はじめに
植毛を検討している方や、すでに手術を受けた方にとって、「植毛後 かさぶた」の扱いは非常に気になるポイントのひとつです。手術後の頭皮には小さな傷が多数でき、そこにかさぶたが形成されるのは自然な体の反応ですが、「いつ取れるのか?」「無理に剥がしてもよいのか?」といった不安や疑問を抱える方も多いでしょう。
本記事では、かさぶたの形成から自然に取れるまでの経過、正しいケア方法、注意すべきポイントを医学的根拠を交えて詳しく解説します。
植毛手術後にかさぶたができる理由
FUE法やFUT法など、どの植毛手術でも皮膚に小さな傷ができるため、かさぶたは創傷治癒の一環として自然にできるものです。これは体が傷口を外界から守り、内部での再生を促進するための「生体の防御反応」です。
特にFUE法では、毛包を1つずつ採取・移植するため、頭皮に多くの微細な傷ができます。これにより、術後2〜3日以内にかさぶたが形成され始め、1週間前後で目立つようになります。
植毛後のかさぶたはいつ取れるのか?
かさぶたの脱落には個人差がありますが、術後7日〜10日が目安とされています。以下に大まかな経過を示します。
術後1〜3日:
- 出血や滲出液が固まり始め、かさぶたが形成。
- この時期のかさぶたは非常に脆弱で、むやみに触れないことが重要。
術後4〜7日:
- かさぶたが乾燥し始める。
- 頭皮の違和感やかゆみが出てくる場合があるが、掻くのは厳禁。
術後8〜14日:
- 自然にかさぶたが剥がれ落ちる。
- 無理にこすらず、洗髪などで徐々に取れるのを待つのが原則。
術後14日以降:
- 大半のかさぶたが取れ、頭皮の状態も安定してくる。
- 医師の診察を受け、必要に応じてアフターケアを行う。
かさぶたを無理に剥がしてはいけない理由
かさぶたを無理に剥がすと以下のようなリスクが生じます。
- 移植毛の定着不良
成着が完了する前に物理的な刺激を与えると、毛包が抜け落ちる可能性があります。 - 出血や炎症
かさぶたの下はまだ皮膚が完全には再生していないため、出血や細菌感染のリスクが高まります。 - 傷跡が残る
無理に剥がすことで皮膚が引きちぎられ、色素沈着や瘢痕の原因になることがあります。
植毛後の正しいかさぶたケア方法
洗髪のタイミングと方法
- 術後2〜3日目から洗髪を開始してもよいとされることが多いですが、医師の指示を必ず確認してください。
- 洗髪は優しく泡立てたシャンプーを使い、指ではなく手のひらでなでるように行うのがポイントです。
- シャワー圧は弱く、ぬるま湯を使いましょう。
保湿の重要性
- 頭皮の乾燥はかさぶたの硬化や剥がれに影響を与えるため、保湿スプレー(例:生理食塩水や処方されたミスト)を用いると良いです。
禁忌事項
- かゆみが出ても掻かない
- 強い摩擦を与えない
- サウナや熱いお湯、紫外線は避ける
術後の異常サインと受診のタイミング
下記のような症状が出た場合は、すぐに施術クリニックへ相談してください。
- 高熱が続く
- 強い痛みや腫れ
- 黄色や緑色の膿が出る
- かさぶた周囲が赤く盛り上がる
これらは感染症やアレルギー反応の可能性があります。
医学的エビデンスと専門医の見解
植毛手術後の創傷治癒と毛包の定着に関しては、以下の研究が参考になります。
- Rose, Paul T. (2011). “Robotic Hair Restoration Surgery.” Facial Plastic Surgery Clinics of North America.
→ 植毛手術後の創部管理と回復期間について、実例をもとに説明。 - Bernstein RM, Rassman WR. (2002). “The Logic of Follicular Unit Transplantation.” Dermatologic Clinics.
→ FUEとFUTにおける組織の損傷と再生に関する考察。 - https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19544178/
→ 毛包の生着率と術後のケアの関連性について。
これらの知見からも、術後のかさぶたケアが移植毛の成功率に密接に関係していることが分かります。
よくある質問(FAQ)
Q1:かさぶたが一部だけ取れてしまいました。大丈夫?
→ 無理に剥がしたものでなければ、多くの場合は問題ありません。ただし、赤みや出血がある場合は医師に相談しましょう。
Q2:かさぶたが取れた後に毛が抜けました。失敗?
→ 「ショックロス(一時的な脱毛)」の可能性があります。これは一時的なもので、毛母細胞が生きていれば数ヶ月後に再生します。
Q3:どうしてもかゆくて我慢できません。対処法は?
→ 保冷剤や冷たいタオルを軽くあてることでかゆみを和らげる方法があります。かゆみ止めの外用薬が処方される場合もあるため、医師に相談を。
かさぶたの「取り残し」は問題か?
