HIV感染症
HIV感染症は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)が免疫の司令塔となる細胞に感染する病気で、治療しないと免疫が下がり、さまざまな病気にかかりやすくなります。現在は抗HIV薬による治療が大きく進歩し、早く始めればウイルス量を抑えて、ほぼ普通に近い生活と寿命が期待できる慢性の病気になりました。「HIVに感染すること」と「エイズを発症すること」は別の段階です。まずは正しく知り、検査を受けることが第一歩になります。
この記事でわかること
- HIV感染とエイズ発症の違いと、感染してからの経過
- 急性期・無症候期・進行期に分けた症状の特徴
- 日常生活ではうつらないという、感染経路の正しい知識
- 検査を受けられるタイミング(感染の機会からおよそ4週間〜3か月)
- 治療(ART)とU=U、PrEP・PEPによる予防の考え方
HIV感染症とは(HIVとエイズの違い)
HIV感染症とは、HIVというウイルスが免疫の中心となる細胞に感染し、少しずつ免疫の力を弱めていく病気です。
HIVは、体を病気から守る免疫の司令塔となる細胞に入り込みます。治療せずにいると免疫が徐々に低下し、健康なときにはかからないような感染症(日和見感染症)などにかかりやすくなります。
この免疫が大きく低下し、特定の病気を発症した進んだ状態をエイズ(AIDS)と呼びます。つまり、HIVに感染した段階とエイズを発症した段階は別ものです。感染しても、すぐにエイズになるわけではありません。この違いを知っておくことが、過度に不安をためないための出発点になります。
治療が進歩した現在は、多くの方がエイズを発症する前に治療を始めています。国内の状況や公的な情報は、厚生労働省のエイズに関する情報や、エイズ予防情報ネット(API-Net)で確認できます。性感染症全体の基礎知識は性感染症とは?初期症状と予防法を解説もあわせてご覧ください。
HIVの症状(急性期・無症候期・進行期)
HIVの症状は時期によって変わり、感染初期・無症候期・進行期の3つの段階に分けて理解するとわかりやすいです。
感染初期(急性期・感染後2〜4週間ごろ)
感染してから2〜4週間ごろに、次のような症状が出ることがあります。
- 発熱
- のどの痛み
- リンパ節の腫れ
- 発疹
- 全身のだるさ
これらはインフルエンザや風邪に似ています。数週間で自然に軽くなることが多いため、HIVと気づかれないまま見過ごされることも少なくありません。症状だけでHIV感染を判断することはできません。
無症候期(数年〜10年程度)
急性期の症状が治まると、自覚症状のない時期が続きます。長い方では10年程度続くこともあります。この間も体の中ではウイルスが増え、免疫は少しずつ低下していきます。見た目や体調に変化がなくても、感染が静かに進むことがある時期です。
進行期(免疫が低下した状態)
治療しないまま免疫が大きく下がると、日和見感染症や体重減少、長引く下痢・発熱などが現れやすくなります。この進んだ状態がエイズです。ただし、早く治療を始めればこの段階に至らずに経過できる方がほとんどで、進行を防ぐことができます。
HIVの感染経路
HIVがうつる経路は主に「性的接触」「血液」「母子感染」の3つに限られ、日常生活でうつることはありません。
- 性的接触:コンドームを使わない腟・肛門・口を使った性行為
- 血液:注射器の共用など、感染した血液が体内に入る場合
- 母子感染:出産や授乳による母から子への感染(適切な対策で大きく減らせます)
日常生活ではうつりません
握手やハグ、食器やお風呂の共用、せきやくしゃみ、同じ空間で過ごすことなどでHIVがうつることはありません。HIVは体の外では感染力を保ちにくく、日常の接触では感染しないためです。正しい知識をもち、感染した方への差別や偏見をなくすことが大切です。血液や体液を介してうつる感染症にはB型肝炎などもあり、あわせて知っておくと安心です。
