この記事の概要
植毛手術は「簡単な美容処置」と思われがちですが、実際には術後に感染や出血といった合併症が起きることもあります。本記事では、喫煙や持病、サプリの影響など、術後リスクを高める13の要因を、医療の専門知識がない方でも理解できるようにやさしく丁寧に解説します。
「ちょっとした手術」と思っていませんか?──植毛手術にもある“見えないリスク”

「植毛手術って、髪の毛をちょっと増やすだけでしょ?」「大きな病気じゃないんだし、たいしたことない手術でしょ?」
こんなふうに思っている方、意外と多いのではないでしょうか。
確かに、心臓手術や臓器移植のような「命を守るための大手術」と比べると、植毛手術は規模も小さく、時間も短めです。そのため、「軽い処置」という印象を持ちやすいかもしれません。
しかし実際は、「手術」である以上、どんなに小さな施術でも身体への負担はゼロではありません。特に体質や生活習慣、持病などの影響によって、術後に思わぬトラブル(=合併症)が起きる可能性もあるのです。
本記事では、植毛手術において注意すべき「リスク要因」について、専門用語をかみ砕いて、誰にでもわかるように解説していきます。読み終わる頃には、「ただの美容手術」と思っていた方も、きっと見方が変わるはずです。
リスク要因って何?──簡単に言うと「トラブルを起こしやすくなる条件」

まず最初に、「リスク要因(Risk Factors)」という言葉を分かりやすく説明しましょう。
これは、ある出来事──たとえば手術後に感染する、出血が止まりにくい、傷の治りが遅れるなどの不具合──が起きやすくなるような「条件」や「傾向」のことです。
リスク要因には、大きく分けて次の2種類があります。
■ 手術そのものに関係するリスク
たとえば、手術のやり方が複雑だったり、処置に時間がかかりすぎたりすると、それだけ身体に負担がかかりますよね? こういった医師側・施術内容側の要因が「手術関連リスク」です。
■ 患者さん自身に関係するリスク
そしてもう一つが、今回のテーマである「患者側のリスク」。これは、患者さんの体質・生活習慣・持病などにより、手術後の体調に影響が出やすくなるリスクです。
植毛手術は通常、皮膚の一部(多くは後頭部)から毛根を採取して、薄毛が気になる部分に移植するという手順で行われます。技術的には比較的安全で、経験豊富な医師による施術なら成功率も高いのですが──
それでも、患者さんの身体に何らかのリスク要因があると、以下のような合併症が起こりやすくなります:
- 傷口がジュクジュクして治らない
- 感染して腫れてしまう
- 出血が長引く
- 生着(移植した毛根が根付くこと)がうまくいかない
そのため、医師は手術の前に、必ずリスク要因の有無をチェックします。
では、具体的にどんな要因があるのか、ひとつひとつ丁寧に見ていきましょう。
植毛手術で要注意!13の患者側リスク要因
① 喫煙──「たばこ」は血流の敵
たばこに含まれるニコチンは、血管をギュッと縮めてしまう性質があります。すると、傷口に必要な酸素や栄養が届きにくくなり、回復が遅くなるのです。
さらに、白血球の働きも弱まるため、感染症にかかりやすくなります。手術の数日前から禁煙を勧められるのは、こうした理由からです。
② 飲酒──「お酒の飲みすぎ」は傷の治りを悪くする
アルコールは肝臓に負担をかけるだけでなく、体内の栄養バランスを崩す原因にもなります。すると、免疫力が落ちて感染リスクが上がるほか、出血が止まりにくくなることも。
特に「毎日多量に飲む」「休肝日がない」など、アルコール依存傾向のある方は、必ず医師に相談しましょう。
③ 肥満──手術は「太っていると不利」?
肥満の方は、傷が深くなる、皮膚が厚くなるといった理由で、手術の難易度が上がる傾向があります。また、血流が悪くなっていることが多く、治りが遅いことも。
さらに肥満は、糖尿病や高血圧など他の疾患を併発しやすく、これらもリスクを増大させる要因になります。
④ 栄養不良──ダイエットしすぎていませんか?
