スカルプ・マイクロピグメンテーション(SMP)とは?薄毛を自然にカバーする新しい選択肢

こめかみ部分の髪を手ぐしで分け、露出した頭皮の薄毛状態を示す様子。SMP(スカルプ・マイクロピグメンテーション)で自然にカバー可能な範囲の例。

この記事の概要

髪が薄くなってきたけれど、「植毛はちょっと抵抗がある」「薬は長く続けられない」——そんな悩みに応える新しい技術、それがスカルプ・マイクロピグメンテーション(SMP)です。頭皮に繊細な点を描くことで、まるで毛が生えているかのように見せるこの施術。この記事では、SMPの仕組みから、使用される色素の科学、安全性、専門資格の必要性まで、やさしく丁寧に解説します。専門用語もきちんと補足しているので、医学知識がなくても安心して読める内容です。

スカルプ・マイクロピグメンテーション(SMP)ってなに?髪が薄くなってきた人の“新しい味方”

前髪を横に流し、生え際の頭皮を指で優しく触れて確認する男性。SMP(スカルプ・マイクロピグメンテーション)による自然な生え際再現を検討中の様子を連想させる場面。

最近、「スカルプ・マイクロピグメンテーション(Scalp Micropigmentation)」という言葉を耳にしたことはありませんか?ちょっと長くて舌を噛みそうですが、略して「SMP(エス・エム・ピー)」と呼ばれ、今、世界中で注目を集めている毛髪の見た目を改善する技術なんです。

「髪が薄くなってきたけど、植毛や薬はちょっと…」と感じている人にとって、SMPはまさに救世主のような存在。この技術、どんな仕組みで、どんな人に向いているのか、そしてなぜ今話題になっているのか。専門用語もやさしく解説しながら、一緒にじっくり見ていきましょう。



髪が生えたように見える?SMPの基本的なしくみ

進行した男性型脱毛症(AGA)の例。男性が左こめかみに手を当て、頭頂部には短くまばらな髪と加齢による頭皮の質感が見られる。SMP(スカルプ・マイクロピグメンテーション)適応が検討される重度の薄毛状態。

まず、SMPとは何かをわかりやすく言うと、頭皮にとても小さな点(ドット)を専用の器具で描き、髪の毛が生えているように見せる技術です。この点は、実際の毛根のように見え、特に坊主頭や短髪スタイルの人にとっては「青ヒゲのような自然な濃さ」を演出することができます。

言ってしまえば、これは頭皮にする“点描タトゥー”。でも、普通のタトゥーとは少し違います。SMPは、医療と美容の間にあるような、ちょっと特殊な施術なのです。

実際に薄毛に悩んでいた男性が、SMPを受けたことで自信を取り戻したり、手術の傷跡(植毛後の線状の傷など)を自然に隠せたという声も多く聞かれます。



世界の毛髪医療界でも注目のSMP

このSMPは単なる「美容サロンの流行メニュー」ではありません。なんと国際毛髪外科学会(ISHRS)という世界的に権威のある団体も、正式な毛髪再建の手法のひとつとして位置づけているのです。

例えば2023年11月に行われた「トリプルクラウン・ワールドライブサージェリー・ワークショップ」では、FUE(毛包単位採取法)やFUT(毛包単位移植術)と並んで、SMPが紹介されました。これは、SMPがプロの外科医たちの間でも本格的に認められてきた証拠です。



もともとは“メイク”の一種だった?SMPのルーツ

SMPは、完全に新しく生まれた技術というわけではありません。そのルーツをたどると、パーマネントメイク(PMU)やセミパーマネントメイク(SPMU)という、いわゆる「落ちにくいメイク技術」から発展してきたものです。

たとえば、眉毛を刺青のように描いて数年持たせる「アートメイク」や、唇に色を入れる施術などがこれにあたります。SMPはこれを頭皮専用に特化させ、さらに高度な技術を取り入れた進化版とも言えます。

イギリスでは、このSMPを提供する施術者が年々増加しており、2019年にはBAHRS(英国毛髪再生外科学会)がSMP専門の施術者のための準会員制度まで設けたほど。これは、「美容師」でも「医者」でもない、SMP施術者(SMP Practitioner)という新しい専門職の誕生でもあります。



でも結局、SMPって「タトゥー」なの?

