髪が抜けるのは日光不足が原因?ビタミンDと脱毛の意外な関係を専門医が解説

この記事の概要

最近、抜け毛や薄毛が気になるという方へ――その原因、もしかすると「ビタミンD不足」かもしれません。骨に良いことで知られるビタミンDですが、実は髪の健康とも深く関係していることが最新の症例から明らかになっています。専門医の報告をもとに、ビタミンDと脱毛のつながりをわかりやすく解説します。

ビタミンDが不足すると髪が抜ける?――脱毛とビタミンDの意外な関係をやさしく解説

朝の日差しが差し込む室内で気持ちよさそうにストレッチをする女性。太陽光を浴びることで体内でビタミンDが生成され、髪や骨、免疫機能の健康維持に役立つ習慣をイメージしたシーン。

最近、なんとなく髪のボリュームが減ってきた……。そんなふうに感じたことはありませんか?鏡を見るたびにおでこが広くなったような気がして、心配になってしまう――。実は、その原因のひとつとして注目されているのが、ビタミンD(Vitamin D)の不足です。

「えっ、ビタミンDって骨にいいんじゃないの?髪とは関係ないのでは?」と思う方もいるかもしれません。でも実は、ビタミンDは髪の健康にも深く関わっているのです。本記事では、医学的な症例をもとに、ビタミンDと脱毛の関係について、わかりやすく、そして少し楽しくお話ししていきます。



そもそもビタミンDってなに?どうやって体に取り入れるの?

ソファに座ってビタミンDサプリメントのボトルを手に取り、成分表示を真剣に確認する女性。脱毛や健康維持のためにビタミンDの適切な摂取量を見極めようとする姿をイメージ。

まずは、ビタミンDってどんな栄養素?というところからおさらいしましょう。

ビタミンDは、脂肪に溶ける「脂溶性ビタミン(しようせいビタミン)」のひとつです。私たちの体にとってとても大切な栄養素で、特にカルシウムの吸収を助けて、骨や歯を丈夫にする働きがあります。だから、成長期の子どもや、高齢者の骨粗しょう症予防にも欠かせないビタミンなんですね。

でも、ビタミンDのすごいところはそれだけじゃありません。

最近の研究では、免疫(めんえき)機能や精神の安定、慢性病の予防など、体のいろんなところで活躍していることがわかってきました。ビタミンDが足りないと、風邪をひきやすくなったり、気分が落ち込みやすくなったり、なんとがんや心臓病のリスクが上がるとも言われているのです。



ビタミンDはどこからやってくる?

「よし、じゃあビタミンDをしっかり摂ろう!」と思っても、ちょっと注意が必要です。なぜなら、ビタミンDは食べ物からだけでは十分に摂りにくいからです。

ビタミンDが多く含まれる食品は、以下のようなものです。

  • 魚の肝油(たとえばタラの肝臓からとったオイル)
  • 卵の黄身(卵黄)
  • チーズや牛乳などの乳製品
  • バターやレバー

しかし、これらの食品を毎日たっぷり食べるのは、なかなか難しいですよね。そこで大事になるのが太陽の光(紫外線)。実は、私たちの体は、皮膚に日光が当たることでビタミンDをつくることができるのです。この働きのおかげで、ビタミンDは「太陽のビタミン」とも呼ばれています。



ビタミンDが足りなくなるとどうなるの?

さて、ここで本題です。ビタミンDが不足すると、体にはどんなことが起きるのでしょうか?

まずよく知られているのが、骨がもろくなるということ。カルシウムがうまく吸収されないため、骨がスカスカになりやすく、骨折しやすくなるのです。特に高齢者の方には要注意です。

でも、それだけではありません。

  • 筋力が低下して、疲れやすくなる
  • 気分が沈みやすくなる(うつ状態)
  • 免疫力が落ちて風邪や感染症にかかりやすくなる
  • 爪や肌が乾燥する
  • 太りやすくなる

そして最近注目されているのが、脱毛との関係なのです。



髪の毛とビタミンD――まさかのつながり

「髪とビタミンDが関係あるなんて、聞いたことがない!」という方も多いはず。でも実は、毛根(もうこん)には“ビタミンD受容体(Vitamin D Receptor: VDR)”という鍵穴のようなものがあって、そこにビタミンDがピタッとはまることで、髪の生え変わりのリズムが正常に保たれることがわかってきています。