痩せすぎ、極端なダイエット、摂食障害(拒食症や過食嘔吐など)があると、体の回復力が大きく下がります。
体は、傷を治したり、免疫を維持したりするのに多くの「材料(=栄養素)」を必要とします。これが不足していると、いつまでも傷がふさがらない、移植した毛根が定着しないといったトラブルにつながるのです。
⑤ ステロイドや抗がん剤の使用
ステロイド(Corticosteroids)や抗がん剤(Chemotherapy drugs)は、免疫の働きを抑えるために使用されます。これは治療としては必要なことですが、同時に体が細菌やウイルスと戦う力が弱まってしまうという側面も。
手術後は感染リスクが上がるため、服薬中の方は必ず事前に申告が必要です。
⑥ サプリメントの思わぬ落とし穴
「健康のためにハーブを飲んでいます!」という方も多いでしょうが、たとえばイチョウ葉(Ginkgo Biloba)や高濃度のビタミンEには、血液をサラサラにする働きがあります。
一見良さそうですが、手術中に出血が止まりにくくなるというリスクもあるのです。自然由来でも、医薬品と同じように影響することがあるので注意が必要です。
⑦ 免疫不全(HIVなど)
HIV/AIDSのような免疫不全疾患があると、体が十分に細菌やウイルスに対抗できません。すると、ちょっとした傷からでも感染が広がる危険性があります。
医師には正確に申告しましょう。最近ではこうした疾患を持つ方でも、安全に施術できる方法が確立されつつあります。
⑧ 糖尿病などの慢性疾患
糖尿病は、血糖値のコントロールが難しく、血管や神経の働きにも影響を与える病気です。そのため、傷の治りが遅れたり、感染症が重症化しやすかったりします。
同様に、肝臓や腎臓、肺、心臓などに慢性疾患がある場合も、術後の体力回復に時間がかかることがあります。
⑨ 慢性的な皮膚の病気(毛嚢炎、ニキビなど)
頭皮に炎症や感染症が繰り返し起きる体質の場合、移植した毛根の定着率が下がる可能性があります。
たとえば、毛穴に膿がたまる毛嚢炎(Folliculitis)や、広範囲にわたる皮膚の湿疹、癤(せつ:化膿性のしこり)などです。事前に皮膚科との連携が必要になる場合もあります。
⑩ 再発しやすい感染症(副鼻腔炎やヘルペスなど)
何度も繰り返すような細菌・ウイルス感染症も要注意です。術後に免疫力が一時的に下がると、そうした持病が再発することも。
鼻炎、副鼻腔炎、帯状疱疹、ヘルペスなどを繰り返している方は、あらかじめ医師に伝えておきましょう。
⑪ 血液を固まりにくくする薬を飲んでいる方
たとえば、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)や、抗血小板薬、ワーファリンなどの薬を服用している方は、出血リスクが高まるため注意が必要です。
特に自己判断で市販薬を飲んでいる場合などは、忘れずに申告してください。
⑫ 人工関節や人工弁がある方
人工物が体内にある場合は、感染症が起こると深刻な合併症につながることがあります。そのため、手術前に予防的に抗生物質を投与することがあります。これを抗生物質プロフィラキシス(Antibiotic Prophylaxis)といいます。
人工関節や心臓の人工弁などが入っている方は、必ず医師に伝えましょう。
本音を話すことが、安全な植毛手術の第一歩
ここまで読んで、「自分にも当てはまるものがあるかも…」と思った方も多いのではないでしょうか?
でも、ご安心ください。たとえリスク要因があったとしても、それだけで手術が受けられなくなるわけではありません。
むしろ、正確に申告することで、医師は対策を立てやすくなり、安全性が高まるのです。恥ずかしいからといって喫煙や飲酒を隠してしまうのは、かえってリスクを増やすことになります。
まとめ──「安心して植毛する」ためにできること
髪を取り戻すための植毛手術は、見た目だけでなく、自信や人生の質(クオリティ・オブ・ライフ)を取り戻す大切な手段です。
その恩恵をしっかり受け取るためにも、「軽い手術」と油断せず、自分自身の体と向き合うことが大切です。
医師との信頼関係を築き、必要な情報をしっかり伝え、万全の体調で手術に臨みましょう。それが、安全で満足度の高い結果への一番の近道です。







