この記事の概要
頭皮に現れる「フケ」や「べたつき」、「かゆみ」は、多くの人が経験するごく一般的なトラブルです。しかし、症状の中には「脂漏性皮膚炎」など、医師の診察や専門的な治療が必要な疾患が潜んでいることもあります。本記事では、フケ・脂漏・脂漏性皮膚炎の違いや症状の特徴、セルフケアと医療の判断基準について、医学的根拠に基づいてやさしく解説します。日々のシャンプーの選び方から皮膚科受診のタイミングまで、正しい知識で頭皮の健康を守りましょう。
頭皮の三大トラブル:フケ、脂漏(しろう)、脂漏性皮膚炎の違いと対策

人間の頭皮でよく見られる代表的なトラブルには、フケ(dandruff)、脂漏(しろう:seborrhea)、および脂漏性皮膚炎(seborrheic dermatitis)があります。これらはいずれも、毛髪がまだ豊富にある時期に始まり、男性型脱毛症(androgenetic alopecia)または女性型脱毛症によって髪が徐々に失われていく過程でも持続することが多いとされています。
フケ(Dandruff):見た目に気になるが軽度の生理現象
一般的に「フケ」として知られる症状の多くは、頭皮からの角質細胞(=死んだ皮膚細胞)の自然な剥離によるものであり、最も軽度な形態では生理的な現象に過ぎません。白いフレーク状のフケが肩や襟に落ちると見た目に不快感を与え、化粧的な問題と捉えられることが多いです。

一部の人では、フケの量が多く、頭皮に貼りついたり、雪のように衣服や寝具、家具に落ちることもあります。特に頭皮の皮脂分泌(sebum production)が過剰になる思春期や、男性ホルモン(androgens)バランスの乱れがあると、脂っぽいフケ(oily dandruff)として頭皮にこびりつくケースがあります。
このような軽度のフケは、市販の抗フケシャンプー(anti-dandruff shampoo)を週に1〜2回使用することで、多くの場合コントロール可能です。成分としては、ケトコナゾール(ketoconazole)、ピリチオン亜鉛(zinc pyrithione)、セレン化合物(selenium sulfide)などが効果的です。
ただし、脂っぽく、かゆみや炎症を伴うフケは、軽度とはいえ脂漏性皮膚炎の一形態である可能性があり、皮膚科医の診察を受けることが推奨されます。

また、育毛剤であるミノキシジル(minoxidil:商品名Rogaine®など)の使用によりフケが発生・悪化するケースもあります。この場合、頭皮の乾燥、かゆみ、場合によっては出血を伴う炎症が現れることがあります。冬場など湿度が低い環境で悪化することもあります。こうした副作用が見られた場合は、すぐに医師に相談しましょう。対処法としては、抗フケシャンプーの使用、ミノキシジルの使用回数を1日2回から1回へ減らす、または使用を中止するといった方法があります。
脂漏(Seborrhea):皮脂が多すぎる頭皮と髪
皮膚や頭皮、髪が「脂っぽい」「べたつく」と感じる状態は、脂漏(seborrhea)と呼ばれます。これは見た目や触感の不快さから、多くの人にとって気になる問題です。

この「脂っぽさ」は個人差が大きく、実際の皮脂(sebum)量の増加を伴っている場合もあれば、そうでない場合もあります。また、髪に使用しているヘアケア製品の蓄積や分解物、あるいは汗の分泌物の堆積が原因で脂っぽく感じることもあります。
脂漏は思春期にピークを迎え、加齢とともに皮脂の分泌量は減少する傾向にあります。なお、脂漏はにきび(acne)の原因の一つでもあり、皮脂分泌を抑える治療が行われることがあります。にきびは「10代の病気」と誤解されがちですが、成人期にも多くの人が悩まされています。

脂漏により頭皮や髪がべたつくように感じる一方で、かゆみや炎症、かさぶた形成などが伴わない点が脂漏性皮膚炎との違いです。もし脂漏の症状が重い場合には、皮膚科医による診断が重要です。他の疾患との鑑別を行い、適切な治療が検討されます。
脂漏性皮膚炎(Seborrheic Dermatitis):かゆみと炎症を伴う慢性皮膚疾患
脂漏性皮膚炎(seborrheic dermatitis)は、乳児期から中高年まで幅広い年齢層で発症する慢性疾患です。発症のピークは、生後3か月以内の乳児(この時期は「乳児脂漏性湿疹」あるいは「乳児脂漏(cradle cap)」とも呼ばれます)、および30〜70歳の成人期とされています。

主な特徴は以下の3つです:
- 頭皮と髪の極端な脂っぽさ(過剰皮脂分泌)
- 赤く湿った頭皮に張りつく黄色く脂っぽい鱗屑(スケール)やかさぶた(クラスト)
- 強いかゆみ
重度になると、眉毛、頬、鼻の周囲(鼻唇溝)など顔にも広がることがあります。強いかゆみにより頭皮を強くかいてしまい、皮膚のバリア機能が低下して細菌・酵母(Malassezia属)・真菌などによる二次感染が起こるリスクもあります。

重症例では、乾癬(psoriasis)に似た症状を示すこともあり、「脂漏性乾癬(sebopsoriasis)」と呼ばれる中間的な疾患に分類されることもあります。なお、脂漏性皮膚炎の明確な原因は未だ解明されていません。
軽度のフケや脂漏に比べて、脂漏性皮膚炎は最も重症度が高く、皮膚科医など専門医による診断と治療が必要です。治療法としては、まずは医師が推奨する専用シャンプーを週に1〜2回使用することが一般的です。症状の程度に応じて、抗真菌薬、ステロイド外用薬、免疫抑制薬などが併用されることもあります。

完治は難しいものの、定期的なケアにより症状をコントロールし、再発を抑えることが可能です。
まとめ
フケ、脂漏、脂漏性皮膚炎はいずれも、頭皮の見た目や快適さに影響する一般的な症状です。軽度なフケであれば市販シャンプーで対応可能ですが、脂っぽさやかゆみ、炎症が強い場合は医師の診断を受けることが大切です。

特に脂漏性皮膚炎は慢性的かつ重症化しやすいため、皮膚科での早期の診断と継続的な治療が症状改善の鍵となります。日常的なスキンケアと医師の指導による治療を両立させることで、頭皮の健康を長く保つことができます。