つまり、ビタミンDが足りないと、毛根の働きが弱まり、髪の成長が止まってしまう可能性があるのです。

これを裏づけるような、ある医学的な症例があります。次の章で詳しく見てみましょう。



実際にあった話:ビタミンDの補充だけで髪が生えた男性

このお話は、アメリカの毛髪外科専門医であり、ISHRS(国際毛髪外科学会)の元会長でもあるシャロン・キーン医師(Dr. Sharon Keene)によって報告されました。2022年に発表された医学記事の中で紹介された症例です。

41歳男性のケース

相談に訪れたのは、41歳の男性。彼は22歳の頃から少しずつ男性型脱毛症(Androgenetic Alopecia, AGA)が進行していて、写真を見ると前頭部と頭頂部に明らかな薄毛が見られました。お母さんの兄(叔父さん)も同じように脱毛していたとのこと。

しかし、彼にはちょっと意外な特徴がありました。市販の育毛剤(ミノキシジル)や飲み薬(フィナステリド)を一切使ったことがなかったのです。しかもここ2年ほどは、脱毛の進行がストップしている状態でした。

そしてさらに驚いたことに、医師の診断で「ビタミンD欠乏症」であることがわかりました。血液中のビタミンD濃度はたったの12ng/ml(非常に低い)だったのです。



たった6週間の補充で変化が!

この男性は、以下のような治療を受けました:

  • 最初の6週間:週に1回、50,000 IUのビタミンD3を服用
  • その後8か月間:週1回10,000 IUのビタミンD3を継続

それだけです。ほかには何もしていません。

そして半年後――驚くべきことに、前頭部の髪が明らかに再生していたのです。

医師は当然「きっとミノキシジルかフィナステリドをこっそり使ったのだろう」と思いました。ところが、本人は「いいえ、ビタミンDしか飲んでません」と断言。

さらに1年後には、ビタミンDの補充だけで髪のボリュームがかなり回復し、AGAの進行も止まっていたというのです。



ほかにもある!ビタミンDで髪が生えた例

キーン医師は、さらに他の医学文献を調べました。すると、ビタミンDの補充だけで脱毛が改善された症例が、過去に2例報告されていたのです。

これらの患者も、ミノキシジルも使っていませんし、毛髪移植手術もしていません。ただただ、ビタミンDを補うだけで髪が戻ったのです。

もちろん、まだ研究途中で、すべての人に効果があるとは限りません。でも、少なくとも「ビタミンDが髪の健康に影響する」という説には、しっかりとした裏づけが出てきているのです。



とはいえ、ビタミンDの摂りすぎにも注意!

ここまで読んで、「じゃあビタミンDのサプリをたくさん飲めばいいんだ!」と思った方、ちょっと待ってください。

ビタミンDは脂溶性なので、体にたまりやすいという性質があります。つまり、摂りすぎると逆に体に悪い影響が出るのです。

  • 高カルシウム血症(血液中のカルシウム濃度が高くなりすぎる)
  • 吐き気、めまい、脱力感
  • 腎臓に負担がかかる

キーン医師は、「血中の25(OH)ビタミンD濃度を40~100ng/mlに保つのが理想的」と述べています。この数値は、ハーバード大学の大規模研究「VITAL試験」でも基準にされています。

つまり、「足りない分だけを適切に補う」のがベストなんですね。自己判断で大量に飲むのではなく、血液検査をして、医師と相談しながら摂取するのが安心です。



まとめ:抜け毛が気になったら、まずは太陽と血液検査!

髪の毛が少なくなってきた……そう感じたとき、「年齢のせいかな」「遺伝だから仕方ない」とあきらめてしまう前に、ビタミンDが足りているかどうかチェックしてみるのは、とても有効な方法かもしれません。

サプリを使うにしても、医師のアドバイスのもとで、自分に合った量をしっかりと補えば、副作用のリスクも低く、効果的な健康法になります。

髪を育てる第一歩は、日光を浴びて、栄養を正しく摂ること。そして、必要ならばビタミンDを補ってあげる――それだけで、あなたの髪と体に大きな変化が訪れるかもしれません。

もしかしたら、今日のおひさまの光が、明日のあなたの髪の毛を守ってくれるかもしれませんね。

【参考論文】
Sharon Keene, MD, FISHRS
“Vitamin D Deficiency and Hair Loss: A Case Report and Review of the Literature for Diagnosis and Treatment”
掲載誌:Hair Transplant Forum International(2022年7・8月号)
オープンアクセスリンク:https://www.ishrs-htforum.org/content/32/4/113



記事の監修者


監修医師

岡 博史 先生

CAPラボディレクター

慶應義塾大学 医学部 卒業

医学博士

皮膚科専門医

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