術後2週間が経過しても一部のかさぶたが頭皮に残っているケースもあります。このような場合でも、無理に剥がすことは避けるべきです。以下のような対応が推奨されます。
● 洗髪による自然な除去を優先
頭皮に刺激を与えず、泡シャンプーでやさしく洗うことで、徐々にかさぶたが浮き上がり、自然に取れていきます。
● 医師のチェックを受ける
とくに、術後2週間以降も目立つかさぶたが残る場合は、感染や異常治癒のサインである可能性もあるため、必ず医師の診察を受けてください。

植毛後の回復を早めるためにできること
かさぶたの早期剥離=回復促進ではありません。あくまで安全に、かつ毛根がしっかりと生着したうえでの回復が重要です。そのために以下の生活習慣を心がけることが推奨されます。
● 十分な睡眠
睡眠中に分泌される成長ホルモンは、創傷の治癒や毛包の定着を助ける働きがあります。術後1週間はとくに、6〜8時間の十分な睡眠が望まれます。
● 栄養バランスのとれた食事
- たんぱく質(毛髪の主成分ケラチン)
- ビタミンC・E(抗酸化作用)
- 亜鉛(細胞分裂や皮膚の修復)
これらの栄養素を積極的に摂ることで、頭皮環境の改善が期待できます。
● 禁煙・節酒
喫煙は血流を悪化させ、毛根の酸素供給を妨げます。また、アルコールも炎症反応を強めることがあり、回復を遅らせる可能性があります。
よくある誤解とその真実
「かさぶたが早く取れたほうが良い」という誤解
むしろ逆で、かさぶたが長く残っていることは、毛包がしっかりと守られている証拠とも言えます。自然に剥がれるまで待つのが鉄則です。
「洗えば早く剥がれるはず」と思い込む
強く洗うと移植部が物理的に損傷し、毛が抜けてしまうリスクがあるため、洗髪の力加減には最大限の注意が必要です。
「全くかさぶたができないのは異常?」
いいえ、FUE法の中でも極めて微細な機器を用いた施術では、ほとんど出血せずかさぶたが目立たないこともあります。医師が術中に止血処置を丁寧に行った場合など、かさぶたが目立たない=異常ではありません。
海外ガイドラインに見る術後管理
アメリカ毛髪外科学会(ISHRS)のガイドラインでは、術後のかさぶたについて以下のように言及されています。
“Scabbing is expected after hair transplantation, typically lasting 7 to 10 days. Patients should avoid picking scabs to reduce risk of dislodging the grafts.”
(訳:植毛後のかさぶた形成は一般的であり、通常7〜10日間続く。移植毛の脱落リスクを減らすため、かさぶたを無理に取ってはいけない。)
出典:International Society of Hair Restoration Surgery – Patient Guide
このように、世界的にも「自然に剥がれるのを待つ」という方針が基本です。
かさぶたの状態でわかる「頭皮の回復具合」
以下は頭皮の回復フェーズを、かさぶたの様子から見極める目安です。
| 時期(術後) | かさぶたの状態 | 頭皮の状態 | ケアのポイント |
| 1〜3日目 | やや湿っている | 炎症反応が活発 | 洗髪は避ける |
| 4〜7日目 | 乾いてきてかゆみ | 再生が始まる | 泡洗髪を開始 |
| 8〜14日目 | ポロポロと剥がれ始める | 表皮が再生 | 洗髪を続けるがこすらない |
| 14日以降 | ほぼ消失 | 安定期 | 通常の洗髪に戻して可 |
この表からも、回復状況に応じた適切なケアが重要であることがわかります。
1植毛の成功率と術後管理の関連性
かさぶた管理の適否は、植毛成功率に直結します。一般に、移植毛の生着率は85〜95%程度とされていますが、術後ケアを怠った場合、この数字は大きく下がるリスクがあります。
術後管理(特に初期1〜2週間)は、施術そのものと同等に重要視すべきポイントです。
終わりに
「植毛後 かさぶた」は、移植手術後の自然な回復プロセスです。しかし、その扱いを誤ると、せっかくの移植毛が定着しないリスクもあります。無理に取らず、正しい知識と丁寧なケアで乗り越えることが、美しい仕上がりへの第一歩です。
かさぶたは「治るためのサイン」であり、「慎重に見守るべきもの」であると捉えて、安心して術後を過ごしてください。
まとめ
「植毛後 かさぶた」に対する正しい知識とケアの理解は、術後の仕上がりや定着率に大きな影響を及ぼします。焦らず自然な経過に任せ、必要に応じて医師の指導を仰ぐことが成功への鍵です。
植毛手術は術後のセルフケアまで含めて初めて成功といえます。不安な点は必ず医療機関と連携し、万全な体制で理想の髪を取り戻しましょう。
■ 参考文献一覧
- Bernstein, R. M., & Rassman, W. R. (2002).
The Logic of Follicular Unit Transplantation.
Dermatologic Clinics, 20(2), 277–285.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12170880/
─ FUTおよびFUEにおける毛包単位移植の利点と術後管理の意義を解説。 - Rose, P. T. (2011).
Robotic Hair Restoration Surgery.
Facial Plastic Surgery Clinics of North America, 19(2), 243–252.
https://doi.org/10.1016/j.fsc.2011.02.005
─ ロボット植毛を含めた術後経過と創傷治癒のプロセスを医学的に解説。 - Shapiro, R. (2008).
Hair Transplantation: The Art of the Procedure and the Importance of Postoperative Care.
Hair Transplant Forum International.
https://www.ishrs-htforum.org/
─ 植毛術後のケアが移植毛の生着率に与える影響を詳述。 - International Society of Hair Restoration Surgery (ISHRS).
Patient Safety and Postoperative Instructions Guide.
https://ishrs.org/patient-information/
─ 世界的な植毛学会が発行する術後ガイドライン。かさぶた管理の推奨事項を含む。 - Trueb, R. M. (2003).
Medical treatment of hair loss.
Dermatologic Clinics, 21(3), 289–300.
https://doi.org/10.1016/S0733-8635(03)00028-9
─ 毛髪再生における皮膚の修復・再生機構との関係を網羅的に紹介。 - 日本皮膚科学会(Japanese Dermatological Association)
『脱毛症診療ガイドライン』2021年版
https://www.dermatol.or.jp/
─ 日本国内の標準的なAGA・自毛植毛に関する診療指針を掲載。 - PubMed: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/
- 日本皮膚科学会: https://www.dermatol.or.jp/