ここで気になるのが、「結局これはタトゥーなのか?」という疑問。結論から言えば、“似ているけど違う”というのが正確な表現です。

確かに、SMPも皮膚の中に色素を注入するため、「タトゥー」に近い技術ではあります。しかし、次のような違いがあります。

  • 使用する色素:タトゥーは「インク」、SMPは「ピグメント(顔料)」と呼ばれるものを使用。
  • 色の定着具合:SMPはあえて“半永久的”に設計されており、数年で自然に薄くなることを想定。
  • 機械の構造:SMP専用機器は、血液の逆流を防ぐなど、衛生面でより厳密。

さらに面白いのが、「インク」や「ピグメント」といった言葉の使い分けも実は科学的な明確な違いがないということ。慣例的に呼び分けているに過ぎないのです。



色素にも「有機」と「無機」がある?ピグメントの化学的ちがい

ここでちょっと理科の授業っぽくなりますが、SMPに使われる色素には有機系(オーガニック)と無機系(インオーガニック)の2タイプがあります。

  • 有機系ピグメント:炭素ベースの成分でできており、粒子が細かくて肌に入りやすく、紫外線にも強い。そのため、色持ちがよいとされます。
  • 無機系ピグメント:金属酸化物(例:酸化鉄)などが主成分で、複雑な色合いを出しやすい。ただし、紫外線に弱く、色が変化しやすい傾向があります。

ちなみに「有機」と聞くと「オーガニック=体に良さそう」と思ってしまいがちですが、ここでは化学的な分類です。食べ物のオーガニックとは関係ありません。



なぜ専門的な訓練が必要なの?施術者に求められる知識と技術

SMPは、単に機械で点を打つだけ…と思われがちですが、実はとても繊細で専門的な技術です。特に、頭皮には様々な皮膚疾患や毛髪の成長サイクルなどに関わる知識が必要になります。

そのため、イギリスのBAHRSでは、SMP施術者に対して以下のような訓練や資格の取得を求めています。

  • SMP専用のレベル4資格(国家認定の教育機関による)
  • 血液媒介性感染症の講習修了
  • 応急処置(First Aid)および一次救命処置(Basic Life Support)の資格
  • 定期的な学習・症例共有への参加

特に重要なのが、「タトゥーアーティストとしてどんなに経験があっても、SMP特有の訓練を受けていなければ会員にはなれない」という点です。



法律や保健所の許可は?SMP施術の現実

SMPがタトゥーと異なるもう一つの理由が、法律的な取り扱いの違いです。

たとえば、SMPを提供するには、通常の美容施術とは異なるクリニック許可(ライセンス)が必要な場合があります。また、使用する針や色素に関しても、厳格な衛生管理と安全基準を守らなければなりません。

さらに、皮膚に針を刺す以上、感染症(HIV、肝炎など)リスクも伴うため、使い捨ての針や手袋の使用は当然ながら、血液の逆流を防ぐ専用カートリッジの使用など、高度な配慮が求められます。



SMPは医療か?美容か?その中間にあるグレーゾーン

「じゃあ、SMPは医療行為なのか?」という問いには、“医療と美容のあいだ”という答えがもっとも適切でしょう。

たとえば、薄毛や円形脱毛症などが医学的な症状である場合、それを隠すSMPもまた、医療的意味合いを持つといえます。一方で、本人の希望によって行われる「見た目の改善」でもあるため、美容施術とも言えるのです。

このように、SMPはまさに「医療と美容をつなぐ橋渡しのような施術」であり、その安全性と効果を保つためには、明確な基準と教育体制が必要なのです。



まとめ:SMPは「毛髪に悩む人の未来」を変えるかもしれない

SMPは、毛が生えてくるわけではないけれど、見た目に劇的な変化をもたらしてくれます。まるで頭皮に描かれた“影”が、髪があるかのように錯覚させ、自信を取り戻すきっかけとなるのです。

今後ますます需要が高まるであろうこの技術に対して、適切な教育・訓練・安全管理・法制度が整備されることは必須です。

SMPは、脱毛に悩む人たちに「もう一度笑顔で鏡を見られる日常」を届けてくれる、新しい時代の毛髪ケアのかたちなのかもしれません。

そしてそれは、ただの“技術”ではなく、人の心に自信と希望を描く、アートであり医療でもある。SMPの可能性は、これからますます広がっていくことでしょう。



記事の監修者


監修医師

岡 博史 先生

CAPラボディレクター

慶應義塾大学 医学部 卒業

医学博士

皮膚科専門医

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