この記事の概要
「薄毛はもう治らない」と諦めていませんか? 世界の医師たちは今、髪を救うための最新治療を研究しています。光で髪を育てたり、自分の血で再生させたり…? 国際毛髪外科学会(ISHRS)が支援する4つの注目研究を、難しい言葉なしでやさしく解説します。
なぜ髪は抜けるの?未来を変える毛髪研究に注がれる情熱と支援

みなさんは、「最近髪が薄くなってきたかも…」「将来、はげてしまうんじゃないか」と不安になったことはありませんか? 髪の悩みは、年齢や性別に関係なく多くの人が抱える共通のテーマです。中には10代のうちから抜け毛に悩み始める人もいれば、30代、40代になってから「あれ?」と気づく人もいます。
そんな髪の悩みを解決するために、世界中の科学者たちが日夜研究を続けているのです。そして、その最前線で活動を支えているのが、「国際毛髪外科学会(International Society of Hair Restoration Surgery:ISHRS)」という専門団体です。
この団体は、薄毛や抜け毛に関する治療技術を進化させるために、研究者へ助成金を提供し、革新的な研究を支援しています。今回は、そんなISHRSの支援を受けて進められた4つの注目すべき研究をご紹介します。
これらの研究には、「レーザー治療」「白斑(びはく)への応用」「自己血を使った再生医療(PRP)」など、ちょっと難しそうに見えるテーマもありますが、ご安心ください。一つひとつ、わかりやすく、楽しくご案内します。
髪が生える光?低出力レーザー(Cold Laser Therapy)ってなんだろう?

最初にご紹介するのは、「光を使って髪を育てることができるのか?」というテーマに取り組んだ研究です。
カリフォルニア州で開業する毛髪外科医、サラ・ワッサーバウアー先生は、「低出力レーザー治療が毛髪量に与える影響」という研究を行いました。
ここで登場する「低出力レーザー治療(Cold Laser Therapy)」とは、痛みや熱を伴わない微弱な光を頭皮に照射し、毛根の活動を刺激するという治療法。すでに一部では「光治療」として美容クリニックでも使われています。
でも実際、「どれくらい髪が増えるのか?」という問いには、まだ明確な答えがないのが現状です。
ワッサーバウアー先生は、その答えを求めて、特別な測定方法で髪の量を調べました。それが「毛髪の断面直径(cross-sectional diameter)」という方法です。これは、ただ髪の本数を数えるのではなく、1本1本の太さまで測るという、非常に精密な技術です。
「見た目のボリューム感って、実は髪の本数だけでなく太さも大事なんです」と、先生は語ります。
確かに、ふわっとした髪型の人は、髪が多いというよりも「1本1本がしっかりしている」印象がありますよね。この研究は、「光で髪が太くなるか?」という重要な問いに、科学的に迫った意義深い試みなのです。
色が消えた肌に、再び命を──白斑(Vitiligo)と髪の毛の意外な関係
次にご紹介するのは、「白斑(びはく)」という皮膚の病気に対する、ちょっとユニークな治療法です。
白斑とは、皮膚の一部が白くなり、色素(メラニン)が失われる病気です。インドなどでは、この見た目が大きな社会的悩みとなることもあり、患者の精神的な負担は深刻です。
インドのナレンドラ・パトワルダン先生は、「髪の毛の移植で白斑を治療する」という驚きの方法に挑戦しました。
特に難しいのは、「白髪を伴う白斑(Leucotrichia)」です。普通の治療では色が戻らず、多くの患者が長年悩み続けてきました。
そこでパトワルダン先生が考えたのが、「白髪を抜いて、色のついた毛根を移植する」という方法。色素を持った毛包(毛の根っこ)を、頭皮から採取して白斑部分に移植するのです。
この方法を12人の患者に試したところ、なんと約80%の人に色素が戻り、85%の人が「満足した」と回答したそうです。
「1平方インチ(約6.5cm²)の白斑に、10〜15本の毛包を移植します」と先生は説明します。
髪の毛は、ただ伸びるだけの存在ではなく、色素細胞(メラノサイト)を含んでいるため、こうした皮膚再生にも応用できるのですね。
自分の血で髪を育てる?話題のPRP(多血小板血漿)とは
最近、美容医療でよく耳にする「PRP(Platelet Rich Plasma)」という治療法。実はこれ、髪にも使えるって知っていましたか?
グアテマラのマリー・アンドレ・シャムバック・モレル先生は、PRPが初期の男性型脱毛症にどこまで効果があるかを調べました。
PRPとは、自分の血液を採って、それを遠心分離機で回して「血小板だけを濃縮した液体」を作り、それを頭皮に注入する治療法です。血小板には、組織の修復や細胞の活性化を促す「成長因子(Growth Factors)」がたっぷり含まれているため、肌や毛根を元気にしてくれるのです。
研究対象は、ノーウッド分類(男性型脱毛症の進行度を示すスケール)でステージII〜Vにある患者12人。それぞれ、月に1回・計3回のPRP注射を受けました。
その結果、髪の抜ける量が減ったと感じた患者が複数いた一方、髪の太さに明らかな変化はまだ確認できず、半年後の評価が待たれています。
「初期の段階なら、PRPで手術を遅らせたり、植毛する毛の本数を減らせる可能性があります」とシャムバック先生は述べています。
つまり、PRPは「早めの対策」に向いている治療法なのかもしれません。
女性の薄毛には効くの?PRPの可能性と限界
最後にご紹介するのは、女性型脱毛症に対するPRP治療のパイロット研究です。
アメリカ・テキサス州のカルロス・プイグ先生は、28人の女性型脱毛症の患者を対象に、PRP注射と偽薬を比較しました。
結果としては、両グループにわずかな改善が見られたものの、「PRPが原因である」と明確に断定できるほどの差は出ませんでした。
「毛髪治療は医学の中でも特に評価が難しい分野です」と、プイグ先生は語ります。
それでもISHRSは、こうした難しさに立ち向かうため、研究助成金の予算を拡大し、より確かな治療ガイドラインの構築を目指しています。
自毛植毛の新時代──FUE法(毛包単位採取法)の研究も進行中
「植毛」と聞くと、昔は「後頭部の皮膚を切り取る」イメージがありましたが、いまではもっと進化しています。
ISHRSでは、FUE法(Follicular Unit Extraction)という最新の自毛採取技術に関する研究も進められています。これは、特殊な機器で毛穴ごとに毛を1本ずつ採取する方法で、傷が小さく回復も早いため、人気の高い手法です。
この技術をさらに進化させるため、ISHRSのFUE研究委員会では、道具の最適化、採取後の毛根の扱い方、ドナー部位への影響など、さまざまな観点から実験と検証を重ねています。
薄毛に悩んだら、信頼できる情報から始めよう
ISHRSでは、毛髪の悩みを抱えるすべての人に向けて、情報提供にも力を入れています。公式ウェブサイトには、次のような動画も公開されています。
- 「女性はなぜ髪を失うのか?(Why do women lose their hair?)」
- 「男性はなぜ髪を失うのか?(Why do guys lose their hair?)」
難しい言葉や専門用語に惑わされず、自分の体としっかり向き合う第一歩として、正しい情報を知ることが大切です。
もし、あなたやご家族が髪のことで悩んでいるなら、こうした信頼ある情報源を参考にして、未来の自分のためにできることから始めてみませんか?







