この記事の概要
「筋肉増強や若返り目的で使われるテストステロン注射が、実は薄毛を進行させる可能性があることをご存じですか? 本記事では、メルボルンの毛髪専門医ジャヤプラカシュ医師の解説をもとに、外因性テストステロンと脱毛の深い関係を、やさしく、わかりやすく紐解きます。薄毛治療の最前線を一緒に学びましょう。」
外用テストステロンと薄毛の深い関係――手術だけに頼らない、新しい薄毛治療の世界へようこそ

「最近、なんだか髪の毛が細くなってきた気がする……」「おでこの生え際が後退してきてるかも?」そんな悩みを抱える方は、決して少なくありません。鏡をのぞいてふと気づく髪の変化は、誰にとっても少しドキッとするもの。特に男性の多くは、年齢を重ねるにつれて男性型脱毛症(androgenetic alopecia)と呼ばれる遺伝的な薄毛の可能性に直面することになります。
しかしご安心ください。現代の薄毛治療は、単に「髪が減ったら植毛する」という単純な話ではありません。最近では、外因性テストステロン(exogenous testosterone)――つまり外から補充される男性ホルモン――が脱毛とどのように関わっているかが、専門家たちの間で注目を集めています。
この記事では、オーストラリア・メルボルンを拠点に活躍する毛髪移植の専門医、ヴィクラム・ジャヤプラカシュ医師(Dr. Vikram Jayaprakash)の知見をもとに、手術に頼らない薄毛治療の最新情報と、「男性ホルモン補充療法(Testosterone Replacement Therapy)」が髪に与える驚きの影響について、わかりやすく、楽しく、そしてじっくりとご紹介していきます。
手術だけでは解決しない?薄毛との“長い付き合い”に必要な視点

最近では、SNSやインターネット広告で「1回の植毛で若々しい髪を取り戻せる!」といったキャッチコピーをよく目にします。もちろん植毛手術は確かな選択肢のひとつです。しかしジャヤプラカシュ医師は、「“一度の手術で終わり”という考え方は危険信号です」と語ります。
なぜなら、薄毛という現象は“現在進行形”の変化であるためです。今日移植しても、数年後に周囲の髪がさらに薄くなれば、移植した部分だけが不自然に残る「島状態」になる可能性も。だからこそ、「一度手術をすれば終わり」ではなく、生涯にわたって髪とどう向き合っていくかという視点が大切なのです。
医師が果たすべき“教育者”としての役割
ジャヤプラカシュ医師が特に強調するのは、「医師と患者の対話の重要性」です。たとえば「いますぐ手術したい!」と焦る患者がいたとしても、そこですぐに施術を勧めるのではなく、まずは髪が抜けるメカニズム、予防策、薬によるコントロールの可能性などを丁寧に説明することが求められます。
「医師は“魔法使い”ではありません。髪を取り戻すには、知識と時間、そして患者の理解と協力が必要です」と医師は語ります。焦って飛びつく前に、薄毛に関する正しい知識を持つことが、実は一番の近道なのです。
人によって異なる“薄毛の顔”――治療はオーダーメイドが基本
私たちはつい、「薄毛=これをすれば治る」と思い込みがちです。しかし、髪の状態は年齢、生活習慣、遺伝、ストレス、ホルモンバランスなど、さまざまな要因が複雑に絡み合って決まります。
たとえば20代の男性で、家族に薄毛の人が多い場合は、遺伝的な要因が大きいかもしれません。一方、40代で急に抜け毛が増えた場合は、加齢にともなうホルモンの変化やストレスが関係している可能性も。だからこそ、すべての人に同じ治療法が効くわけではないのです。
ジャヤプラカシュ医師は、「患者一人ひとりに合わせた個別治療(personalized regimen)が不可欠です」と断言します。薬による治療、サプリメント、レーザー、スカルプケア、そして必要なら手術。その人に合った“組み合わせ”を見つけることが、最も効果的な治療になるのです。
注目の話題:外因性テストステロンは髪に悪影響を及ぼすのか?
ここで、多くの読者が「えっ?」と思うかもしれないトピックをご紹介しましょう。
それが、外因性テストステロン(exogenous testosterone)――つまり、筋肉増強や性機能改善、老化予防などを目的に体外から補充する男性ホルモンが、脱毛を加速させる可能性があるという事実です。
ジャヤプラカシュ医師は、ISHRS(国際毛髪外科学会)の年次学会で発表された研究を引用しながら、こう語ります。
「テストステロン補充療法を受けている男性の中には、男性型脱毛症の進行が著しく早いケースが多く見られます。」
これはなぜかというと、テストステロンは体内で変化し、ジヒドロテストステロン(DHT: dihydrotestosterone)という強力な男性ホルモンに変換されます。このDHTは、毛包(髪の根元)にある感受性の高い細胞に悪影響を与え、髪の寿命を短くする作用があるとされています。
つまり、筋肉を増やしたり精力を上げる目的でテストステロンを補っていると、知らぬ間に脱毛が進行してしまう――そんな「思わぬ落とし穴」があるのです。
問診票には書かれていない“秘密のホルモン治療”
実際に、ジャヤプラカシュ医師のクリニックを訪れる患者の中には、「筋トレの効果を上げるためにこっそりテストステロンを注射している」という方も少なくありません。しかしそのことを医師に伝えないと、脱毛の原因を見逃してしまうリスクがあります。
だからこそ、医師は単に「どんな薬を飲んでいますか?」と聞くだけでなく、「ホルモン補充療法やサプリメントなどを使用していますか?」と、丁寧に掘り下げる必要があるのです。
特に外因性テストステロンの使用は、日本ではあまり一般的でないものの、海外では自己判断で導入している人も多く、今後日本でも増加する可能性があると医師は警告します。
遺伝子との関係――“将来の髪”はDNAが決める?
薄毛と遺伝の関係についても、今大きな注目が集まっています。
たとえば、「父親も祖父もハゲていたから、自分も将来同じようになるのでは?」と不安に思う方も多いでしょう。確かに、男性型脱毛症には遺伝的な要因が強く関わっていることがわかっています。
近年では、遺伝子検査(genetic testing)によって、その人が薄毛になりやすいかどうか、どの薬が効きやすいか、あるいは副作用が出やすいかといったことまで、ある程度予測できるようになってきています。
これにより、従来の「とりあえずみんな同じ薬を使ってみる」という方法から、「自分の遺伝的体質に合った治療を選ぶ」という時代へと移り変わろうとしているのです。
結論:髪の未来を決めるのは、あなた自身の“選択”です
さて、ここまでお読みいただいた皆さんは、「薄毛治療=植毛」というシンプルな図式が、いかに奥深いものかを感じていただけたのではないでしょうか。
脱毛とは、単なる“見た目の悩み”ではなく、体内のホルモンバランス、遺伝的要因、生活習慣、ストレスといった多くの要素が絡み合う複雑な身体のサインです。だからこそ、一人ひとりに合わせた丁寧な対応と、継続的なケアが必要なのです。
特に今回ご紹介した外因性テストステロンと脱毛の関係は、まだあまり知られていない新しい知見です。「筋肉を増やしたい」「若々しさを保ちたい」という思いが、思わぬ形で髪に影響を及ぼすことがある――この事実を知っておくだけでも、将来の選択が変わるかもしれません。
そして何より、信頼できる専門医との対話が、あなたの髪の未来を守る大きな第一歩になります。決して一人で悩まず、専門知識を持った医師に相談してみてください。
あなたの髪は、まだまだ可能性に満ちています。そしてその未来を形づくるのは、あなた自身の“知識と選択”なのです。







