかたちで、私たちにたくさんのことを伝えてくれています。
その声に気づくかどうかは、私たち次第です。
「なんだか最近、髪がうまくまとまらない」
「生え際が寂しくなった気がする」
「フケがひどくて気になる」
——そんな違和感の中に、あなたの体の“ちいさな悲鳴”が隠れているかもしれません。
どうかその声を無視しないで。
髪を通して、体の内側ともう一度、向き合ってみませんか?
もし気になる症状があれば、皮膚科や内科、婦人科などに気軽に相談を。
あなたの体は、きっと、ずっと、あなたの味方です。