放置するとどうなる
治療せずに放置すると免疫が下がり続け、日和見感染症などを起こすエイズへと進行することがあります。
免疫が低下すると、健康なときには問題にならない細菌・ウイルス・カビなどによる感染症にかかりやすくなります。ニューモシスチス肺炎や結核、一部の悪性腫瘍などが起こることもあります。無症候期に気づかず時間が過ぎると、こうした進行につながります。
一方で、これは治療しなかった場合の経過です。現在は早く治療を始めることで免疫の低下を防ぎ、エイズの発症を避けられるようになっています。だからこそ、心当たりがあるときの早めの検査が回復への近道になります。
HIVの検査方法
HIV検査は血液で調べます。感染の機会からおよそ4週間以降でわかるようになりますが、確実な判定には約3か月あけた検査がすすめられます。
| 検査 | 検体 | 受けられる目安 |
| 抗原抗体検査 | 血液 | 感染の機会からおよそ4週間以降 |
| 確認検査 | 血液 | 陽性の疑いがあるとき |
| 確実な判定 | 血液 | 約3か月あけて再検査 |
感染してごく早い時期(ウインドウ期)は、ウイルスや抗体がまだ十分に増えておらず、正しく判定できないことがあります。不安な場合は、まず4週間以降に一度検査を受け、必要に応じて約3か月後にもう一度受けると安心です。検査を受けるタイミングは性病の検査方法と受けるタイミングとはでくわしく解説しています。
当院では、短時間で受けられる検査に対応し、ご希望に応じてプライバシーに配慮した対応や結果のご連絡方法もご相談いただけます。人の目が気になって受診をためらう方も、まずはお気軽にご相談ください。
HIVの治療方法(ART・U=U)
現在は抗HIV薬(ART)による治療が大きく進歩し、早く始めればウイルス量を抑えて、ほぼ普通に近い生活を送れるようになっています。
抗HIV薬を組み合わせて飲むことで、血液中のウイルス量を検出できないレベルまで抑えられます。早期に治療を始めた方の多くは、免疫を保ちながら、これまでと変わらない日常生活・寿命が期待できます。かつての「不治の病」というイメージとは大きく変わりました。
U=U(検出限界未満ならうつさない)
治療によって血液中のウイルス量が検出限界未満に保たれている人は、性行為でパートナーにHIVをうつさないことが分かっています。これをU=U(Undetectable = Untransmittable)と呼びます。治療がパートナーを守ることにもつながる、前向きな事実です。
治療は続けることが大切
一方で、体からウイルスを完全に取り除く薬はまだありません。治療をやめるとウイルスは再び増えてしまうため、服薬は続ける必要があります。薬の種類や飲み方は、必ず医師の診察・処方に従ってください。定期的な通院で状態を確認しながら、無理なく続けられる方法を医師と相談します。
HIVの予防(コンドーム・PrEP・PEP)
予防の基本はコンドームの使用です。これに加えて、薬を使うPrEP(曝露前予防)やPEP(曝露後予防)という方法もあります。
コンドームの使用
腟・肛門・口を使った性行為で、最初から最後までコンドームを正しく使うことが基本の予防になります。ほかの性感染症の予防にもつながります。
PrEP(曝露前予防)
PrEPは、感染の可能性がある人があらかじめ薬を飲んでおくことで、HIVに感染しにくくする方法です。医師の診察・処方が必要です。当院では、HIV感染を未然に防ぐ予防薬プレピオン(PrEP)を扱っています。仕組みや使い方はプレピオン(PrEP)の基本ガイドでくわしく解説しています。
PEP(曝露後予防)
PEPは、感染の可能性がある行為の後に、できるだけ早く薬を飲み始める方法です。時間が経つほど効果が期待しにくくなるため、心当たりがあるときは早めに医療機関へ相談してください。PrEP・PEPのいずれも、医師の診察・処方に従って使う必要があります。予防薬の全体像は性病予防薬のページもご覧ください。
よくある質問(FAQ)
Q. HIVに感染すると、必ずエイズになりますか?
いいえ。HIV感染とエイズ発症は別の段階です。早く治療を始めれば、エイズを発症せずに経過できる方がほとんどです。感染=エイズではありません。
Q. 初期症状だけでHIV感染がわかりますか?
わかりません。急性期の発熱やのどの痛みは風邪に似ており、症状が出ない人もいます。感染の有無は検査でしか確かめられないため、心当たりがあれば検査を受けてください。
Q. いつ検査を受ければよいですか?
感染の機会からおよそ4週間以降で調べられます。ごく早い時期は正しく判定できないことがあるため、確実な判定には約3か月あけた再検査がすすめられます。
Q. HIVの人と一緒に生活してもうつりますか?
日常生活ではうつりません。握手や食器・お風呂の共用、せきなどで感染することはありません。過度に恐れず、正しい知識をもつことが差別をなくすことにつながります。
Q. 治療を続ければ普通に生活できますか?
はい。早く治療を始め、服薬を続ければ、ウイルス量を抑えてほぼ普通に近い生活が期待できます。ウイルス量が検出限界未満に保たれていれば、性行為でうつすこともないことが分かっています。
まとめ
HIV感染症は、かつての「不治の病」というイメージとは大きく変わり、早く見つけて治療を続ければコントロールできる慢性の病気になりました。感染とエイズ発症は別の段階で、治療によりウイルス量を抑えれば、ほぼ普通に近い生活・寿命が期待できます。日常生活でうつることはなく、正しい知識をもつことが差別や不安をなくす第一歩です。少しでも不安がある方は、まず検査を受けてください。HIV以外の性感染症は性感染症の一覧もあわせてご覧ください。
関連情報(男性・女性の視点)
HIV感染症は、男性・女性それぞれの視点でも解説しています。あわせてご覧ください。
- 男性向けの性感染症解説:性感染症(STD・性病)(泌尿器科)
- 妊娠とHIV(母子感染):妊娠と性病(婦人科)
監修・運営/参考情報
本ページは医療法人社団福美会 ヒロクリニック性感染症検査の編集・監修体制のもとで作成しています。診断・治療は医師の診察に基づいて行われます。編集方針は編集ポリシーをご覧ください。
- 厚生労働省:エイズに関する情報
- エイズ予防情報ネット:API-Net(公益財団法人エイズ予防財団)
略歴
- 1996年 慶應義塾大学医学部 卒業
- 2004年 慶應義塾大学 医学博士号 取得
- 2005年 慶應義塾大学 皮膚科学教室 助手
- 2008年 ヒロ皮フ形成クリニック 開業
- 2009年 医療法人社団福美会 理事長
- 2015年 医療法人社団福美会 理事
資格・所属
- CAPラボディレクター
- 日本皮膚科学会 皮膚科専門医
- 日本医師会 産業医
- 東京衛生検査所 指導監督医
この記事は、ヒロクリニック性感染症の編集・監修体制にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。
畠山 聡 (はたやま さとし)
医師・医学博士 / ヒロクリニック医師
略歴
- 2016年 大阪市立大学(現:大阪公立大学)卒業
- 2016年 育和会記念病院
- 2019年 大阪鉄道病院
- 2021年 大阪公立大学附属病院
- 2022年 大阪鉄道病院医長
- 2023年 ヒロクリニックなんば心斎橋院院長
資格・所属
- 日本泌尿器科学会認定 泌尿器科専門医
この記事は、ヒロクリニック性感染症の編集・監修体制にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。
医師 / ヒロクリニック大宮駅前院 院長
資格・所属
- 日本産科婦人科学会 産婦人科専門医
この記事は、ヒロクリニック性感染症の編集・監修体制にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。
医師・医学博士 / ヒロクリニック大阪駅前院 院長
資格・所属
- 日本産科婦人科学会 産婦人科専門医
この記事は、ヒロクリニック性感染症の編集・監修体制にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。